ショート・ヒロイニック・ファンタジー

 ばーさーかー

ぷりんせす!

第十二話 

<氷雪の女王 中 編> 

絵・文 : J I N


 



 ギュオオゥ!

 アイス・スピア…氷の巨大な槍はフロリーナに目がけ飛び込んでくる。

「くっ!」

「姫さまーっ」

ブルンバボン。黒い煙を吐いて魔法機に乗ったマリアとルーシーが到着する。とたん

に氷槍は単なるツララとなり、姫は手の一振りでそれを防いだ。…マリアの特殊能力、

アンチマジックが発動したのだ。

「助かりましたわ、マリア」

今度はルーシーがフロリーナのダメージをヒーリングで回復する。

「ありがとうルーシー。さ、二人とも下がって」

「はい。あれが…氷雪の、女王?」

二人もまた初めて会うはずのその女性に、何か違和感を感じたようだ。形勢は逆転し

たかにみえた…が。

氷の女王は今度は軽く握ったままの左手を前に突き出す。

ゴウッ!

突然、魔法呪文の詠唱もないままに氷粒を含む突風が左手から吹き出した。

「何度やっても同じだい! まかせて姫さま」

前に出ようとするマリア。しかし、何か違う殺気をフロリーナは感じ取った。

「―――だめ! マリア!」

姫が瞬時にマリアを庇う。ズガガガガガッ! なんとアンチマジックが発動しない。

「うわあ! なんで? さっきは効いたのに?」

「くうう。どういうこと? 魔導師のパワーなら相殺できるマリアの力が効かない

なんて…」

氷の飛礫に背中にダメージを受ける姫。青くなり、姫に抱き着くマリアとルーシー。

「まさかあ、あの女の人、魔物、なんでしょうか〜?」

「そんな訳は…じい、こんな時にいてくれれば…」

予想外の展開にとまどい、氷の微笑を浮かべる女王を見つめる一行であった。




 その頃、子豚亭では。

「マスター、頼む、あの子たちを戦わせるなんて止めてくれ」

「ギルドの秘密は絶対だけどさ、あの子たち、あんなに良い子じゃないかあ」

女将に詰め寄る客たち。皆必死だ。

「な、何か方法があるはずだ、あの人をお助けできる何か…」

ビュオオウ!

店内につむじ風が起こり、詰め寄った5〜6人が吹き飛ぶ。その中心に立つのは。

「―――掟を守れない者は死をもって償う。それは、我が子とて同じこと。常に冷

静に、非情に。そうしなけば、我らとて黒い牙に寝首をかかれると知りなさい」

アイスブルーの左目、ウェーブのかかった長い髪。冴え冴えとした美貌。スレンダ

ーな体躯。大柄で粗野な印象の女将の面影はどこにもない。それは…

「は、ははっ」

店内の十数人すべてが跪く。

「――そちらが真のお姿でしたか。いや、お美しい」

深い男性の声。小豚亭の皆が声の方向を向く。手には武器や魔道書を持って。

「誰だ!」

「結界を張っていたはずだ。どうやって?」

影がゆらりと立ち上がる。マントを翻し、密偵のジャム、そしてギャリソンが姿を

見せる。ジャムは普段の軽装ではない。忍装束…手甲や鎖帷子に身を包んだ臨戦態

勢であった。


 リオであった女性が口を開く。

「やはりあなたでしたか。切れ過ぎる執事だとは思っていたが、シノビの術を使う

仲間までいるとはね。」

老執事は事もなく会釈する。ジャムは一言も発せず、殺気で周りを威嚇したままだ。

「恐れ入ります。そろそろ謎解きといたしましょう、リオ様。あなたが…かつては

魔導師ギルドで名を馳せていた氷雪の女王、その人。そしてこの店の客すべてが今

のギルドメンバーではございませんか?」

「――いつから感づいてたんです?」

肯定を会話に滲ませる女王。

「魔法都市セイヴではついに会うこともなかった占師。人目を避けているようでも

ありました。ただ単に1年前の魔族襲来を予知出来なかった、というだけではなく、

何かに怯えているようでした。それなのにこの店には水晶球を使うドリお婆、あな

たがいる。魔法を擁護する実力者がここにいるのでは、と考えた次第で。」

「ルーシーを探す時、俺がドリお婆に頼んだせいか…すまねえ。」

ナイフ使いのイワンが頭を垂れる。

「そしてそれをかくまう他のお客もまた、魔導師グループと思えばいろいろ合点が

合います。その元締めがつまり、あなた様で」

ギャリソンの澱みない言葉に全員が息を殺し、リオを見つめる。

「教えて頂きたい。有史以前、氷雪の王国は滅亡したと古い文献にあります。あな

たとご子息は、その子孫なのですかな?」

リオの表情は相変わらずクールである。質問に質問で応じる二人。異様な緊迫感が

辺りを包む。

「その文献は王宮図書館にしか残っていないはず。あなた、そしてフレア…王族と

関係者というところね。私の問いに先に答えなさい。あなたがたを、今すぐ氷の彫

像にすることも出来るのですよ」

執事に恐れや動揺などの変化はない。いつものとぼけた雰囲気など微塵も無く、ギ

ャリソンは天候さえ操るという伝説の女王にさらに問いを突きつけた。

「そもそも、この度の魔族来襲は何故起きたのか。何が原因なのか。何故あなたや

プロメテウスのような優秀な魔導師が消えたか? お嬢様とご子息を戦わせ傷つけ

合わせるより、出来得る限りの方法を考えるべきではありませぬか!」



「く、黙りなさい!」

ついにリオの美しい顔が苦渋に歪む。

「そなたに何がわかるというか! 王国の滅亡、ギルド連合の裏切り。…民を愛し

ていても守れなかった辛さ。やっと戦う仲間が出来たと思った時、それすら偽りで

あったことの絶望…わらわは、もう、たくさんなのじゃ!」

本心が現れるにつれ、言葉遣いが古風な王族のものになっていく。子豚亭の女将、

ギルドマスター…さまざまな顔を持つ女性の、真の姿がこれなのであろう。

イワンが口を開いた。

「マスター、いや、女王様。俺達ゴロツキや流れ者の賞金稼ぎ、半端な魔法使いを

雇ってくれた恩は忘れない。だがよ、それ以上に子豚亭の賑やかさが、女将に化け

たあなたが息子を語る時が、俺達にはどんなにか安らぎになったか」

ネイネイやスリーピィもうなずく。

「フレアさんたち、あんたらも一緒じゃ。マリアやルーシーのさえずりのおかげで

わしもずいぶん若返ったよ。ふぇふぇ。――あんたの言う通りじゃ。占術師、予言

者、予知能力者、そういった能力者をあぶり出すため、大昔の魔導師ギルドは仲間

を…」

「ドリ! おぬしまで…」

ドリお婆を牽制するも、皆の気持ちは変わらないようだ。次々と言うのはほぼ同じ

言葉。

「お願いです女王様。もう一度信じてみましょう。この人達に託してみましょう。

そして王子を―――!」



 その間もフロリーナともう一人の女王との戦況は変化していく。

ごきゴキ、へにょ〜ん。

体中の関節を鳴らしながら、軟体動物のような動きをする生き物がココの町に到着

した。

「これぞ究極の縄脱け、ダッシュワンの術! ふっふっふ。オイラを置き去りにな

んてさせないよーん」

なんとラッキーである。身体の関節を外し、脱出してきたらしい。

「ギャリソンのじいさんから聞いたんだ。氷雪の女王たまって、オイラ好みのチョ

ー美人で、しかも胸の鎧を外すとキョ、キョ、巨乳があふれてくるっていうじゃん

か! 辛抱たまらーんっ!」

欲情に燃えるカバン持ちには身体の痛みも寒さもなかった。そして、決戦の場に着

いた彼が見たものは。

「ありゃ、ラッキー? どうやってここへ?」

「ラッキー、じいはまだ来れないの?」

「来ちゃ、危ないですよ〜」

あまり、相手にされていない。マリアたち三人の言葉も聞かず、やって来る鞄持ち。

「おー、彼女が女王たま! 仮面越しにも美し〜い。そしてあの胸の奥には…うっ

ひょー! でもあの盾、アレ、どっかで見たよな?」

「盾? そんなもの、彼女は持っていませんわ」

ラッキーの言葉にフロリーナが訝しむ。

「え、持ってるじゃないすか。なんだかセバスの野郎みたいな顔付きの…あれ、口

を開けた…」

ブオッ!

彼にしか見えない盾の口が開いた時、女王の左手からの氷系攻撃が始まった。間一

髪、回避する一行。三人はハッと思いつく。

「邪まな者には姿を見せ、悪鬼の顔を持つ道具…」

「セバスちゃんとぉ、一緒です〜! 伝説の魔具があ、他にもあったなんて〜」

「あの人、魔法と魔物系の攻撃と、使い分けてたんだ! だから! 私のアンチマ

ジックが効かなかったり…ガチョーン」

三人の驚きとは別に、ラッキーは野望に燃え次の行動へ移行している。氷の攻撃を

擦り抜け、なんと女王の前まで突進した。

「けっこう小柄なんすねー。ぐふふ、トランジスタグラマーか〜。こ、この中に究

極の巨乳が! 究極のぱふぱふが!」

「な、なんだ貴様、寄るんじゃないよ!」

女王の連続攻撃を軟体動物の動きでかわすラッキー。そのままタコの触手のような

指がグニャグニャと襲いかかる。

バシュッ!

「あ・・・・」

一瞬で勝負(?)は決まった。女王の脇を擦り抜けたラッキーの手には彼女の兜と

胸の鎧が。しかしそこに現れたのは。

「! あなたは…」

フロリーナは目を疑う。平らな少年の胸。兜が取れると同時に長い銀髪は朝霜のよ

うにさらさらとかき消えた。腰まわりの鎧とロングスカートも取れ落ちる。白のズ

ボン、アイスブルーの髪と同じ色の瞳。額には氷の紋章。それは。

マリアが叫ぶ。

「シアン…なんで、なんで女王に化けてたの? なんで皆を凍らせたりしたの? 

ねえ、シアン!」

 かつてマリアが魔法都市セイヴで出会った少年、『氷の貴公子』シアン。初めは

敵と思われた彼だがマリアや姫との関わりの中、お互いを認めあい、協力して真の

敵『黒い牙』の陰謀を打ち破ったのだ。だが魔導師ギルド門外不出の『盾』を使っ

たため、強制的にギルドのもとに帰った…はずであった。


 魔盾、偽りの女王へと変貌を遂げた氷の貴公子シアン、幻と消えたぱふぱふ。

愕然とする4人であった。

9

 「がーんんんん…女王たま、男だったなんて。しかもツンツン野郎のシアンだっ

たなんて…ギャリソンのジジイ、またダマシやがったな〜!」

 ラッキーの勘違いはともかく、他の3人は深刻だ。

偽りの女王の正体――切り揃えられた髪。アイスブルーの瞳。額には氷の紋章。細

い、しなやかな体つきではあるが少年のものである体躯。それはセイヴ魔法学校で

ともに悪と戦った天才魔導師、シアンであった。若干髪は伸び、血の気はなく目は

虚ろだ。

「やっぱりシアンだ。お願い、姫さまと戦うなんてダメだよ! 忘れちゃったの?

私のことも…?」

悲痛な面持ちのマリアが雪の結晶を模ったペンダントを掲げる。それは別れ際に少

年からもらった思い出のもの。

「う…」

一瞬、シアンが呻き、その動きが止まる。しかし。

ゴウッ!

再び左手から氷の飛礫が吐き出される。そして、間違いなくその手の周辺から、獣

のような声がした。

「キヒヒヒ。女王の真似もおしまいか。つまんないね。せっかくこの子が氷雪の女

王の代わりになれたら、って言うからお粧ししたのに」

なおも攻撃を続けようとするシアンと透明な盾。防戦はするものの、打って出るこ

とが適わぬフロリーナ。

(この声は、シアンさんとは別のもの…彼の意志とは別に魔法を遣っているのだわ。

いったいどうしたら…)

しかし、シアンの攻撃は途切れた。体がついて来れないのか、明らかに衰弱してい

る。

「ふん、これだから子供の体は…」

ビュオウッ。

シアンの体は雪まじりの突風に包まれる。

「お待ちなさい!」

跳躍し、脱出を図ろうとみた女王に駆け寄るフロリーナ。しかし…

「キヒ、キヒヒヒヒ」

シアンの体がゆらり、と動く。印を組み、詠唱を続けている。

ブオッ!

雪が放射状に、それから孤を描き、魔方陣の形をとった。そこから現れたのは――



ゴツゴツとした巨大な氷の塊。ふたつ、みっつ、次々と出現する氷塊は積み重なり、

人の形を成していく。

「ア、アイス・ゴーレム…」

一瞬、シアンの体に呪文が浮かび、そのまま20メートルはあろうかという氷の巨人

の腹部に盾ごと吸い込まれていった。

「キヒヒヒヒ、ただの氷じゃないよ。これも古代文明のお土産さあ。――さあ、潰

れてしまいなッッ!」

グオウ! 巨大な腕が狂戦姫を襲う。何よりマリア、ルーシー、ラッキーの逃げ場

がない。身を呈して仲間をかばうが。

ズガァ!

「キャアア!」

 凄まじい衝撃が彼女に叩きつけられ、そして―――遠のく意識の中、白い光に包

まれるのをフロリーナは感じた。

10

「――さま、姫さま!」

「大丈夫ですか〜」

マリアとルーシーの声が聞こえる。薄暗い、ひんやりとした空気。

「! ここは? シアンさんとあのゴーレムは? わたくし…巨人に攻撃されて、

光に包まれて…」

急速に覚醒するフロリーナ。

「目覚めたか」

洞窟のようだ。奥から涼やかな女性の声が聞こえる。

「よかったよー姫さま!」

二人が抱きついてくる。肌に触れる感触…見れば、魔凱がない。フロリーナは素肌

にシーツを巻いただけだ。

「おぬしは鎧を着ておったの。それがどんなに危険なものか、知っておるのか?」

氷の玉座に座るその姿は、どこかシアンに似た美しい女性。青い髪、瞳。白銀のド

レス。

「あの人があ、助けてくれたんです〜。」

「アポーツ(引き寄せ)の魔法みたい。危機一髪のところを魔法でこの場所に引き

寄せられたんだよ」

二人の話を聞き、ハッと姫が気付く。

「お助けいただきありがとうございます。あなたは…もしやあなたが、真の氷雪の

女王、なのでは?」

マリアが驚く。

「あ、あの人が本当の…それじゃ、シアンの、お母さん?」

二人の問いに静かに答える。

「――いかにも。そちたちの事は使い魔の白蝙蝠より聞いておる。そこな小娘にそ

そのかされ、シアンは禁断の魔盾を持ち出してしまったと」

血の気が引くマリア。

「違いますわ! わたくしが、魔鎧を制御できず…」

マリアを弁護するフロリーナ。しかしマリアは前に出る。

「ううん、私がシアンを危ない目に合わせたのは本当のことだもん。――女王様。

ごめんなさい。私、マリアといいます。どんな罰でも受けます。でも、今は…シア

ンがたいへんなの。なんとか助けたいんです!」

「お願いします〜」

支えるルーシー。圧倒的な威圧感を放つ女王に三人は身じろぎもせず対峙する。

 バーサーカープリンセス、一行は大きな岐路に立っていた。


                             ・・・つづく。


                小説indexへ 「ばーさーかー・ぷりんせす!」INDEXへ 後編へ 

●top ●index ●novels ●gallery1 ●gallery2 ●notes ●otehrs ●link