| 春一番も吹き、暖かさも増した頃。 「ぶぇっくしょん! っきしょーめ。なんで花粉症なんかあるんだよ」 ところ構わずクシャミをし、杉裏太陽くんは毒づいた。 「ほーんと。なんだかクシャミする人、増えたわよね。私はかかってないからいーけどー」 彼女の吹雪一恵さんは春の散歩を満喫中だ。 「っくし! ふん、言ってろ。花粉症はなー、急にかかるんだぞ。アレルギーの抵抗力が限界こえた ら、いきなり鼻が」 ずびずばーと鼻をかみながら杉裏くんはさらに毒づいた。 「もともと戦争で負けて焼け野原になった所に杉の植林って始まったんだよな。土を丹念に耕して植 えやすくして。ここまで増やしてやったのに花粉なんぞで迷惑かけるなんて冗談じゃねえや! 杉な んか全部切っちまえばいーんだ。ぶしっ!」 目薬を注しながらなおも悪態をつき続ける。 「でもなんだか変なのー。こんな狭い日本で杉いっぱいになって、花粉飛ばしてどこに次の杉が生え るんだろ?」 彼氏の惨状など気にせず、散歩の速度をあげる吹雪さんがつぶやいた。 「ぶわっしゃ! そりゃあうまくコナレた土壌があればどこでも生えようとするんだろうよ。 どうせアスファルトやコンクリートだらけの日本じゃもう無理…」 杉裏くんの顔が真っ赤になった。 「へっ、へっ、へっ…」 花粉症の症状の初期段階が終わった。 杉裏くんは抵抗力の限界を超えたようだ。 「へ〜〜〜っくしょん!」 とびきり大きなクシャミに驚いた吹雪さんがボーイフレンドを振り返る。彼の首から上は杉の木が、 ちょこんと生えていた。 |