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4
地下か、建物の中なのだろうか。暗闇にしわがれた声が響く。
「ひょほほほ。巫女よ、そろそろその力、わしに貸してはくれんかの。なに、ちっと
の間でいーんぢゃ。研究に役立ったら返すでの」
白髪に灰色のマントの醜悪な老人は、縄と松明に囲まれた祭壇に向って叫ぶ。
「―許して下さい。ここは私達シャーマン一族が遥か太古より神に託された場所。な
んびとたりとも踏み込むことは出来ないのです。」
壇上に人影が呟く。
「まだ黒い牙の本部にはこの場所を明かしてはおらん。彼奴等はわしのようにはいか
ん。絞れるまで絞って、役に立たねばすぐ処分ぢゃ。お前、死ぬまでそうしておるつ
もりか? それなら死んでいるのも同じではないか?」
「・・・・」
巫女が姿を現わす。白金の長髪、青白い肌、葡萄色の瞳。大地や自然のマナ(魔力の
ようなパワー)を多く取り入れるため、服はほとんど着けない。僅かばかりの動物の
骨や装飾品を肉感的な肢体に巻き付けているだけだ。

「ひょほ、ようやくお出ましか。美しいな。死んでいればもっと美しかろうに」
女性は線の細い、美しい顔を悲しげにふせる。
「あまり聞き分けがないと、お仕置きぢゃぞ」
灰色のマントから伸びる細い手には松明の明かりが当たっても暗いままだ。闇が腕か
ら吹き出している、ように見える。闇は時折うめき声をあげている。死霊の群れだ…
死を操るネクロマンサー、マスター=ヘル。それが老人の正体である。
「マスター、誰か来たみたいなの」「知ってる人みたいなの」
場違いなのんびりした声が二つ。助手の双子の少女、エボニーとアイボリーだ。
「ふん、かまわん。ばら撒いておいたゾンビが追い払ってくれるはずぢゃ…知り合い?
んな馬鹿な。この未開の地に。」
5
ズバッ! バシャァ!
「あ”あ”あ…」
大斧が閃くたびに、動く死者達は切り刻まれ、崩れ落ちる。
「今度は間違いありませんぞ。先に戦ったゾンビと同種。どうやら凄腕のネクロマン
サー…禁忌とされる死の魔法を操る魔導師がいるようです。」
「ええ、そのようですわ!」
夜に徘徊する生きる死者。フロリーナと魔鎧が打ち砕きながら、塞ぐ道を切り開く。
ギャリソンも飄々と死者の手を避け、後にラッキー達も続く。

「この先に一連のアンデッド系モンスター
を操る首謀者がいるはずでございます。お
そらく、黒い牙の…」
「・・・・・」
姫も気づいている。地底のスケルトン軍団
とともにいた、薬屋の老人ドクター=ヘブ
ン。見てくれは悪いが闊達で人のいいお爺
ちゃん。そう思いたかった。そう信じたか
った。
(なのに、どうして…)
一瞬の逡巡が狂戦姫の隙を作る。ゾンビの腐敗した牙が姫の背後を狙った。
ズシュ!
ギャリソンの手にはいつの間にか石をかき割った天然のナイフがあった。死角の敵を
倒すと、彼はそっとそれを隠す。
森を抜け、月明かりに照らされた丘を登る。山間に岩盤を削り作られた小さな神殿
があった。
「誰かと思えば、嬢ちゃんか…ゾンビを倒したのも、あんたぢゃったか」
現われる、マスター=ヘル。
「お爺ちゃん…」
向き合うフロリーナ。初めて二人は、お互いを敵と認め、対峙した。
6
「−ふん、知らぬ仲でもない。おおかた中の巫女が呼んだんぢゃろ。」
「マスター、やっつけないの?」「なの?」
双子は無表情に問う。二人の手には火花が散る。
「朝が近い。ゾンビも補充せにゃならん。いったん引くぞ」
「はいなの」「なのなの」
灰色のマントに白と黒の影が混じり、そのまま三人は闇に消えていった。
「…あ"〜〜っ、緊張したー!」
しばらくして、ようやく声をあげるマリア。とりあえず危機は去ったようだ。
「次は、闘わねば…ならないのですね」
悲壮な覚悟の面持ちの姫。一方。
「いたー! いました、美人のお姉ちゃん! らっき〜〜♪」
早速、祭壇に倒れている巫女を見つけたラッキー。
「ああ、お待ちしていました。戦いの姫よ…」
弱々しく優しげな眼差しを一行に向け、そのまままた倒れこむ。
「大丈夫ですの?」
「うおお〜っ、お嬢さん、おケガは? 今オイラが愛の看病を」
飛び出したフロリーナ、ラッキー。朝の光が差し込み…ゆっくりと彼女が身を起こ
した時。雰囲気が一変した。

「−我の眠りを妨げるは、誰じゃ」
茜色の瞳。先程にはない猛々しさ、激しさ。
「我は時の巫女、サーシャ。この地を侵す者は一人として許すまじ!」
祭壇の模様、魔方陣らしきものが妖しく光り、
「姫さま、あぶなーい!」
カアッッ!!
白光がフロリーナと助けに入ったマリアを包む。
「うぬらの時間の因果を置き換えた。これは警告なり。早々に立ち去るがよい!」
光が静まった後。ぴちぴちに張り詰めた魔女の服着た発育のよい女性が。

「わーっ、なんじゃコリャ? 背が伸びてるっ、オッパイぼよよ〜んだぁ。」
そして、崩折れた魔鎧からちょこんと顔を出す、あどけない少女が。
「ここ、どこ〜? 助けてじい〜」
裸でがたがた震えている。寒さではない、不安と恐怖で、だ。
ちぐはぐな少女、困惑する一行を残し、野生の獣のような巫女は悠々と神殿の奥
に消えていった。
7
「び、びええ〜〜〜ん」
魔鎧から震えながら顔を出す、あどけない少女、とキツキツな服のグラマラスな
レディ。
「わーお! なんとナイスバデーなお姉さん。ねねね、オイラとお付き合いしませ
ん? まずは恋人から」
一目見るなり後先考えずアタックするラッキー。
どぎゃん!
豪快な蹴りが入り、もんどりうって倒れる。
「なに言ってんの、ボケカボチャ。わたし、マリアだよ! だいたいまずは恋人
からって、どんな口説き文句だー?」
さすがのラッキーも驚いたようだ。
「へ? お前がマリア? じゃ、じゃあ、あのびーびー泣いてるガキンチョは…」
「まさかぁ、姫さま〜!?」
ルーシーの叫びも聞こえないのか、当の少女はグスグスと泣きぐずっている。

ギャリソンが感心する。
「時間の因果律を操る…そういう事ですか。姫とマリアの年齢が入れ替わったので
す。戯れにそんな事が出来るのは…伝説の時空の巫女。悠久の時を生きる神の代理。
時空のひずみを修復する者とも、破壊する者とも言われておりますが、こんな未開
の地に実在したのですな。」
そんな話にお構いなく、ラッキーはぶつぶつ言っている。
「これぞ東方の万能の神、オサーム=ゴッドハンドの秘術”メルモ・キャンディ・
フェノメノン”! まさかマリアがこんなイイ女になるとはなー。待てよ、姫もこ
の年から言うこと聞かせりゃ…ルーシーともども。そういや巫女のお姉さんもいる
な。どうしよう、オイラ。えーい4人とももらってやるしか!」
どぎゃぎゃん!
体格が良い分、破壊力の増したマリアのキックが再び決まる。今度こそノックダウ
ン。
「このばかちん! 何妄想してんだー! 誰一人おまいにもらわれたいなんて …
あーっ!」
気絶したラッキーはにやけ顔のままだ。きつい子供服がアクションで裂けてしまっ
たのだ。
「かぼちゃパンツでもらっき〜〜…ガク」
「ぎへ、姫さんもこんなガキじゃあオレ様、使えないぜぇ?」
口汚く不平を漏らす、生きる鎧、セバスちゃん。
「ひいい、ヨロイがしゃべった〜…」
それを聞いては驚き、怖がり、泣く十代初めのフロリーナ。いつもの自信に満ち
た、いや不遜にも思える鼻っ柱の強さは微塵もない。それどころか神経質が災いし
てか、少女のマリアやルーシーと比べても幼い感じだ。
「姫ってガキん時はこんなに弱虫だったのかよ?」
泣き止まない姫にラッキーも辟易だ。ルーシーが自分の予備の服を持ってなだめに
来る。
「お恥ずかしい。私が教育係を担当するまでは、蝶よ花よと大事に育てられまして
な。しかし、懐かしくもありますなあ」
しみじみと昔を思い出し、ほほ笑む老執事。だが事態は最悪である。

「アンデッド系、特にゾンビは魔術じゃなく、呪術の体系が多いからなあ。私のアン
チマジックも、うまくかからないかもー。ねえルーシー、白魔法、ちょいと使ってみ
て。」
片や大人、片や子供のままの凸凹コンビが掛け合う。
「わかりましたぁ」
口の中での軽い詠唱、と共に柔らかな光が掌に浮かぶ。そこにマリアが手をかざす。
「んーと。あ、あれ? た、大変、アンチマジック、効かないよー!」
癒しの光を解除できない大人マリア。アンチマジック能力が消失してしまった。姫
も弱気な少女のまま。ルーシーの白魔法や聖水は一時しのぎでしかない。男連中は相
変わらず、巫女は神殿へ戻り、夜には死霊使いのリターンマッチ。
つまり、大ピンチなのである!
8
ラッキー同様ボインになれて大喜びだったのが反転。泣き出しそうなマリア。
「そんなあ、体が大きくなっても、アンチマジックが使えなきゃ、ただのミソッカス
だよ。また、みんなの足を引っ張るだけなんて、ぐすぐす〜。」
ギャリソンが考える。
「姫は体と一緒に精神も退行したようですが、マリアはそのままなのですな。経験が
ない以上、むべなるかなです。ピンチはピンチはですが、手足も知恵もまだ使えます。
なんとか敵を防ぎつつ、お二人を元の年齢に戻す算段をつけねばなりますまい。」
「…大きくなっても、私って才能ないから魔法が使えないのかなあ?」
悔やむマリアに、ラッキーが声をかける。
「いいかマリア、この世に役に立たねえやつなんかいねえ。お前のさっきのキックは
たいした破壊力だし、何よりオイラは目の保養になった。」
「ぐす、ラッキーのばか…でもサンキュ。」
少し元気を取り戻すマリア。そのとき、ルーシーが硬直し、神妙な面持ちになる。
「神様の、お告げ…違いますぅ。これは先ほどの巫女さんのぉ…」
大人びた、憂いを秘めた面持ちになるルーシー。瞳がいつの間にか葡萄色に見える。
「戦いの姫よ、その従者よ。私は宵の巫女、ナージャ。空間を司る者です。比度は
真に申し訳ないことをしました・・」
ギャリソンが問う。
「おお、ではあなたが我らを呼び出した、"本当の"巫女なのですな?」
「・・・ええ。」

ルーシーに宵闇の巫女、ナージャが言霊として現れた。彼女が言うには、100年ほ
ど前、シャーマンの一族が全滅する参事があったらしい。運よく生き残った生き残り
の系統の最後がナージャであり、彼女は祖先の霊、サーシャの言われるままにの神事
を行ってきた。しかし、いつしか一族の怨念が彼女の主たる人格を乗っ取り…
「人との交わりも絶ち、神殿に踏み入ろうとする者には恐ろしい罰を・・・私は耐え
切れなくなり、深層意識へと沈んでいったのです・・。」
「100年前、神に近い者達の殲滅…ふむ。我が国の魔族抗争とも合致しますな」
「サーシャの能力・・・時間の制御だけでは、空間を移動することはできません・・。
時空のひずみが我らの力の源でもあります。この神殿は移動するひずみの場所を追う
ように移動しなければなりません。主人格となったサーシャは、私の人格を能力ごと
取り込もうとしたのです。」
「よくわかんねーけど、つまり気の強い姉ちゃんが妹の部屋の範囲もぶんどったわけ
だな。」
ラッキーが混ぜっ返す。
「夕暮れと日の出の一時期、私が表面意識に出られる時を見計らい貴方達を呼び寄せ
ました。今は私達シャーマンに近いこの娘の体を借りたのですが。お願いです。この
ままでは、どんな危険なことになるか・・・」
「ナージャ殿が主人格になれば、時間操作も出来るわけですな?」
「ええ、たぶん・・・」
「執念に打ち勝つ強い信念を・・・サーシャの人格を崩壊させるほどのショックを与
えれば、あるいは主人格を取り返せるやもしれません。ーここはラッキー、あなたの
出番ですな。」
「へ? オイラが? またまたー、じいさん、その手には乗らないぜ。死ぬほど怖い
目に合わせる気でしょ?」
「いやいや、逆ですぞ。あの巫女の豊満な体を、触り放題できるのです」
ゴニョゴニョと、密談する男二人。振り返ると、ラッキーの目がごうごうと燃えてい
る。
「わっかりました! 正義は我にあり、見事ナージャちゃんも姫も、おまけにマリア
も助けてみせましょー!!」

・・・つづく〜♪
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