ショート・ヒロイニック・ファンタジー
ばーさーかー・ぷりんせす!
第十話 氷の貴公子

    <後 編>    絵・文 : J I N


 

12

「ガアアアア!」「グリリ、ギギ、ギャア…!」

ザクッ、ズシャア! 伸びた鋭い爪でグレムリンどもを引き裂く魔獣。

「むうう」

さすがの魔導師も面食らったようだ。ふたたび火炎魔法を繰り出す。

「そうは、させるかーっ!」

マリアがアンチマジックを発動。ぷすぷす。炎はくすぶる煙となった。

「! くそ、計算外です。仕方がありません。とっておきをお見せしましょう。」

魔獣の爪攻撃をシールドで防ぎ、ダグラム自身が魔方陣に入る。そして、

パキィ。

放り上げたタクトが粉々になり、彼を包む。

「暗黒の結晶よ、私にパワーを! むふふ・・むぐ、グ、ゴアアアァァ・・・」

魔法服は破け、鋼のような筋肉と針金のような剛毛が現れる。口は裂け、目は…右目

が巨大化し、つぶれた左目を追いやり中央でギラギラと光る。

 一つ目の巨人が一行の目前に現れた。

「なんと!」

「あ、あのサイクロプスが、ダグラム本人だったなんて」

「びっくり〜〜〜!」

驚く一同。しかしそれだけではなかった。

「ゴアアアァ…あはは。むはははは! 成功したぞ、魔族転生の術!」

巨人は笑い、しゃべり、魔法を使って破れた服を修復した。

「! ねえ、ギャリソン、あの、人が魔物になっちゃう術って…」

「ゴーザと名乗った魔女が使ったものと同じですな。天地人界のタブーを破る、禁断

の魔法。なるほど、この術を使うため、大量の魔力を集めていたのですか」

「知能が高く、魔法も魔物の能力も使えるサイクロプスなんて、初めてだ」

シアンも呆然とする。

「魔力が足りない時は、それこそ知能も足りず思うように行動も出来ませんでした。

今は非常に快適です。あなたがたを、捻りつぶしたいくらいにね! ゴアアアァ!」

「ガアアアアアウゥ…」

魔獣と魔人の一騎打ち。爪が光り、剛腕がうなり、そして。

グオオオオオッ、バシイ!

巨人の口から黒い炎が、セバスの口から赤い炎が吹き出しぶつかり合う。互角の戦い

をする両者。マリアたちも見守るばかりだ。魔物自体にはアンチマジックは効かない。

シアンの魔法も、枯渇状態にある今、二人には到底通用しそうにない。焼け石に水で

ある。

その時。

「ガアア…」

魔鎧が立ち止まり、マリアたちのいる方を向く。

「え? まさか姫さま」

なんと今度はフロリーナ=魔獣がマリアたちを狙う。

「むふふ、これはいい。逆にそちらは獣並みの知性になったのですね。共倒れになっ

てもらえるなら、楽というものです」

「姫さま、私だよ! 忘れちゃったの…?」

サイクロプスは退く。代わりに迫る魔鎧。

「―――しかたないな。今の僕の魔力はゼロに近い。たとえパワーが充分でも、覚え

ている魔法…アイスウォール(氷壁)やシールド(魔法障壁)ではダグラムとフレア姫

の炎は防げないだろう」

「何を、するおつもりで?」

ギャリソンの問いにシアンは薄く笑う。感情を殺した冷たい瞳。

「あの、特待生のボンボンたちがやったことさ。生命力を使って、『僕の国』にある

炎系魔法に対抗する魔具をアポーツ(引き寄せ)するんだ。」

ギョッとするマリア。


「ダメだよ! 今でもヨレヨレなのに、そんなことしたら、シアンが死んじゃう!」

必死に説得するマリア。しかし背後では魔獣と化した姫がじりじりと寄って来て、炎

を吐き出す準備をする。時間は悲しいほどになかった。

 

 その頃、ラッキーとスズメは。

「いやーラッキーだなあ、スズメちゃんがこんなに美人だったなんて♪」

「そ、そんな、こと・・な、ないです」

黒く濡れる瞳がラッキーを見つめる…焦点はあっているか、定かではないが。少女の

手をとり、スキップで山を登るラッキー。姫とマリアに蹴飛ばされ、助けに向かった

スズメのビン底メガネがはずれたのだ。

愛らしい顔立ちが現れたが、引き換えに視力の低下を余儀なくされた。

「とにかく後は勇者ラッキー様にお任せあれ。さ、早く学校のみんなを助けに行きま

しょ〜う」

お調子者は英雄となるべく駆け上がっていった。

 

 話は戻って魔法学校、では。

「…シアン、一つだけ方法があるよ。」

「? なんだい」

「シアンの魔法に、私の魔力をチャージするの。ここんとこ、ずっと練習してきたサ

ポートマジック。これならなんとかなる。ぶっつけ本番だけど」

成長するまで大きな攻撃魔法を使えない事を知ったマリアは、支援攻撃に適した魔法

を勉強したのだ。強い雷撃は出せなくとも、魔力を倍掛け、3倍掛けすれば十分攻撃

魔法になる。そして魔力を他者に継ぎ足せば。

「…よし、やってみよう。保証する。マリアは机上の勉強より実戦派だ。」

「うん!」


二人は手を握り合う。魔力が高まっていく。

 シアンが叫んだ。

「…母上。偉大なるギルドマスターにして氷雪の女王よ。あなたと、校長と、賢者プ

ロメテウスが築きし学び舎を守るため。伝説の魔盾を、我が手に!」


13

「えっ? ギルド…いま、なんて…」

「説明はあと。魔法に同調するんだッ」

シアンの両手が光り、その手を支えるようにマリアが手をのばす。

「う、うん。マジック…チャージ!」

二人の手が輝きを増す。

・・・ィィィィイイイイ・・・

いまだ炎と黒煙の燻る校庭の上空。そこに異彩を放つ青い光が灯る。

ヒュッ…
ヒュゴウ!

「やった!」

シアンの叫び声とともに上空の青い光から冷気が漂い、そして突風のような吹雪。

ヒュゴゴウウウウウ!

「むふん? これは」

傍観していた巨人、紅蓮の魔導師ダグラムの変身体もさすがに驚いたようだ。一つ目

を丸くし、炎の魔法の詠唱を始める。

「僕の故郷の切り札だ。母上と、僕しか使えない、氷の盾…」

青い光はひし形の盾となり、シアンの両手に収まった。大人一人が隠れるほどの丈、

そして外観は氷に覆われている。その中には―――何もない。

盾は氷以外ほぼ透明で、前方の姫を見ることが出来た。

「ガアア!」

グオオォォォッ!

吹き荒れる氷雪を裂き、深紅の炎がシアン、マリア、ギャリソンを襲う。

ババババァッ

間一髪、炎を直線に並び盾で防いだ三人。冷気と氷が炎とぶつかり合う。蒸発しては

また激しくぶつかり合う、火と氷の乱舞。

「むはあ!」

ドウッ! 新たにダグラムの紅蓮の火弾が打ち出される。

ゴオオオオ、ドドドド!

「くうっ」

勢いに押されるシアンが魔盾を持つ手に力を込める。背中から抱き着く形で腕を添え

るマリア。

「お師匠、お願いッ。姫さまを、シアンを助けて!」

マリアの叫びに、

「僕が、マリアを守るんだー!」

普段のクールさもかなぐり捨て、少年もまた叫んだ。

ヒュ…
ゴゴゴゴオオオ!

氷の盾がさらに青く輝き、冷気は氷の散弾とともに魔鎧の炎を押し返した。

ドオッ!

「ガア…あ」

姫は吹き飛び、代わってサイクロプスが前に出る。こちらはまだ無傷に近い。

「ッツ! う…ここまで、か…」

シアンが倒れる。

「シアーン!」

抱き起こすマリア。少年の手は凍傷を起こし、皮を破いてその手から離れ転がる。

「…まだ、だ…。ダグラムを…止め、ないと…」

弱々しい光とともに現れた長尺のツララ。それをダグラムに投げ付けることなく、

シアンは気絶した。

――戦いは、さらに加速する!

14

「く、くそ。やってくれましたね皆さん。シアンも、鎧の女も倒れたことです。改

めて引導を渡してさしあげましょう。むっふっふー!」

容姿は巨人、口調は粘つく知性あるもののまま、魔人は呪文を唱える。

「召喚!」

魔方陣が再び光り、今度は―――

「ガアア!」

堅い表皮にコウモリの羽を持つ悪鬼。ガーゴイルだ。5、6、7匹。



「念には念を、ね。それ、八つ裂きに!…」

その時。

「おーい、みんな〜、オイラだよーん。」

緊迫した場面に、ぶち壊しの間の抜けた声。ラッキーがスズメ、そしてルーシーを連

れてやってきた。

 
「皆さ〜ん、しっかり〜」「・・・・あの、その」

急展開のスピード対決は突如チェンジアップしたかのように脳天気に、スローモーに

なった。がたがたと倒れるマリアとギャリソン、そしてダグラム。

「な、なんですか、その緊迫感のない馬鹿者たちは?」

ダグラムさえ呆れている。

「あららら。す、スズメ先輩も戻って来たの?」

マリアが尋ねる。

「・・だって、学校のみんな、やっぱり仲間だし。それに、ラ、ラッキー様が一緒だ

し・・」

「うん、ありがと、…でも先輩、男性アレルギー、治ったの?」

そうして、ようやくスズメはラッキーが手を握っていることを近視の目で確認したの

である。

「ッキャーーーーーーーーー!」

ズドーン!

スズメの衝撃波がまたもラッキーを吹き飛ばす。

「うぎゃおーーん」

吹き飛んだ先に待っていたもの、今度は…

ガイーン!

「むはーっ、なんですこの鳥ガラは?」

見事にダグラムに命中した。

  


 ギャリソンの目がきらりと光る。

「ここが勝負の仕掛け時、ですぞ」

ラッキーはダグラムの赤毛を引っつかむ。それを振り落とそうともがく魔人。ガーゴ

イルは上空から虎視眈々と一行を狙う。気絶したシアンを解放するマリアとルーシー。

スズメは小さな人形を手に震えている。

そしてフロリーナは…

「ガ、アアアァ」

いまだ魔獣の状態のままだ。覚醒し、のろのろとこちらへ向かう。

(たとえラッキーが鎧を外しても、敵は待ってはくれますまい。さすれば…魔鎧の本

能に捕らわれていた、あの頃より数段お強くなられた、姫のお心に、訴えるのみ!)

 答えは決まった。

「ふむ、このあたり、ですかな」

落ちていた長尺のツララを拾い、品定めする執事。そして、ある物を巻き付け、槍の

ように投げつけた。


シュオオッ! ドンッッ!!

「ガアッ…」

ギャリソンが投げつけたのはなんと、フロリーナのほうであった。

カラララ…ン。

氷槍はフロリーナの兜を弾き飛ばし、こめかみ近くを通過し床に縫い付けられた。

そして…そこには白いハンカチが巻きつけられている。

「姫、お目覚めなさい! 王族の誇りある戦いをお忘れなさるな!」

一喝。白いハンカチには鷹の刺しゅうが。

「ガウ…う、うう…」

フロリーナの脳裏に、優しげな父王の姿が浮かぶ。泣き虫だった幼少時の自分を慰め、

力づける笑顔、大きな手、白いハンカチ。

「う、う…あああ!」

凄まじい苦痛と呪縛を精神力で跳ね返す。四足をやめ、両足ですっくと立つ姿は…い

つもの狂戦姫である。

「―――その通りですわ、じい。心まで獣に落ちてしまえば、それは魔族と同じこと。

わたくしは戦います。人として!」

兜をかぶり直すフロリーナ。空から攻める翼魔…ガーゴイルを睨み、そして。

メリ、メリメリ…バサア!

翼が広がる。魔鎧が光りだし、鋭角的な装飾となり、悪鬼の顔も鷹をイメージしたも

のへと変貌した。

「キュオオオーーウゥ!」

 バーサーカープリンセスは白銀の鷹へとフォームチェンジした!




 ぶちぶちーっ!

サイクロプスの真っ赤な髪の毛を引っこ抜き、振り落とされたラッキー。落ちるや否

や、すぐさま逃げ出した。

「ぐあっ! よ、よくも自慢の髪を…許しませんよ!」

怒りに燃え魔法弾を撃つダグラム。ちょこまか動き、火炎弾を擦り抜ける。また軟体

動物のように身をよじり、翼魔の爪をかわす。

「ぎゃーっ! わ、わざとじゃナイのに〜」

緩急をつけ、逆走し、細い柱に隠れ、煙の下を這い回るラッキー。

「さすが逃げ足のプロ! デビルバットゴーストも真っ青だ」

「・・・なんですか〜、それ?」

感心したマリアのつぶやきに、ルーシーが合いの手を入れる。

「ひえーっ、だずげでおがーぢゃーん」

喚きながらも弾の風圧が来るのを直感で察知し、右から左へ受け流す。

「おー、大リーグボール3号みたい」

「…だからぁ、なんですか〜、それ?」

ラッキーが時間稼ぎしているうちに、シアンも意識を回復した。

「シアン! 大丈夫?」

「ん…フレアさんは?」

「もうだいじょ〜ブイ! いつもの正義の味方、バーサーカープリンセスに戻った

ヨ! それになんだかピカピカ、羽まで生えてパワーアップ!」

「…ああ、本当だ。悪鬼のような鎧じゃない。まるで天使か、戦女神のようだ…あ、

あれ?」

「うん?」

「め、目が変なのかな? なんだか、鎧が、透明に…」

マリアも気付いた。パワーアップで一時的に見えた鎧もやはり呪いは持続している

らしい。

「わーっ、見ちゃダメ〜〜!」

急いで自分の帽子を目深に被らせた。

 その頃スズメは。

「ラッキー様・・・皆が回復するまで、おひとりで敵陣に出向き、囮になっていた

のですね。なんて立派な・・・」

もうメロメロである。いろいろと事情を勘違いしているのだが。

 

 ばさっ。翼を広げ、ジャンプする姫。

「ガ〜〜!」

ドギャ! 手刀一線! 襲い来るガーゴイルを次々と片付ける。澄んだ声が荒れ

果てた校庭に木霊する。

「バーサーカープリンセス、再見参! 悪に濁りしその眼で、見れるものならこ

の姿、とくと見るがいい!」

禍々しい一つ目の魔導師が睨む。それよりも強い青い瞳が情熱と正義に燃える。

 狂戦姫は完全復活した。新しい力とともに。

15

「ぎょわーん、怖かったよーう。ぜーぜー」

ダグラムやガーゴイルの攻撃をかわしきり、なんとか一行のもとまで戻ったラッ

キー。

「ご苦労でした。助かりましたぞ」

ギャリソンの労いの言葉も聞こえない。疲労困憊、放心状態だ。

「さて、もう一仕事。お嬢さん…スズメさんと申しましたか。こちらへ。」

「・・・は、はい?」

「ラッキー、手に握っている物を」

執事はラッキーの手に巻き付いていた、赤毛をスズメの持つワラ人形に差し込み、

再び少女に手渡した。

「では、どうぞ」

 

「ガガー!」「キュオウ!」

高速で飛び回り、翼魔をあっと言う間に撃墜した白銀の魔鎧。

「ぐわ、く、首が!」

それを撃ち落とそうとした魔人の首がゴリゴリとあらぬ方向を向く。当然火炎弾

は命中しない。スズメのワラ人形の呪いが功を奏したのだ。

「そんなバカな? 私の計算が狂うなど。こんな、研究対象でしかない、虫ケラ

に追い詰められるなんて、ありえない!」

パニックを起こすダグラム。

「人の目で同じ人を見下すなど、愚の骨頂ですわ。魔力のみに頼り、人の命を弄

んだ報い、お受けなさい! わたくし、とっても残酷ですわよ!!

バキイ! 
バキャ! ドガガガガガガガガァ!

大空を駆け、降り注ぐフロリーナの鉄拳。

「おおおおおりゃああああああっ!」

魔鎧が発光し、パンチを繰り出せば炎がつく。

「わたくしの拳が真っ赤に燃える、ですわ!」

ドゴオオオ!

「ぐわあーっ! くそ、くそおおぉ」

ダグラムの黒い炎が鎧に当たる。が、どこにもダメージはない。深紅の炎が逆

に押し返す。今度はフロリーナが競り勝った。

「ぐぎゃあああ! む、虫ケラどもめええ…」

ふらふらになり、逃げ出す魔人の先に、今度はシアンとマリアが立ちはだかる。

マリアの帽子を被ったまま、シアンが氷の盾を再び構えた。

「――その虫ケラに負けるお前は、虫ケラ以下だな。ランク外。」

「だ、だまれえ!」

ゴオオオォ…放つ炎も心なしか弱い。攻撃はすべて盾が防いだ。

「シアン、大丈夫?」

「ああ。フレアさんを―――そうか、魔鎧の呪いか―――見ちゃ駄目なら、マ

リアが僕の目になってくれ。最後の一発くらい、僕にも撃たせてくれないか」

こくりとうなずき、マリアは盾と少年の間に入り、背と胸を合わせた。照準を

合わせ、魔力を合わせ、そして呼吸を合わせ…

 とくん、とくん。

背中越しにシアンの心臓の鼓動が伝わる。その鼓動がマリアのものと重なった。

「いまだ! 
行っけー!

マリアが叫ぶ。青い光が魔盾から放たれた。

「僕達に、震えろ! ブリザード!」

ビュオオオオオオオオォッ!!!

一斉に放出される氷の飛礫、冷気、強風。それらは一点に集中し、魔人を襲う。

「ぐぎゃあああー! ゴ…ゴーゴン様…申し訳、ご…」

 最期の言葉も凍りつき、後には巨大な氷像が残った。

16

 夜が明ける。

戦いを終えたフロリーナの魔鎧は、いつの間にかいつもの鉛色のセバスに戻っ

ていた。セバスちゃんも黙ったまま。謎は解明されなかったが、ともかくマリ

アとルーシーは姫を治癒し、ドレスに着替えさせた。

「怪我人はぁ、ほぼ手当しました〜。ただ、魔力と生命力を抜かれた特待生グ

ループは治療に時間がかかりそうです〜。」

「教師たちもここ数カ月の記憶がないとか。あのダグラムの傀儡となっておっ

たのでしょう」

「地下を探しているが、校長の姿はないな。もう少し、探してみないと」

「先に町まで逃げた生徒が、親や自警団を連れて来るって。ひとまず安心だ

にゃー」


ルーシー、ギャリソン、そしてシアンとマリアが報告する。

 学校は鎮火したものの、惨憺たる有り様だった。。荒れ果てた講堂に生徒

たちは集まる。生きていたことを喜び合う生徒もいれば、不運を嘆く者もい

る。呆然と座り込み、残骸を見る者も。

しかし焼け焦げた校舎を修復する者もいる。魔法を使い、道具を使い、協力

しあって。

「マリア、あなたのお友達が助けてくれたのね。ありがとう」

「ごめん、オレ、お前がいじめられていた時、何もできなかった」

生徒たちにも自覚を促したのはほかならぬマリアのようだった。

 一方、弱々しくも不平不満を声にする者たちが。

「なんだよ! ぼ、僕たちが悪いんじゃないぞ」

「あ、あのダグラムが犯人だったんだろ?」

「私のパパやママはたくさん学校に寄付してたのよ。弁償してほしいくらい

だわ。」

言わずと知れた特待生グループである。

「おだまりなさい!」

講堂に涼やかに響く声。

「あなたがたの誇る物の中で自ら汗を流し、勝ち得たものがありますか?

不平不満の言葉や揶揄罵倒が何かを生み出しますか? つまらぬ驕りやプラ

イドが友を作ってくれますか? 否!」

フロリーナの言葉は雷鳴のように轟く。その間もマリアやシアンは復興作業

を手伝う。ラッキーもスズメと共にしぶしぶ手伝う。ルーシーは治療を行い、

慈愛の光をかざす。

「たとえ些細な成果でも、努力を厭わぬ者こそが称えられるのです。それだ

けが先人の労に報い後人に示す道となるものなのですから…」

講堂には校長、青い髪の女性、プロメテウスの絵がある。そして中央には…

優しく微笑む国王の肖像画が。

その絵に見守られるように毅然と立つフロリーナに、教師や生徒たちは自然

と膝をつき、頭をたれた。

 


「なかなか様になってるな」

遠くから見ているギャリソン、そして密偵のジャム。

「国王もさぞやお喜びになるでしょう。亡くなられた先代フロリーナ女王に

生き写しですな。あ、いたたた」

肩と腰をさする老執事。

「馬鹿、無理するからだ。あんたの槍の腕は確かだ。…だが、前に幼い姫を

賊から守った時の大ケガ、あれはもう治らねえ。今度大立ち回りをしたら、

少ない寿命がブチ切れるぞ」

密偵は視線を落として言う。

「だから、あそこが勝負の仕掛け時、命の掛け時だったのですよ。ほっほっ

ほ。…それより、エルフの校長の生死、氷雪の女王、そしてギルド。調べて

みてくだされ。」

「――承知」

ジャムは影に交じり消えていった。

 

 「さあ、今度は僕の番だ」

シアンを中心に一行が集まる。ラッキーとスズメは不在だ。

「あの肖像画、蒼い長髪の女性が僕の母。そして、魔導師ギルドのマスター

でもある。そして僕もギルドの一員ってワケさ」

マリアがおずおずと聞く。

「ギルドって、お師匠とは仲が悪いって…」

「一年前の反乱から、行方をくらましていた彼を探すよう言われたんだが…

もし、国家転覆を企てたのがプロメテウスなら、彼をギルドが総力をあげて

倒す。そう、命じられていた。」

マリアが緊張する。

「――だけど、違う。マリアに会ってわかったよ。君の師匠がそんな事をす

るわけがない」

「シアン…あんがと。」

二人は微笑んだ。

その時。

・・・ィィィィイイイイ・・・

「こ、これは?」

突如シアンの体と傍らにあった氷の盾が青く輝きだす。

「そうか…強制送還、か。ここで、お別れだ、マリア。皆さん…」

その青い光は先の魔盾出現とよく似ている。マリアが目をまん丸にして叫んだ。

「え、え、
え〜〜〜っ!

17

「だ、ダメだよ、勝手に帰っちゃ。私まだ何も教わってないし、その」

「――いくら僕でもギルドの財産である盾を勝手に持ち出したんだ。それ相応

の罰を受けなくちゃならない」

マリアを始め皆が集まる。どうやら強力な引き寄せの魔法がシアンと魔鎧にか

けられたらしい。

「そんな。シアンさんが盾を使ったのは皆を守り、わたくしを魔獣の状態から

立ち直らせるため。あなたと盾がなければ、魔法学校は助かりませんでしたわ!」

フロリーナも引き留めようとするが、シアンは寂しげに笑う。

「申し訳ありません。掟は掟なんです。」

マリアが飛びつく。

「いやだ! まだ聞きたいことが話したいことがあるの。お師匠のこともシアン

のお母さんのことも。あ、あと好きな食べ物とか、好きな動物とか、

好き…」

ぎゅっ…。

少しぎごちなく少女を抱き締める、氷の貴公子。

「――まいったな。こんなおバカであわてん坊な子が僕だけの姫になるなんて。

マリア姫、いつか僕たちはまた出会う。運命は絡み合うようになっているんだ。

だから」

アイスブルーの瞳とエメラルドグリーンの瞳が見つめ合う。

「やだ! 待ってなんかやらない。会いに行く。どんなに遠くても。世界の果て

でも!」

涙でぐしゃぐしゃになるマリア。その手に雪の結晶の形のペンダントを手渡され

る。

「氷雪の国…魔導師ギルドへはこれが導いてくれる。ありがとう、僕の心の氷を

溶かしてくれて・・・・」

「え、なに? シアン!」

・・・ィィィィイイイイン・・・ヴォオオン!

 さらに強い光に包まれた後。彼と魔盾は消えていた。

 


 旅立つ日。朝焼けがまぶしく姫たちを照らす。魔法学校の仲間や町の人も見送

ってくれた。

「よーし、元気に行ってみよー!」

マリアはいつもの明るさを取り戻していた。背中にわずかな寂しさと、瞳に強い

意志の輝きが見てとれる。シアンとの初恋が、少しだけ彼女を大人にしていた。

 

「そういえば、ラッキーはどうしたんでしょう?」

姫が心配そうに振り向く。すると、

「…ぅわあぁああ〜!」

血相を変えて走ってくるラッキー。セバスの入った巨大なカバンを背負い、その

まま駆け出す。

「どうしたんですか〜?」

「どーもこーもねー! スズメちゃん、夜明けまで一緒に居てって言うから、こ

りゃラッキー…って思ったら」

じろりと姫がにらむがおかまいなしに喋る。

「あの子、すんげえ怪談マニアで、オイラを呪いで金縛りにして一晩中学校の七

不思議やら都市伝説やらホラー話をささやくんだ! 怖いよ〜早く逃げましょ〜

よ〜っ!!」

そのまま走りだしてしまった。しばらくして、トコトコとスズメがかけて来た。

「・・・あ、ああ。行ってしまったのね。わたしの勇者さま・・」

マリアが苦笑しながらも執り成す。

「スズメ先輩、男性アレルギーが克服できたみたいで良かった。もともと可愛い

んだから、きっと趣味の合うボーイフレンドが見つかるって。」

「マリア・・うん、がんばる。あなたも、ね。」

食い違いはあるものの、少女と一行は笑顔で別れた。

「さ、私たちもレッツラゴンだー!」

「は〜い」

「ええ、行きましょう!」

 

 一行はさらに北へ向かう。

寒さ以上に苛酷な運命が待ち受けているかもしれない。しかし、バーサーカー

プリンセスの旅はまだまだ続くのである。

                          ・・・おしまい。



なんとか終わりました。
今回は少し仕事でゴタゴタが続き、創作活動も影響されておりました〜(^^;

途中、端折ったり雑になったりで申し訳ありません。絵のほうもスズメちゃん
眼鏡なしバージョン(お約束^^)とか、描こうと思ったのですが…

なにぶん青い春な学園もの、いろんな所がこそばゆくなりそうな(笑)、そうい
う出来になりました。ちょいとでも心の琴線に触れるところがあったなら、幸
いってもんです。
この話はやがて「氷雪の女王」(仮題)に続くはずです。むろん閑話休題とか、
いろいろ入るかもしれませんが(^^;)。

後は…悪役で強い奴を考えてます。今までのルール、「魔物はザコばかり」、
ってのも転生の魔法やセバスのパワーアップで変わりそうですし。バンパイヤ、
ライカン、でもって…ファンタジーでは王道のアレが出るかもしれません。
行方不明になっている魔法使いも、ちゃんとオチを付けなきゃならないですし、
あと2〜3話は続くかな?(時間はかかるでしょうけど)偉大なるマンネリを目
指して頑張りたいと思います。

少しインターバルが入るかもしれませんが、次回作でお会いしましゃう(^^

07年9月16日 up


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