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ぷうんと、饐えた臭いがする。それから食欲をくすぐる甘い香り、香ばしいにおい。中
堅製菓会社<KYORITZ>で。そこに勤める高須三平太は大量の汗をかきつつ、悩んでいた。
上司である営業課長に現在の体重を半減させなければリストラすると告げられたからだ。
「うーん、痩せなくちゃなぁ。でも運動は大変だし、薬は苦いし…」
食事制限ははじめから考えていない。悩む間も自社製品を己の口に運ぶのを忘れない彼で
あった。
帰宅途中、いつものバイキングレストランを出ると、見慣れない看板がビルの端にある
のを目にとめた。
<大藪美容外科 痩身手術 モニター募集>
とある。
「ああ、この手があったかぁ。こりゃ楽だ〜」
躊躇なく三平太は古臭いビルの扉を叩いた。
「…はい、手術終了。包帯と絆創膏は明朝には取れます。あとはレポートを出していただ
ければいいわ。」
スレンダーだがめりはりのある容姿が白衣に見え隠れする。女医は手術の片付けをしなが
ら言った。
「あのぉ、ホントにもう終わり? ホントにお金も掛かんないの?」
麻酔でまだ朦朧とした頭で三平太は訊ねた。あまりに都合が良すぎる。
「ええ、あくまでも新技術の痩身のチェックが目的ですから。ただ再手術は行えませんか
ら、リバウンドには注意して下さいね。あなたが日々の努力を行うか、その容姿に自信を
持っていれば、問題はないけど。そうでけりゃ、あとで綻びがでるわ。覚えておくこと
ね」
薄暗がりの診殺室、女医はささやくよう言った。
次の日。出社した三平太を見て、社員全員が朝茶を噴出し、卒倒し、絶叫した。
体積が半減したと言ってもいいだろう、少しだけふくよかな三平太がそこにはいた。
「き、ききき君、ホントに高須君か? んな馬鹿な、いやでもその顔はしかし」
課長も脂汗を流し、さわやかに笑う男にい質した。
「ははは、やだなあ、僕に決まってるじーないっスか。…これでリストラ、ないですよ
ね?」
コロンの香りがする。三平太はにんまりと笑った。汗ひとつかかずに。
高須三平太はダイエットに成功した。他の男の驚きと羨望の目、女達の憧れの眼差し。
体が軽ければ仕事も対人関係もはかどる。彼は社の内外を問わず人気者となった。
そんな中、ひとり三平太を睨む目が在った。
課長である。
彼を切らねば自分が飛ばされる。課長は執拗に体重がきっちり半減していないことをつつ
き、毎日のように愚痴を言った。
辟易しつつも、三平太はまた例の美容整形外科に行こうと企んでいた。金さえ出せば、
また痩身整形をしてくれるに違いない。あれから一ヶ月。実のところ暴飲暴食がたたり、
またまた全身にぽってりと肉が付いてきたのだ。憧れの目で見ていた女子社員も、いつの
間にか値踏みするようになっている。
彼はまた飲食街の外れの古ビルへ向かった。
「ま、しょうがないわね。綻んだら、今度は自分でなんとかして頂戴。私もそろそろ本
業に戻らないといけないから…。」
薄明かりから女医の顔が見えた。氷のような、ぞっとする微笑を浮かべた美女だ。
「え、えぇまあ。」
三平太はあいまいに返事をして、手術室へ向かった。
翌日。
ふたたび彼は変わった。よりスリムになり、肌には余分なたるみは見つからない。顔つき
まで変わった。しわもない、精悍なマスク。目も切れ長になり、口も大きめだが薄い唇が
セクシーだ。高須三平太は全女子社員の憧れの的に返り咲いた。
ほどなく、彼は会社一の美女を自宅まで連れ込んだ。何をするのも自由だ。彼女は自分の
顔を見、体に触れるだけで満足なのだ。
明け方。満足げに眠る三平太の後姿に、女は擦り寄った。彼の首筋に何かが付いている
のを見止めた。
「あら、くびの後ろ、糸が付いてる」
彼女がその糸を引っ張る。
ぷつん。
小さな音とともに、いきなり彼の首周りは倍、いや三倍になった。ぶるんっと首が震える。
大量の汗が流れ出、部屋はむせ返るような熱気とすえた臭いに包まれた。
「え?」
体調の異変に目を覚ました三平太だったが、鈍く脂肪で詰まった自分の声には気づかなかっ
たようだ。
『糸』はどうやら彼の隠したいものを上手に内側に隠し、縫いこんだものだったようだ。
一本がはじけたことにより、彼の背中にはたわんだ縄のように肉色の紐が浮かび上がって
きた。
女が悲鳴をあげるより先。
ぷつん。
ひとつをきっかけに彼の体のいたるところから音がした。
ぷつん。
ぷつん、ぷつん。
ぷつんぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつぷつ
ぷつぷつぷつ…

闇の診殺医大藪ひかる
- 外伝2- やさしいダイエット
…終わり。
読んで頂きありがとうございました。もともとこの話、拙の『ちょっと怖い小咄 小咄其の弐拾壱・びゅ
ーてぃころしあむ』の続編つもりで書き始めたんですが、何時の間にか、長めになってしまい…、HIROさん
の小説Ringのキャラ、ひかる先生に再登場して頂くことになったのです(^^;)。
本編はたくさんのかたが参加しているリレー小説です。
よかったら感想批評、お聞かせ下さいませませ。それでは。
2003/07/16 初稿UP