ショート・ヒロイニック・ファンタジー


ばーさーかー

・ぷりんせす!

第七話 <南海の大決戦 後編> 

絵・文 : J I N


 

12

 穏やかに見えた海はいきなり牙を剥いた。天地が逆転しそうな揺れと波しぶき。

同じ高さの場所などない。所々で発生する渦潮をギリギリの舵回しでライトが避け

る。

「次の渦を越えれば波も静まるで。船がバラけんかったら、やがな」

大波を懸命に耐える。荒ぶる海をやり過ごすため、マストに体を縛り付ける二人。

バキャ! 

もう少しで、という時。ついに大波で柱と甲板の一部が破壊された。勢いで荷物が

飛び出す。

「ああ! 魔鎧がっ」

なんとカバンが海へ放り出されてしまった。もどかしくロープをほどく姫。しかし

海水を吸った縄と布は重く堅い。

(このままでは…)

大波を被りながらも、姫はライトに頼み事をする。剣士はぎょっとした。

「無茶やで! もう鎧は諦めや。死んでまうで! それに呪いで怪我しとんのや

ろ? あれを着たら、また呪いがかかるんやろ?」

「心配していただけるの? ありがとう。でも、あの鎧は魔族と戦う為にはまだ必

要ですの。口は悪いし、呪いもありますけれど…時には大切な戦友でもありますの

よ」

「せやけど…お、俺、俺があんたの盾に、剣になる! なってみせるから…!」

フロリーナは微笑んだ。

「大丈夫。必ず生きて戻ります。鎧も、ルーシーも、あなた達も見捨てません。わ

たくし、けっこう欲張りなのですよ」

青くきらめく瞳は、絶望に向かうものではない。生きる強い意志をもった光。

「…わかった。俺もここで待つ。」

「わたくしたちが為すべきことは?」

「…わあっとるわい! 船を追うことや。先行くで、必ず来い!」

 一分一秒でも惜しい。姫は濡れて纏わり付くドレスとほどけぬロープもそのま

ま、海へ飛び込む。

ザン!

一閃。ライトの剣がジャンプする姫を包む。と、ロープもドレスも刻まれ、一糸

纏わぬになった。ためらいもせず海へ飛び込む。痣だらけの素肌も美しく、フロ

リーナは海中へ消えた。

13

 「ゲスラー様、小船が見えますギャ」

リザードマンの一人が指差す。海賊団に化けていた6人はすべて元の醜悪な姿に

戻っていた。

「今は海賊ごっこをしている暇はないぞ。ん、あれは?」

波打つ海面に浮かぶ小船。その上に立つ、ライト。

「あ、あの人!」

「うぉおお、ライトや! んにゃろめ、うまく先回りしやがって」

ルーシーとガッツも手を取り沸き立つ。しかし船も本人もボロボロだ。

「げ〜ろげろげろ、馬鹿め、焦って追ってきたな。一気に潰すチャンスだ!」

緑の幻術師は喉を膨らませ笑う。

「ライトーっ! ”血の掟”が破られた。結束を裏切り副長ゲスラーは仲間を

殺した。魔物を操りナンバを戦乱に巻き込もうとしとるっ」

剣で威嚇する蜥蜴兵に臆することなくガッツが叫ぶ。

ぎろり。ライトが目で射抜く。

「われ…よぉもやってくれたの! 互いの血を重ね合わせた仲間を裏切る者は

死をもって償う…”血の掟”を破ったんや、毛穴ぁ全部えぐって手ぇ突っ込ん

で、奥歯ガタガタいわせたるで!!」

言葉の意味はともかく激昂に圧倒されゲスラーはひっくりカエル。

「お、おのれおのれ、殺せ!」

「ゲッゲゲー!」

船上の6人…6頭だけではなかった。ざぶざばと海から体をくねらせ、30数頭

はいようか、蜥蜴兵が現われた。ライトは海賊船の囚われの二人を見、それか

ら穏やかな海の底を見た。

(…生きとってくれ、フレア。)

そして。

「があああああーっ!」

咆哮。弓矢が降り海から突き刺さる槍で崩れる小船を捨て、双剣のみを手に海

へ飛び込むライト。

 死を覚悟し、それを超える強さ。教えてくれた母と少女、二人の女性を思い、

少年は敵に挑む。決戦の幕は切って落とされた。

14

 ごぽん…。

海底に沈むカバンめがけ姫は泳ぐ。渦の流れと水圧が姫を襲う。息も長くは続

かない。何より重く金属で出来た鎧は浮くとは思えない。先のマーフォーク戦

のような浅瀬とは違うのだ。

カバンに手がかかった時には意識が朦朧としてきた。

(魔鎧を…ルーシーたちを…救わね、ば…)

大きくひとつ、銀の泡が浮く。鎧を胸にかき抱き、フロリーナは光の届かぬ奈

落へ落ちていった。

 

「ライトが来たんや、やれるトコまでやるで! ルーシーちゃん、ちょいと辛

抱してな」

ガッツが体を沈め蜥蜴兵を蹴り倒す。そのまま寝転びルーシーと自分の足裏を

合わせ、上空に蹴り上げる!

「きゃっ」

自身も釣竿で帆の上にフックをかけ、そのまま垂直に布を駆け上がり、見張り

台でルーシーをキャッチした。

「ここにいてな。わい、ライトと一緒に闘ってくる!」

ルーシーはガッツの手をとり、祈る。

「神はあなたがたと共にあります。お気をつけて」

にか、と笑い、少年は船上から戦場へ切り込んでいった。

「でやああぁっ!」

乗船したライトの神速の剣がリザードマンを切り伏せる。だが切り捨てる分だ

け湧き上がる魔族。双剣を潜り抜け槍が襲ってくる。

「ちい!」

ゴキャア! 小さな樽が槍ごと敵を吹き飛ばす。ガッツの正確無比な蹴り技

が船の小物を全て砲弾に変える。

「ライトー! 遅いやないか」

二人は笑いあい、反撃を開始した。

ザシュ! ドゴ! 

「ゲギャギャー!」

接近戦のライトと後方支援のガッツ。二人の連携は船のリザードマンをあらか

た蹴散らした。後には偽りの副長とその取り巻きが残る。

「げ! 小癪な…おいお前ら、奴らを足止めしておけ。ゲスラー様の幻術をた

っぷり味あわせてやるわ!」

蜥蜴兵に戦わせている間に、緑の幻術師は喉を鳴らし呪文を唱える。

「ん? なんや! 体が」

「痺れて…動けへん!」

金縛りに合う二人に残忍な魔の手が伸びる。しなる尻尾で打ちつけ、手足に噛

み付く蜥蜴兵。

「ぐ、ああ!」

そして、二人は見た。さらに現われる蜥蜴の姿、海を揺らし現われる、巨大な

影。

「あ…あれは! クラーケン? アホな、伝説の魔物やないけ!?」

30mはあろうか。巨大な蛸にも似た軟体生物は捕食の対象としてまず、見張り

台のルーシーに目を向けた。

「あかん! ルーシーちゃん、逃げるんやー!」

手足の自由もきかぬままガッツが叫ぶ。

 絶体絶命!

15

 目を開けているかどうかすらわからない、何も見えない真っ暗な世界。姫

は、セバスチャンの声が響いた気がした。

(ぎへ、今回は助けてやるぜ、姫さんよ。あんたと海で心中も御免だしな。

海底に火山につながる場所がある。そこを叩けば、炎と大地の力を得られる

はずだ。うまく行けば…水の動きを御するくらい、出来るかもな! ギヒャ

ヒャヒャ。)

そして小さく。

(……戦友、か…ぎひ、悪くねえか…)

フロリーナは意識を取り戻す。見えない海底を睨みつけた。


 

 出血と強打により意識も途切れそうなガッツとライト。その時

ゴ、ゴゴゴ…

海底より響く地鳴りのような音。海が盛り上がり、

ドオオォン!

爆発した! 海底火山の噴火のようだ。火柱が上がり、固まりかけた溶岩が

降ってくる。

「うぎゃ! なんだ?」

あわててゲスラーが海賊船に魔法で障壁を作る。噴火が収まる直前。

ザバアアァン! 青き海から飛び出す、銀の鎧。

「バーサーカープリンセス、只今参上!」

狂戦姫は見事復活した。

「フ…、フレア! よかった。生きてたんやな…なんや、鎧は見つからんか

ったんか。裸や…はずいな…でも、綺麗、や。」

ライトは気絶する。

「あ、ああ、お嬢ちゃん! ルーシーちゃんを…」

霞む目の中、ガッツが叫ぶ。

「御安心なさい。お二人とも、よく、よく戦ってくれました。後はわたくし

の番ですわ!」

そこまで聞き取り、ガッツもまた意識を失った。

 中空に躍り出た姫はそのまま”滑空”し、曲線を描いてルーシーの元へた

どり着く。

「無事ですか? ルーシー」

「はい、私は大丈夫ですぅ。でも、姫さま! 私がいない時は、鎧は駄目で

すよぅ。」

鎧越しに姫の身体を見て、涙をためて訴える。珍しく感情を面に出すルーシ

ー。

「そうですわね、許してください」

優しく謝る姫の言葉に、

「私こそ、姫さまがお辛い時、お救い出来ませんでした。ごめんなさい。

ごめんなさい〜…」

泣きながら抱きついてきた。 そっと抱き締めるフロリーナ。魔鎧はなにも

言わなかった。

 


 ルーシーから大まかな状況を聞いた姫。彼女に少年たちの治療を託す。眼

下には黒い牙の軍団、見上げれば巨大な魔蛸。逆境にも姫は不敵に微笑む。

空の青、海の青の間。姫の澄んだ青の瞳が悪を射抜く。

ギン!

「…人の世の生き血を啜り、不埒な悪行三昧。醜き魔界の悪鬼ども、バーサ

ーカー・プリンセスが退治てくれましょう!!」

そのまま海へ飛び込んだ。たちまち中から血が浮き上がる。海中のリザード

マンの残骸が浮かび上がってきた。

「ん? ぎゃぎゃぎゃー!」

気が付くが早く船上の兵も切り刻まれる。手には斧は見えない。だが。

背中には流線型に形作られた、しなやかな銀の翼があった。一時期、魔鎧に

取り込まれそうな時に出現した翼と違い、大空を羽ばたくことは敵わないよ

うだ。だがそれは滑空し、水中を自在に進むことが出来る”鰭(ひれ)”と化

す。そして、それは斧にも負けぬ鋭い刃にもなっていたのだ。

「おの〜れ〜! クラーケン、奴を倒せ!」

ゲスラーの指示で魔蛸の触手が伸びる。船を突き刺し、姫を絡め取ろうとす

る。魔鎧が炎を吐く。が、何故か本体を素通りしてしまう。

「おかしいですわ。触手はともかく本体にダメージがないなんて。何よりク

ラーケンのようなクラスの魔物がいるなんて」

天界と魔界の公約により、今の人界には大きな魔力を持つものは存在できな

い。魔蛸はその大きさだけでもアウトのはずである。

「もしや…? しまった! か、体が」

フロリーナもまた金縛りにあった。

「げろげろ、やっと捕まえたわい。その鎧は厄介だがかまわん、じわじわ殺

してやる!」

ゲスラーが迫る!

「ちょーーーーーっと待ったーーーーあ!」

素っ頓狂な声が海から響く。

「あ、あなたは!」

なんとラッキー、ギャリソンが海を高速で渡ってきた。舟にも乗っていない。

その下から現われたのは…

「チチチ、ピイイイィィ!」

滑らかな肌、深海のような青い髪、そして鱗が光る、しなやかな魚の半身。マ

ーメイドだ。10人はいようか。彼女たちが下から支え泳いでいたのだ。ラッキ

ーは久々の再会と彼女の一族であろう、人魚の美女達に有頂天だ。

「メロディちゃん、オイラのことを覚えていてくれたんだねー!」

「キキ…」

言葉は違うが、人魚は笑みを浮かべ応える。そして海賊船に向け、全員が歌い

だした。

「きゅあ…ああああ…ピルルルル…」

その高音はゲスラーの低音で出す喉音を相殺した。姫の四肢にも自由が戻る。

「やはり、そうでしたか。あのゲロゲロ音は催眠効果があったようです。」

軍師でもあるギャリソンの采配が当たったようだ。そして、空から。

「お待たー! マリアちゃんも颯爽登場ーっ!」

とうとう全員が揃った。それだけで、勇気が涌いてくる。力が漲る。

「みんな…
グスン…行きましてよ。覚悟なさい黒い牙。わたくしたち、残酷です

わよ!!」

17

「げ、げろろろ! 貴様ら、許さんぞっ! ただの人間と下等な魔物の分際で

我等に歯向かいおって」

ゲスラーは怒りのあまり顔色がどす黒くなり、それどころか灰緑色にまでなっ

た。まるで…

(カエルじゃん)

(カエル、ですな)

(青空げろげ〜ろ、だー!)

ラッキー、ギャリソン、マリアは素直に思った。

「んなこたどーでもいいや、あんたの悪さもここまでだホイ! ん〜召喚!」

巨蛸を前に黒猫ナベシマを呼び出すマリア。すると…

「お、おい姫、見てみろよ」

ラッキーが指差す。クラーケンの姿は蜃気楼のように薄れ、その陰には7〜8

m程のほどよい大きさの化け蛸がいた。

「やはり…。触手の先だけ合わせて体を幻術で大きく見せていたのね。なんと

狡猾な」

見ればリザードマンの大軍団も何割かは透けて見える。術による水増しがされ

ていたのだ。マリアの隠し技、アンチ・マジックの発動により、ゲスラーの術

は通常のマリア並み、つまりお子様クラスになってしまったのだ。

「でぇえええっやああああっ!」

タコの触手を掴み、振り回し、海へ放り投げる狂戦姫。海へ飛び込み、刃の翼

を開く。

ズバアッ!! トビウオのように海面を跳ね、蛸足をカットした。墨を吐き、

情けなく身もだえして逃げる大蛸。

「ぬぬぬ、なぜだ? 私の術が、魔法がッ」

錯乱する幻術師。そこへ

「ピイィイイイィィ…ルルルルゥ」

メロディや人魚たちの歌声がマリアのアンチ・マジックに加算される。いよい

よ幻は消え、それどころか蜥蜴兵の統率も途端に崩れてきた。マインドコント

ロールが解けた愚かな魔族は凶暴さだけが残り、もとの主に目をつけた。

「な、なななんだお前ら! ギャア、お、お助け…」

悲鳴もかき消され。己の策に溺れたゲスラーはガッツの仲間と同じ運命をたど

った。

ゴゴゴゴ…

その時、また海から響く音。海底の爆発が再発したのだ。

「ギャギャーっ」「ゲゲ!」

たまらず海へ逃げ出すリザードマンの群れ。

「逃がしませんことよ!」

銀翼で魔物を一定方向に追い込んだ姫。海賊船に戻り、そして。

「だぁりゃあ!」

船に降る溶岩を弾き、最後に飛び出した特大の火の玉をそのまま抱き上げる。

上昇し、自らも炎と化した!

「過ちを省みない闇の眷属よ! 喰らえ! 輝ける烈火の弾…シャイニング・

スパーーーク!」

さながら現世の爆撃機のようだ。急降下し、一列に並び逃げる魔物どもに輝く

火弾を発射する。姫自身は途中で反転、上空に回避した。

ズ・・・・ドオオオオォンンン・・・!!

蛸は焼け蜥蜴は革を残し、爆発した。

18

 戦い済んで。

海底からの噴火は不思議とピタリと止まった。甲板では…

「か〜、やっぱタコはんまいなあ!」

ガッツを中心に焼き出された大蛸を

マリア達がつついている。

「うん、いけるかも。ソースやペッ

パーが合うんじゃん?」

「んニャア」

「いや、通はタレやで。わいの国の隣にええ店があんねん。きしょう、レイや

チーたちにも、もっぺん食わせたかったなあ。」

泣きながらもがつがつ食う一行。

全員ルーシーの手当も終え、最後にライトも目を覚ます。

「気が付いて? よかった、傷も軽度で。」

フロリーナがのぞき込む。

「うわ! フレア? あ、ああ、服、着ないと。よ、鎧も…そうや、ゲスラー

のド畜生は?!」

「だ〜いじょうぶぅ。姫がみんな倒しちゃいましたあ。」

ルーシーがほほ笑む。

「あ、ライト、起きたんか。わいのおひいさんに手ぇ出すなよ!」

「アホか! それより、フレア、鎧は?」

「? ちゃんとカバンも斧も戻しました。…きゃ! い、いやっ」

姫は真っ赤になった。鎧は脱いだがドレスはライトが切り裂いてしまったため、

帆の切れ端で覆っただけの姿であったのだ。

「お、お願い。見ないで」

震える姫。

「あ、わ、悪い。奥に船員の服があるはずや」

あわてて船底に行く、と。

「王子ーっ!」

なんと食い殺されたはずの船員8人が倉庫から出てきた。

「ジン、ギイ、レイ…みんな! 生きとったんか」

どう猛だが食い意地の張ったリザードマンが襲ってきた時、食糧庫の魚や肉の

干物を投げ付け目をそらし、そのまま隠れていたというのだ。

「後は中の非常食をちびちびと」

「王子たちも死んだもんかと。よかったですわ〜」

ガッツも駆けつけ、船はより賑やかになった。

 船員服を着たフロリーナ。

「殿方の服なんて、おかしくないかしら?」

ライトがしどろもどろに言う。

「ん、んなことあらへん。き、綺麗や、で。」

(そうやな、こんな恥ずかしがり屋が裸で海から出てくる訳、ないわな。俺が

妄想しただけや。)

そこまで考えて、改めてライトは気が付いた。彼女に対する想いを。

「らーいと〜」

ガッツがにやにや笑いながら顔をのぞき込む。

「わあ! なんやお前。」

「顔が真っ赤やなあ、ライトにしては珍しいのう。いよいよ春の目覚め、です

かあ?」

ボカ! 容赦なくガッツを殴るライト。殴られたほうも悪びれない。

「なんで? 赤くないよ?」

マリアが不思議がる。

「こいつはな、もともと色素が薄いし、何故か日焼けもせえへんねん。で、付

いたあだ名が白ヘビや。カエルのゲスラーが嫌うわけや、なはは。」

ライトが硬直している。多分赤くなっているのだろう。微妙な違いはガッツに

しか判らない。


「ガッツ殿。ライト殿。」

ギャリソンが少年船長と剣士を呼び出す。

「…交易がさかんな島国、ナンバの王のことは聞いたことがあります。海賊上

がりで傲慢、女子供は商売や政治の道具くらいにしか考えないとか。確か異母

兄弟の王子が二人いるとも聞きます。執政の邪魔になるからと遊びに出されて

いるとも。

暴力や策略だけに頼る国は必ず滅びます。その二人が母君の愛に気づけば…、

国も変わることでしょうな。」

ギャリソンが誰に言うでもなくつぶやいた。

「…なあ、ライト。変えよう。わいらも変わらなアカン!」

ガッツの瞳が燃え、それからウルウルになってライトを見つめる。

「ふん、俺はかまわんが…あ、あのひとの助けになれるなら…」

頬を(多分)赤らめ、そっぽを向くライト。にへら〜っと笑うゴウ。

 心地よい海風が吹く。フロリーナが巻いていた包帯を外そうとした時、風は

強くなり包帯は宙に舞った。偶然それを取るライト。彼はそっと、己の血が滲

む腕の包帯の上にそれを重ね合わせた。

「”血の掟”…血を重ねたもんは約束を裏切らない。俺はまだ弱い。でもいつ

か必ず、フレアを守る盾となり、敵を裂く刃となる。国で一から出直しや。」

そこに擦りむいた鼻を押し付けるガッツ。思いは同じ。固く誓い合う二人であ

った。


19

 次の港までフロリーナたちは海賊船に乗せてもらうことにした。今生の別れ

ではない。皆、再会を約束して。

「そういえば、ラッキーは? 見当たりませんが。一応お礼はしなくては。彼

がマーメイド達を連れてこなければ、金縛りにあったままでした」

姫をはじめ皆が船を見渡すが姿は見えない。

「どこやろな。…あ、あのな、フレア、お前誰か好…」

ライトが神妙な顔で切り出した時。

「おー、あんなところに!」

見張り台に上ったガッツが声をあげる。小さな岩礁にメロディ、その他の人魚

たちと共にラッキーはいた。

「あ〜あ、しまんない顔してるねえ。遠目にもわかるよ」

マリアが呆れ顔だ。

「いまラッキーって叫んで〜、他の人魚さんに抱きついていきましたぁ」

ルーシーも呆れ顔だ。

「…尾びれで盛大に往復ビンタを食らっておりますな。はあ」

ギャリソンも。

「あ・あれ? 誰か泳いでいったよ? …エロガキだー!」

「一緒にビンタされてますね〜。おばかさんですねえ」

「メロディも困り顔で帰ってしまいました」

ぴき。三人の会話に青筋を立てる姫。そしてライト。

「今度はラッキー、偉そうに話してる。得意のビッグマウスだね。オイラこん

なにもてるんだぞー、とか」

「…ガッツさん、ペコペコしてるぅ。もてる方法を教わってるみたい。カッコ

悪いです〜」

「算盤を取り出しましたな。授業料を値切っておられる。さすが商売上手」

ぶち! 何かが切れる音。わなわなと肩を震わせる二人。

「…この船、武器はあるかしら…?」

「銛と投擲器なら。あ、あかん、オレが引導渡したる…」

「あー、手をクニャクニャさせ始めた!」

「あれは早脱がしの技ですな。何を教えようとしているのやら」

「…ガッツさん、不潔です〜。」

ぶちぶちぶちぃ! 二人の堪忍袋の尾が切れた。

『あんの、大恥さらしどもーっ!!』

 夕日が落ちる。陽の赤に染まるより早く、波は血の色に染まりそうであ

った。

                  

                         ・・・おしまい。

 


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