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6
「わーん、助けてラッキー!」
ゴーザの口車に乗せられ、人気の無い場所にマリアを連れ出したラッキー。二人は
簡単にマーフォークに囚われてしまった。
「ふんが、やっとオレ様の出番かよ?」
駆けつけるフロリーナたち。様子がおかしいラッキーをギャリソンが察し、魔鎧を
すでに着せている。
「どういうつもりだよお姉様! あんたマーフォークの仲間か? まさか、メロディ
ちゃんも…」
メロディは顔を伏せたまま。ゴーザは冷笑した。
「当たり前さぁ。お前達クズどもは私が力をつける為の、エサそのものなんだよ。村
人も、お前も、メロディもね!」
黒髪が波打ち、蛇のように鎌首を上げた。所々に金に光る目らしいものが見える。
彼女の正体は高い知能を持ち魔法も操る魔族、ゴーゴンであった。金の目からの光で
みるみる石化する一行。
「ラッキーとやら、本能のままに生きたいなら協力するんだねぇ。メロディとつがい
で飼ってやるわ。はっはははぁ」

7
フロリーナは驚きを隠せない。
「そんな・・・嘘ですわ。なぜゴーゴンが?」
石化より、彼女を驚かせたのはその"高階級魔族の存在"である。人界と魔界、
侵攻が終わったのは初代女王と魔鎧の活躍が大きいが、恒久的な不可侵条約が
取り決められたのは天界の関与があったからである。
時の天使長ティアと魔王ゼルは階級の高い魔族の地上への往来を禁じた。それ
を破れば天界との対峙、つまりハルマゲドンとなる。

「あら、私は人間さ。古代魔術で魔界の力を
吸収し、変身しただけのねぇ。」
しゅうしゅうと唸り、先の割れた舌をくねら
せてゴーザ=ゴーゴンが言った。
「驚きましたな。変身の魔術は聞いたことが
ありますが、高位転生など禁断のまた禁断。」
ギャリソンもほぼ固まったまま感心した。石
化しても違和感がない立ち姿だ。
「村の馬鹿どもは明日が大漁、しかも魚人の来ない日って占いを信じている。
そこをマーフォークどもが漁をするわけ。魚人に貢いで魔力をわけてもらう話
はついてるのさ。高級魔族へ転生するためにね! あんたら邪魔な存在には消
えてもらうよ。しゃあっ」
「マーフォークが大人しい、と思ったら、あなたが操っていたんですね?」
哄笑するゴーザ。
「助けが来るなんて期待しないことだね。漁師のやつらは骨抜きさあ、今日は
家で皆ガタガタ震えてるだろうさ。」
捉えられたラッキーはメロディに向かい叫んだ。
「メロディちゃん、君もあのゴーゴンと一緒なのかぁ? メデューサだったり
…いや、それより君もオイラをだましてたのか」
「…許して。ゴーザ様にはさからえないわ。私の仲間もマーフォークに狙われ
ているの」
彼女はうつむいたままだ。
「…そっかあ。わかったよ、んじゃオイラもゴーザ様の部下になるわ。魚のオッ
サン、手を緩めてよ」
フロリーナは悲壮な顔で拘束を解かれるラッキーを見た。だが。
「ギョ?」
気が付くとラッキーは忽然と消え、マリアも上着だけで中身はなかった。
「メロディちゃん、ごめん。オイラ、自由に生きたいけど、自分で決めた自由
じゃなきゃダメなんだ。それに他人を見殺しにしてもカッコワルイし」
ラッキーは下着姿のマリアを奪還していた。こういった手品…縄抜け、抜け駆
け、コソドロ、はなんでも来いのラッキーである。

「ふわ! ラッキーのばかばかエッチ〜!
…でもサンキュー」
石化しかけた姫、ルーシー、ギャリソンの前にマリア
は立ちふさがった。石化は途端に解消し、パラパラと
砂がかかっただけになる。
彼女の能力、敵対する魔力のレベルダウン、アンチマ
ジックが発動したのだ。
「マリア、ラッキー、大儀でした。よくも、やってく
れましたわね。覚悟なさい、魔に魂を売った者よ!」
ぎん! 青く澄んだ瞳が正義の怒りに燃える。
バーサーカープリンセスの逆襲が始まった。
8
(BGM:シューマン「交響曲第4番」)
魔凱から瘴気が発せられる。
「どぉおおりゃああぁ」
巨大な斧が舞い、鉄拳が唸り、炎が撒き散らかされた。
ズシャ! グォ! ぶわっ!!
「ギョギョギョギョ〜!」
身近な魚人が刺し身になり、タタキになり、焼き魚となった。さらなる追撃を
しかけようとした時。
「おおい、おらたちも加勢するだあ。」
遠くからジンベーの声が。ミックリー・シュモークたち三人の漁師を筆頭に村
人たちが大勢やってきたのだ。
「え? い、いやあ〜〜っ!」
へなへなへな。善意ある人々の行動に、フロリーナは身がすくみ動けなくなっ
た。
彼女のトラウマである。魔凱セバスチャンは善良な人々には見えない"真逆の
裸の王様現象"を起こす。近くには浅瀬の海しかない。
「うん、どうしたんだい? 急に動かなくなってさ。まあいい、マーフォー
クよ、やっておしまい!」
ゴーゴンが命令する。
「くそ、一難さってまた一難か! こんなんだったら姫の入浴も覗いておきゃ
良かった…」
ぽく。
軽くギャリソンの制裁が入り、ラッキーは気絶した。
「ふむ、入浴か…そうですな、湯気を作れば。セバス、海辺で火を吹きなさ
れ」
ギャリソンの声に魔凱が応える。
「ぎひひひ、了解。姫さんよ、オレ様を海に向けな」
ブォオオオオッ!
蒸気が辺り一面を覆う。姫も理解し、涙をぬぐった。
「あ、ありがとう、じい。行きますわよ、今度は容赦しません!」
9

「ジャスコゥの皆さ〜ん、フレア様ぁ、こわ〜い状態になりますので近寄
らないほうがいいですよ〜」
ルーシーが声をかける。蒸気でまわりも見えない漁師たちは躊躇し立ち止
まった。
「んでも、お嬢さん一人じゃ…」
「ほーっほっほっほっほ! こんな腐れ魚や外道の魔女なんて、わたくし
一人で充分。その勇気、明日からの自らの漁と戦いにお使いなさい!」
口調が変わった狂戦姫にギョッとして漁民は引き下がることにした。
「わかったあ、おらたちは明日の漁の準備だ。おらたちの戦いの!」
「お嬢さんたちー、負けねえでくんろ」
「死なねえでくんろー!」
漁師たちの声にフロリーナは通る声でええ、とだけ返した。
「やせ我慢していいのかい?」
ゴーゴンが皮肉混じりに問う。
「あの方達からは信頼と勇気を分けていただきました。これ以上何が必要
でしょう!」
ルーシーが祈り、マリアがありったけのアンチマジックをかける。魔鎧が
吼え、ギャリソンはのびたラッキーを引きずり安全圏へ向かう。
「人を信じず、欺き傷つけるあなたは、魔術など使わなくても人外の魔物
に成り果てたのですわ。いざ、浄化を!!」
「…つくづく気に入らない娘だねえ。魚人ども、八つ裂きにしな!」
ざんっ
フロリーナは海中に飛び込み、急激に水温を上昇させる。煮魚になるのを
免れたマーフォークの残党はたまらず海上へ飛び出した。
「逃がしませんことよ!」
「ぎひゃひゃひゃ、いい感じだぜえ」
ぶんっ、ぶんぶんっ、斧を振り回す。
「うおおおおおおおっ、トマホーク・ブーメラン!!」
ギュララララララララララッ!
大回転し、振り投げた巨斧は弧を描き飛ぶ。
「ギョ〜〜〜〜」
ズガガガガッッ!
逃げ出したマーフォークを切断し、ゴーゴンの手前で反転、残りをさらに
切り刻んだ。見事な三枚下ろしである。
「く、しょうがないね。まだ魔力が足りない。撤退だ。」
睨み殺しかねない憤怒の形相で、蛇の魔女は闇に消えていった。
10
戦いすんで。
「メロディちゃーん、ゴーゴンは逃げちゃったよ。もう自由の身だよー
ん。どこだー…」
ラッキーは残された彼女を探した。しかし、そこにいたのは…
「い?」
ぴちぴちと尾鰭が浅瀬をたたく。浜辺に倒れてい
たのは、蒼く輝く鱗に包まれた下肢をもつマーメ
イド(人魚)であった。
「キ? チチチチ、キュウゥ。」
しかしながら階級は低い種族なのだろう、人魚姫
は人語を解することも発することも出来なくなっ
ていた。
「え、え、えええー!?」
ラッキーにキスをすると、人魚は海に帰っていっ
た。
「おそらくあの魔女が人化の魔術をかけ、操っていたのでしょう。恐る
べき奴ですな」
「本当に。ゴーゴンも"黒い牙"だったのかしら。だとすれば奴らの狙い
は…」
「まさか、三界の支配では?」
ギャリソンと姫が深刻な話をしているとき。
「ああ、メロディちゃん、下半身が魚だなんてー!」
はらほろひれはれ。傷心のラッキーは別の次元の苦悩に身を焼いてい
た。
「しかたがないですわ。マーメイドは単体生殖と聞きますし、種族が
違いますもの、ね」
フロリーナが慰めようと近寄った。
「ぐずぐず、姫ぇ〜・・・え?」
「?」
ラッキーが目をこする。目の前には鎧姿のフロリーナがいる、はずで
ある。ところが。
「え、え、え”!」
みるみる鎧が透けだし、一糸まとわぬ姿となった。

「き・き・きゃああぁー!」
皿のような目に鼻血を滝のように噴出したラッキーに、姫は全てを
理解した。
11
「一瞬ですが、お肌を見てしまったようです。姫を裏切らずマリア
を助け、良い人になりましたからな。神様からの御褒美だったので
しょう。ま、すぐ見えなくなったようですが」
ギャリソンが淡々と言う。
「姫様ぁ、かわいそうー」
「わたしもナイスバディを見られちゃったけど、ま・いーんでない
かい。キャハ」
ルーシーとマリアが治療の用意をする。
「今見たことを忘れなさい! 忘れて死ぬか、死んで忘れてしまい
なさーい!」
ぼかぼか、がすごき。泣きながらラッキーを殴るフロリーナ。
「いやだー! 死んでも忘れるもんかー! 女体の神秘やー!」
海からは微かに歌声が聞こえる。夕闇の迫るジャスコゥの浜辺に、
なかよく喧嘩する二人がいた。
「びええぇーん!」
・・・おしまい。
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