ちょっと怖い小咄。


 
小咄其の伍拾   お せ っ か い

 これでおしまいか。たいした人生じゃあなかったな。

溝呂木半平太はひとりごちた。

顔がマズイと親には虐待され、友人には借金の保証人にされて逃げられ、恋人は

結婚詐欺で上司は不祥事を全部押し付けた。

飼い犬まで手を噛む。

その上やたら長い名前の病気にかかってしまったらしい。治る確率は小数点いくつ

だ?

…せめてデカイ犯罪でも起こして華々しく散ろうと思ったのに、よりによって酔っ

払ってため池に落ちておぼれ死ぬとは。

水面を照らす月光が遠くなる。大きな気泡が上がり、やがて見えなくなる。

意識が抜けていく、ああ、楽になるのだ。

沈む体とは反対に意識は天へと向った。とりあえずは極楽行きか? こりゃいいや。

水面を飛び出し、いざ天上へ、と思った瞬間。

「がっき」

と何者かが足を掴み、浮遊に急ブレーキがかかった。

見れば半透明の自分の足首を、水中からのびた陶磁のように白い手が掴んでいる。

「ぅわ何だあんたナニモンだナニをする!」

慌てた半平太は両足を無茶苦茶に動かし、手を払いのけようとした…が。

相当根性を入れてるらしい。手の主は池から出てきた。蹴られた痕をさすりながら

も、にっこりと微笑んで。

「お待ちなさい。あなたの落としたのはこの汚い体ですか? それ

ともこっちの綺麗な…」

ため池の妖精だった。可愛らしい羽まで生えている。

どうやら、あのため池は有名な
「アレ」らしい。

どうしてもあの
「どっち?」をやりたいらしい…ため息をついた。



どうも、死んで楽にもなれないようだ。半平太はちょっとだけ、気持ちの向き様

を変えることにした。にか、と今までは出来なかった笑みを浮かべ、彼は言った。

「俺が落とした体は、な・・・・・・」

                       

                   


 ========おしまい。=========



五十話、到達しましたぁ〜。

これで一区切り。また一から、という気持ちで書いていきたいと思います。
読んでくださるかたがあらっしゃるうちは。有り難うございました(^^)

* * * * *

さて、掲示板に拙作を出した時に溝呂木くんと妖精さんのその後の話題が出ました。

◆mikenekoさんの場合

「俺が落とした体は、な・・・・・・」
…妖精は「ああ、嬉しい。これでやっと…」と、にっこり微笑んで成仏して
逝きました。
                                                

…おしまい。
苦しい思いを持ったまま死んだ人(自殺者)は、あの世でも楽にはなれず永遠に
苦しい思いのまま彷徨うのだと…そう言ったのは誰だったのか…。

いつまでも追える背中をいかに残せるか、ですねぇ。
私の親父は入院・介護が続いてもリハビリは出来るだけ努力してたし、何より紳士でした。
いつもはすっげぇ仏頂面なのに、カミサンと娘が見舞いに来るととたんにニコニコして
…たんに女好きだったかもしれないけど(^^;)。
まあ、そんなふうに生きたいです。すんません湿っぽい話で(^^;;)

で。私の場合。

 いろいろあって、

溝呂木半平太は頑強で男前の身体を手に入れ、親をあっと言わせ、友人は

捕まえ弁償をさせ、恋人だった女には逆玉の詐欺を仕掛け、元上司には情

報のリークで失脚、会社から多額の示談金をせしめることに成功した。

犬も猫なで声で擦り寄ってくる。

「とりあえず、やることがなくなったら元の身体に戻してもらって、闘病し

てみるさ。うまく治ったら手記でも書くか。

何よりこの“いい顔”ってのはどうにも気持ちが悪いし、な。」

 ため池で釣りをしながら、彼はひとりごちた。

水底では妖精が腕まくりをし、次の客を今か今かと待ち構えている。

半平太はにかっと笑った。




ってーのも、エンディングのひとつ(^^;)。


2005/7/17(日)  up

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