ちょっと怖い小咄。


 
小咄其の九拾参   マ ス ク

「最近、マスクしている人が多いですねえ。かくいう私もですが」

春、のどかな昼下がりの公園で。半平太さんはベンチのとなりに座

った男に話しかけられた。ちょくちょく見かける公園の常連さんだ。

大ぶりの白いマスクのまま、ふごふご語り合う。

「まったくですな。去年の風邪がまだ抜けんのですわ。おたくもです

か?」

「いやあ、私はインフルエンザで。ようやく治ったと思えば、今度は

花粉症ですよ。杉の花粉が終われば次は檜、その次は、えっと…」

くしゃみと咳が交差しながら男は指を折る。

「マスクを外す暇もないですなあ、はっはっは」

「まったくです。」



 挨拶をして別れた後、半平太さんは気が付いた。

「…そういえばお隣りさん、去年の夏もマスクをしていなかったか

な?」

 


 数日後、半平太さんの近所で逃亡中の殺人犯が逮捕された。

男はマスクをして顔を隠し、数年間に渡り潜伏していたらしい。聞け

ば半平太さんを含めご近所一帯、誰も顔を見たことがなかったという。


 

・・・おしまい。

2009/3/22(日)  up

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