ショート・ヒロイニック・ファンタジー

 ばーさーかー

ぷりんせす!

第十話 

<氷の貴公子 中 編> 

絵・文 : J I N


 

5


「ふええ〜、もうダメぇ」

 およそ百人の魔法使いの卵たちが通うセイブ魔法学校。マリアが体験入学生として

寄宿舎に泊まり、他の生徒たちと机を並べて一週間になる。

勉強嫌いと少々オッチョコチョイな性格のため、なかなか魔法学の習得もままならな

い。今日も基本魔法「ライト(閃光)」を試して爆発させてしまった。

「基本呪文、魔法学史、古代ルーン文字と、後は…召喚呪文の実習かあ。もうヘトヘ

トだよ〜」

女子寮のベッドで。マリアのぼやきに答える声。

「・・・・みんな、最初から魔法、上手い訳じゃないし・・が、がんば」

頼りなさげな小声で話すのは同室の生徒、スズメだ。彼女の暗い赤の制服に対しマリ

アのものは下級生を表す明るい赤。寮では先輩後輩が同室なのである。

極端な人見知りで男性アレルギーな少女、スズメ。先の魔物騒動でマリアがラッキー

と一緒にいたのを知って、珍しくも相部屋を申し込んだのでもあるが。

「うーん、ありがとねー。優しい言葉をかけてくれるのは先輩だけだよ。特待クラス

の連中なんか、人をゴミみたいに見てサ、フン! それにあんんっのシアンの奴なん

か、完全無視だもん。"フレア姫はいないのか、チンクシャだけじゃつまらない"、だ

って。フンフン!」

 


 もともと排他的な雰囲気の学校。その中で、富裕層の子供と魔法能力に秀でた者は

特待生とされていた。シアンはその中でも一番らしい。学力はもとより、魔法の腕前

は教師を抜くとのこと。彼は辛辣な言葉を投げることもあるが、それ以上は関わろう

としない。それスタイルから尊敬と少しの皮肉も込めて、彼は”氷の貴公子”と呼ば

れていた。

問題は彼の取り巻き連中である。事あるごとにマリアをからかい、嫌がらせをし、他

の大人しくしている生徒にもそれを強制した。

 

  「おい、新入り。教室とトイレ掃除、お前の順番な」

  「もっともずっと新入りの番だけどな。ハハハッ」

  「悔しかったら魔法で片付けても良いゼ」


神経質な顔をひきつらせ笑う特待生グループの顔が浮かぶ。ここ数日の扱いを回想する

と、さすがの頑張り娘も閉口する。

「二ャロ、こっちは秘密の調査もあるからな、あんな奴らに関わってる場合じゃない

のに〜」

「・・・マリアさん? だ、大丈夫・・?」

「あ、あははダイジョブグッジョブ! それよりスズメ先輩、この辺で最近魔物が出

没するって、どういうこと?」

「・・・校長先生が旅に出て、かわりのダグラム先生が着いたころ・・から、かしら。

サイクロプスや、外にも飛妖、小鬼みたいな魔物も見えたらしいけど、追い詰める前

に消えちゃうの・・わ、わたしも、ラッキー様がいなかったら・・」

急に顔を赤らめるスズメ。

「うーん、引っ掛かるけど、ま、いーか。まずは魔法の修行をガンバ!しなきゃね。

…って、あれ? スズメ先輩?」

マリアが考え込むうちにブラウンの髪の眼鏡少女は忽然と消えていた。

「うーむ、ミステリー」

6

「姫、お茶の時間でございます」

執事のギャリソンが紅茶を運ぶ。教会から与えられた部屋に二人はいた。

手伝いで書物の整理を二人で行っているのだが、実際は9割はギャリソンが済ませて

いた。ルーシーは教会の奉仕作業に出ている。

「ありがとう、じい。――マリアがいないと、なんだか静かですわね。」

「彼女も努力していることと思います。どうぞご安心を」

「ええ…そういえばラッキーは?」

 その頃、カバン持ちは別室で掃除の作業を・・・抜け出し、街へ繰り出していた。

「へへ、脱出成功〜。マリアがいないと、どつくのは姫だけだもんな。マリアのキッ

クなら可愛げがあるけど、姫のだと…ブルルっ命がいくつあっても足りねえや」

街を、若い女性をニタニタ見て回る彼だが、視界の端に人影を感じた。

「? だれかいたような? 見たことあるような子だと思ったけど」

気にせず女性に声をかけようとするラッキー。

「お嬢さーん、オイラと…ん?」

ドグォ!

「うぎゃああああ!」

衝撃波が彼を襲い、そのまま気絶した。

「・・・あ、あの、大丈夫ですか?」

言い寄られた女性は逃げ、代わりに寄って来たのはスズメである。ラッキーの顔をツ

ンツンと触り、

「きゃ、私って大胆・・・お、お会いするの、2度目ですね。スズメっていいます。

こ、この前は助けていただき、ありがと・・・」

気絶しているラッキーにぼそぼそ語りかけては悦に入っている。

「えと、魔法学校生で、黒魔術系と呪術を専行してて、マジックインパルスとか毒薬

とか得意で、でも将来はすてきなお嫁さんに・・・ひっ!」

「う、うーん」

目が覚めたラッキーに再度魔法衝撃がぶち込まれる。

ドゴ!

「ごきゃぽ!」

壁にめり込むラッキーを振り向きもせず、恥じらう乙女は逃げていった。

「ぐえぇ、何があったんだ? アンラッキ〜ぃ」

再び失神してしまった。


「召喚〜、来いっナベシマ」

ポン。

「うにゃー」


 召喚魔法の実習。年齢に関係なく多くの生徒が校庭に描かれた魔方陣の周りに集ま

っている。マリアの黒猫の召喚成功に拍手をしようとする生徒もいたが、

ギロ。

特待生の数人が睨みつける。

「ふ、ふん、そんな子猫で喜んでいるようじゃ駄目だな」

教師は彼らの横暴に口を出さない。というよりまるで無表情である。科目によって5

〜6名の教師はいるが、誰もが同じ印象なのだ。

「シアンさん、見せてやって下さいよ」

促された氷の貴公子はさもつまらなさそうに手を振り上げる。

シュウウウゥ

白煙と共に翼が広がり、形を成していく。

「―――呼んだか?」

白い蝙蝠だ。しかも人語を話している。教室の全員が感嘆し、拍手した。

「ああ、授業の一環だ。すまないね」

使い魔はまた消えていった。

「むむー、負けるかっナベシマ、お前もなんかしゃべれ」

黒猫の口を引っ張り回すマリア。

「むぎゃごにょウギャ」

たまらずナベシマも逃げてしまった。

「Cランク。」

ぼそりと言うシアン。

「見ろ! だいたい田舎者の新入りがシアンさんに楯突こうってのがおこがましいん

だよ!」

笠にきて悪態をつくグループ、だが。

「違う。Cランクはお前達だ。たまには人に頼らず自分でやってみろ」

「ぐうっ」

シアンの言葉にへこむグループ。

(へえ、あいつ、やな奴だけど、悪い奴じゃあないんだ)

マリアは少しだけ、見直したようであった。

 

 夜。寄宿舎を抜け出し、マリアは資料室にいた。

「どこかに魔道師ギルドの手掛かりがあるかも…うわ!」

ドサドサーッ

資料が雪崩を起こす。

「もごもがー!」

転倒し、本や書類に挟まれてしまった。その時。

「やれやれ、とんだジャジャ馬だな、お前。」

ふわ。マリアは逆立ちの格好で軽く浮き上がり、資料は自ら意志があるかのように廻

りへと避けて行く。

「助かった〜。あ、あんた!」

マリアが逆向きに見たのは氷の表情を少々呆れ顔にしているシアンだった。

「警備の手伝いもしてるって言ったろ? それより、そのカッコ、なんとかしてくれ」

見ればスカートはまくれ上がり、かぼちゃパンツはおろかヘソまで見えている。

「ふにゃ〜〜! え、エッチスケッチバスケッチぃー!」

「ばか、別に子供の下着なんて興味ない。フレア姫なら歓迎だけどさ…ゴホン、いや、

何でもない」

ようやく態勢を戻し、座り込んだマリアだが、その喉元にはツララが浮いている。

「ぎょ?」

「さあ、質問だ。誰に頼まれて、何を探している? まさかフレアさんも…"黒い牙"

なのか?」

その言葉に仰天したのは無論マリアのほうだ。

「ええー! あんたが黒い牙じゃないの…って、何でその名前を?」

緊迫した時間が過ぎた。月明かりが窓のカーテンから差し込む。二人の顔が照らし出

され、お互いのサファイヤとエメラルドの目が合った。やがてツララはじゅっと蒸発

し消えた。

「お前の御主人に免じて見逃してやる。それにどうも悪巧みが出来そうな知恵がある

とは見えないからな」

「ふん、でも…あんがと。昼も助けてもらったしね」

少年は少し紅潮した。手を伸ばし、マリアを引き上げ起こした。

「お前といると調子が狂う。さっさと女子寮へ帰れ。」

「はーい。あ、その」

「捜し物なら明日僕も手伝う。ここは僕の巡回地だからな。これ以上散らかされたら

迷惑だ」

そう言うとぷいっとシアンは出て行った。

「…シアン…手、暖かかったな…」

 月が陰る。大きな謎と少しの温もりを残し、少女と少年は闇に紛れていった。

7

 それから数日、マリアとシアンの捜索は続いた。

「ここの校長はハーフエルフでね、100年前の魔族との対戦も参加した歴戦の勇者な

んだ。ここ数年、預言者や予知能力者の失踪や事故が続き、胸を痛めていたけど…

そこへこの前の魔族来襲だ。」

資料を取る手を休めずシアンが言う。

「ってことは、知能の低い魔物が偶然王様たちを襲ったんじゃなく、計画的だったっ

て? なんたるちあサンタルチア!」

時々手を止めながらマリアが答える。

「この魔法学校も王国を少しでも助けたいと創立したのに、どうもうまくいってない

みたいだ。よそ者を邪険にしたり、いつの間にか拝金主義に走るようになったり。か

くいう僕だって、最初はずいぶんいじめられたものさ」

「ふうん。でもサ、そんな優しい校長がいるなら、なんで?」

「ここ1年くらいは人の前に姿を出さなくなった。王様たちが行方不明になったショ

ックだという者もいるが。あのダグラムを代理にして、その後旅に出るといってから

数カ月たつな」

「あの眼帯と髭のむふふ〜ん男か、あいつも確かにアヤシイ!」

シアンがうつむいて震えている。マリアの物真似が受けたか、どうも笑いをかみ殺し

ているようだ。マリアも笑う。

「でさ、魔導師ギルドって今もあるのかな?」

マリアの問いに、シアンは真顔になる。

「分からない。これだけ探してもないんだし、

…もう潰れてしまったんじゃないか?」

 お互い秘密にしていることが胸にある。気心が知れ、親密になるほど二人にはそれ

がしこりに感じた。好きな色、好きな食べ物、ふたりは手探りで共有するものを探し

合う。しかし生い立ちや現状となると途端に膠着状態である。

(もしかすると、またあのお爺ちゃん…マスター=ヘルの時みたいに、つらい戦いに

なるのかな?)

 結局ギルドも校長やダグラムに関する手掛かりは見つからなかった。

「あったのは全権を校長代理に委任する、って証文だけ、か。」

「ん、お部屋に戻るね。同じ部屋のスズメって子もいつもいないんで助かるんだけど。

今日もありがと。」

シアンはいつものように挨拶もせず去っていった。

 


 セイブ歓楽街。体中包帯と絆創膏だらけのラッキーがそこにいた。

「たたた、どうも最近突風が吹き荒れたり、ケガが多いなあ。水を飲んだら痺れたり、

変な視線も感じたまんまだし。いや、もしかすると恋するお姉ちゃんのお誘いかも?

らっき〜♪」

あながち外れてもいないのだが、身の危険など気にもせず夜の街にカバン持ちは繰り

出す。その背後100メートルの物陰には―――

「ああ、ラッキーさま・・・」

スズメがいる。手にはワラ人形。そのアゴの部分には毛が一本刺さっている。

「んー、愛情表現!」

スズメが人形をぎゅっと抱き締める。

「うぎゅわわわ〜ッ!」

バキボキ音を立て、首や関節があらぬ方向へ曲がっていくラッキー。

無論まわりはドン引きだ。

「なんだかオイラ、大ピンチ〜ぃ…ガク」

 その後、彼は逗留後何度目かのルーシーの治療とフロリーナのお灸を食らうことと

なるのである。


 マリアとシアンの奇妙な夜のデート。均衡は、しかし昼に破られることになる。

「ははは、やっぱり尻尾を出した。この新入り、とんだ大嘘つきだ」

「おい、嘘つきのチビ」「魔法下手!」

「どうせ授業料も払えないんだろ? 僕たちのパパやママと違ってさ」

講堂で。特待生グループのいつにも増しての横柄さ、騒ぎぶり。輪の真ん中でマリア

が涙をためて立ち尽くしている。

「うぐ、ぐううっ」

泣いてはいない。怒りに顔を赤らめてはいるが。

ヒュウ。

講堂が冷気に包まれる。

「どうしたんだ、騒がしい。静かにしないか」

氷の眼差しで場を静めるシアン。

「あ、ああシアンさん。聞いてください、こいつはとんでもない詐欺師だ」

「この学校を作った偉大なる先人の肖像画を見て、嘘ばかり言うんですよ。」

「懲らしめたほうが、いえ、追い出したほうがいい」

そこには…柔和な顔にエルフの耳を持つ魔法学校校長、青い長髪の見知らぬ女魔導

師、そして白い長髪に威厳ある細い顔、瞼を閉じた魔法使いが描かれていた。

「これを見て”なんでお師匠が?”なんて言うんですよ。」

「大賢者プロメテウス様が自分の師匠だって。ずうずうしいにも程があるわ」

キッとにらむマリア。

「嘘じゃないもん! マリアの師匠はプロメテウスお爺ちゃんだけだもんっ」

シアンが間に割って入る。

「それは本当か? 嘘なら…お前の言うこと

誰も聞かないだろう。賢者プロメテウスはそれ

ほど高名な魔法使いだ。だが本当なら、聞きた

いことがあるな」

また他の生徒が言う。

「案外そいつの師匠ってプロメテウスの名を語

るインチキ魔法使い、なんじゃないのぉ?」

今度はマリアも黙っていない。

「お師匠を悪く言ったら、許さないんだから!」

あまりの迫力に皆がたじろぐ。

「では、僕が聞こう。この絵の大賢者は目を閉

じている。他の文献でも最近まで彼がどこにい

るかは判らず、会った者も数少ないという。彼

の瞳の色は? 答えられるか?」

他の特待生グループはにやにや見ている。

「最近、シアンさんは新入りに肩入れしてるって噂があるけど、まさかそんな事は

ないですよねぇ?」

「こいつが嘘つきだって判れば、厳しく罰してもらえるんですよねえ?」

いつの間にかシアンを立てつつも、同じく排除しようという魂胆が見え隠れしてい

る。マリアは…

「―――私も、お師匠の目の色は知らない」

その答えに特待生グループが勝ち誇ったように笑う。シアンの表情も厳しい。

「だって、お師匠、目が見えなかったんだもん。」

それを受け、シアンがつぶやく。

「――正解だ。」

全員がどよめく。

「お師匠はA国のフィーレンの谷ってところの生まれで、そこの人は体が不自由な

代わりに特殊な能力があったんだって。母親がマーシャ、父親は普通の人だけど病

気がちだった学者のメラニー。お師匠はその血をひいてて、生まれつき目が見えな

かったんだって」

しばしの沈黙。そして氷の貴公子が口を開く。

「その通りだマリア。すまない、君を侮辱した者たちには厳重に注意しよう。でも

君がそのプロメテウスの弟子なら、あまりに君の魔法の技術は稚拙だ。なぜなん

だ?」

その目はなお厳しい。しかし、

グオオオオオンン!

大きな破壊音。

「わああ、校庭に、ま、魔物が!」

「なんだって!」

ぎょろつく一つ目、巨体。あのサイクロプスが再度出現したのだ。

「くそう、やっぱりこの学校に犯人がいるんだ。巨人を召喚し、暴れさせている魔

導師が!」

生徒を襲おうとする巨人に向かおうとするシアンがつぶやく。

「ほえ?」

同じく走るマリア。

「…前にケガを負わされた生徒が黒い牙のタトゥという言葉をつぶやいていた。僕

にはある情報筋があってね。悪い魔法使いの集団がその名を名乗っていることは知

っていたから」

現場に着く二人。しかしそこは予想以上の修羅場になっていた。

「うわあ、来るな、ファイヤ!」

「サンダー、あああみんなどいて!」

「助けてっジャンプ」

「僕がやっつける、ウィンドカッター!」

実戦を知らない生徒たちが各々得意な魔法を使い、パニック状態になっていた。

「なんてことだ。これでは氷の魔法も使えない」

無策で放たれる魔法弾は魔物にかすり傷も与えない。それどころか同士討ちで倒

れる者までいる。

「く、このままでは…おい! お前、何をする気だ!」

シアンの制止の手をほどき、マリアが前に出る。そして。

「やああああああああ」

見えぬパワーを右手に集中し、突き出す。途端。

フウッ・・・・・

「っわあ!」「ま、魔法が」「消えた…」

火も水も風もやみ、光は消え、跳躍した者はどすんと落ちた。そして、マリアは

左手に光の玉を作り出し、恐れず巨人に向かう。

カアッ ボン!

光りに目がくらんだ巨人にそのまま光球をぶつける。それは以前の授業の失敗の

時と同じく爆発した。

「グガアアああ」

シアンが呪文を唱える。

「―――アイシクル」

ビュッ ビュン! 空中に出現したツララが矢継ぎ早に打ち出された。

サイクロプスは、またのろのろと逃げ出し、校庭の演習用の魔方陣の上で消えた。

ワアアアア!

見ていた生徒のほとんどが歓声をあげ、マリアを称賛した。

「てへへッ」

もじもじする彼女に、シアンが寄って来る。

「見事だ。状況を判断し、自分のパワーを最大限に生かす。Aランクだ。

―――しかし、魔法殺し、か。驚いたな。こんな能力を隠していたなんて。」

「ごめん。隠すつもりはなかったんだけど。アンチマジックは師匠がたった一つ

教えてくれたものなんだ。最近まで、自由に使いこなす事も出来なかったんだけ

どね」

いつの間にか全員がマリアの話に耳を傾ける。

「師匠は言ってた。魔法は大地に眠る魔法の素、マナを使いこなす事。マナを通

し世界を作る元素を自在に操る。それには、まず世界の理を…つまり自然や町に

触れ、動物や人と語らう。そういうことが大事なんだって。それが出来れば魔法

も覚えるのは容易いって。」

ぱち、ぱち。

誰かが始めた拍手が校庭の全部を多い尽くした。

パチパチパチパチ…

 


「くそう、あの新入りと成り上がりのシアンめ」

暗い通路を渡る十数名の人影。

「誰が謝るか」

「私の実家がたくさん学校に出資してるんだから、私のほうが偉いのに」

「そうだそうだ」

特待生グループだけが校庭には集まらず、宿舎に戻ろうとしていた。思いどおり

にならないことが我慢出来ないらしい。口々に不平をもらす。

そこへ。

「むふふ〜ん、皆さん御立腹のようですね。」

唐突に現れた、粘るような口調と笑い声の主。赤のラインが入った黒の魔法衣装。

校長代理のダグラムである。

「皆さんのご両親は我が校の優良なスポンサーですからな。よろしい、私が特別

にシアンや新入生以上の魔力を授けてあげましょう。」

陰険そうなグループの顔が明るくなる。

「格安料金ですよ〜むふふふ〜ん」

赤毛から覗く隻眼が怪しく光った。

8

「アンチマジック自体、通常の魔法からしてみれば禁じ手だ。君の師匠…プロメ

テウス様は教える、というより」

自分に対する呼び方が「お前」から「君」に変わってる。そんなことをぼんやり

考えるマリア。

「まだ学習能力が足りない君に、無理にでも魔法使いを排除する手段をインプッ

トするしかなかった。成長に合わせ、容量が増えれば他の魔法も覚えられるだろ

うが…プロメテウス様は、魔族襲来の時も魔族よりも人間の魔法使いを警戒して

いた、ということか。」

「・・・あ、あのう、シアンさん?」

「なんだかギャリソンと一緒にいるみたいだなー。頭パニパニくるくる〜ぅ」

 食堂で。食卓にはマリア、スズメ、シアン。外にも同級生が数人いる。

巨人騒動以来、彼女の環境は一変した。いじめられっ子たち、下級生は奮起し、

特待生グループは姿を見せない。マリアを慕い、援護協力し、魔法の勉強を手伝

ってくれる者さえいる。おかげで魔法も多少習得したようだ。

 変わったのはそれだけではない。冷笑しかしないシアンが、多少いびつだがほ

ほ笑むようになったのだ。それから数日間の外出で、スズメの男性アレルギーも

何故か(?)治りつつある。

「とにかく今は黒い牙さがし。姫さまのところにも行かなきゃ」

「それは僕が行こう。でも、彼女に敵と対峙する能力があるとは思えないんだが」

マリアがちょっとすねる。何故だかシアンをフロリーナに会わせたくない。そん

な気持ちが起こる。

「だ、大丈夫。姫さまには秘密兵器があるし、それって、シアンが見たら、大変

なことになっちゃうし…私が行かなきゃダメなの」

訝しむシアンだが、不承不承だがうなずいた。

「あ、あ、あの・・私も・・・・・お嬢様と、あの人のところに・・・」

「? スズメ先輩なら問題ないよ。ようし、姫さまのところに」

マリアが立ち上がった、その時。

バン! 食堂の扉が強引に開く。

「おっと、どこへ行くんだ?」「逃げようったって、そうはいかないよ」

「エスケープを許すなんて、お前もやっぱりはぐれ者だな、シアン」

ざわ―――。

不穏な空気が流れる。現れたのは…黒に赤のラインが入った魔法衣装の十数名の

生徒。神経質そうな顔の、特待生グループだ。顔はやつれているが、目だけがギ

ラついている。そしてその手には、皆禍々しい光を放つ黒いタクトが。

「お前達…?」

「我らはダグラム親衛隊。この学校をダグラム様とともに守る者だ。」

「違反者は我らが排除する。」

「徹底的にな!」

見れば彼らが通ってきた通路は、数人の生徒が倒れている。

「く…」

シアンが魔道書を持ち、臨戦態勢に入る。しかし。

ドドドドドォッ!

親衛隊は揃いの黒いタクトを振り回す。すると。

突然火の玉が発生し、食堂の生徒もろとも、シアンに降りかかった。

「きゃー!」「熱いよう」

阿鼻叫喚。生徒達が逃げ惑う。

「くうっ。通常の魔力じゃない。何倍も増幅している」

さすがのシアンも防御魔法を張るのが精一杯だ。マリアや他の生徒を守り、なお

かつ敵味方ない無差別攻撃を防がなければならない。

「んにゃにぃーい? シアンがおされてる?」

「あいつら、操られているのか? 常軌を逸してる。ここは僕が防ぐ。頼む、フ

レア姫を・・彼女の切り札を!」

食堂も、他の建物でも黒いマントの集団が暴れている。

「うん、わかった。シアン、無理しちゃダメだよ。死んじゃ・・ダメだからね!」

帽子から魔法機を出現させ、スズメと乗り込むマリア。飛行魔法を極めているの

は教師クラスだが、その教師さえ親衛隊に屈しているのか、無抵抗だ。

ボボボン。

煙を吐きだし、飛び上がる二人。魔法衝撃で天井の窓を破り、火の玉攻撃をくぐ

り抜け、脱出した。

 

 風雲急を告げる魔法学校。ダグラムの目的は何か? バーサーカープリンセス

は、果たして間に合うか? マリアとシアンの運命や如何に?

9

「たいへんだーっ、姫さま、スクランブルーぅ」

プスプスン。

魔法機がエンストで止まる前にマリアとスズメはなんとか町内まで戻って来れた。

「マリアちゃ〜ん、だいじょうぶ〜?」

「ビックリしたぜ、山の上のほうが明るいから、見ると学校あたりから煙が出て

やんの…って、後ろの子は? どっかで会ったような?」

「ルーシーちゃん、ラッキー!」

「あ・・・あの、その」

「マリア、動きがあったのですね? そちらは、確かスズメさん?」

教会ではすでにフロリーナ一行が準備に入っていた。二人は姫とギャリソンに今

までの経緯を手身近に説明する。

「――判断を誤りましたな、マリア」

ギャリソンは腕を組む。

「え?」

「たとえ正体不明でも、アンチマジックなら彼らを足止めくらいは出来たはず。

高速移動の魔法も、シアン殿なら存じていたでしょう。残されたシアン殿は氷の

魔法使い、敵は火炎系・・・火と氷、どちらかが大きな怪我を負うやもしれません」

「あ…!」

無意識に姫と少年を会わせまいとしたマリアの心。それが仄かな嫉妬心であるこ

とに彼女自身気付いていなかった。

「あ、ああ…わたし、わたし…どうしよ、私のせいで、シアンが、みんなが!」

泣き出しそうになるマリアを優しく、ふわりとフロリーナが包み抱き締める。

「大丈夫。」

「ふえっ、ひ、姫さまあ〜」

「マリア、あなたは気付いてないかもしれませんが、シアンさんはあなたにとっ

ては特別な人なのですわ。心が乱れ、迷うこともあるかもしれないけれど、それ

もその人を思えばこそ。

大丈夫、わたくしが必ず守ります。魔法学校の皆さんも、シアンさんも!」

「び、びいいいぃ〜〜」

ギャリソンもルーシーも抱き合う二人を暖かく見守っていた。

「さ、行きましょう。倒すべきは心を失った少年たちにあらず。それを陰で糸引

く、黒い牙の悪意ですわ!」

姫の瞳が燃え上がる。そんな二人にごく自然に近寄り、かいがいしく姫のドレス

の紐を解くラッキー。

「でもってやっぱりオイラの出番ですか! さ、すぐに着替えましょう、姫。」

ドカドカーっ!

マリアと姫のダブルキックが炸裂した。

「おじゃぱめーんんん・・」

ラッキーは吹き飛んでいく。

「ああ、あラッキーさまあ」

スズメが追いかけていった。

「時間がありません、じい、ここで着替えますわ。魔鎧を」

「かしこまりました。幸い夕闇も近うございます。敏速に移動すれば姿を見られ

ることもありますまい」

「問題は着いてから、ですけれど―――神様、はしたなき姿で戦うことをお許し

ください。それからどうぞ心正しき者がわたくしを見つめる事がないように」

精一杯の祈りをこめ、美しき姫はドレスを脱ぎ出す。狂戦姫となるために。戦地

へ赴くために。人々を守るために。

 教会の女神像は、凶悪な魔鎧を見てもただただ慈しみの笑顔のままであった。

 


「姫さま、私もルーシーもすぐ行くからね!」

「敵は魔法使いと、後は魔物のサイクロプス。巨体と怪力がとりえでございます

が、なにぶんこの世界で魔力を多く持つことはかないません。ほとんどの場合、

容量の多い魔物は知恵が総身にまわっておりません。つまりバカ、ですな。とは

いえご注意なさいませ」

ギャリソンのアドバイスにうなずき、魔鎧に着替えた姫が駆け出す。手には巨大

な斧。野を駆け登り、草木を擦り抜け、崖を跳躍し、山頂の校舎を目指す。

「ぎひひ、さすが魔法の町の一等地だ。近づくと俺様のパワーも漲ってくるぜえ」

どら猫のような声が胸から聞こえる。セバスちゃん、と名乗る鎧の顔。

そう、ここは魔法が幅をきかせる場所。狂戦姫は一抹の不安を感じながらも、黒

煙のあがる魔法学校へ突入した!

ゴオオオウゥ…

 炎が至る所で上がる。学校は逃げ惑う生徒もまだいるようだ。

ガラララッ

「わあぁ!」

マリアと同年代くらいの少年が焼け崩れた壁の下敷きになりかかる。

「いけない!」

姫は飛び出し、少年を抱え壁を薙ぎ払う。そのまま校外へ連れ出す。

「あ、ありがとうございます…で、でも何ではだか…」

「! きゃああああーっ」

少年の問いに今度は姫が悲鳴をあげ、逃げ出す。

 心正しき者、純粋な者には凶悪な彼女の鎧は見えない。それが絶大な力を持つ

魔鎧の呪いである。どんな布も付けられない鎧に姫は素裸で入るしかない。そう

すると―――彼女は「はだかの王女様」に見えてしまうのである。

「ぐす、ま、また見られてしまいましたわ。神様のいじわる〜」

べそをかきながらもシアンを探すフロリーナ。その頃、氷の貴公子は。

「ひゃはは、燃えろ燃えろ!」

もはや誰でもかまわず攻撃する親衛隊。シアンたちは講堂にバリケードを作り対

抗していた。

(あいつら、どんどん正気が失われている…)

逃げそびれた下級生や怪我人をかばい、氷の壁を周囲に立てる。だが、質量のあ

る火球をぶつけられるたびにそれは砕け、溶けていく。

(ふん、弱い者など――自らを守れぬ者など放っておいても、いや、あの親衛隊

を名乗る馬鹿共を薙ぎ払っても、構わないんだが――)

ふいにマリアの顔が浮かぶ。

「―――どちらも怒るだろうし。甘くなったな、僕も。」

ゴオオオォ バキィ!

いよいよ氷壁が砕け始めた。魔道書を持つ手に力が入る。

その時。

厚い氷の壁の向こうにうっすらと人影が見える。



金髪、巨大な戦斧。すらりと伸びた四肢は――素肌のようにも。

「――バーサーカープリンセス、ただ今到着。あなた達が…心を魔道具に奪われ

ているのですね」

ブオオ! 巨大な火の玉がか細きシルエットに向かい飛んでくる。

「そこにいるのは、フレア姫なのか? 危ない、逃げろ!」

氷壁の向こうに叫ぶシアン。しかし…

ゴアッ

炎は彼女の前で一瞬で消えた。

「ぎへっへっへ、ごちそうさま」

別の声が聞こえた。そして姫の声が。

「シアンさん、他の皆さんもこの中にいるのですね? よかった…。マリアは冷

たい人だと言っていましたが、あなたはこうして罪なき弱者を助けています。本

当は心正しい、熱い魂の持ち主だと、わたくしは信じますわ」

「姫、僕のことはいい。あなたが魔法に対抗する力をお持ちなら、ダグラムを捕

まえてくれ。」

「ええ、わかりました。ただ、お願い、わたくしの戦う姿は…、絶対ゼッタイぜ

ーったい見ないで。見たらひどいんだから! 泣いちゃうんだから!」

「? え、ええ。わかりました」

氷の向こうのシルエットは跳躍し、親衛隊のいる方向へ消えていった。

10


「な、なんだ? お前」

「不気味な鎧だな」

ダグラムの親衛隊名乗る少年たち…特待生グループはひとかたまりになり、最大

級の火炎攻撃をする。が、狂戦姫には通じない。

「不気味なのはあなたたちの姿です。形相といい土色の肌といい、まるで死人で

すわ。」

「う、うるさい! 死ねえ!」

再度タクトを振り、火の玉を放つ。

「ぎひゃひゃ、炎ってのはこういうのを言うんだぜ〜」

グオオッ

鎧の胸にある悪鬼の口から炎が吐き出され、火の玉を押し返した。相殺され、爆

風だけが少年達を吹き飛ばす。

「わあああっ」

「そんな、ダグラム様の魔道具が通用しないなんて」

「助けて、ダグラム様あ!」

親衛隊は一斉に校庭へ逃げ出す。

ゴオオオオ・・・

炎と黒煙の渦巻く校庭に、その男はいた。

「むふふふ。仕留め損ねましたか。まあ、それも計算のうちですが」

赤の呪文のラインが入る黒い魔法衣装。赤毛のウェーブがかかった長髪をいじり

ながら、隻眼の男はつぶやいた。

「ダ、ダグラム様」

助けを乞う者に投げる視線は、まるで捉えた昆虫を観察する時のようだ。

「邪魔者はシアンの小僧だけだと思っていましたが、とんだ伏兵でした。その鎧

も魔法道具のひとつですね、お嬢さん。むふ、興味深い」

粘つく口調、粘つく視線。鳥肌を立てつつ返すフロリーナ。

「教えを説く教師の身でありながら、災いをもたらす邪悪なる者、観念なさい!」

「むふ、観念するのはあなたですよ。私の実験も大詰めです。召喚!」

ポウッ

校庭の魔方陣から現れたのは…例の巨人ではなく、三匹の小鬼だ。大きな耳、目、

口。鱗のような表皮。

「グギ」「グギギ」「グリリルルゥ」

小鬼は頭髪を逆立て、発光させる。

「あ、ああ!」

親衛隊の持つ黒いタクトが宙を舞い、魔物の方へ向かって行く。

「この魔物は? うん? か、体が!」

ギシ、ギギギ…姫は動けない。

鎧魔はただの鎧となり、女性である姫には動かすのが精一杯の重さへと変わっ

た。悪口をはたくこともない。

「むふふーん。道具を操り、狂わせる能力を持つ魔物グレムリン。タクトの制御

に呼んだつもりが、こんな役に立つとは思いませんでした。」

見ればタクトを取り上げられた特待生たちは老人、老女のような顔で瀕死の状態

だ。

「あ、あなたは…何を!」

「なに、魔法の力を固体の生命力から吸い上げるのがこのタクトでしてね、本人

たちは何も知らずに己の生命を削って派手な魔法に浮かれてたのですよ。

そして…」

十数本の黒いタクトは怪しい光を放ち、ダグラムを包む。

「こうして魔力を、集め、束ねることができるのだあ! むははははあ!」

隻眼が光り、髪がざわざわと蠢く。眼帯を外すと、つぶれた左目のまぶたに黒い

牙のタトゥがあった。

「私は黒い牙の幹部、紅蓮の魔導師ダグラム。潤沢な大地のマナも、青二才ども

の魔力も食らい尽つくしてさしあげます!」

 


「シアン、シアーン!」

ようやく学校に到着した一行。ギャリソンは逃げ遅れた生徒を扇動し、ルーシー

が救助、治療する。マリアはシアンを探しまわった。

カシャン。

講堂の奥で薄氷の割れる音。ふらふらと立つ人影。

「! シアン!」

「…君は本当に先輩と呼ばないな、Bランク…」

だっ。

マリアは勢いよく飛び出し、シアンに抱きついた。

「うわーん、良かったよぉ、生きてたー…ごめん、シアン。危険な役目をさせて。

わたし、全然気にしないで…」

涙ながらに謝る少女。さすがに動揺する少年。

「ぼ、僕は君が信じてくれたからここに残ったんだ。だから君もここに戻って来

た、それでいいじゃないか。ふん、なんだか僕らしくないけど。」

「…うん。」

シアンはマリアの髪をくしゃくしゃとかき回す。

二人は互いを見合い、ほほ笑み合った。

「さ、氷壁の中にいる子たちを逃がしてくれ。僕はフレア姫を…う、う」

ガクリと膝をつく。いかな氷の貴公子といえど、魔法消費のため体力を使い切っ

てしまったようだ。

「二人で行こう。今度は姫さまやシアンの役に立ってみせるから!」

マリアが少年の手をとる。

「――そうか。よし、行こう、マリア。」

 

 "君"から、"マリア"に呼び方が変わった。

11

「きゃああッ」

ドオッ!

魔力を蓄えたダグラムの黒い炎が狂戦姫を、いや、魔鎧の機能しなくなった姫を

襲う。

「むははは! 弱い、弱いですぞお嬢さん。その魔鎧も剥ぎ取って差し上げます。

あなたの連れのガキも、魔力を全部絞り取ってあげましょう。」

ボロボロのフロリーナ。いかに炎に強いとはいえ、質量のある火炎は姫を吹き飛

ばし、熱風は内部を焦がす。

「ああっ! く…やはり、その為にマリアを…校長は、まさか!」

「その通り。人のいい、馬鹿な男でした。彼なら地下の祭壇で冷たくなっている

でしょう。どいつもこいつも、この国の人間は甘すぎますよ。はっ、あの馬鹿王

の国ですから、ね」

「グギャ」「グギ」「グギギギィ!」

数匹のグレムリンが姫にかじりつく。きしむ鎧。

意識が朦朧とした姫だが、ダグラムの言葉は聞き逃さなかった。

「・・・・・なん、ですって・・?」

 鎧が突っ伏した状態から、声がする。

「むふん? この国の王は、馬鹿で、甘くて、国民も守れぬ、愚か者だ! そう

言ったのですよ。むはははは!」

ドウッ ドゥッ!

雨あられと魔導師から撃ち出されるの火炎弾。その中を、ゆっくりと、ゆっくり

と身を起こす魔鎧。

「む?」

「・・民からのそしりなら、喜んで聞きましょう。どんなになじられても、石持

て打ち付けられても。それが国を守れなかった王族の責というもの。

――でも、悪の手先が、誰より国と民を愛した国王を侮辱するなど、断じて、断

じて許しません!」

グオオオオォ! セバスが吠える。にわかに鎧は生物めいた動きをし、

胸の悪鬼の目とフロリーナの瞳が同調して光る。

「許さ・・ない・・ガアアアア!」

 

 マリアとシアンが到着した時。姫は変貌していた。シアンにも見える恐ろしげ

な鎧。その、体の各部の角や爪が伸び、武器を捨て、四つ足に近い体型になる。

野獣のような咆哮。

「あ、あれがフレア姫? 信じられない。――まるで、魔獣だ」

「ううん、いつもはあんなんじゃない! セバスちゃんも、私に見えるなんて

――あっ!」

マリアは真っ青になる。

「そう、魔力が増大し、闇の局面に取り付かれ、魔獣と化した姿ですな。いつぞ

やの闘技場の時のように」

背後から声がする。ギャリソンが到着した。

「おそらくこの地の豊潤なマナが魔鎧セバスの魔力を増大させたのでしょう。

そして、普段では想像もつかない程の姫の怒り。それらがあの化け物をふたたび

生み出したのでは」

ギャリソンの分析に、

「魔鎧か。そんな物を着けてまで、フレア姫は…」

シアンが沈黙する。

「どーしよ? ラッキーは…来るわけないか〜」

以前はラッキーの超人的な早業で鎧を脱がせたのだが、チキンな彼がわざわざ山

を登って助けに来るとは考えられない。

 どうなる、姫?

                             ・・・つづく。
 


                      小説indexへ 「ばーさーかー・ぷりんせす!」INDEXへ 後編へ 

●top ●index ●novels ●gallery1 ●gallery2 ●notes ●otehrs ●link ●BBS