|
「この前食べたお魚ってえ、骨が付いててマジむかついた〜」
「えー魚って刺し身しか食べたことないけど、生き物なの?」
若い主婦や女性の無責任な会話を聞きながら、インテリめいた顔つきの青年、
遊星半平太さんは奥さんと歩いていた。これからスーパーでお買い物、であ
る。
「はあ、今の子って、魚が最初から食べやすくなってるって思っているのか
しら」
「まあな。アメリカだってカウとビーフ、ピッグとポークとかって別だから。
しょうがないだろ」
夫の話に不承不承うなずく奥さん。
「あなたは食べるだけだから。作る身になればいろいろ大変なんだから、感
謝しなさいよ、モー」
「それなら大丈夫。僕も作る側だからね。今のスーパーにも僕の作品、出回
ってると思うよ」
「? だってあなた遺伝子学者でしょ? 調理人や魚屋さん
じゃあ、ないわよね」
半平太さんは鼻歌まじりにパックに入ったピンク色の切り身を手に取った。
「これ、僕が作ったの。遺伝子学的に生み出された食べやすいお肉なんだ」
自慢げにパックを弾いたり撫でたりしている。
「へえ、そんな事もしてたの? やっぱ食料不足の解消とかそんなののた
め? どっちにしても売り物をそんなに手荒に扱っちゃ駄目よ。肉が痛むし
ビニールが破けちゃ…あっ!」
びり。
謎のピンクの肉のパックは破れ、中身が飛び出てきた。
そして…
「ピギャア」
四角の切り身は器用に四隅で立ち上がり、そのまま駆け出していった。
「しまった。まだ生きてたまんまだ。生きが良すぎたかな、ははは」
メガネの奥の夫の顔を、奥さんは必死の形相で見つめていた。
|