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1
現世でいうところの現世。巨大生物に突っ込まれた名古屋駅ツインタワー
ビルの地下に、男の高笑いが木霊した。
「わはははは! 完成したぞ、mike子くん!」
「おめでとうございます博士。いつ見ても美しい数式ですわ」
そこには膨大な書物と一面に数式の書かれた黒板がずらりと連なり並んでい
た。
「そーだろうそーだろう♪ 見たまえ感じたまえ、書物に宿るパワー、その
具現化する歴史的瞬間を!」
ヨレヨレの白衣と鮮やかな杏色の髪を振り乱し、男は数式を書き続ける。書
物の行き着く先、膨大な数式の「=」で結びつく先に、一冊の古ぼけた本が
置いてあった。
「これこそ古(いにしえ)の禁断の書、"根暗な蜜柑"。それを読み解く事は森
羅万象を捉え死さえ超越するという伝説がある。私は神にも仏にもなり得る
のだよ、わーははは!」
「それを言うなら神にも悪魔にも、では?」
mike子と呼ばれた女性は助手のようだ。突っ込み上手である。
「ウルサイっ、文系人間。理系のジョークだ! 見ておれ、私を学界から追
放した愚かな愚民ども!」
ガッカカカッ
腕よしなれチョークよ折れよとばかりに式を書き込む。
「素敵ですわ博士。さすが学界一のマッドサイエン…天才なの♪ これにこ
う、"x"を代入して…足し算すればいーんですね?」
「ちーがーう! √(ルート)を使うのだ!」
最後の数式を書き入れた時、値と禁書の文字が浮かび上がり、時空に歪みが
生じた。
「言の葉の力を通し、いま蘇れ幻の世界よ!」
太古の禁呪文字と謎の数字、"50,001"が研究室…に見せかけた地下
駐車場に紙切れと共に舞い上がる。
ぶ・・・う・・・ん・・・ぺか!
「あーれー!」「う〜わ〜」「何事ですの?」「地震ですかな」「ギヒャ?」
ドサドサドサ、と振ってきた人影。
それは本来まったく「=」では結べない世界からの訪問者、フロリーナ姫
とその一行であった。
2
中世風のドレスに豪奢な金髪、意志の強そうな碧眼。亡国の王女はお供を
引き連れ現世へとやって来た。
「あたたた。なんなのこの本と文字ばっかの部屋? お師匠の転送機、直った
と思ったのにー、ぶうぶう」
マリアがぶうたれる。
「あれ? なんなのお前達?」
計算外の姫たちの出現に再計算を始めるあぷりん博士。かかかっかか。
「むー、どうやら異界に同じようなシステムを作ったものがいるようだな。シ
ンクロしてそちらの人間が来てしまったのか? …ってオイそこの私よりがり
がり男! 助手になにしてる!」
見るとラッキーは助手のmike子さんの手をとり、さっそくくどいている。
「こんな非常識な世界で出会えるなんてラッキーですねお嬢さん」
「あらま嬉しい。でも私家庭持ちですわ」
「失礼奥様、子猫のように可愛いからてっきりどこかのご令嬢かと。大丈夫、
オイラおっかあより歳下なら許容範囲です…げば!」
ズバーン! 姫が漬物石大のハードカバーをラッキーの後頭部に命中させた。
「非常識な事態に何をしているのです! そこの貴方、これは召喚術ですの?
もしや…"黒い牙"? 今すぐわたくしたちを戻しなさい!」
きっと睨む姫に後ずさりながらも博士は己の野心の成就をあきらめない。
「ま、まぁよい、大事の前の小事だ。いよいよ実験第2段階だ。この禁書のパ
ワーと位置をスライドさせ、未知数を代入しても具現化の効果は保持できるは
ず。mike子くん、例のものを」
後頭部に本が突き刺さったまま突っ伏すラッキーを少々惜しそうに見つつ、数
冊の古い雑誌を禁書と置き換える。それは。
『花とゆめ』
3
「ぐふふふふ、私の甘酸っぱい青春の1ページであるこの雑誌をまずは具現化
するのだ。」
あぷりん博士は握りこぶしを突き上げる。
「クルトのように異世界を旅しソネットのようなサイボーグを造り、チョビと
戯れグリーンウッドでパズルゲームを楽しみながら僕の地球を守っちゃうの
だ!」
「素敵ですわ博士♪」
mike子さんがちらと時計を見ながら相槌を打つ。古い雑誌から怪しげなオー
ラが。
「その為に私は暮林助教授の如く勉学に邁進したのだ。今・成果が試される
時!」
かかかかっ! 博士のチョークが輪舞し、本が発光する。その光は傍にいたフ
ロリーナたちを包み…
「どうしたこと? ふ、服が!」
「うわーっ! 服が! 破れる〜っ」
「いやーんっ」
「うおおおっらっきー! これは東方の絵師ゴー=ナガーイの云う所のハニ
ーフラッシュ!」
ラッキー、大喜びである。しかし自分の服も破れていることには気づいてい
ない。
「よっしゃー、もういっちょー! …げぶっ!」
メキャ!
ラッキーの顔面に金属の塊がめり込む。覗きは回避された。
きゅるるーん、シュタ。きゅるるーん…。
そこには今では絶滅しているであろう、踵まであるロングスカートのセーラ
ー服に身を包んだ姫がいた。手には鈍く光るヨーヨーが。
「つまらねえ真似をするんじゃねえ! …ですわ。あら、服が、それとこの
言葉遣いは」
どう見てもスケバンである。
「どうも偶然乱入してしまった我々のせいで召喚術がうまくいかないようだ
な。召喚の対象が我等の身体を通して具現化しているようだ…サキ、出動だ!
…ではございませんな、姫、ご注意を。」
ギャリソンもいつの間にか暗闇のような漆黒の服装になっている。
「なんだか凄いことになってるー、キャイキャイ」
マリアやルーシーたちも変身しているようだ。
「ぐぐぐ、こんな事は計算外だ! いったんこの不確定要素を排除せねば!」
あぷりん博士は再び禁書を置き、尋常ならぬ速度で数式を書き加え始めた。
ぽん!
閃光とともに現われたのは…
「ラッキー、てめえ勝負だ! って、ココどこ?」
なんとミミ、ぬー、イーノの三人組だ。出現したが早く服は破れ変身が始まっ
ている。
「いやーっ」「脱ぐのはとくいー」「おなかすいたー」
もう、ワヤクチャである。
「博士、収集がつかなくなってますけど。」
mike子が休憩のお茶だしを始める。杏色の召喚士は目が据わっている。
「ふ、ふ、ふはははは! おのれ不確定要素め! 割り切れぬπ(パイ)の亡者
ども、何がフェルマーだ相対性理論だ! 美しさのない解など無い方がよい
わ!」
ズズズズズ…本と、黒板の円陣がまたも別のものを出現させる。
「・・・・ぼえぇ・・・・」
巨大な黒い影。それは地下室の天井をバキバキっと破り、なおも巨大化する。
まさに怪獣だ。
「てめぇ、黙って見てればやりたい放題しやがって。これ以上の悪事は」
フロリーナはヨーヨーを突き出す。側面のカバーが開き王国の白鷹の紋章が
現われた。
「この狂戦姫の代紋が許しちゃおけねえ!」
すっかりベランメエ口調である。かくしてフロリーナ他花ゆめ軍団VSあぷり
ん・謎の怪獣連合の戦いの幕が切って落とされた!!

4
道幅100メートルはある中央道路を単車ハスラー250で突っ走る、二人連
れがいた。
「なんだか駅ビル、すごい音がしたな?」
後部座席の男が叫ぶ。
「ああ…」
「大騒ぎみたいだ。ん?、なんだよ足代、お前こういう騒動に首突っ込むの
大好きじゃないか」
バイクを運転する高校生、ヘルメットのカウル越しに目をギラつかせ、ボソ
リと言った。
「…虫の知らせかな? なんかあのドタバタに近寄らないほうがいいみたい
だ。行くぞ、羽柴」
霊感高校生の足代秀雄とその友人の羽柴歩、二人はそのまま名古屋を後にし
た。
「ぼ〜え〜」
怪獣が吠える。
2度目の巨大生物襲来に名古屋市民は大混乱になった。
「あぷりん博士〜、あれは、なんて怪獣なんですか?」
mike子さんが崩れる天井を避けながら怪獣を見上げる。岩のような表皮には
白い斑点。ヒレを思わせる四肢と背中の突起。大きくだらしなく開けた口から
は内蔵まで見えそうだ。
「あれは…ザメラだ。」
「ええっ、てことはサメの怪獣なんですか? ややややっぱり人を捕食するた
めに?」
「いや、あの外見はネズミザメ目ジンベエザメ科に酷似している。狂暴性は微
塵もない。ああやってグルグルうろうろ歩き回り、口に入ったきたものを食べ
るだけだ。つまり」
「つまり?」
「あれは正義の怪獣でも悪の怪獣でもない。ただ大迷惑なだけだあーっ」
怪獣ザメラはただただ歩く。歩けば周りは破壊される。しかしその被害をくい
止めようとする乙女たちがいた。
「たああーっ!」
きゅるるる! フロリーナの特殊金属のヨーヨーが足止めをする。
「女神オレアナの名においてマリアが命ずる。大地の剣よ戦いの剣に!」
マリアとナベシマが剣と炎で動きを止める。
「・・・・・」
銀のスーツに身を包んだルーシーがひたすらクールにテレキネシスで攻撃をす
る。
「うりゃ、メンデレーエフ=パワー!」
お嬢様高校の学生服姿のミミがぶん殴る。
そのころ、ラッキーたち他のメンバーは…
「わん(なんでオイラ犬なんだ…ってかコレ、戻るのか? 他のやつらは服だけ
変わったみたいだけど、オイラ大丈夫なのかー!?)」
「まあまあ、こういう時は歌って踊れば心晴ればれ。あ・そーれ」
イーノは踊っていた。そしてセバスは、すましていた。

「うーむ埒があかん! 最終兵器だmike子くん」
「はい、博士」
ぼえぼえ吼えるだけのザメラに業を煮やした博士がバズーカのような物を助手
から預かる。
「! あぶねえっ!」
ドドドッドド! サキ…もとい姫がマリアたちをかばい被弾!
ドバーン!
バズーカの砲撃を受けたフロリーナ。
「きゃあっ・・・あ、あら? イヤっ服が!」
なんと赤い弾は彼女の体は素通りし、セーラー服だけビリビリに破いていった。
素の姫に戻り、真っ赤になる。博士が笑う。
「わーはははは、これぞ魔砲弾、爆裂球! お前達に花ゆめコスプレなどさせ
ん!」
咄嗟にセバスの後に隠れたが、爆裂球の追撃が。
「ぎゃひ!」
素に戻った魔鎧ともども、そのまま蔵書の山に突っ込む。
「わは、わは…あれ?」
飛び散る書物の紙片の中、禍々しい鎧をまとったバーサーカー=プリンセスが
現われた。
「初めからこれで出ればよかったかしら? セバス、てーいっ!」
ごおっ!
炎が博士もろとも禁書を包む。
「うっぎゃあああーーー!」
「くそー、庶民の力じゃここまでかぁ」
ミミたちもザメラの足止めに苦労している、その時。
「マヤ…あなたはサメ。サメを演じるのではありません。サメになりきるので
す!」
くわっ! 黒髪で顔半分を覆ったぬー姉さん、一括する。
「ぼえー」
ザメラは腹ばいになり、サメの生態を取り戻し、身をくねらせて名古屋港から
伊勢湾を抜け、太平洋へと帰って行った。
「さよなら、ザメラ…」
意味無くマリアがつぶやき、怪獣を見送った。
禁書の焼失によりあぷりん博士の野望は潰えた。
フロリーナ達のコスプレは解消し召喚術は逆転する。
「ラッキー! もとに戻った〜」
「あれぇ、ラッキーどこにいたんですか〜?」
「いやはやまいりましたな」
「ねえじい、あの召喚士、わたくしたちを帰したいようにも見受けられました
が…なぜ闘う事になったのでしょう?」
「いーじゃないですか、コスプレも楽しめたし! きゃいきゃい」
とりあえずマリアと三人組はご満悦のようだ。
「外郎、天むす、きしめん味噌煮込み…いろいろお宝があったぜ!」
デパ地下に「落ちていた」土産品をいろいろ拾ってきたらしい。一行の姿は閃
光とともに消えていき、奇妙な旅は終わりを告げた。
5
ぷすぷす。焼き杏となった博士。
「ぐぐぐ、私は諦めんぞー! み、mike子君はどこだー?」
チャイムが鳴り、mike子さんが一抱えの「花とゆめ」をカートで運び出して
いる。
「博士、パートタイムの時間終了です。夕食の買い物があるので帰りまーす。
他の御本は滅茶苦茶だけど、この雑誌は守りました。現物支給ってことで、頂
きますね♪」
「あああ、どこで計算が狂ったんだ〜!?」
mike子さん、タイムカードを押す。崩れかけた黒板の数式をふと見ると
「博士、今日も素敵でした。でも召喚の公式はやっぱりルートじゃなく足せば
よかったみたいなの。
それじゃっお先に失礼しまーす♪」
・・・・・ずっごーーん!
「そ、そこだったか〜…50×0=0×1…ガク。」
初夏も近づく爽風の中、ドタバタは幕を閉じたのであった。
・・・おしまい。
えー、今回は当HPの50,000キリ番リクエストにお応えして作成したものです。
もちろん実在の人物、地名、建物、漫画をモデルにしてはいますが大フィクションでし。
APRIさんmikenekoさん、失礼しました〜(^^;)。
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