ショート・ヒロイニック・ファンタジー

ばーさーかー・ぷりんせす!

第8話 <時空の巫女 前編> 

絵・文 : J I N


 

序章 「真夏の夜の夢」

 謁見の間。

奥には白鷹の国旗が大きく掲げられたその部屋に、大振りの豪奢なベッドが。

「失礼いたします」

張りのある、太く落ち着いた声。男は足音も立てず、ベッドの傍らに近づき傅いた。

引き締まった体躯、精悍な顔つき。黒髪はきちんと整えられ、緑の瞳は涼やかな光

を放つ。女王の新体制下、若き参謀にして猛将と呼ばれる男。国を、軍を表裏で支

えるその男はギャリソンと云った。

 


「女王陛下。畏れながら、私めなどの為に貴重なお時間を割くなど…」

「よいのです。」

人払いをする、白く細い手がレース越しに見える。広い謁見の間は二人だけとなっ

た。

「ギャリソン、貴方には本当に世話になりました。この国を立て直せたのも、あな

たのお陰です」

「もったいない。私めの助力など些細なもの。大陸から流れて来たこの身を重用し

て頂いた御恩、何にも勝るものかと。それより陛下の御尽力が…伝説となる魔鎧で

の戦い、天・魔・人界の契約、そして…」

若き武将は顔を上げる。

「望まぬ婚姻をしても血筋を絶やさなかったこと、王様の亡き後も国の為王子の為

血の吐くような努力をしたこと。陛下あっての国でございます。…どうか…お心を

つよ、く…」

軽く咳き込み、軽やかな笑い声。

「ほほほ、策謀も国で一番の貴方が、わたくしには嘘がつけないのですね。判って

います、自分の寿命くらい。天の啓示がありましたもの。」

再び首を垂れるギャリソン。

「お、お一人では行かせません。若輩ながら私めも、すぐに参ります!」

女王が身体を起こす。70も近いはずだが、凛とした姿勢、声は瑞々しい少女のよう

だ。

「…なりません。例えどんなに辛くとも、貴方には永く生きてもらいます。啓示に

は続きがあります。再び愛する我が国が、民が、魔族に狙われるのです。」

「! なんと…」

驚愕するギャリソン。

「私の子孫に正義の心を、魔族の恐ろしさを、戦争の醜さを伝えるのは貴方しかい

ないのです。お願い…」

沈黙が二人を包む。やがて。

「承知しました。敬愛する陛下の為、この身が朽ちようと、勅使、拝命いたしま

す。」

女王は将の手をとり、微笑んだ。

「ありがとう。でもギャリソン、貴方もっと要領よくならなくては駄目。頭を柔ら

かく、無理難題は上手く遠ざけて。そのまま無骨な将軍じゃ、すぐにポキンと折れ

ちゃいますよ」

更に深く頭を下げるギャリソン。

「は・・・ははっ・・」

「曾孫には、わたくしの名前をお付けなさい。そう、フロリーナと…」

 夢見るように、微笑む初代女王、フロリーナ。彼女と二人きりの、そして最後の

記憶。

「ねねね、私、い〜夢見たんだ! ナイスバディのビューチホー魔女に変身〜っ!

しちゃうっての! プリリンパ♪」

間もなく船も港に着くある日の朝。マリアがはしゃぐ。

「こーの暑いのに夢の話かよ! 平和なこった」

ラッキーが毒づくが、彼女は気にもとめない。

「ねね、ルーシーは? なんか良い夢みた? 未来の花ムコとか?」

「私はあ、神に使える身ですから〜。みんなが仲良く暮らせる夢なら、見ました〜」

相変わらずマイペースである。

「チェー、優等生さんだなあ。ラッキーは…ロクでもない夢だろうし、ギャリソン

は? なんか夢、見た…あれ? 泣いて、る?」

マリアが心配そうに飄々とした老人を見上げる。

「ほっほっほ。朝日が目に染みましたな。良い夢ですか…辛いことも、いつかは夢

のように笑って話せる、ならば私はこれから良い夢を見るのでしょうな…」

ぽかんとするマリアの頭をなで、微笑む執事であった。


BGM:「真夏の夜の夢」



1



 南方の大陸。フロリーナ達のいる大陸から、大型船で一ヶ月程度掛かる距離に

ある未だ謎多き場所。褐色の肌の種族が野生と共存し、神秘的な呪術が息づく。

北端の部分は僅かだがナンバ王国を始めとする南海諸国連合とも交流があり、言

葉は通じるという。

「母さあん!」

10歳くらいか。麻を編んだシンプルな服を着た褐色の少年が土壁の家に飛び込ん

でくる。

「なんだいぺぺ? そんなに慌ててさ。昼御飯はまだだよ」

母親が奥から出てくる。

「たいへんだよ! ヒュージスパイダー(大蜘蛛)が出たよ。あいつら、群れを作

って待ち伏せしてたんだ。」

母親は呆れ顔だ。

「何寝言いってんだい。奴らが群れで襲ってきて、お前、無傷で帰って来れるわ

けないだろ?」

密林の外れの集落、マルイの里。周辺に知性を持つ妖魔、魔族の類は見られぬも

のの、特異な生物はいるらしい。少年は真顔で反論する。

「ホントだって! 白い肌の女の人に助けてもらったんだ! 大きな斧で、こう、

バシュバシュってスパイダー達をやっつけたんだ」

いよいよ懐疑的な顔をする母親。

「−ぺぺ、嘘はだめだよ。白い肌の奴らも化け物と変わらないさ、私らを食い物に

しようとしか考えちゃいないんだから。白くて良い人間なんて、神様か…巫女様

くらいなもんだ。」

「もー! 本当なのに〜」

ぺぺは家を飛び出す。仕方なく追いかける母親は…

「ひゃあああ!」

家を出たすぐの所に熊ほどはある大蜘蛛の死骸。そしてその先に、10数匹はいる

だろうか。皆、鋭利な刃物で首を切断されている。

「あ、ああ、あ…」

「な、ウソじゃないだろ? でもなんであの女の人、裸で泣きながら逃げていっ

ちゃったんだろう」

 バーサーカープリンセス、亡国の王女フロリーナは何故か未開の大地、マルイ

の里に…泣きながらも立っていた。

2


 「びえええ〜!、えっ、えっ。また純粋な男の子に、み、見られてしまいまし

たわ! ぐすぐす」

金髪を振り乱し、手の甲で不器用に涙をふく美しき狂戦姫、フロリーナ。木陰で

悪鬼の形相の禍々しい鎧を外し、お供の少女たちに聖水と治癒魔法で手当をして

もらっている。

「姫さま、お可哀想に〜。」

ゆったりとした口調で手当をするシスター、ルーシー。

「こんなジャングルに連れてこられるなんて、想定外の予想GUYーっ!」

おきゃんな口調の魔法使い、マリア。そして、茂みひとつ離れて素っ頓狂な声が。

「ねーねーねー、姫。やっぱ見られるのもたまには良いっすよ。なんつうかカイ

カン? だはー…ギャボ!」

ブン!

問答無用で巨大な斧が声の主に飛ぶ。荷物運びのラッキーだ。間一髪で斧は避け

た…が、続いて飛んで来た兜が顔面に命中した。

ゴン☆

「おだまりなさい、ウツボカヅラ!」

 


 魔鎧。姫の唯一最大の武器であり、

最大の弱点でもある。ひとたび身に

つければ超人的なパワーを出すが、

純粋な心の持ち主にはその姿を見せ

ない。その呪いは彼女の故郷の大陸

でなくても変わることはなかった。

「私達をこの地に転移させた…あの

女性は、どなただったのでしょう

な?」

執事のギャリソンが水筒から紅茶を

用意しながらつぶやく。庶民向きの

ドレスに着替えたフロリーナも回想

していた。

                    

3

 海賊に扮した異国の王子二人との騒動のあと。なんとか自国の領地に入

った姫と一行。

一連の魔族の影に暗躍する魔導師、マスター=ヘルを探すべく行動を起こ

そうとした矢先、その女性は突然現われた。青白い肌、プラチナブロンド

の長髪、深く沈んだ葡萄色の瞳。何よりその美しい肢体を覆うのは動物の

骨を使ったわずかばかりの装飾具のみ。

ううぉおおおおおお! ルルルルラッキーイイイイィ!

ラッキーはもちろん歓喜の雄たけびを上げる。暑さのための蜃気楼でも、

ましてや幻覚ではない。空気の歪みとともに半裸の女性が現れたのだ。

「−お願い。私を解放して・・・」

悲しみを湛える表情、助けを乞うともとれる口調に姫は思わず身を乗り出

した。無鉄砲と正義漢がブレンドされた姫を止めようとした他のメンバー。

しかし色香に惑わされたラッキーが強引に後押しをし、全員が空間の透き

間に突っ込んでしまった。

 そうして。

未開の南方の大陸、マルイの里にフロリーナ一行はたどり着いたのである。

 

 「それで着いた場所がこんなワカランチンなんだもん。やっぱラッキー

が悪い!」

マリアの見幕に鼻血を止めながらやり返す。

「へん、うるせえガキンチョ。お前も魔法使いなら、ぱ〜っとオイラたち

を元の場所に戻せってんだ」

マリアは悔し涙をためる。

「なんだいなんだい! あ、あたしだって魔法でみんなの役に立ちたいの

に。難しい魔法はまだ、お師匠に習ってないのに…び〜〜〜!」

喧嘩になってしまった。無論、泣かせてしまった以上、大衆はマリアの味

方。結局ケチョンケチョンにやられるラッキーであった。

「喧嘩をしている場合ではありませんぞ。このジャングルは…何かよから

ぬ気配がしますな」

ギャリソンが皆をたしなめる。点在する原住民の家の集まりをわずかに離

れ、様子を伺う。遠くに高山が見え、周りはすぐ暗くなる密林だ。聞き馴

れない鳥獣の声、熱気。

(皆さん、気が立っていますな。)

ギャリソンの心配を吹き飛ばす、姫の一声。

「あの女性を探しましょう。あのかたは確かに助けを求めていました。助

けを呼ぶ声がある限り、どんな困難が待ち受けていようとも…わたくしは

参りますわ!」

皆がはっとする。気持ちは一つに固まった。

「てへ。姫さま、ごめんなさい」

「私、神様のお告げを待ってみます〜」

「姫、ここはオイラにお任せを。一度会ったナイスバデーなお姉ちゃんな

ら顔もサイズも匂いもしっかり覚えてます! んんんん、感じる、感じる

ぞおーっ。姉ちゃんは、あっちだー!」

しょぼいアゴひげをピンと立て、引きずられるように森に駆け出す。

「ラッキーってば、ドンドン妖怪になってるなー。」

あっけに取られるマリア。ギャリソンは微笑む。

 皆が走る。同じ方向へ。           

                       ・・・中編へ続く。

 


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