ちょっと怖い小咄。


 
小咄其の六拾壱   萌 え ナ ビ

 深夜の高速道路。ぴろりろ〜ん、と緊張感のないアラームが車内

に響く。

『ご主人様、次のインターでお降りくださいませ』

女性の甘い声でガイドが入る。

「おっ、これがアキバで買った新しいカーナビか?」

助手席に座っていた三船が感嘆の声をあげた。その反応に小田蔵は

満足そうに答えた。

「すっげぇだろ? しかも」

ナビのスイッチを切り替える。

先刻とは違う音色で淡いピンクの小箱は、

『あの、ご主人様、じゃなくってぇ、お兄ちゃんって呼んでいい?』

と聞いてきた。

も、萌え〜〜〜! こりゃいいや」

小田蔵はさらににんまりとして言った。

「だろだろ? さらに」

機械は次々と幼い声でアナウンスを繰り返す。

『とばさないでね、お兄ちゃん。あと500メートルで着くから

ぁ…』

指示に従い、小田蔵はでれでれの破顔のまま一般道路に降り、車を

爆走させた。すると、

『あ、危ないよお!』

せつない声が。

萌え萌え〜!

三船もでれでれだ。

「いーだろいーだろ。この声で駄目とか言われるとさらに萌えるん

だよなー」

「ななな、もっと聞かせてくれよ、な!」

三船は大乗り気だ。小田蔵も目を血走らせて叫ぶ。

おー!

『お兄ちゃん、そこは駄目ぇ〜!』

 

 

「・・・・で、カーナビに駄目って言わせるために、スピードオー

バーと逆走を繰り返し、ビルに突っ込んだ、と?」

 取調室で。おまわりさんは宇宙人でも見る目付きで包帯だらけの

二人に職務質問をしていた。


 ========おしまい。=========

2006/12/9(土)  up

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