並木様(其の弐) 結 構 怖 い 小 咄
ある日、福井県の海岸を浦島ジン太郎が歩いていると、波間に黒いものがプカプカ
と浮いていました。何だろうと思ってジン太郎が見てみると、それは人の形をしたカ
メでした。捨てておくわけにもいかなかったので、ジン太郎は渋々介抱してやるとカ
メは直ぐに元気になり、
「お礼に竜宮城に来てください。」
と言いました。面倒だ面倒だ…と思いながら断ると
「竜宮城は、とてもいい所で、夢のような理想郷ですから。」
とカメがしつこく迫るので、ジン太郎は
「ちょっとだけだからね。」
と言ってカメの乗って来た潜水艦に乗り込みました。
竜宮城に着くとジン太郎は盛大な歓迎会に招待されました。沢山の綺麗なおねぇち
ゃん達がシャキシャキと歩きながらマスゲームを見せてくれたり、向かいのスタジア
ムの客席ではパネルが色とりどりに様々な模様を描き出します。ジン太郎はつい見と
れてしまいました。
ところがある日、海を隔てた国交のない国から『純ちゃん首相』という人物がやっ
て来ました。
「『純ちゃん首相』は踊りも見ないし、お昼ご飯も一緒に食べてくれないんだ。説得
してくれないか?」
とカメが言いました。ジン太郎は、面倒に巻き込まれるのはごめんだな…と密かに思
っていましたが、あれよあれよと言う間に『純ちゃん首相』の元に連れて来られてし
まいました。
ン太郎は、つい『純ちゃん首相』に駆け寄ってしまいました。すると『外務省』と書
かれたネームプレートを付けた強面の男に捕まってしまいました。
ジン太郎は狭っ苦しい松茸の匂いのプンプンする箱に押し込まれてしまいました。
何だか飛行機やターンテーブルや車やキャスターに乗せられて、気が付いたらどこぞ
の官邸の倉庫に詰込まれていました。
やっとの思いでジン太郎が外に出てみると、隣の部屋でテレビが点いていました。
画面の中では、昔見たことのある人によく似ているけど染みと皺が消えている小さな
人が、
「ふっふっふっ。生鮮食料品ですから処分しました。」
と言っていました。テレビの周りの人達は七輪を囲んで何かを焼きながら、お醤油を
チョチョッと付けて食べるのに必死で、ジン太郎には全く気付きません。ジン太郎は
その部屋を後にして奥の部屋に向かいました。するとそこには『純ちゃん総理』がダ
イヤルのない電話で間に翻訳コンニャクを食べながら話しています。
「なーに。拉致被害者を還さないって事で国民感情は高まっていますよ。12月の開
戦には間に合いますって。」
と話していた。
どうやら、いつまでもここにいても面倒臭いだけで、ウチの美味しい新米にはあり
つけないぞ…と判断したジン太郎は自力で家に帰りました。すると、まだ小さかった
筈の娘が大人になっていました。娘のスカートの裾には、小さな頃の自分と同じ顔を
した子供が見え隠れしています。
「どーちまちたかぁ〜?」
ジン太郎が子供に声を掛けると、大人になった娘が
「おじいちゃんっ!てっきり拉致されたものだと思っていたわ〜。今までどこに言っ
ていたのよ〜。」
とジン太郎の胸に泣きながら飛び込んで来ました。
その後、ジン太郎は娘夫婦の家でかみさんと孫の5人で楽しく暮らしましたとさ。
体壊したからなー。ってか、彼の入院は、彼のお世話になった人が失脚そうで面倒臭
い時に集中してるけどねー。ははは。
初出:2002/10/12 (土) 14:55