ショート・ヒロイニック・ファンタジー

 ばーさーかー・

ぷりんせす!

番 外 編 

バーサーカーP対足代くん        
<狂戦姫vs高校生 後編> 

絵・文 : J I N


 

6

「なんですって! すぐ行かなくては。あ、どうしましょう、鎧を脱がなくては。

でもそれでは間に合わないかも…あ、あ、あ」

ぷしゅー

と湯気が上がり、最強の狂戦姫は機能停止した。


魔鎧セバスちゃんは悪人にはその恐ろしい姿を見

せ、善人には影すら見えない。

言い伝えでは魔界の勇士がこれを使い、それを外

しても天使に発見されないよう魔法をかけた、と

も言われる。真相は不明だが、この意思持つ鎧は

高貴なる魂を持つ者が好みであることは間違いな

い。それゆえ心正しき姫が着用するとき、彼女は

よい子のみんなにはスッポンポンに映ってしまう

のだった。

自尊心と正義の心の葛藤にオーバーヒートを起こし、硬直した姫に。

「だーっ、めんどくせえ! やいデコっぱち、後で運賃払えよ、足代様の超特急

だーっ!」

いらいらしていた足代はひょいとフロリーナを抱えると、猛然と走りだした。墓場が

どこか、わかっているのだろうか。その走りに澱みはない。魔鎧は彼女が装着するこ

とで軽減するとはいえ、かなりの重さであるが。

「ちょ! 降ろしなさい、野蛮人!」

暴れる姫に、

「あんたガキにはその鎧を着て会いたくねえんだろ? 俺がなんとかしてやるよ。決

着はその後だ」

「…礼は言いませんことよ。」

「上等。」

町を抜ける間際、民家の取り込み忘れた洗濯物のシーツを強引にむしり取り、姫ごと

体に巻きつける。

「くっ」

一瞬鎧の重みがぐんと増したが、その足は止まらなかった。

(…殿方に抱っこされるなんて、父上と、ギャリソンだけだったのに…)

とくん

(え? わ、わたくし今なにを…? こ、こんな悪党に。セバスチャンを長く着てし

まったせいかしら…)

遅れて二人を追うギャリソン、マリア、ルーシー。

「うーん、ツンデレ反対〜…」

三人に引きずられているラッキーが、うなされながら寝言をもらす。

「なに言ってるんでしょ〜?」

「ツンデレ気候…ツンデレーのリスト…ツンデレラ姫…」

「さっぱり判りませんな」

 先んじた二人に、はたして霧にむせる墓場が見えて来た。少年が見える。そして

もう一人。アレンによく似た顔の大人。身なりはさほど汚れてはいないが、目に生

きる証しの光がない。抱き締める少年を、ゆっくり、咬み砕こうとしている。

「危ねえ!」

足代が叫んだ。姫を降ろし、再び駆け出す。死者と生者、親子の絆を救うべく。



 
暗がりの中、怪しげな呪文と舞を踊る影。

「ひょほほほ、今夜は生きのいいゾンビが出来そうぢゃわい」

カラスのようなしゃがれ声が祭壇に響く。立ち込める香、奇怪な装飾。

「マスター、その地区のお墓の死体はもう全部ゾンビ化しちゃったみたいなの。」

「みたいなのー。」

マスターと呼ばれた老人は狂乱のダンスを止める。

「む、そうぢゃったな。されば死霊を呼び出す番ぢゃ」

灰色のガウンを着なおし、今度は魔杖を片手に厳かに呪文を唱えだす。

「ねえ、マスター=ヘル、貴方は呪術師なの?」

「ネクロマンサー(死霊使い)なの?」

白と黒の衣装の少女二人に、

「さあな、わしにもよくらからんのぢゃ。もう150年はやっとるからのう」

醜悪な老人はひょほ、と笑った。

「早く魔力を献上しないと、ゴー…あのかたがお怒りになりますよ」

「ふん、わかっとるわ。あんなぽっと出の女に牛耳られるようになるとは、黒

い牙も潮時かのう」


ぶつぶつ言いながら黒い水晶を眺める老人。

「それより、面白いものを見つけたわい。生涯の

ライバル、賢者プロメテウス

の魔道具ぢゃ。西方におびき出した死霊どもを使

って見つけ出すのぢゃ! 行くぞ、エボニー、ア

イボリー!」

「マスター、
西は反対なのー

8

 事件の張本人である黒い牙のメンバー、マスター=ヘルとその部下エボニー&

アイボリーがまだ隠れ家でウロウロしているころ。

「危ねえ!」

足代がスライディングを仕掛ける。間一髪、ゾンビ化した父親からアレン少年は

救い出された。

「あ…」

あどけない顔の少年は、激しく抵抗し、父の元に戻ろうとする。

「いやだ! お兄ちゃんたち、父ちゃんをやっつけに来たんだろ! 広場で聞い

たんだ。ゾンビを退治する人たちを町長が雇ったって」

シーツを鎧の上から巻きつけ、体を引きずるようにフロリーナが到着する。

「ぼうや、聞いて。もうお父さんはいないの。あれは…」

「違わい! 僕、何日も父ちゃんの声が聞こえたんだ。父ちゃん、狩りの途中で、

崖から落ちたって…でも死んじゃなかったんだ。僕のところに帰ってきてくれた

んだ!」

「ち、ちが…」

泣きながら抗議するアレンにフロリーナの言葉は届かない。

「あ”あ”あ”〜〜」

獲物を横取りされたゾンビは本能のまま怒り、ゆうらりと近寄ってくる。首に

は大きな裂傷…落下した時の致命傷だろう…が生々しい。

ごり。太い指がアレンを掴む。

「よく見ろ。あの目はお前の知ってる父ちゃんの目か?」

足代が無理矢理少年の顔を父親だったものに向ける。

「父ちゃんにお前の声は届いたか? 父ちゃんは、お前を食いたいと思ってい

たか?」

アレンは震えている。

「そ、そん…そんなこと、父ちゃんはしない…」

足代はがっしりと、アレンを抱きしめた。



「俺な、ちょいとだけ変わっててさ、死んだやつやこの世のものじゃねえモノも

見えるんだ。この世界じゃそれが強くなっててな、声も聞こえる」

「え、じゃ…」

「ああ、お前の父ちゃんの声が聞こえた。墓場で息子が自分の抜け殻に殺される、

助けてやってくれってよ」

「!」

「お前の父ちゃん、自分が死んで、お前がいつまでもメソメソしてるから心配で

天国へ行けねえんだ。このままこの世に留まっちゃあ悪霊になっちまう、てのに」

少年は震えた。熱い涙が抱えた足代の手に降りかかる。

「僕の、僕のせいで父ちゃんが天国へ行けない…」

「いいか、今目の前にいるのはお前の大事な父ちゃんを侮辱しているやつだ。大

事な親子の絆を食いちぎろうとしている、ひっでえヤツだ!」

少年が顔を上げる。目には燃えるものがあった。フロリーナは二人を眩しそうに

見る。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ゾンビを…ゾンビをやっつけて。父ちゃんを助け

て!」

フロリーナがシーツを投げ捨てる。

「ここからは見なくていい。よく頑張った、アレン」

少年の目を異邦人はそっと隠す。

ごお!

セバスチャンの炎がゾンビを包む。どさりとくず折れ、死者はあるべき静かな死

を取り戻した。

「あ…と、父ちゃん!」

アレンは聞いた。父の別れを告げる声を。上る煙と星空は自分とそっくりの父親

の笑顔を象り、消えていった。



「あ”、あ”〜」「お”お”ぉ」

続々とゾンビが押し寄せる。地中からもなりたての死者が這い出してくる。生き

た餌を求めて。

「大群ですわね、アジロ様。」

言いつけ通り、シーツを頭から被ったアレンを背に回し二人は周りの絶体絶命の

状況を見渡した。上空には悪霊と化した死霊が半実体化している。

「どおって事ねえや、えーと」

「フロリーナとお呼びになって」

緊張と、少しはにかんだ声で。ちら、と足代を見ようとする。すると、

「ああああーっ! あかん!」 

いたのはラッキーだった。

「姫、そのテロンとした目、ぽっとした頬、そわそわした態度! 何度目ですか

っ!? なんでそんなに惚れっぽいんだ−−−−−−っっ!」

ドギャン!

JETの文字とともに必殺のアッパーカットがラッキーを宙に飛ばす。

「な! ラッキーでしたの? いきなり現れるなんて、び、びっくりですわ」

どうやら姫も照れ隠ししたいらしい。

「姫さまー! 凄いの、私の帽子、いろんな所に行けるの!」

「マリア? ギャリソンたちも…事情は後で伺いますわ。ルーシー、この子を

お願い。皆さん、行きますわよ!」

姫が見得を切る。青い瞳に炎を燃やし、ギャリソンから渡された斧を構えなお

す。

「悪を挫き魔を断つ者、バーサーカープリンセス、参る! 不浄の者よ、去り

なさい!」

10

 フロリーナが大見得をきっていたその頃、マスター=ヘルは。

「うむ、夜が明けそうぢゃな。いつの間にか戻って来てしまったわい。やっぱ

行くのはやめぢゃ。ひょほほほほ」

「マスター、お休みなさいなの」「なのなのー」

弟子ともども、床に就く準備をしていた。


 フローリーナ姫の反撃が始まった。

巨大な斧がまるで舞踏会の扇のようにひらひらと

舞い、

ズバッ! グシャ!

死者たちは粉砕されていく。かたや足代も回し蹴り

と正拳突きが炸裂する。よくしなる体はリーチの短

さをカバーし確実にゾンビの頭部を打ち砕いていっ

た。
ブォン! 半実体化した死霊が宙より襲い掛かる。髑髏のような面相に鋭い牙

が見える。爪がうなり、冷気を撒き散らしては二人のパワーと闘志を奪い去ろ

うとした。流石の巨斧をもってしても実体化しない時の霊を斬ることは出来な

い。しかし、

「うぉおおらあっ!」


足代の拳が一瞬光り、死霊を文字通りぶん殴った。

「んなムチャクチャな!」

ラッキーを含め皆が突っ込む。霊は白い泡状になり四散した。

「これはエクトプラズム、ですかな? アジロ殿は己の生命力をそのまま打ち

出し、霊を活性化して殴りやすくしているようです」

「はっはっは、ユーレイって殴るとカマボコみたいだぜえ!」

姫もバーサーカーモードが始まる。

(背中を気にせず戦うことが、闘う友がいることがこんなに心強いものなん

て!)

高笑いと共に二人は回転しながら死者の軍団を打ち砕く! 切り裂く!



「アジロ様、私を高く宙に上げて下さいまし!」

「おお!」

勢いをつけ、フィギュアスケートのペアよろしく姫の腰をつかみスピンを

かけ放り投げる。

「ギヒャヒャヒャーっ、炎の独楽、ってか?」

セバスチャンが吼える。3回転、4回転、高速スピンをしながら姫は炎を纏

い、ナパーム弾のように回りに撃ち出す。

「あ”あ”ああぁ〜〜〜〜…」

業火は地上のゾンビを一掃した。中空の死霊も恐れをなし、寄り固まって

逃げようとする。

「フロリーナ、俺をあの塊に向けてブン投げろ!」

「ええ!」

ブン!

 足代本人が霊を貫く弾丸となった。宙で向きを変える。必殺の空手の蹴

りの型が決まった。

ドシャアアアァ!!


流石の悪霊軍団も宙に散って行った。

落下する野蛮人を狂戦姫が待ちきれずにジャンプして抱きとめる。

死者の宴は終わり、炎がゆっくりと消えていく。いつの間にか朝が近づいて

いた…。

11

 朝焼けの中。

「お兄ちゃんたち、ありがとう。僕、父ちゃんのぶんも頑張って生きる! 

まだ、何もおれい、できないけど…」

「いいんだよ。元気でな」「お元気で」

着替えも終え、アレンが帰るのを見届けた後。

「姫様、マリアの帽子のお星さま、これって凄いものだったんだよ。ビック

リ!」

彼女が言うには一か八かで瞬間移動の呪文(師匠のモノマネだという)を唱え

たところ、突然帽子の飾りと思っていた五芒星が光り、ここまで来れたと言

う。

「どうもマリアの師匠というのは伝説の魔導師であり錬金術師、賢者プロメ

テウスのようです。そうでなければ、このような恐ろしい発明、考えられま

せん…。これは瞬時に物体を別の場所、異世界や別の時代へも送れるようで

すな」

ギャリソンの言葉に姫は納得した。思えば彼女の絶大なるアンチマジック、

それも伝説の魔導師が魔物より恐ろしい人の欲望から弟子を守るため、授け

たのではなかろうか。

「んじゃ、これを使えば俺、もとの世界に戻れるんだな」

「あ…」

足代は少し寂しそうだった。

「アジロ様。わ、わたくし…」

「あ、オイラにやらせて! こいつが帰るんなら何でも手伝うし。」

ラッキーがひょいとマリアの帽子を取る。

「駄目だよ、魔力のある者じゃないと」

「え? なに? なんだかボタン、押しちゃったけど」

「! ああああ!」

稀代の魔導師、プロメテウスの傑作は幼い弟子でも扱えるよう、

「行く← →帰る」

のボタンが片隅にあったりした。大の大人が無理矢理押し込んだそれは、

「ぺき」っと軽い音を立て、

…右側で矢印が壊れていた。

「バカーーーー! これじゃあ、もうアジロ兄様、帰ってこれないよー」

「そんな! ああ、アジロ様!」

ぱり、ぱり、異邦人の体が帯電し、徐々に薄れていく。

「ラッ・キ・イ・イー!」

鬼の形相を見せるフロリーナ。

「ひ、ひいいいいぃぃぃ〜〜」

次にどんな惨劇が起こるかは容易に想像できる。

そんな中でもちょっとラッキー、と思ってしまう

彼であった。

「あー、こりゃ駄目だわ。せっかくこんな世界なら、

いてもいいかなって考えたのによ」

「びーーーっ、帰っちゃやだよー」

泣き出すマリアに足代は頭をなで、慰めた。

「泣くなよマリア、縁があったらまた会えるさ。

フロリーナ、ケンカの続き、またしような! 

それと…」

アジロの顔が赤い。初めて見せる表情。

「え? な、なにか…」

どきどき。姫も頬を染め、次の言葉を待つ。

「その、鎧、気合い入れて霊力をためないと

ドンドン透けて見えちまうんだ。ゴメン、裸、

見ちまった





どっかーーーん!

 彼は悪人ではなかったが、偽悪的ではあったようだ。

足代は来たときと同じ、ナベシマと共に消えていった。



「わー、姫様倒れちゃった!」

「姫!」

「姫さま〜〜・・・」

                    (おしまい。)


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