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1
南海の島々はフロリーナたちの王国、D公国やA共和国にも属さず独自の南海諸国
連合を築いている。
比較的穏やかで温暖な海は漁業や観光にも適し、また大国間の海の領有権を主張する
ことで経済的にも潤っていた。住人はほぼ典型的南洋系の人間で、喧嘩も多いが情に
も厚い、というところである。発達した商業のおかげで明るく商売好き、という点も
あるが。
魔族の隣国襲来で状況は変化する。
静観を続ける大国に対し、島国の集まりである彼らは己の私利私欲のため、個々にア
プローチをとっていた。儲けようとする者、援助しようとする者、悪意をなす者…。

港町を離れ、暑さをしのぎ、隣村を目指す亡国の王女フロリーナとその一行。名前
もないような小さな村はまたも魔物に蹂躙されていた。
「げげげげ、獲物だぎゃ」
「皮を剥げ、肉を削げ、血を絞れ、だぎゃ〜」
冷酷な黄色い瞳、堅い鱗で覆われた身体、迫り出した口からは牙が覗く。
「くっ、遅かったようですわ。杏色の召喚士に時間を割いてしまいました。」
金髪を振り乱しドレスを端折り駆けつけた王女が遠く見える惨状を睨む。
まだ日も高く、逃げ惑う村民も多い。彼女の切り札、魔鎧は「事情あって」他の善良
な人々には見せられない。
「ふむ、あの爬虫類然とした容貌、獰猛単純な振る舞い、リザードマン…スレイブリ
ザードですな。ノーブルリザードと違い高い知能や魔法は使えませんが、水陸活動が
可能なやっかいな相手です。ちと気になる点がありますが…」
遅れてきた執事ギャリソンが説明する。
「わたしとルーシーで聖水を撒いちゃえば?」
続いて現れた少女、魔法使いマリアが問う。
「もともと水の属性ですし悪霊よりも生物寄りの魔物ですからな、効き目は薄いかも
しれませんぞ。それに」
剣や盾、よく見れば弓矢を持つ者もいる。
「困りましたわね〜」
シスターのルーシーが困惑しているとき、
「ぜー、ぜーーぇ」
小山のようなカバンが痩せぎすの従者、ラッキーとともに到着する。
「ぎへへ、姫さんいいからオレ様を使いな。いいじゃん見られて減るもんじゃあね
えし」
物言う魔具はカバンの中から横柄な口を叩いた。
「おだまりケダモノ! それが出来れば苦労はしません!」
姫はカバンから小振りの斧と懐剣を取り出す。そのまま村へ駆け出した。
「ぜー、むちゃだ、ひめ〜!」
ラッキーがようやく叫ぶ。
「脱ぎましょうよーう、オイラなら3秒でオッケーです! 減るもじゃないし…
がべ!」
ガツン。姫が投げた石は伸びきった彼の鼻の下、人中という急所をピンポイントで
貫いた。
「…。」
うずくまり、しみじみと痛みをこらえるラッキーだった。
「げひゃ? 餌が向こうから来るわに」
蜥蜴人間が気づく。後戻りは出来ない。降り注ぐ陽光の下、バーサーカー・プリン
セスの苦しき戦いが始まろうとしていた。
2
「うわあああ」「きゃあっ」「母ちゃーん」
村からは悲鳴が轟く。
「助けを乞う人がいては誰も姫を止められますまい。とにかく、行きますぞ」
ギャリソンをはじめ皆も駆け出した。
到着した姫。矢をくぐり、母とはぐれた子供を抱える。剣を構えたリザードマン
が襲いかかる!
「くっ!」
ゴキャ!
鈍く響く音にフロリーナは顔を上げる。椰子の実か何かに皮革を巻き付けた球が蜥
蜴兵士の死骸とともに転がっていた。
「これは…?」
ざん!
さらに疾風を巻き起こし影が飛び込む。
「うげっ、ぎょわわーっ」
駆け抜けたあとは切り刻まれた蜥蜴皮が散乱していた。
「け、アホどもが。」
色素の薄い目と髪、整った細面の顔立ち。長身に必要なだけの簡素な防具。両手に
は眼光と同じくらい冷ややかな光を放つ双剣が。
「女、死にとぉなけりゃどこぞに去ねや。たいした腕も頭もないのに助けになんぞ
飛び出すな、ボケ!」
氷のような怒声。
子供を逃がした姫は突然の剣士の出現に驚きはしたものの、きっと瞳を見つめ返し
た。
「助けていただいたお礼は言いますわ。ただ覚悟がなければ飛び出したりしません
ことよ!」
はなじらむ謎の剣士。すると
「わーっはっはっは! ごめんくさーい!」
素っ頓狂な声がフロリーナとは真逆の、海沿いの方向から響いた。

「正義の海賊ガッツ様、華麗に参上や! よろしゅうな〜」
現れたのは…べたな髑髏の帽子、やり過ぎだろうと言いたくなる海賊衣装。「着ら
れて」いるのは多少背の足らないどんぐり眼の少年だ。手には大きなフックの付い
た釣り竿、右足には甲冑のすね当てを加工したものが。先の球と同じものが足元
に転がっている。
「正義の・・・海賊?」
3
自称、正義の海賊船長ガッツの繰り出す椰子の実シュートとライトの剣さばき、見
事な遠近のコンビネーションは敵を打ち倒していった。フロリーナも果敢に手斧を奮
ったが、勝負を決めたのは海賊団の加勢である。8人の船乗りが現われると、リザー
ドマンたちは退散した。
わらわらとやって来た海賊船の船員たち。
「おー、そろったか! ジン、ギィ、レイ、チー…ありゃ、コウとテイは? ゲスラ
ー副長どないしたん? まさかトカゲに…」
ガッツが訝しむ。
「いやいや、他の魔物の退治に当たっております。ご心配なく」
身だしなみは一番まともに見えるがいかんせん両生類顔の中年、ゲスラー副長が答え
た。

「ならええんや、わいらイレブンでガッツ海賊団やもんな、かっかっか」
あくまで楽天的な船長に代わり、慇懃無礼な態度でゲスラーはフロリーナに詰め寄っ
た。
「そこの田舎貴族の娘、悪いが村から報酬をもらっておるのは我々だ。営業妨害はせ
んでもらいたいな」
どうやら彼らも賞金稼ぎのようなものらしい。
「まあまあ、ええやん別に。わいらは村の人が助かればええんやし。なあライト。」
ガッツの問いかけにライトと呼ばれた二刀流の剣士はそっぽを向いている。
「あかん、あいつ極端な女嫌いなんや。かんにんな」
あまりにすまなさそうに謝る少年に少しだけ緊張を解く姫。
「いいのです。村のみなさんが無事なら、わたくしたちは退散しますわ。でも、海
賊団って…?」
「そりゃ、カッコええからやがな! それにわいらだってご褒美は欲しいもん。報酬
は…美人の姉ちゃんや〜っ!」
ガッツはしまらない顔のまま飛びついてきた。こうなると船長もへったくれもない、
ただのエロガキである。
「きゃ!」
抱き着いたとたん、あばら骨がぶつかり不精髭がガッツの頬にじょり、とあたる。
「うげ!」
そこには遅れて到着したラッキーが。珍しく、怒りに震えている。
「ご褒美だあ? ふざけろバガヤロ、あの女に触っていいのはオイラだけなんだよ。
ご褒美なんて、ずーとずーとずーーっとおあずけなんだぞ!」
ぐさ。
人中に続き、喉仏に姫の地獄突きが炸裂する。
「誰がお前のご褒美ですか!」
「ごぼ…ゴベンダザイおじょうざば…は? お〜目元の涼しげな美人がいるじゃな
いですか! らっき〜お嬢さんトカゲに襲われて怖かったデショ?」
だらしない顔でライトに飛び掛るラッキー。だが、
ザシュッ
ライトの体がぶれて見えたと思うと2本の刃はすでに役目を終えていた。
「うわ!」
ばら…ラッキーの服は微塵切りになり、スッポンポンになった。ラッキーが叫ぶ。
「いや〜ん!」
<大変お見苦しいものを想像させてしまい申し訳ありません>
「だぁほ! 俺は男や! 女なんぞと間違えたら○○の先を××するで!」
鬼の形相で剣士が叫んだ。
<大変お聞き苦しいものを想像させてしまい申し訳ありません>
皮肉にもフロリーナとライトは一緒に相方をどやす。
『この、恥知らず!!』
4
「ああっ、いつも脱がせる側なのに脱ぐのがこんなにトキメクなんて…らっきいぃ〜」
変態度がますます上がるラッキー。ガッツはライトにもフロリーナにも平謝りである。

「ほんまにスンマヘンなぁ。こいつ子供の頃女の子みたいな服を着せられることが多く
て、よ〜く間違われててん。そんで余計に女嫌いに」
「いらん事言うな! その姿を見て”お姫さまやー”と勘違いして一目惚れしたの、ど
このどいつやねん!」
見かねたフロリーナは
「も、もう喧嘩はお止めになって。うちの下郎も無礼をしたことですし。」
すると。ガッツがうるうると彼女の方向を見つめる。頬はピンク色になり、ますます
しまりのない顔になった。
「見つけた…わいのおひい(姫)さんや…ホンマモンの天使や! ほれた! 惚れたで
えっ!」
いきなりハイテンションに寄り添って来た。
「(あ、あら、プリンセスだって判ってしまったのかしら?)そ、そんなこと、困り
ますわ。もう、おませな坊やだこと。」
姫もちょっと気分が良い。が、ガッツはそのまま彼女をスルーし、後から来たパー
ティの一人に向かっていった。
「? なんですかぁ?」
かいがいしく負傷した村人を治療していたルーシー。彼女の手をとり、
「結婚してください!」
5
ひくひく。フロリーナの表情が強ばった。
「あ、ああ、ルーシーに御用なのですね。ほ、ほほほ…」
ぽん。いつの間にかラッキーが隣りで肩に手を置き、慰めようとする。
「姫、いけませんよ、ホイホイと舞い上がっちゃあ。あなたにはオイラさえ見え
ていればいいんです」
顔は真面目だが股間をボロ布で覆っただけである。
ぞごっ!
喉仏に次いで鳩尾に中指の関節だけ延ばした"鉄菱"がめり込む。
「こぱ! か・・・・ぱぁな・・」
ぴきぴきと顔が青筋だけの姫。
「わたくしの視界に入らないで! このザザ虫!」
口をパクパクさせて悶絶するラッキーであった。

さて、いきなりのプロポーズに困惑するルーシー。ガッツは手を離してくれ
ない。でれでれだ。
「ああん、困りますぅ〜」
「ルーシーちゃんいうんかあ、ええ名前やなあ。可愛くて清楚で人助けもする、
天使さまやで! …あた!」
ごん! マリアが魔法機で盛大に突っ込む。
「何してんねーん! おうおう、ボーズ、このマリア姉さんを差し置いてマブダ
チのルーシーちゃんをナンパするたぁ、いい度胸じゃん!」
マリアがガッツにガンをとばす。
「あん? ガキはそっちやろ。しっしっ、あっち行け」
「え?」
聞けばガッツは姫より一つ下なだけ。ルーシーたちより五歳も年上だという。
そして、ライトとは同年齢だとも。
「うっそお! 背なんて私と変わんないのにー。それに向こうのヤーさんと同じ
って、ガッチョーンプリケ!」
「ふふふ、見かけで判断したらアカンでぇ。お兄さんやから手先も器用やで、ホ
レホレ」
手にした釣り竿でマリアのスカートを器用にまくり上げた。
「ぎゃーっ! サイテーこいつ!」
中身もガキのようだった。
やがて村から情報を得てギャリソンが戻ってきた。
「やはりあの独特の言葉使いは南海諸国連合の者達らしいですな。村長も契約
をしておりました。リザードマンどもも何度か現れては追い返されているよう
です。始めはあのガッツ少年が無償で退治していたらしいのですが、いつ頃か
ゲスラー副長が仲介に立ち、契約料を吊り上げていったとか。」
「まあ。ここもとても裕福とは思えませんのに」
「もともと彼らは商魂逞しい民族ですからな。村も文字どおり海賊行為をされ
ぬだけまし、と考えているようです。」
一抹の不安と疑惑。何かが姫の胸にしこりのように残った。
6
海賊船の中。
「困りますな、ライト殿。いくらガッツ様と懇意にされているとはいえ、リザ
ードマンを殺しては。言わばあいつらは私達の飯の種、ですぞ。生かさず殺さ
ずです。」
両生類顔を歪めゲスラーは算盤を弾く。
「け、わあっとるわ。」
ライトは嫌悪を全面にあらわして吐き捨てた。
「これもガッツ様を守るがため。…あなたも王位継承権があるとはいえ、王様
が見捨てないだけのこと。今はガッツ様の母親が寵愛の対象である以上、下手
な気は起こさぬほうがよいですぞ」
陰険に呟く副長に、我慢できぬかのように若き剣士は飛び出していった。
「ふうん、人々を守って諸国行脚かー。えらいなあ、あのフレアお嬢ちゃん。
戦えないのに付いてくルーシーちゃんもえらい! かーっ惚れ直すわ」
「ですからあ、わたしもガッツさんには付いて行けないんです〜。何より神
様に使える身ですし〜」
どうにも歯車の合わない会話を波辺でする二人。後ろからこっそりついてい
くマリアとラッキー。両手に椰子の葉っぱを持って。

「むむー。あんなエロガキ海賊にルーシーちゃん
を取られてたまるかー! ラッキー、やっつけち
ゃってよ」
「ああ見えてアイツ、けっこう手ごわいからな。
くそう、ルーシーも人がいいから強く反論しない
みたいだし。も少し大きくなってから、ってキー
プしてたのによう」
「な〜ん〜ですって〜〜」
マリアがにらむ。
「あ、手、ケガしてますぅ」
ルーシーがガッツの手をとり、治癒の白魔法をかける。暖かな光が二人を
包み…その時、波に足をすくわれ、ルーシーが少年の胸に寄りかかった。
・・・どきゅーーーーん!
ガッツの頭から湯気が立ち込め、ハートマークが噴火した。
「も、もうあかん! 婚約や祝言やウェディングベルやー! みんな、ナ
ンバ王国へ帰るでぇ。」
ルーシーを抱え上げ、ガッツは船へ走りだした。
「わわわ、大変だー! ルーシーが連れてかれちゃう」
「典型的なナイチンゲール症候群だな。まったく今の若いもんは」
ズバコーン!
魔法機のパンチがこめかみに命中する。
「バカ言ってないで、姫さま呼んでこなくちゃ!」
「ううう、今回地味〜に痛い…」
・・・姫、間に合うか? つづ〜く。
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