ショート・ヒロイニック・ファンタジー

 ばーさーかー

ぷりんせす!

第六話 

<海から来た旅人 後編> 

絵・文 : J I N


 




 二言三言、言いたそうなミミとやる気まんまんのイーノ、トクに擦り寄るぬー

が暫定的仲間に加わった。テンジク傭兵団に変更である。

「穴掘りならイーノにおまかせ! 行くよー、掘ってぇ掘ってぇまた掘ってえ!」

大ぶりのスコップでがっつんがっつん地中を掘り進むイーノ。

「こいつの鼻は一度覚えた匂いは忘れねえ。きっとフレアお嬢ちゃんトコに連れて

ってくれるぜ。ただし後で腹減ったってうるっさいけどな」

傭兵団の三人にラッキー、マリア、ルーシーが続く。
 


「イーノちゃんって、ドワーフの子孫っていうより…」

「…わんちゃん、みたいですねぇ〜」

マリアとルーシーがささやきあう。

「ぼ、ボクも連れて行ってください!」

トクが懇願するも、ギャリソンが止める。

「まだ傷が癒えておりませんぞ。ここはあの者たちにお任せなさい。お父上も心配

しておるでしょう」

「・・・・」

ラッキーがトクの顔をつかみ、頬をひっぱり鼻を広げながら言う。

「いいかトク、ここはラッキー様に任せろ。姫もナミちゃんも連れ戻してみせる!

ついでに顔のいい男は嫌いだ!」

「? は、はい…お願いします!」

ツルハシと手ぬぐいが微妙に似合うラッキーが声を上げる。

「ようし行くぜ者ども、地底GO! GO! GO!!」

 


「…さん、フレアさん!」

闇の中、快活な声が聞こえる。

「う、うん。! あなた、ナミさん?」

「気が付いた? ここ、土の中の空洞みたい。さっきの骨の化け物たちの巣かな?

 少し暖かいから火山の近くかも。」

「火山? 我が国じゃない。ここはマルエッツの地下に入ってるんだわ!」

暗がりに目が慣れてきた。ナミは手足を縛られている。フロリーナは…

「? 動けない!」

体に布が巻き付けてある。

「気味の悪い鎧だからって、骨さんたちがロープ代わりに見えないように縛ったよ

うよ。あの、…ごめんなさい。勝手にラッキーさんや鎧を持ち出して」

姫はちょっと苦笑した。魔鎧は服や布地と一緒では怪力や特殊能力を発揮できな

い。依然危機的状況である。

しかし悪びれる様子もなく、むしろ期待感いっぱいの少女を見ると怒る気にもなれ

ない。現に今も布越しにセバスに触っては驚き、悪態をつく魔鎧に喜んでいる。

「仕方ないですわね。ところで、あなた、…女の子、ですわよね?」

 

 フロリーナとナミがいる場所は、祭壇らしい。周りに集会場、奥には火花がた

ち、溶岩らしい固まりや武器も見て取れる。

「溶鉱炉と、鍛冶場…兵器工場?」

さすがの姫も顔に緊張の色が走る。骸骨軍を指揮し、町を襲おうというのか。

「!? 彼らの狙いは、隣国マルエッツへの侵攻? たいへんですわ…」

「ひょほほほほ〜!」

奥ではしわがれた声がする。何匹ものスケルトン兵をひきつれ、現われたのは…

灰色のローブに身を包んだ魔導師。醜悪な面相に、二人のお供。

「いよいよマスター=ヘルの軍団が完成ぢゃ?!」

「おめでとうなのー」

「なのなのー」

フロリーナがヘルに気付いた。

「ああっ、あなた薬屋のお爺ちゃん! 何故ここに?」

「おう、元気のいいお嬢ちゃん? なぜここにいるんぢゃ? この前の薬は役だっ

たかの?」

とまどうフロリーナ。

「その、効果が強すぎて…ごめんなさい。わたくしには合いませんでした。」

「そうか。このへんは魔物だらけになるぞ。帰れ帰れ」

「あなたが誘拐したんでしょ!」

ナミが噛み付く。

「ん? んなことするか! また元気な娘ぢゃな。お前らなぞ知らん」

ヘルは立ち去った。

「フレアさん、おかしいよ。あのお爺さんが黒幕だって!」

「でも…」

イマイチにぶちんな姫とヘルであった。



 ヘルが玉座に座る。出迎えたスケルトンの3人…3匹か、が傅く。

「ケルケル、マスター、侵攻の準備は整いつつあります。」

2つの骸骨が左右で組み合わさった魔物が言う。

「うむ、よくやったアシュラ」

「マレッツの人間どもを狩りとってみせますケル」

自らのシャレコウベを抱えた魔物が言う。

「? なんぢゃブロッケン、わしが命じたのは人間を追い払って死者の国を作る

だけぢゃぞ」

「人間全滅を祈願して生贄の少女も用意しております。ケルル」

首から上が小人の上半身で出来た骸骨が笑う。

「ピグマン…お、お前ら、勝手にナニをしとるのぢゃ! あの娘達をさらったの

もお前らか。すぐ放してやらんか!」

アシュラ・ブロッケン・ピグマンは揃って答えた。

「我らはゴーゴン様の言うとおり魔物の国を作るだけケル。マスターはここで魔

法でご援助ください。ケルケルケル〜!」

「くうっ、おのれゴーゴン。わしをたばかったな! しかたがない。撤退ぢゃ、

エボニー、アイボリー」

「悔しいですなの〜」

だが、行く手を遮る魔物たち。

「我らスケルトン軍団を増産し昼間再生させるにはマスターの術が必要です。ここ

にいてもらいますケル」

「逃げれば命はないケル!」

乾いた笑い声をあげる骸骨兵たち。

(ぐうう。お前らなんぞいくらでも倒せるが…あの蛇女がやっかいぢゃ)

ヘルは凶悪な顔をさらに歪めるのであった。

 



「いやー決まったなあ。燃えるシチュエーションだよなー、捕らわれの姫を助けに

行く勇者! 可憐な美少女もいて、ああっ、感謝の気持ちがやがて愛に! どうし

ようオイラ? 体がふたつ欲しい〜〜らっき」

ドゴ!

マリアのスコップの一撃がラッキーの脳天を唐竹割りしたりする。

「いーから穴を掘れ!」

「ああ! 頭から二つに分かれそう…」

地下の通路。テンジク盗賊団は休む間もなく穴を掘る。

「あは、あははは」

土いじりをするのが楽しそうだ。イーノが土を掘り、ミミが特殊な金属の戦棒、

意棒で岩を粉砕し、ぬーがそれを念動力で固めて道を作る。トレジャーハントや盗

賊で培った技術なのだろう、よどみがない。マリア、ルーシーも土はこびを手伝う。

「くんくん、やや、獣の匂いと骨の匂いと女の子。少しジジイくさい。プリンひめ、

この先にいるよ!」

「姫さま、ナミさん、待っててねー!」

「姫さまぁ〜!」

 

 


「ナミ…くっ。ボクだって…」

トクは感極まった様子で町に向け駆けて行った。

「あ、もし。こちらに私の子供たちが」

入れ替わるように、一行を見送ったギャリソンに声をかける者が。貴族の衣装に整

えられた髭。端正な顔はトクとナミに似て。

「おお、あなたがトク殿とナミ様の」

「申し遅れました。D国宮廷絵師、ニルヴァーナと申します。今回はお世話になり

ました。」

「いえいえ、お嬢様はいまだ危険な状態なのです」

手短に説明するギャリソン。

「…そうでしたか。いえ、元を正せば二人の好奇心が招いたことです。親ばかな私

にも責任はありますが。それに、トクも皆さんを助けたいのでしょう。自分に出来

ることを探しに行ったようです」

ニルヴァーナの顔は穏やかだ。子供たちを心配すると同時に信頼する余裕もあるよ

うである。

「さようでございますか」

「失礼ながら、あなたは貴国の侍従長であったギャリソン殿では? それでは、お

嬢様というのは…まさか」

「流石は絵師殿ですな。鋭い観察眼、敬服いたします。む? 鐘の音が…」

カラーン、カラーン。

教会だろうか。正午は過ぎたというのに鐘の音が鳴り響く。大きく、一定のリズム

をもって。

 

 

「ナミさん、わたくしがついていますわ。必ず脱出してみせます。」

フロリーナが体を揺すり、布とそれを縛る縄をほどこうとするが歯がたたない。そ

うこうするうちに祭壇の周りにスケルトン兵が集まり、二人の頭上に大きな杯のよ

うな仕掛けが取り付けられた。

「溶鉱炉の一部がこちらに流れ込む仕組みですわね。人柱、みたいなものかしら?

炉にわたくしたちも流し込み、勝利を祈願する…」

「いけにえ、ですか?」

さすがにナミも緊張する。

「なんとか、なんとかしなくては。わたくしが…」

「でもまあ、トクもラッキーさんも無事みたいだし、なんとかなるんじゃないかな

あ?」

それでも太平楽なナミである。

「そんな、怖くありませんですの? 双子のテレパシー、みたいなものがあるんで

すの?」

「ううん、そんなんじゃないよ。トクは心配症だけど、私より頑固なんだ、ホント

は。だからなんとかしようとするはず。双子とか関係なくて、いつも一緒にいて、

どういう行動するか知ってるし。信じてるならピンと来るもんじゃないかなー」

「…ふう。うふふ、そうですわね。わたくしも信頼している仲間たちがいます。き

っと何かしらの行動を起してますわ。信じて待ちましょう」

二人は顔を見合わせ笑った。だがしばらくして。

「ケルケル、仲がいいな」

異形のスケルトン三人が現れた。

「もうすぐ儀式だケル」

「ケルル、杯の準備を!」

今や実質的な軍団のボス、アシュラ、ブロッケン、ピグマンが雑兵に命じる。振り

仰げば頭上の大きな杯…容器が傾き、燃え上がる鉄鋼が見える。高温で空気が揺ら

ぎ、黒煙も沸き上がる。

「ゴーゴン様、そして暗黒の魔王カイムよ、いま生け贄を捧ケル!」

「いけない!」

骸骨兵が杯を傾ける。フロリーナは全力で体を起してナミをかばう。灼熱の凶器が

二人に降りかかろうとしていた!

 



ガボン!

「到着ー! ハア、おなかすいたぁ」

天井の岩盤が崩れ、ラッキーと盗賊団が顔を出し…勢い余って降って来る。

「姫、助けに参り…うぎゃあーあー助けてー!」

ぬーの念動力でソフトランディングする三人、悲鳴とともに敵にぶつかるラッキー。

お陰で杯の動きがゆっくりとなった。

「姫さまぁ、ご無事ですかぁ?」

天井近くの穴からルーシーの声が響く。

「召喚! 行っけーナベシマ!」

マリアが叫ぶ。宙に黒猫が出現した。すかさずナベシマを姫めがけて投げ付ける。

「んにゃー!」

鋭い爪でバリバリと姫に巻き付けられた布が切り裂かれる。魔鎧の本来のパワーが

戻ってきた。

「ありがとう、皆さん! はあっ!」

ぶちぶち、と縄を引きちぎるフロリーナ。

「フレアさん、何があったの?」

ナミが身を起した時にはもう、解け出した鉄の固まりが流れ出している。

「危ない!」

ドドドオォ!


姫は魔鎧の兜を閉じ、全身でナミの盾になった。

「きゃあーっ」

しゅう、しゅうと煙りがたつ。炎の光と黒煙でよく見えないが、姫が微動だにせず

立っているのが判る。ようやく姿が見えてきた。

そこには灼熱になった鉄も固まり、漆黒のコーティングがされたバーサーカープリ

ンセスがいた。



「あ、ああ大丈夫?」

「わたくしは平気ですわ。お怪我はなくて?」

「か、かっこいい! 素敵、ステキすてきー!」

瞳が完全☆マークだ。

「ぎひ、布じゃねえけど動きにくいぜ、姫さんよ」

コーティングされた胸からくぐもった声がする。

「かまいません、行きましてよ、セバスチャン。信頼の絆と正義はここにあり。い

ざそれを実行いたしましょう!」

地下帝国を埋め尽くす骸骨兵を睨みつける。圧倒的な数、武装された兵士。フロリ

ーナは、一歩も譲らない!

「数を頼み破壊のみを願う浅学の魔よ、覚悟せよ! バーサーカープリンセスが此

処より深き場所へ導かん!」

 ナミの瞳にマゼラン星雲が見える。

「嗚呼、まるで神話の世界のよう…。」

大斧が巻き付けられた魔法機でマリア、ルーシーも到着する。

「姫さま、これを!」

大斧を受け取った黒き狂戦姫が叫ぶ。

「魔物たちはこの真上、マルエッツの侵略が狙いです。急いで止めなくては。ルー

シー、ナミさんをお願い。」

「へ? ここ、隣国の敷地なんスか? なら早いとこ逃げ出しましょうよ、姫。」

遅れて祭壇に集まったラッキー、三人組。

「いいえ、人の命に国境などありません。わたくしはマルエッツの人達もお救いし

たいの。」

珍しくラッキーが反論する。

「だってさー、アレでしょ? 姫のことを信じないで鎖国した国なんですよ。助け

たって何の得になるんだ。」

姫の顔も曇る。

「姫、せちがらい世の中なんだ。信じ過ぎるのもナニですよ。オイラなんか今週だ

けで三回スリにあって四回スリ返しましたよ」

ズン! 壁にめり込むラッキー。

「一回増えてますわ」

「あーだーだー! だいたい姫をふった奴なんか、いっそ痛い目にあったほうがラ

ッキー…」

ぱん。

軽い平手打ちがとぶ。

「て! …姫?」

「それとこれは別。信じて傷つくほうが裏切るよりましです。わたくしだって、正

直悔しいと思ったこともありますわ。でも人を貶める心を持つこと、それこそが恥

ずかしいことなの。」

兜をあげて見えるのは、澄んだ青い瞳に泣き笑いの表情だ。

「でも、わたくしのために憤ってくれた、あなたの気持ちは嬉しく思いますわ…」

そのままスケルトンの群れに突進していった。

ラッキーは頬をなでる。いつもならどつかれてもすぐ回復するのに、痛みが消えな

い。

「…ちぇ、涙が出るほど甘ちゃんだ。でもそこがいいんだよなぁ。オイラが助けて

やんないと、やっぱ。」

彼もまた飛び出していった。そんな一行を見て。

「な、アタイたちも、姫に貸しを作っておこうか?」

ミミが仲間に問いかける。

「助けたいんでしょ? わかってるって。」

赤毛の傭兵は照れくさそうに笑い、ぬーとイーノも笑った。

 

「やあっ!」

バキャキャキャ! 姫の大斧を振り回し骸骨兵を粉砕する。鎧に付いた鉄のせい

で体は重く、能力も全開ではない。セバスもまだ炎が吐けない。

「ケルケル…むだだ」

そのうち衝撃を受けても関節が外れた程度の兵はすぐ再生し挑みかかってくる。

「くっ、少々やっかいですわ…」

苦戦の狂戦姫。だが、今回は援軍がいる。

「ふん、魔物のくせに鎧に鞘付の剣かよ。そーこーが、狙い目だぜ!」

ほっかむりをしたラッキーは素早く軍団の裏側に回り、こそこそと隙間をぬってい

く。

「ケル?」

「うわ、鎧が外れたケル!」

「鞘ごと剣が落ちたケルー!」

後方支援のスケルトンたちが騒ぎ出した。こけたり、隣の兵士の鎧と紐が繋がって

いたりと、大騒ぎである。

「うぎゃーーっ!」

中盤の兵士がいきなり陥没した地底に飲み込まれた。己の能力ではない。落とし穴

をイーノが掘ったのだ。

「でや!」

ミミの武器、如意棒。ブーツに挟んだ二つ折りのダブルヌンチャクは丈を延ばし、

組み合わせることで三節棍となる。それを一直線にして棒術を使い突き、叩き、転

がす。変幻自在の武器だ。次々と倒れる兵士。

「あんたたち、肉さえついてりゃイイ男だけ見逃したのにサ」

ぬーが面倒くさげに右手を突き出す。彼女の念動力は兵士を吊り上げ、大地に叩き

付け、破壊する。

「ケルケル〜!」

あっという間に大半の雑兵が片付いた。

(ラッキー、皆さん…)

少し涙がにじんでも、兜の中で拭けない、嬉しくも歯がゆい姫であった。

 

 実際、姫の見ていない所では。

「やっほー、お宝お宝。新品なら高く売れるぜ〜」

骸骨兵の残した剣、盾、兜を拾っては喜ぶミミたち。ラッキーは久々の参戦に心臓

が飛び出しそうだ。

「はぁ、おっかなかったよーう!」

ビッグマウスはグラスハートでもあった。

 


 敗色が濃くなり狼狽する骸骨軍。ヘルの魔法援助も届かない。マリアが来た事で

アンチマジックが発動、相殺しているのだ。

「どうやら敵の侵入か。外の奴らにも少しは骨のあるやつらがいるようぢゃの。

ひょほほ」

奥の部屋に軟禁されていた灰色のネクロマンサーがほくそ笑む。この騒ぎに乗じて

逃げ出す魂胆だ。いきなりの行動を止めようとする監視兵。

「ケルケル、動くな! 爺の魔法は呪術と死霊の召喚だケル。我らにはあまり効き

目がないはずとのこと」

「子連れだから人質をとるケルー」

「ふん、ゴーゴンの入れ知恵か。雑魚が小賢しくなりおって。この天才が助手とは

いえ足手まといを連れ回すと思うか!」

双子の助手に目配せをする。エボニーとアイボリーは両手を組み合い、そのまま片

方を前に突き出す。青白い光が発生した。

ぴり、ぴり、バシュッ!


「ぎゃっ! ケルケルルー…」

凄まじい放電が魔物を襲う。当の二人は

ブラック&ホワイトサンダーとか二人はナ

ノナノとかぶっちゃけありえなーい、とか

歌い、踊っている。かなりスローテンポ

で。

「死体を強化改造した人造人間ぢゃ。この

子たちには魔法も物理攻撃もアンチマジ

ックも効かんわい。ひょほほっほ」

粉々になったスケルトンたちを無表情に見つめる人造人間たち。

「やっつけましたなの」「なの」

「ご苦労。黒い牙も潮時ぢゃな。地道に死体研究をするしかないかのう。」

姫のことなどすっかり忘れ、悠々と退散するマスター=ヘルであった。
 



「なにい? ヘルたちが逃げたケル?」

アシュラ、ブロッケン、ピグマンの骸骨三将軍は動揺する。もう回復の呪文も仲間

の復活もない。

「ケルル、しかたがない、合体だ!」

号令にあわせ、ぞろぞろと残存兵が集結する。

「残りの魔力を集めよ、我らは禁忌を犯し、再生するケル〜!」

炉に飛び込む3将とその他の雑兵。すると、暗いオーラが立ち込め、炉を突き破り

鋼鉄の巨躯が現れた。

「な、なにごとですの!?」

空洞に頭が使えるほどの合成巨大スケルトンが現れた。両手に大鎌を持っている。

大量の魔力を固定の者が持つことは禁止されているこの世界。そのタブーを破った

のだ。無論、天界の者が発見すれば裁かれ、魔界の者にもペナルティがかけられる。

もとが雑魚の魔族、彼らも破れかぶれになったのだ。

「ケ〜ル〜ルゥ……」

巨大スケルトンの激しい攻撃が開始された。

ぶん! 大鎌の攻撃を斧で受ける姫。反対方向からの追撃をよけきれない。

「ああっ!」

姫が吹き飛び、ミミたちやラッキーも足止めが精一杯である。またも絶体絶命!

「姫さまー!」

マリアとルーシーが叫ぶ。 その時!

ゴゴゴ
…天からの地鳴り。

ドカアッ!

7〜8メートルはあろうか、巨大な怪物が降ってきた。岩のような表皮、蛇のように

手足のない体躯がのたうつ。鋭くとがった鼻先にも顔はない。桐状の顔は中央から

裂け、鱗のような細かい牙と触手が蠢くのが見てとれた。

「キシャアアァ」

醜怪な怪物、だがナミは嬉しそうに叫んだ。

「ドグちゃーん!」

そして、怪物につかまり、やって来たのはトクであった。

「ごめん、遅くなって。でもナミ、後でお説教だ! それに、土愚竜(ドグラ)をそ

う呼ぶなって。ボクの名前みたいだろ」

あはは、と笑うナミ。

「い、いったいこの怪物は?」

フロリーナの問いに土埃まみれの美少年が答える。

「この生き物はわが国の砂漠に生息する地底生物なんです。前の大戦の時、A国の

天才科学者が音による調教に成功したと聞いて、いろいろ勉強しているうち、飼い

ならすことが出来るようになっちゃったんですよ。なんだか人懐っこい奴で、どこ

でも付いてきたんだけど、ウォルマーの教会で試してみたら…まさか海を越えてま

で来てたなんて…」

「おかげで助かりましたわ。妹思いで、勇気があって、研究が好きで。素敵なお兄

様ね、ナミさん」

誇らしげに頷くナミ。

「あ、あのフレア様、ボク、さっきは助けられないで、ごめんなさい」

「いいですのよ、そんなこと。トクさんもお怪我がなくてなによりでしたわ。」

改めて漆黒のセバスを見るトク。先刻の件を思い出したらしく、

「これが魔鎧なんですね。凄い迫力だ。…その、慌ててこの鎧を着けなかったこと

は、みんなには言ってません。な、内緒にしておきます。」

真っ赤になる。完全に勘違いをしているが、もはや訂正する気にはならなかった。

「そ、そうね、ほ、ほほほ…」




「ケルゥ…ルルル…」

「キシャアァッ」

傍若無人に暴れまくる土愚竜(ドグラ)に巨大スケルトンも手を焼いている。形勢は

再度逆転した。

「行くよ、ナミ!」

「うん!」

ナミに小型のハープを渡し奏でさせ、トクが笛を吹く。すると、怪物の動きが変わ

った。

「フレアさん、土愚竜に乗れば、馬と同じように動いてくれます!」

「頑張って、フレア様、ドグちゃん!」

姫は跳躍し、怪物の背にまたがった。

「ありがとう。やあっ!」

ドドドドォ!

骸骨兵を踏み潰し、斧の柄を長く持ち斬り倒す姫。さながら伝説のドラゴンライ

ダーのように。

「ああ、す・て・き!」

ナミの瞳はすでに銀河系モードである。

ガガッ、ガイーン!

大鎌の攻撃をかわし、巨人の足元を擦り抜け、すねや膝に斧のざん撃が打ち込まれ

る!

「グエッッ」

たまらず膝をつく魔物。イーノの掘った穴とぬーの金縛りで完全に自由が奪われた。

激しい攻防に、狂戦姫の腕や脚の付け根から鉄のメッキが剥がれてきた。魔鎧の胸

にひびが入り、どら猫のような声が聞こえる。

「そろそろいいぜー。まわりの鉄の熱も瘴気も吸収したし、体も軽くなった。メガ

トン級の吐息が出せるぜ。ぎゃははははァ!」

「ええ! 行きましてよ、セばスチャン!」

怪物の体当たりで巨大骸骨が吹っ飛ぶ。手にした鎌が頭部の両側に突き刺さった。

「ぎゃああああぁ!」

勝機! 土愚竜の頭部に乗り、狂戦姫は雄々しく腕をあげ、胸を反らせる。

「やったれ! 姫!」

「お嬢ちゃん、ぶっ飛ばせ!」

ラッキーとミミも肩を並べて叫ぶ。セバスちゃんの胸部の鉄が赤く溶け出した。

「正義の鉄槌をいま、下す! 吹けよ聖なる息吹! うおおお、ブレス・ファイ

ヤー!」

グオッ!!

最大級の炎が頭に鎌を刺した巨大髑髏を襲う!

ぐおぉおおおおおおお!


「ぎええええエエ…ケルルルルゥ…」

鋼と化したスケルトンの体もドロドロに熔け出した。
          
くろがね
「正しい心が結ぶ絆、鉄の城を落とせると思って? おほほほほほ!」

ズ…ン…。大音響とともに崩れ落ちる巨体。

「ひゃっほい!」

ラッキーが歓声をあげる。ミミたちも、トクとナミも。土の獣も咆哮した。

最後に、マリアとルーシーが。

「さ、シーツと聖水、持ってかなきゃ。今頃、鉄のカバーは熔けてるよ」

「姫さま、泣いちゃいますもんね〜」

ほほ笑み合い、準備を始めた。

 
 

 戦いすんで。

地中空洞を支えていた支柱と屋根の岩盤を炎で破壊し、土愚竜に引きずられて地上

に出た一行。通路の奥と、遠い隣国の方向から地響きが聞こえた。地下帝国は崩壊

したようだった。

「ドクター=へヴン…あのお爺ちゃんが、本当に敵なのかしら?」

シーツを巻きつけ直し、遠い隣国の空を見上げる。最後まで見つからなかった老人

を思う姫であった。

 




「お世話になりました」

頭を下げるトクたち家族をウォルマーの波止場で見送る姫たち。

「こんなことがあったけど、どうか我が国を嫌いにならないで下さいませね。必ず、

再興してみせますから。わたくしが…いいえ、わたくしたち全員で。」

「私たちは平気。すっごいドキドキして、楽しかった! ありがとうございまし

た!」

ナミは葡萄色の瞳をくりくりと動かし姫に抱きついた。

「それでは参りますぞ。」

ギャリソンが促す。

「ええ。」

トクたちと少し離れて。

「姫」

ギャリソンが穏やかな口調で言う。

「今は相容れませんが、マルエッツの国には彼らなりの正義があるのでしょう。遠

い海の向こうの旅人とも心を通わせる姫のこと、神は見ております。きっとまたお

会いできる日も来ますとも。」

フロリーナは微笑んだ。

「…そうですわね。胸を張って歩かなくては! 天が課した使命がある限り!」

 

 遠く手を振るフロリーナ一行。その中にラッキーがいない。ミミたちが武器を背

負って退散する際、勝負で服を脱がしたことが姫の耳に入ったのだ。即、お仕置き

タイムである。

「あー、いででで…ま、待ってくれよう、姫〜」

ようやく復活したラッキーが姫たちを追う…前に、ナミのもとに立ち寄った。

「ほんじゃ、また。トクも元気でな」

頬をむに、とつかむ。トクもラッキーの無精ひげを引っ張る。

「ええ、ラッキーさんも、フレア様をお願いします」

にか、と笑いあう二人。ナミも近寄ってきた。

「ラッキーさん、ありがとう。カッコよかったよ。フレア様…勇者バーサーカー・

プリンセス様はもっと素敵だったけどね!」

ナミの言葉に、

「むう、遅かったか。フレアお嬢様、まんまと盗んで行きおった」

「え? あのかたは何も。私たちを助けて下さっただけですよ。」

「いえ、たしかに盗みました。あなたの心、で…んギャ!」

ゴン!

大マジで言うラッキーに、どこからか鉄兜が飛んで来た。

「あたた。ホントはオイラが盗むはずだったのにい」

遠くからマリアの怒声。

「バカ言ってないで早く来ーい、カバン持ち!」

「へーい」

二人は笑って見送った。父のニルヴァーナがやって来て二人の肩を抱く。

「なんと気持ちのいい連中だろう」

「うん、フレア様、皆さん、きっとまた会えるわ! …父様、私、あのかたたち

のお話を書きたい。叙事詩を、英雄憚を。おばあちゃまみたいに…」

夢見るようにつぶやくナミ。

「ボクも、あのかたを元にした交響曲を作りたいな」

頬を染めてつぶやくトク。

「そうか、ふふふ。ならば私も、気高く美しく勇敢な姫の肖像画を描こう。精魂

をこめて。」

「まあ、父様、素敵! 大好き!」

海の香りと陽光が家族を祝福するように包んでいった。

 


 これは後日談になる。

宮廷絵師ニルヴァーナとその才能を受け継ぐ子供たちの作品はD国中の評判とな

った。それは宮中でオペラとなり、民間でも舞台劇として広まった。さらに大陸

中で知られるようになった謎の英雄のサーガは国を捨てた者を恥じ入らせ、義勇

に燃える者たちを目覚めさせることとなるのであった…。

・・・おしまい。 


あとがき

お読み頂きありがとうございました。…フロリーナの王国、仮に白鷹の国としておきますが、
絶対悪であり強大なパワーの魔物が出現した時、別大陸のD国とA国で魔のパワーが氾濫する
事件(戦争)が起きています。併せて別次元では当時の魔王カイムと天界のハルマゲドン…そ
れを繋ぐ何かが白鷹の国であったのでしょう。結果一極集中的にファンタジーな舞台が出来
上がります。
現在、D国A国とも当時の戦争の英雄の子孫がおり、何らかの活躍をしています。先の密偵
ジャム、今回のナミ&トクやニルヴァーナもそんな人達の一端とお考え下さい。
 


              小説indexへ 「ばーさーかー・ぷりんせす!」INDEXへ 次回予告へ 

●top ●index ●novels ●gallery1 ●gallery2 ●notes ●otehrs ●link ●BBS