ちょっと怖い小咄。


 
小咄其の六拾壱   こ わ が り

 とにかく怖がりでいけない。

竹之内半平太さん(32)は、会社でも同僚が怪談やホラー映画の話を

すると席を立ってしまうし、停電の時など悲鳴をあげてしまったほ

どだ。

 残業で深夜の地下鉄に乗った時。

彼とて都市伝説や怪談を知らない訳ではない。なるべく乗客の多い、

明るい車両に乗る。例え座れなくても。窓の外は見ない。例え暗闇

だけで反射して見えないとしても。

疲れた顔の並ぶ車内を見ても面白くもないが、眠れもしない。

半平太さんは、少しだけ窓を覗こうか、と考えた。誰か外から覗い

ていたり…

ぶるぶる!

(いやいや、いかんいかん。)

彼は想像すら止めた。だが…。

気になりだすと止まらない。見るべきか、見ざるべきか?

そおっと。

恐る恐る車窓を見る。

ひっ! …あ、あ」

白くぼおっと浮かび上がる顔がひとつ。なんのことはない、見えた

のは自分の顔だけだった。

「あ…当たり前だよな、自分の顔が映るのは。はは、は。

・・・・・・はあ?」

 自分の顔だけだった。窓の向こうには半平太さんだけが見える。

その向こうには他の乗客も、車両すら映っていなかった。

急に心許なくなった座席の端を握りしめ、彼は振り返り、生気のな

い乗客を見つめ直した。

 それから、もう一度だけ、ゆっくりと。

窓の 向こう を 見 た ・ ・ ・ 。


 ========おしまい。=========

2006/8/12(土)  up

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