紅 の 刺 客

-どろろ外伝-


 「なあ兄貴〜、はら減ったよお。」

「我慢しな。この森を越えないと村はないぜ」

戦乱の世、妖怪を倒し、旅を続ける百鬼丸とどろろ。深い霧の中、丈の短い紅色の着物をまとった男

と遭う。

長髪を無造作に縛り、痩身に整った顔立ち。一見女性のようにも見えるが、その眼に宿るのは、暗い

殺意めいたものだった。

「追っ手め…逃がさん!」

男は有無を言わさず二人に斬り込んだ。対峙する百鬼丸。しかしその相手は今まで戦ったどの相手と

も違った。超越した速さ、変幻自在な技、恐ろしいほどの気迫。

(こいつ…忍者だ。それも相当の手練!)

慣れない忍者相手の戦闘に不意を突かれ、苦戦する百鬼丸。妖怪たちとの死闘の傷も癒えないままだ。

森に連れ込まれ、手裏剣を撃たれた百鬼丸は思わず中空へと跳んだ。

「!」

それが忍びの狙いだった。素早く背後にまわり、万力の如き力で羽交い締めにして頭部から落下する。

必殺の忍法「飯綱落とし」である!

「しまった!」



もう少しで激突、と思われたが。

「なにいっ!?」

咄嗟の判断で忍者が百鬼丸から離れた。 (こいつの背中は危険だ)と忍者の勘が叫んでいた。なん

とか体勢は整えたが、二人は大地に叩きつけられ、大怪我を負う。

 その時。

「…小賢しい。この抜け忍ならと思うたが、やはりわらわがとどめを刺さねばならぬか」

おどろおどろしい声が聞こえる。霧の中から現れたのは…。

「ああー! あいつはまいまいおんば! なんで? 兄貴に倒されたはずなのに?」

どろろが叫んだ。般若の形相に蛾を模した装束。その姿は以前倒した蛾の妖怪のものであった。

(どろろちゃん、あいつはまいまいおんばの姉の妖怪よ)

頭の中に声が届く。かつてまいまいおんばに殺され、二人が魂を救った子供達の霊だ。

「そーかあ、あの兄ちゃんもあの霧みたいなのに操られてたんだな? 行くぞーどろろ様の必殺技

っ! ワアア---------------っ!!

カムイに掛かっている催眠を得意の大声で覚まさせるどろろ。どんなに強い精神力の持ち主にも弱味

はある。彼…カムイには「抜け忍」という負い目がある。そこを突かれ、操られたのだ。

まだ動けない百鬼丸にもまいまいおんば姉の催眠攻撃が仕掛けられる。

「ちくしょう、頭がぼんやりしてきたぞ…誰だ? ああっ、お前は!」

豊かな髪に慈愛を込めた瞳。直接顔を見てはいないが、彼にはわかる。死んだはずのみおが現れたの

だ。剣も心も未熟な時、助けられなかった最愛の女性。その姿に心の隙を突かれる百鬼丸。

ふらふらと付いて行きそうになる。どろろも声が枯れて大声が出せない。

(駄目だ、このまんまじゃ兄貴がやられちゃう!)

どろろは声を振り絞った。

「兄貴はおいらが守るんだ。死んだものが出てきちゃいけない!」

その声に百鬼丸は覚醒する。みおの幻は、微笑みながら消えていった。

「おれは…そうか、あの妖怪が。おのれ!」

カムイも参戦、変化抜刀霞切りが炸裂。

「おのれーっ!」

姉妖怪に羽交い絞めにされる百鬼丸だが、その時! 背骨から鋭い槍が飛び出し、姉を貫いた。

「うぎゃああああっ!」

カムイが先刻離れたのはこの武器に気づいたからだった。火遁の術と焼水で火達磨になる姉妖怪。末

路は、妹のそれと同じであった…。

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 子供たちの霊も成仏し、百鬼丸の背から血しぶきとともに人工の背骨が転がり落ちた。妖怪の命の

引き替えに取り戻せる本来の身体。本当の背骨が生えたのだ。

礼を言い去って行くカムイ。

「へへへ、カムイの兄貴のほうが強そうだったね?」

悪態をつくどろろ。百鬼丸は微笑み、二人は寄り添うように歩いていった。

========終わり=========

 


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