ちょっと怖い小咄。


 
小咄其の参拾七  愚者の贈り物

 あるところに年の離れた夫婦がいた。

女は美しいがたいそう派手好きで遊び好き。男は若いだけがとりえ。

男は彼女のために夜も寝ずに働き、プレゼントを欠かすことはなかった。

それでも女の欲望の泉は潤うことはなかった。

「やっぱりあんたみたいな若いだけの男じゃ駄目ね」

そう言われるたびに男は必死で彼女に応えようとした。

そんな二人も年を取った。これで遊びも落ち着くかと思ったが…

「私は若さを取り戻したいわ」

と女が言い出した。

あらゆる方法を探したが効果はなく、とうとう金も住まいも無くした男。

「はあ…どうしたらいいんだろう? 彼女の願いがかなうなら命だって掛けるのに」

その時、暗がりから唐突に嗄れ声がした。

「ぎゃっぎゃっぎゃっ。それなら話が早い。オレと取り引きしろ」

現れたその黒い影は、世間一般に言う「悪魔」の姿をしていた。

「ひいっ! あ、あんた悪魔か? 取り引きって…ままっまさか俺の命と引き換えに、って? そ

れじゃ困るよぉ」

神も仏もない、という顔で男は泣いた。

「なに恐れることはない。お前の強い愛情に感激しただけさ。ちょいと辛いが、命まで取りはしな

い。彼女の若返りは約束しよう。さ、取り引きしろぎゃっぎゃっぎゃっ。」

結局、男は悪魔と取引をすることにした。はたして女は若返り、命の躍動に満ちた美しさを取り戻

した。代わりに男は命までは取られなかったが、見る影もなく老け込んでしまった。

再び遊びに行こうとする女。それを寂しそうに見送る男を、女はまじまじと見つめた。

「あなた…あなた、なんて素敵なの。そんな切ない目で私を見ていたなんて」

「お、お前…!」

年を重ねた陰のある男の容姿に、女はいっぺんに恋に落ちた。二人は揃って年上趣味だったのである。

二人の願いはかなった。お互い他人のことを思わぬ自分本位の贈り物によって。


 ========おしまい。=========

2004/06/6(日) UP


  おまけ

それでは悪魔は本当に慈善事業をしたのだろうか?

「ぎゃっぎゃっぎゃっ。オレはちょっとだけ寿命のパイプをつなぎ代えただけ。一番コストのかか

らない魔法さ。

男は間もなく寿命で死ぬから不当に命を取るわけじゃあない。女は最愛の伴侶を見つけた途端、長

い後悔の余生を送る。死と不幸、一挙両得ってわけ。ぎゃっぎゃっぎゃっ。」

 ========ホントにおしまい。=========

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