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序章
はだかの王様
むかしむかし、あるところ。白い鷹の旗を掲げる国に、一人の王様がいま
した。
王様は先代王の息子ですから王様になりましたが、いつも自分は王様の柄で
はないなあ、と考えていました。人一倍賢いわけではなく、人一倍強いわけ
でも、威厳があるわけでもありません。ただ、そうなろうと人一倍努力はし
ました。
ある日、仕立て屋と名乗る男が、"愚か者には見えない服"を買ってほしい
と王宮にやってきました。その手の中には…何もありません。王様は仕立て
屋が嘘をついていたのはうすうす気づいていましたが、自分に知恵があると
思わないのでその服を着る真似をしてみせたのです。
「おお、なんと素晴らしい衣装なのでしょう」
己の体面だけを保とうとする大臣や、ひやかし、悪戯好きの家臣、今の政治
に不満を持つ軍人たちはここぞと裸の王様を褒めたたえました。
王様が裸のままパレードに出ようとした時、さすがにそれを止めようとす
る忠臣もいました。先々代の女王の頃から仕えている、執事のギャリソンも
その一人です。
しかし王様は、仕立て屋が金に困っていた事を知っていました。それに、家
臣を困らせることもないだろう、と思い、仕立て屋に謝礼を渡し、そのまま
パレードに出たのです。
そうして…
「王様、はだかだよ」
子供の注意に初めて裸だと気づいたそぶりを見せたのでした。国民の皆が笑
いました。王様も笑いました。生真面目だけど、どこか抜けている裸の王様。
国民はみな王様が大好きでした。王様の優しさに心ひかれた市井の娘は、そ
のまま恋に落ち、身分の差を越えて王妃となりました。
何年か経って、二人は花のように美しい娘を授かりました。執事の助言も
あり、女王と同じ「フロリーナ」と名付けました。二人は運命の王女を蝶よ花
よと愛で、慈しみ育てました。王様と家族は幸せに暮らしました。平凡な生
を授けてくれた両親と神に感謝をしつつ…。
…めでたし、めでたし。
本章
1
魔法の町、セイヴ。亡国の中でも特殊な存在である。北方の切り立つ山々を削る形
で住居は作られ、山賊や魔物を寄せ付けない、天然の自警と自治が可能な、いわゆる
小国家を形成している。
もともと変人や偏屈が多いとされる魔法使いたちが集い、集落を形成したのが始まり
で、町となったのは魔族との大戦後らしい。
無論、人のいい現国王が寛容な処置をしていたから出来た町である。凡人王、鈍重王、
果ては愚王と批判される向きもある彼の執り成しがあればこその町であった。主産業
は魔法による占いや自衛兵の派遣。その他薬や道具の販売。
もっとも、先の魔族襲来を予言できなかった落ち度のせいか、占いは影を潜めている。
(実際は国中が魔の存在を軽視してはいたのだが)
現在一番の稼ぎ頭は――――。
北からの寒風吹くその場所に、向かおうとする一行の姿が。
「ひい、寒くなりましたねえ。姫、こんな時はお互い抱きしめ合えば」
ドギャン!
にじり寄るカバン持ちのラッキーに、盛大な鉄拳が飛び込んで来た。

「ぎゃば!・・ぽ・・りふぇの〜
るぅ…」
張りのある美声が山に轟く。
「おだまりなさい、下郎!」
悶絶する細い男を振り向くでなく、
少女は歩いて行く。豪奢な金髪、
強い意志が見て取れる碧眼。質素だが優美で、花の香りがするピンクのドレス。
「姫さまぁ、着きました〜。ここがお告げのあったセイヴですう」
おっとり声のシスター、ルーシー。
「情報では、ここに魔導師ギルドの手掛かりがあるとか」
折り目正しい老執事、ギャリソン。
「うん、なんだか魔法の力がいるだけで上がりそう。ほんわかぱー!」
おきゃんな魔法使いの少女、マリア。
「ぎへ、俺様も調子いいぜ〜」
ラッキーが運ぶ巨大カバンの中でもドラ猫のような声が聞こえる。
亡国の王女、フロリーナとその一行は魔法使いの都、セイヴの町に足を踏み入れ
た。
2
多くの魔導師を輩出してきた町、セイブ。魔術をなりわいとするギルドも、ここが
出生の地とされるが定かではない。
暗躍する悪の魔導師の一団…通称『黒い牙』。高位魔族である蛇女ゴーゴンに転生す
るゴーザ、ネクロマンサーや幻術師、他にも怪しげで強力な魔法使いが跋扈している。
一連の事件と、フロリーナ姫の仲間であるマリアの師匠にして希代の魔導師、賢者プ
ロメテウスの行方を知るべく一行はこの町にやって来た。の、だが…。
「だめでございますな。セイヴでは占い、予言や人探しは禁止されておるとか。正規
のルートでないものなら可能ですが、莫大な金額になるそうでございます」
執事のギャリソンが淡々と算盤を弾く。

「それからぁ、姫様の賞金稼ぎのお仕事ですけど〜」
ゆったりと口を開くルーシー。
「ギルドみたいな何でも屋はないけど、魔法の自警団はあるからノーサンキュー、だ
って! 失礼しちゃうダワサ、ぷんすか」
魔法使いの衣装を少女用のドレスのように仕立てた服。ウェーブのかかった黒髪にエ
メラルド色の瞳がきらめく。見習い魔法使いのマリアだ。町民のすげない態度にぷっ
とむくれている。
表向きは賞金稼ぎだが、民を救うべく悪を討つのがフロリーナ一行の目的である。
とは言え霞を食べては生きられない。貧乏旅の一行には賞金稼ぎの報酬がないのは切
羽詰った問題である。
「仕方がありませんな。私とルーシーで教会に宿を借りてみましょう」
老執事が言うと、姫が申し訳なさそうに言う。
「あの…わたくしも働きますわ。お料理でも、お洗濯でも…」
「わ〜〜〜〜〜〜っ!」
姫の言葉を全員が遮り、引き止めた。
「だ、だいじょうぶですぅ。姫さま、心配しないで〜」
「ホント、オイラその辺で寝ても野草食ってもオッケーだから!」
王家のマナーや身分を保つため、彼女は家事いっさいをしたことがない。生来真面目
で不器用な性格が災いしてか、見事に、壊滅的に家事が苦手なのだ。破壊したキッチ
ンや衣服、正体不明の毒と化した食事は少なくない。
「ね、ねね、ここの名所の魔法学校を見に行こうよ、姫さま。何か手がかりがあるか
も。ねー!」
マリアがフロリーナとラッキーを引きずっていった。
「そ、そうですわね。魔導師ギルドや…あなたのお師匠様のことが判るかも…」
百年程度で出来たとは思えぬ、風情ある石畳、気品ある建物が並ぶ。そのまた先の
山の頂上に教養と家柄も良い子供たちが通う魔法学校がある。
ここがこの町最大の施設であり、商用の場だ。魔法使いを育て、技術を売る。領地を
守るため貴族が、兵隊くずれが志願することもあるが、主流は素質ある少年少女を裕
福な家庭が勉強と躾の両方を頼むべく送り込む、というものだ。
セイヴの町中は人も多く活気がある。魔族の襲来後、あらゆる都市や町、村が寂れ、
荒廃し、魔物や野盗の襲撃に怯えている。壊滅した場所さえあるのに比べれば此処は
格段の差がある。ただ、よそ者や部外者に対する態度は冷ややかだ。
「ちぇ、食べ物も服もどれも高いなあ。これじゃ何も買えないよ」
「魔法の商品も高そうだな。透視眼鏡とか透明マントとか、落ちてねーかな?」
ドゲシ!
「ぅごぼ!」
マリアの後蹴りがラッキーに命中。
「ラッキーのエッチ! 何バカなこと言ってんだー! まったくもう…あれ? 姫。
向こうに人だかりが。何か騒いでる」
姫は既に短剣に手をかけ、身構えている。
「ええ、皆さん、気をつけて!」
「ケンカじゃねーの? えらい魔法使いサマがたくさんいる町だ。魔物だって襲っ
ちゃこねえよ…」
ラッキーが茶化した、その時。
ドガッッ!
「ぅああああーっ!」
数人の魔法使いの自衛兵が轟音とともに吹き飛ばされる。
その中心から高くそびえるように現れる影。
「キャー!」「ひいいぃ」
叫び声と逃げ惑う人々をすり抜け、フロリーナとマリアは駆け寄る、と。
「ゴアアアアアァ…」
野太い咆哮を上げるゴリラのような体躯。ゆうに3mはあろうか。毛むくじゃらの顔
には表情も知性も、何よりパーツが足りない。
大きな一つ目の巨人。
マリアが叫ぶ。
「サ、サイクロプスだよー!」
「どわわーっ、重量級じゃねーか! ひええ」
そして、その手には…黒のマントに身を包んだ少女の姿が。
「いけない! 早く助けなくては!」
ダッ!
姫が駆け出す。強力な武器でもある魔鎧は置いてきてしまっている。しかしか弱き者
の危機を前に、彼女を止めることは誰も出来ない。
はたして姫は、マリアは、ラッキーの運命や如何に?

3
ガキュ・・・イィン・・
「くうッ」
ヒット&アウェイ。フロリーナは一つ目巨人に果敢に斬り込み、丸太のような右腕が
振り下ろされる前に飛びのく。狙いは少女を掴んでいる左手の筋だ。しかし針金のよ
うな剛毛と分厚い筋肉が短剣を寄せ付けない。
「ああっ、姫さま、危ない! んにゃろ、雷よ、落ちろッッサンダー!」
マリアが魔法を使う。
パリ、パリ…
しかし魔法少女の手から出るのはわずかな稲光のみ。
「わーん、ダメだ〜」
「はあ、はあ、せめて斧があれば…ラッキー、カバンを運んで…?」
姫が辺りを見回すが、カバン持ちの姿が見えない。
「ああー、姫さま、あっち!」
マリアが指さす方向。なんとラッキーはとっくに逃走中だった。
「! あ、あの恥知らずうう〜!!」
怒りを露にする姫。しかしサイクロプスは獲物を姫に決めたようだ。
「グガああああぁ!」
ブォン! なんと左手の少女を放り投げてしまった。
「きゃあー!」
さすがのお転婆マリアも悲鳴をあげた。少女は遠くまで投げ出され、それに注意を奪
われた姫を巨人の右の拳が狙う!
「!」
しかし惨劇は起こらなかった。巨人の腕は止まっている。
「…あれ? 急に寒く…」
ヒュウウウゥ…
町の広場は白い靄に包まれていく。
「まったく、なんて無様なんだ。まがりなりにも魔女の衣装をした者が」
冷たく響く若い声。白の魔法使いの服。青みがかったプラチナの髪。群青の瞳には冷
たくも激しい闘気が。

「―――フリーズ」
男の短めな詠唱と呪文。靄はますます立ち込み、サイクロプス周囲の温度をどんどん
下げていく。
「グゴオぉ…」
巨人の動きはより緩慢になる。足が薄い氷と共に路面に張り付く。
「―――アイス」
いよいよ空気中に結晶が現れ、雪に、固まりの氷になり、そして氷の弾丸となりサイ
クロプスへと飛び出した。
ヒュオオオッ
「僕に――――震えろ!」
白い魔法使いが鋭く叫ぶ。
ズガガガッ!
氷の飛礫が命中し、さすがの魔物もうめき声をあげる。
「グギャう! ゴううううぅ」
そのまま、のろのろと白い霧の中を逃げていった。
姫もマリア呆気にとられていた。よく見れば十代半ばの少年だ。マリアより若干
年上だろうか。
「あ、あんがと助けてくれて。あんた、だれ?」
不遜な顔でマリアをにらむ。
「Dランク。」
「へ?」
「主人ひとりに魔物退治をさせて、自分は魔法も満足に使えないなんて。最低だ。」
「うにゅ〜〜」
マリアは反論できない。
「はっ! 投げ飛ばされた女性は?」
我に帰り、姫が周りを見渡す。
「大丈夫です。もう一人の魔法使いも、ほら。」
少年が指さす。靄が晴れると、遠くに件の女性魔法使いが横たわっていた。
「きゅ〜〜〜」
そして、その下敷きになっていたのは…ラッキーであった。ラッキーが逃げ出した
方向に少女が投げ出され、ちょうどクッションとなったのだ。
「スズメも運が良かったな。でも魔法学生なのに身一つ守れないなんて、Cランク
だ。」
スズメと呼ばれた少女はまだ気絶したままだ。暗い色調の赤い魔法使いの服と帽子。
明るいブラウンの髪を後ろに縛り、黒の小さな羽の髪どめ。年頃はやはり少年と同
世代のうだ。顔は――分厚い眼鏡が邪魔をしている。
「お供のチンクシャとガリガリはひどいね、D判定で落第だ。でも主のレディは素
晴らしい。容姿、仕草、身体能力、そして見ず知らずの者を助けようとする慈愛と
勇気。特Aだ。」
フロリーナの手をとりその甲にキスをする。まるで大人と同じ立ち振舞いだ。
「初めまして。僕はシアン。セイヴ魔法学校の特待生で、警備も手伝っています。
美しき姫、ぜひお名前を」
「え? あ、わたくしはフレアと申します。ただの田舎貴族の娘ですわ、姫だな
んて」
「フレア…素敵な名だ。いいえ、あなたの行いはまるで王族のもの。お助けでき
て光栄です、フレア姫。」
頬を染める姫。「フレア」は彼女が身分を隠す為に名のる偽名だが、その名に
「姫」を付けられることはない。
「待て待てーい! 姫、こんなのに気を許しちゃダメだよッ」
マリアが割り込む。
「おまえには関係ない。子供は向こうに行きなさい」
氷のように冷たい視線を向けるシアン。
「ムカーッ、あんただって子供じゃない!」
どやどやと人の声。町民たちが戻り、黄色い歓声があがる。
「きゃあ、シアン様っ」
「いつもながら見事な魔法ですわぁ」
「さすが氷の貴公子。たいしたもんだ」
「シアンさまぁ、素敵〜!」
少年魔導士を称える人々。シアンは軽く受け流す。姫達は完全に無視だ。濃紺の
魔法使いの服を着た少年達が現われ、シアンの周りにとりまく。
「シアンさん、ご無事で何よりです」
「サイクロプスなんか、僕達でやっつけたのに」
「この女達は? ふん、よそ者か」
神経質そうな顔つきの少年達はあからさまな侮蔑の視線を送る。
「にゃに〜〜〜ィ!? ケンカ売ろうってぇの?」
マリアがにらみ、一触即発の状態。姫はマリアを抑え、シアンも軽く他の生徒を
制す。その時。
「こらこら、諸君、客人達に失礼だぞ。むふふん」
漆黒に朱の刺繍、赤毛の緩やかなウぇーブの長髪。細面に眼帯。遅れてきた長身
の男は鼻をならし、皮肉めいた笑顔をフロリーナとマリアに向けた。
「どうも我が校の生徒は人見知りをするようで。むふ、失礼。セイブ魔法学校の
校長代理、ダグラムと申します。」
怪しげな魔法学校の面々がそろう。急展開する運命をフロリーナ一行はまだ知ら
ない。
一方、魔法使いの少女の下敷きになったラッキーは…。
「あたたた…なんだぁ? 何かぶつかって…え、女の子? らっき〜〜♪」
覚醒したラッキーは目の前の少女、スズメを抱き締めた。

「お嬢さん、おケガは? おいらラッキーです。こっ、腰とか足とか痛くない?」
「・・・・・・う、ん・・・? ひっ!」
ドカ――ン!
衝撃波が少女から発せられ、ラッキーは吹っ飛んでいった。
「ありゃあ、ラッキー、また飛んでっちゃた…」
マリアが見守る。
「ああ、スズメはちょっとエキセントリックな子でね。ついでに男性アレルギー
だし」
シアンはこともなげに言い、再びフロリーナに熱い視線を送る。そして当のスズ
メは…
「・・・・・・ラッキー、さま…す、て、き…」
分厚いメガネの底に意味深な笑みを浮かべていた。
4
「ええーっ、私が魔法学校に、転入ぅ?」
「むふふ〜ん、どうでしょう? 良い話かと思いますが」
教会で。ギャリソンとフロリーナ、そしてマリアが赤毛の男と懇談している。魔
法学校の校長代理と名乗ったダグラムである。騒ぎが収まった後、突然宿を訪れ、
マリアを勧誘したのだ。
「ええ、一目でピンと来ましたよ。そちらのお嬢さんは魔法の素質があるようで
すが…いかんせん、きちんと勉強をしていない。今のままでは大きくのばすこと
は出来ないでしょう。どうでしょう、私に…魔法学校に預けてみては?」
ギャリソンが腕を組む。
「しかしながら、そちらは裕福なお子さんを預かることが多いと聞きました。せ
っかくですがそのようなお金は持ち合わせが…」
「むふふ、ご心配なく。我が町で災難に逢ったお詫びと、当方の事を詳しく知っ
てもらうため、体験入学ということで一カ月は無料です。その後続ける気持ちと
才能があれば、特待生として優遇しますよ。むふ」
姫も困惑気味である。
「でも…」
「うーん、姫さま、私、学校へ行きたい! いいでショ?」
マリアの快活な声に、フロリーナは驚く。
「よろしいの? あなたがそう言うのなら、問題はありませんけど…」
「むふふふ、決まりですね。明日学校へいらっしゃい。寮もあるから、食事も寝
床もありますよ」
「やったー! ようし、シアンなんかに負けないぞー」
夜、ダグラムが帰った後。
「本当に、よろしいのですか? マリア」
「この町はどうも排他的です。それと…もし、学校の関係者に『黒い牙』に関わ
る者がいるとしたら―――」
「マリアちゃん、朝ひとりで起きれます〜? お勉強、大丈夫〜?」
姫が、ギャリソンが、ルーシーがかわるがわる聞く。皆、それぞれが心配なのだ。
「うん、正直不安、イッパイだけど。でも、この前サイクロプスと戦ったとき、
思ったんだ。私も魔法で姫さまを助けたいって。お師匠だって、そう願ってるは
ずもん」
真剣な面持ちのマリアを、ラッキーがぽんぽんと頭をたたく。
「えらい! さすがマリア、後はオイラに任せな。姫とルーシーはオイラ以外に
は指一本触らせねー」
ドカン!
マリアのドロップキックが炸裂。
「あんたが一番危ないの! ラッキ〜〜、私がいない間に姫さまに変なことした
ら、タダじゃーおかないゾ!」
「ゴボハ! りょ、りょうかい〜〜」
まだ複雑な面持ちの面々に、
「任せてみんな。危なくなったら退散するけど、魔法も習って悪い奴らをやっつ
けたり、お師匠も探せるようになってみせるから!」
マリアは胸をドンと叩いた。
「けほけこ」
咳き込むマリアを、やはり心配そうに見守る仲間であった。

―――学校であろうか。
暗がりの校舎のとある部屋で、「その者」は禍々しい、闇よりなお暗い黒煙に包
まれた女性の虚像に跪いていた。ぞっとする美貌と闇に光る目…それは双瞳だけ
ではなく、長い黒髪から鎌首を持ち上げる蛇にも見て取れる。
「計画は、順調のようだねえ」
「ははっ。ゴーゴン様には必ずや上等の…を、献上してみせますゆえ」
満足した笑みを浮かべ、魔女の虚像は消える。跪いていた影もまた闇に紛れてい
った。この地にも「黒い牙」の邪悪な陰謀は蠢いていたのである。
…つづく。
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