ちょっと怖い小咄。


 
小咄其の伍拾壱   地 下 鉄 で

 夕方の地下鉄。

あわただしく人が行き交う中、帰り道を急ぐ私は、視線の端に奇妙なものを認めた。

・・・男の、顔だ。

何処にでもいそうな平凡な顔の男。ぎょっとしたのは首だけが浮いているように

見えたからだ。よく見れば通路の途中の壁の窪みに身体をうずめているようだ。

目だけがくるくる動いている。

すると、すいっと手が壁から出てきた。

帰宅ラッシュ、響くアナウンス、喧噪。人は皆、そんな男を振り向いたりはしない。

足早に通り過ぎるだけだ。首と手の男はすごく落胆したような顔になる、が、すぐ

もとの目をまわす素頓狂な顔に戻った。手招きをするような仕草をしたり、耳打ち

をするように口元に手を近づけたりしている。

さも「お得ですよ」とでも言うように。

発車のベルが鳴る。遠目に見ていた私も時間に追われる身だ。その場を離れようと

した。

その時。

会社員だろうか。さえない中年男性が壁の男にふらふらと、近づいていった。

そのまま壁の窪みに誘われるように首と手を前に出す。さっきと逆に身体だけが壁

から出ているようだ。

私は何故か目が離せなかった。中年男はそのまま動かない。喧噪も聞こえない。

 しばらくして、

その身体は壁の窪みから抜け出した。それは、



それは



目がくるくると動いている。手招きをしていた男の顔だった。

嬉しそうに、本当に嬉しそうに男は、こちらを向き、私を見た。



手招きをした。

                   


 ========おしまい。=========



五十一話です。今回ギャグがないです。棒球です(苦笑)

都会に限らず忙しさに我を忘れる、消耗すると「忙殺」なんて言います。
やっぱそれは人らしくないのだなー、とか考えちゃいます。最近仕事が
ボリュームアップなせいか、人外の者になりつつある自分(^^;;)。

ウェブのお友達、tokuさんやカヲルさんの感想では、諸星大二郎先生の
「不安の立像」を思い出すとのこと。うう、アレっすよね。怖いなあ(^^;)。
「妖怪ハンター」の「ヒルコ」なんかだと"物理的に入れ替わる”エピソード
でした。こわこわ。
今の漫画で言うなら「不安の種」あたり、とか。
不安の種はぎりぎりシリアス系の絵に思いきりデフォルメ利いた「異形」が
味を出してます。ちょっと前なら「寄生獣」がそんな感じ?

手招きされた私は、いずれまた通りの誰かに手招きし・・・
まさに顔面たすきリレー(笑)。

 * * * * *

もうひとり、あき様から、小咄を頂きました。

ある夜、自宅近くを車で通った時の事。

左前方から近づいてくる歩行者をヘッドライトが照らし出した。
夜間で視界が悪く、また、道もやや幅が狭かったため、
私は少しスピードを落としてその歩行者を避けた。
すれ違いざま、私はある事に気付いた。
その歩行者は灰色で裸足の「足だけ」だったのだ。

以上実話です。


うぎゃーん、実話はこわいよ〜お〜駄目なんです私へタレで(^^;)。
という訳で、あき様ありがとうございました。


2005/08/02 (火)  up

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