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5
25〜26人はいるだろうか。霧からぬっと現れる異形たち。
いかつい体格に灰緑の体色、悪鬼の形相。まだまだ隠れている
やもしれぬ。
「ご〜ぶごぶ、今夜は鎧の女一人だゴブ。」
ゴブリンの群れが声をあげた。
「さっきもう一人、森にいたガキも連れてきたゴブ」
「"あいつ"、最近エサをあまり差し出さないゴブ」
「構わないから門を破って、たっぷり喰おうゴブ〜!」
どこかに少女が捕らえられているらしい。それでなくとも動く
のも精一杯の状態で、フロリーナは闘っていた。短剣も防戦に
使える程度。
ガス!
石斧が鎧をかすめる。すぐに門まで追い詰められた。
外敵を防ぐ分厚い門だが、耳を近づければ中の声が聞こえる。
「そこをどきたまえ」
涼やかな声。
「へ、へへ。姫…フレアお嬢様は、ひとりで戦うってよぉ」
息切れした素っ頓狂な声。
(セフィロス様? ラッキー?)
「いいか、僕はフレアさんを助けようというんだ。なぜお前みたいなクズが
それを邪魔するのさ?」
冷たい言葉の合間に、風ともののぶつかる音。
「うぎゃ! ずっげぇ、痛ぐねえっ!!」
(ラッキー、あなた私の姿を見させないため? !私の誇りを、守るため…?)
「しぶといゴミ虫だな。僕は邪魔をされるのが一番嫌いなんだよ!」
「へ、へへ、ちっちゃい虫にもちっちゃい魂、ってな。東方のえらい先生が
言ってた、ってギャリソンが言ってたぜ。うぎゃ!」
鋭い風が切り裂く音。青の魔導師が得意とするのは風と木を使った魔法と聞く。
「・・・・」
マントを、震える手で掴む。姫は澄んだ青い眼を正面のゴブリン軍団に向けた。
「…わかっています。ゴブリンは倒しますわ。わたくしの使命ですもの。正義
のため、…ラッキーの忠義に報いるため!」
フロリーナは外套をばっ、と脱ぎ捨てた。
ゆっくりと大斧を手に取り、掌でブンっと回転させる。そうして、華麗に死の
ダンスを舞い始めた。
「ぎゃははは、そうこなくっちゃなあ姫さん。」
やっと魔鎧も声をあげた。
<BGM:「カルメン」>
6
ズバザバザバズバぁっ
「ゴブ」「ゴブっ」「ゴブ〜っ」
ゴブリンをなぎ倒して行くフロリーナ。
「きりがないわね・・・よろしいかしら、火の鳥の舞。」
「ぎひひ、一体になってるなら言葉はいらねえだろ? それともマリアが名
付けた、セバスちゃんって呼んでくれるかい?」
「ものに名前など! ・・ふん、行きましてよ、セバスチャン。」
「あいよ♪」
甲冑が一瞬緩んだかと思うと、姫の豊かな金髪が中に収められた。継ぎ目の
部分も鎖帷子(かたびら)で覆われ、目の部分さえ閉じられる。魔鎧の胸元
の口がぱっくりと開き、澱んだ何かが出てきた。
『う ぅお おおおおーっ!』
短剣を甲冑でこすり、火花が散ったかと思うと、姫の体は炎に包まれた。
そのままゴブリンの群れに突入する。
ごっ!
群れの中心で爆発が起こった。魔族の残党は文字どおり、四散した。
7
「姫さま〜、いました〜」
マリアとルーシーがまだあどけない少女を連れてきた。
そして。
「いやあ、残念だなあ。僕もゴブリン退治のお手伝い、したかったのになあ」
ラッキーを振り切り、セフィロスも現れた。
「! セ、フィロス…」
「あ、ありがとうお姉ちゃん。助かり、ま…」
魔導師と少女、二人が並ぶ。礼は述べながらも、その対応は違った。もじもじ
とし、フロリーを眺めている少女。

「お、お願い、見ないで・・・」
フロリーナは後ろを向き、震えていた。
セフィロスが諌める。
「こら、そんなに不躾に眺めるものじゃない」
「だって、お姉ちゃんのかっこ、へんなんだもん」
「そりゃあ、怖い鎧を着てるからだよ。何が変なものか、悪い子だ!」
フロリーナの顔が強ばる。
「・・・・・」
セフィロスが少女を殴りつけようとした、その時。
ドガス!
「へげべし!」
魔導師は大斧の柄で殴られ、軽く5メートルほど吹ッとんだ。
「あ〜、やっちゃった」
「なにするんだ、姫!」
遅れて現れたラッキーが驚いて叫ぶ。いくら酷い扱いを受けても、彼は町の
保護者であり、英雄である。だが姫は
「やはり…。私の本当の姿が見えないそこの下種が、何をしていたかくらい
見当がつきましてよ。わたくしの下僕や、ましてや弱きものに手をかけるな
ど、もってのほかですわ!」
冷たく言い放った。
−伝説の魔鎧は心の清き者には見えない呪いがかけられている。そのため
清らかな心、純粋な瞳の前ではフロリーナは「裸の王女」となってしまうの
だ。−
「ぐ…僕の、顔を」
よろよろと魔導師は顔を押さえ立ち上がる。勢いで破れた上着から細い腕が
見えている。そこには…黒い牙のタトゥーが彫られていた。
マリアが気づく。
「これ、この前のオークと一緒にいた魔法使いも同じのが描いてあったよ!
悪い魔法使いの仲間だ!」
「まさか・・・」
8
「そのようですな。」
ギャリソンが門を開け現れた。
「ギャリソン、どこ行ってらしたの?」
「少し町で調べ物を。こやつ、人のいい振りをして孤児を集め、それをあの
ゴブリン共に差し出していたようです。失礼して魔導師の塔にも入りました。」
ギャリソンが証文を持ってきた。
「それじゃあ〜、いつも犠牲者が減らなかったのはぁ…」
「この男が守り切れなかった、じゃなくって、逆に差し出してた。ガビーン!」
ルーシーとマリアは顔を見合わせる。
「どうやら悪辣な魔導師たちが、程度の低い魔族を使って延命と搾取をしてい
るようですな」
ラッキーが青ざめる。
「そ、それじゃあ、こいつぁ実はトンでもない悪党、ってことか?」
皆、深刻な顔で頷く。気丈にしている姫も、実は一番傷ついていることだろう。
「ひでぇ!」
ラッキーは泣きながら叫んだ。
「オイラが姫の裸を見せねえようにがんばったのに、その必要がなかったなん
て〜!」
・・・
はろほろひれはれである。
「くくく、ばれてしまっては仕方がない。いいかいお嬢さん、世の中持ちつ
持たれつなんだ。ゴブリンにも分け前さえ与えれば結構言うことを聞くもん
なんだよ。それに僕みたいに才能がある者がいい思いをする、当然じゃあな
いか?」
ギリギリと歯を食いしばるフロリーナ。
「わたくしが愚かでした。こんな、こんな最低の男をお慕いしていた殿方と
重ねていたなんて!」
「何とでも言え。ここで君達は死ぬんだ」
魔導師の周りを風が吹く。
「じゃじゃーん、ここはマリアちゃんの出番でーす!」
魔法をかけるセフィロス。強風を起こし、木々を竜のように動かす。
「皆、吹き飛べ、切り裂け、蔓に巻かれのたうつがいい!」
マリアが叫ぶ。
「召喚!」
ぽんっと、呼応するように黒猫のナベシマが現れた。
「ん、にゃあ」
すると。
風はマリアたちの直前でそよ風に変わった。太い幹で出来た竜も、ひょろ
ひょろの小枝細工に変わってしまった。
黒猫はにゃあ、と鳴いて木の枝にじゃれついた。
魔導師の起こした暴風やかまいたちも、マリアのスカート
を揺らすだけである。
「いやーん、えっちぃ」
どうでもいいようなカボチャぱんつがチラっと見えて風は
収まった。
「あれはカミカゼノジュツといって、東方の絵師フジヒー
コ=ホソノが…」
どこかを向きながらラッキーが怪しげなウンチクをたれる。
ぐしゃ、とラッキーの顔がジューシイな音を立てた。フロ
リーナは手の甲に着いた血を払って、青の魔導師に詰め寄
った。
「な、なぜだぁ〜!」
マリアの十八番、アンチマジック・・・強制キャンセル技である。彼女の魔
力は小さなものだが、何故か相手の魔力も同等に下げてしまうのだ。ガチンコ
のKー1ルールはお遊戯へと変わった。
「ひいいいい〜〜っ」
身も蓋も無く逃げだすセフィロス。が、何者かが足をつかみ、盛大に転倒した。
生き残ったゴブリンである。交渉の相手だった魔導師の顔は覚えていたらしい。
「お覚悟なさい。わたくし、残酷でしてよ」
姫は優雅にほほ笑み、そして、
「ほ、ほほ、ほほほほほ!」
バーサーカーモード…美しき狂戦姫へと変わった。
9
少女は不思議そうな顔をしていたが、セフィロスの言動から善悪を見極めた
らしく、納得して帰って行った。
「お姉ちゃん、ばいばい。お洋服を着てなかったの、内緒にしとくね」
引きつった笑みでフロリーナは見送った。
ようやく生きている「らしい」もと魔導師の固まりを、ドレス姿に戻った姫は証
文とともに町の警備隊に引き渡した。
「貴方がたも人を守る覚悟はもう一度されたほうがよいですわね。人の罪は人に
裁いていただきましょう。ただし、ゴブリンより重い罰を!」
10
町を出ると霧はすっかり晴れていた。いつものように歩み出す一行。
「ここも霧の町ベイシァ、と呼ばれることはなくなるでしょうな。」
「彼らが真剣に自治を考えてくれれば…」
「あの魔導師が作ったとは言え、霧が良いことも悪いこともうやむやに
してしまったのは確かですな。あの娘さんと、民の誠意を信じましょう」
「おてんとう様が見てたら、そう悪いことも出来ないってねー。きゃはは!」
「すべては〜、神の御心のままに〜」

ぜぇぜぇ、と毎度のようにセバスちゃん入りのカバンを担ぎ、後から来る
ラッキー。
と、姫は立ち止まり、ラッキーを振り返った。しずしずと近寄り、
「今回は…助かりましたわ。あ、あ、ありがとうラッキー」
頬を染め、ぎごちなく言う。
「! ひ、姫…お、オイラの名を…か、感激っす〜!」
感涙するラッキー。
「いつまでもわたくしのために、働いてくださいな」
忠誠のキスを許すべく手を差し出す。
「正直、わたくし貴方のこと、誤解…」
べろ。
「んも?」
べろべろ、べろ。出された手をラッキーは「舐めて」いた。
「ひっ、ひいいいいいいいいぃ〜っ!」
フロリーナは総毛立ってラッキーを振り回した。カバンを開け、そして素手
では持てないはずの大斧を…
ぐぉば!
*
*
*
「おいたが過ぎましたな、お二人とも。」
フロリーナは答えない。私は悪くないもん、と顔に書いてある。
「姫さま〜、ラッキー、首のところの骨と太い血管がめちゃめちゃです〜」
「でも、すごく嬉しそう。きもいーっ!」
治癒の白魔法と、手当てを楽しそうにするルーシーとマリアであった。
・・・おしまい。
なんとか終わりました、ばさぷり2。続いてはオマケの出演者による
フリートークです。
「おいっす! マリアだよっ、全員集合ー!!」
「皆さんお疲れ様でした〜。次回の『ばさぷり』は〜?」
「いや、どうもしばらく休みらしいぜ。作者、体力不足の知識不足、
要するにネタ切れ。ちょいとお休みだと。お休みできてらっきぃー♪」
「…あなた、生きていらしたの?」
「えーそりゃもー。眠ってるとき死んだ婆ちゃんに会えてラッキーでした」
「……。」
「姫、東方の漁港にマーフォークが出たらしいですぞ。」
「西の湿地にゾンビが蔓延ってるらしいぜぇ、ぎひゃひゃひゃ」
「んにゃあ。」
「………うわーん!」
という訳で(^^;)。次は未定ですが、またお付き合い下さいまし。
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