ある美容師さんの祖父のはなし。
その美容師さんの祖父は、自動車の整備士をしていた。
けれど配置換えで営業にまわされた。
営業の経験などなかったけれど、祖父は車のセールスに精をだした。
なかなか売れないままだったが、1ヵ月後、品の良い夫婦がやっと契約をしてくれた。
当時人気のサンルーフ付きのピカピカの新車は、無事に納車され、初めて車を売ることのできた祖父も、とても喜んだ。
ところが、それから1ヵ月後、定期点検で祖父がその夫婦の家を訪ねると、その夫婦は、車を手放したいと言う。
不備でもあったかと祖父は訊ねたが、理由は教えてもらえなかった。
努力して、やっと初めて売った記念の車は、そのまま中古車として売り出された。人気のサンルーフということもあって、
その車はすぐに売れた。
ホッとしたのも束の間、また1ヶ月後そのサンルーフの車は返って来た。やはり理由はわからない。祖父にとっては記念の
車だっただけに、愛着を持っていた祖父は徹底的に車を調べたが何も異常は無かった。
そしてまた、そのサンルーフは、新しいオーナーの下に納車されて行った。
だが、またサンルーフは返って来た。そんなことを繰り返し、5人目のオーナーの手を離れた時、祖父は頼み込んで
理由を訊ねると、その人はこう言った。
「夜間走行中、スイッチを入れていないのに、音も無くサンルーフが開いてしまうんですよ。停止ボタンを押しても駄目だし。
気味が悪いので、ルーフのヒューズを抜いたりもしたんですが……。」
元々は整備士の祖父は電気系統も丁寧に点検したが、何の異常も見られなかった。
そして、4人目のオーナーに話を聞いた。
「大体の事はわかっていますから 仰ってください。」
祖父の言葉に4人目のオーナーは
「私もそうでした。最初はどこか緩いのか?と思い、ガムテープで固定したりもしたんですが……。」
と答え、言いづらそうに
「サンルーフが全部開いた後に……、そこから子供が中を覗き込んでいたんですよ。……無理に信じていただかなくても、
いいですけれどね……。」
自分でも困ったような表情で言った。
祖父はその後も理由を聞き、最後に『最初に車を買ってくれた上品な夫婦の下を訪ねた。夫婦は
「ああ……、やはり、そうでしたか……。おそらく、その子供は、私達の子供です。」
夫婦は涙ながらにそう言った。
当時、人気のサンルーフは珍しく、子供も喜んで、そこから顔を出していて起こった不幸な事故だったらしい。
祖父はあのサンルーフがなぜ帰って来たのか知ったが、整備で直せる分野ではないと悲しくなった。
その後、祖父はサンルーフのことは考えないことにして仕事を続けた。サンルーフの車は、その後も転々と売られては
戻っていたらしい。
もう、50年も前の話だから、今はさすがに廃車になっているだろう。
おわり
ないのがなんとも怖いっす。
この話をはじめ聞いた並木さんの職場の皆さん「オチは〜?」と大騒ぎだったとか(^^;)。オチを要求するあまり、並木さんを軟禁
・恫喝したりしたら…『ミザリーズ』になってしまふ(^^;)