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翻訳文献サロン:HDファミリーの若い世代のための取り組み

 

    出典:IHA/WFN会議での報告より書き下ろし。訳:柴田周子

ニュージーランドのキャンプについて

 ニュージーランドのハンチントン協会ウェリントン支部では、1994年から若い人々を対象にしたキャンプを行っています。もともとは、思春期の子どもたちを抱えた親たちの意向で、3泊4日の週末のキャンプとして始まりました。ニュージーランドは南半球にありますので、キャンプの時期はいつも1月。ちょうど真夏なのです。
 At-riskの子どもたちに、HDに関する正しい知識を持ってもらうこと、親のいないところで伸び伸びと解放されること、同世代の仲間との絆を深めることなど、キャンプで得られることは様々です。年上の参加者から飲酒・喫煙・ポルノを教え込まれる、なんてことが問題になったりもしましたが、それは学校の部活でも同じこと。キャンプのなかで、HDファミリーの一員としてたくましく成長していく大切な場所となっています。
 このキャンプを企画し、2001年のキャンプを最後に運営からの引退を決めたソーシャル・ワーカーのドロシー・トーテルさんによる書き下ろしキャンプ・レポートをご紹介します(今年のWFN/IHA会議で報告した内容に準じています)。【武藤 香織】


はじめに

  この会議で、HDファミリーの中で生きる若い世代のために行っている私たちの取り組みについて話すように依頼されたとき、とても嬉しく思いました。多くの方がご存知のように、ウェリントンのハンチントン病協会では、HDファミリーの若い世代をサポートすることにとても重きをおいています。 HD患者さんと家族全体に奉仕するだけでなく、若い年代のメンバー(25歳以下)が特殊なニーズがあることを認識しなくてはならないと私たちは考えています。 

  8回目を迎えた、年に一度の合同キャンプは、 私たちの活動のうちで最も重要なものですが、若い世代のために私たちが行っていることはこれだけではありません。継続的なサポート、助言、情報提供をはじめ、学校、警察などとも連携し、各関係機関にHDに関する情報の提供をしています。また、発症前診断検査中にある青少年に、継続的なサポートを行っています。一年ほど前、特に若い人たちを対象にしたガイドブックが必要だと考え、私たちは「ハンチントン病と私―若い人たちのためのガイド」を出版しました。

  私たちが率先して乗り出している事業に共通する目的は一つです。それは、HDに関する正確で最新の情報を、尋ねられるまま、できるだけ早い段階で提供することです。私たちが信じているのは、適切な情報を若い人たちに与えることによって、彼らはより優れた理解力をつけ、それが力となり、家庭内での困難な状況に対して許容する力が養われるということです。 家族が与えるはずのしつけや配慮が欠如している場合や、患者である親の合理的とは思えない挙動、家族や友人の無関心、しばしば彼らに課される余分な負担と責任に向き合う際などにも助けとなるでしょう。さらに、発生前遺伝子診断、結婚、家族を持つ事や就職の道など、人生のオプションにおいて知識を踏まえた選択をする能力をつけることにもなります。

年に一度のHD合宿

  このキャンプはここ8年来行われています。 キャンプの目的は、 ・同じような境遇にいる人々と出会うこと。 ・ハンチントン病についての情報と経験を共有すること・お互いをサポートしあい、それによって相互のサポートネットワークをつくりあげること。・楽しい時間を持つこと。 この例年のキャンプに参加した若い人たち自身によって選ばれたモットーは、「私たちはできる。やってみる」で、この積極的な雰囲気はキャンプ全体に感じられ、若い人たちのHDに向き合う態度が反映されています。

 8年経っても、目的は変わっていません。でも、キャンプごとに最も有効な運営の仕方を探し続け、少しずつ進化していっています。対処しなければならなかった問題点がたくさんありますが、そのうちのいくつかをかいつまんでお話したいと思います。

キャンプの参加者

  キャンプの参加者はニュージーランド全域から集まりますので、ひとりひとりの家族の背景、HDに関する知識がどのくらいあるのか、それに特別なニーズの有無などを、彼らがキャンプに参加する前に知っておかなければなりません。 参加人数は15人から34人の範囲でしたが、人数が少なければ運営もより容易で、参加者同志の人間関係づくりも円滑に進むことから、より成功した雰囲気を感じ取れることも確かです。

  参加者の年齢範囲は6歳から26歳に渡りました。個人差があるとはいえ、幼い子供達にはキャンプで得られるものがあまりないと考え、1999年以来最低年齢を12歳と設定しました。 最高年齢は、25歳を限度としました。とはいえ、多数の参加者が年齢に関係なく再参加を求め、彼らにとって今だに沢山の利益があると考えられているのが明らかです。その結果、最高年齢は少しずつ上がってきています! 他にも検討を続けている問題がありますが、その例としては、若年性HDの子供達はキャンプ参加をするべきか、参加者と親密な関係にあるボーイフレンドやガールフレンドが、キャンプ参加するべきかなどの点があります。

合宿場所とプログラム

  合宿場所は、主な会場からそう遠くないところにある質素でシンプルな宿泊地から、田舎にある豪華で恵まれた設備まで、幅がありました。チームワーク精神の増強や自己評価を高めるためのコースなどが盛り込んで行われました。

 質素な会場で行われたときには、ボランティア職員と低賃金で引き受けてくれた専門家と一緒に、殆どの野外活動を自分たちで準備しなくてはなりませんでした。 もっと豪華な会場で行われたときには、野外活動やその他の行事が施設の運営プログラムの中にすべて組み込まれてあるので、私はHDに関する事柄と討論の部分に集中していればよく、HDに関連した沢山の問題と取り組むことができました。結論として、後者の方がよりうまくいったということで、これからのキャンプはこちらで行うことにしました。

 どのキャンプも、野外と屋内の活動、加えてHDの全般的な問題を話し合うセッションが多彩に盛り込まれています。グループでの活動は、情報収集、自尊心の向上、相互の協力とサポートの仕方、グループによせる信頼の確立に役立つような内容を選択し、それぞれの内容がお互いに引き立て合うようにします。 そうすることによって安心感のある環境が創り出され、若い人たちが自分の能力に自信を持つことになり、必要な時に相互のサポートができるようになります。

 例えば、過去のあるキャンプは、国立公園の山の中腹にある野外リクリエーションセンターで行われました。参加者はロープを使った登山、自分たちで制作した筏での川下り、ハイキング、洞窟探検、活動停止中の活火山口まで登るなどのチャレンジと取り組む機会が与えられました。 火山口への登山は、お互いにサポートし励まし合う素晴らしい機会を与えましたが、参加者の何人かにとっては、このサポートがあればこそ、このチャレンジを乗り越えることができたと思います。

 必要だと思われるプログラムを提供するにあたって、参加者の人数と年齢差が問題になる場合には、実験的に年下と年上の二つのグループに分けてみました。2日間はグループが合同になりました。けれども、これはどちらのグループからも不評でした。キャンプは年齢差で分けられたものではなく一つのグループとして行い、その上でそれぞれのニーズに対処する別々の特別セッションを設けてほしいという明確な要望が、双方のグループからありました。私たちはこの意見を受け入れましたが、それは大変成功で、何人かの年上の参加者が年下の参加者に対してリーダーシップを発揮することができるようになりました。

ボランティアと支援者

 安全性やその他の理由から、支援者の選択は大変重要な検討事項です。「良質な」ボランティアは容易には見つからず、ボランティア自身がサポートを必要とするケースもありました。 HDファミリー出身のボランティアは、もちろん若い参加者のニーズをよく理解できますが、参加者の親にについてはキャンプに関わらせないことに決めました。このキャンプは、親の影響が参加者に届かないところで行われることが必要だと私たちは確信しています。それによって、もっと自由に話ができ、内向的な態度も少なくなります。リクリエーションの「専門家」は、野外活動には特に不可欠です。 安全性についての諸問題を解決し、難しい事態に陥ったとしても、より適切に対応できます。

 ボランティアを集めること自体は苦労しないかもしれませんが、適応力があり、チームになって働くことができる、そして若い人たちを支援し、批判的でない態度の人を選ぶことが大切です。

 ボランティアのひとりが言った言葉に、私たちが支援者に何を求めているかがまとめられています。

「若い人たち一人一人が、まずこのキャンプにやってきて、その上でHDと立ち向かい、学ぼうとするその勇気に全く敬服しています。 彼らは最近のごく普通のティーンエージャーと同じように、不確かな将来に向き合っていますが、それと向き合うにあたってとてつもない量の果敢さ、逞しさ、そして成熟さを見せる、とても特別な人たちの集まりです。」

HDに関するセッション

 このHDに関するセッションが、私たちが行うキャンプを他のキャンプとは違うものにしています。若い人たちは、このセッションのために参加しているのですから。ボランティア支援者のひとりが言ったように、
「私にとって夕方のハンチントン病についてのセッションが、このキャンプの一番興味深いところでした。 お互いの立場とニーズの尊重を、どの参加者も実行に移していました。 議論と質問の時間があれば、慰めといたわりの時間もありました。」

 セッションは、あらかじめ構成されてはいるものの、柔軟さをもち、堅苦しくないように心がけています。ルールは単純で、それは全員が安心していられることであり、お互いのものの見方や意見、気持ちを寛大に尊重し合うこと、誰かが話しているときに横合いから話さないこと、個人情報管理が万全であること、誰でも話しをして共有したい問題を提出することができること、となります。

 通常、話し合いは、まず参加者が匿名で質問箱に投稿するように促し、その中にあったものをテーマにするところから、始めます。

・ HDはあなたにとってどういう意味がありますか?

・ あなたの夢、ゴールは何ですか?

・ ゴールに向かうにあたって、HDをどう取り扱いますか?

・ ゴールに達成するための計画はどんなものですか?

・ 問題解決のための方法と計画・ 助けをどこから求めますか?

・ 誰があなたのために動いてくれますか?

・ HDの人を世話する際の問題

・ 若い世代が将来自分自身の問題になると予想するもの

・ 若い世代がしなければならない選択

・ ストレスと向き合う方法

・ いつHDについて知るべきだと思いますか?

・ 発症前診断について

・ 中絶について

・ HDとセクシュアリティ

 ここにはたくさんの涙があり、しかしまた大きな満足感もあります。たくさんの怒りと共に、達成感があります。多くのフラストレーションと共に、多くの理解があります。 そして何よりも、たくさんの支援と励ましがあります。

 セッションは、往々にして夜中まで続きました。

「一番よかったプログラムは、事前に準備ができない種類のものでした。子供たちの何人かは、睡眠時間を犠牲にして、人生について、希望、夢、HDがどんな風に自分に影響を与えているか、そしてHDに関わる経験などを話し合いました。 HDが何であるかを説明する必要もなく、何でも話せるということは素晴らしい開放感でした。私たちはみんな同じボートに乗っている、みんな、家族の中でHDと取り組まないといけない、という意味で。」(ターラ、24歳)

 HDに関するセッションは、しばしば写生、詩、歌など、直接触れることができるものの制作へとつながっていき、その中からいくつもがウェリントン・ハンチントン協会のニューズレターに掲載されます。いくつかの例を、この原稿の最後に挙げました。ある年のキャンプで、参加者の感情を表現するのにとても効果的な仕掛けと出会いました。参加者は近くに流れる川から、それぞれ石を一個ずつ拾ってくることになりました。拾ってきた石の色、形、大きさ、肌触りが参加者一人一人にとって特別な意味を持ちました。その石が自分にとって何を意味するのか、そしてそれはどうしてなのか、一人ずつが説明し、大切な思い出の品として持ち帰ってきました。

 私たちはこれまでのキャンプ活動は成功だったと信じています。参加者は同じ立場にいる他の若い人たちと出会い、HDについての情報を共有しました。自分がどんな経験をしているか理解し、相互の支援を与える人たちの中に身を置き、その中でグループの一員となりました。孤立感に打ち勝ち、HDに関する知識を増やし、より多くの自信をつけてキャンプを去りました。より逞しくなり、HDの家族に対するより多くの理解を持って、帰宅しました。キャンプが終わって、次のキャンプまでの間にも、お互いに助け合うネットワークの絆が強くなったようです。 どのキャンプも目的をフルに達成しましたが、そのことを最もよく示すものとして参加した若い人たち自身があります。

 「キャンプに参加する前は、ハンチントン病について何も知りませんでした。でもここに来て自分と同じ立場の人たちと話をして、お父さんに何が起こっているのか、それが将来自分に起こるかもしれないことがわかったので、よかったです。」(ハミッシュ、14歳)

 「僕が信じているのは、若い僕たちはこの話し合いの場、この愛情、この理解と、そして何よりもこのサポートが必要だということです。」(デミアン、17歳)

  「気にかけてくれる人たちと一緒にここにいるのは楽しい。信じられないくらい沢山共有できる。知ってることや気持ちがホントに同じだ。だけどお前のせいだと責められる奴を見つけられたらな、と思う。」(ローワン、二十歳)

若い人の為の本

 キャンプは毎年一回のイベントですが、質問や問題は一年中発せられ、次々と新しいクライアントが現れます。 つまり、キャンプで与えられるアドバイスやサポート、情報などの提供は常時必要なのだということがはっきりし、それが「ハンチントン病と私―若い人たちのためのガイド」の出版につながりました。 この本は若い人たちを対象に書かれましたが、彼らの家族、友人、そして専門家のためにも役立ちます。若い人たちは自分の父や母、あるいは祖父母が他の人とは違うということを受け入れなくてはなりません。 この本は若い人たちの経験と心情を受け止め、認めてあげるためのものです。また、HDに関する情報を発信し、短期的・長期的な問題に取り組むための対応策を提供しています。さらに、若い人たち自身の経験をもとにしてまとめられ、彼らが語った経験と気持ちが引用文として本の中に散りばめられています。こうすることによって、とても感動的な、生き生きした内容となり、若い人たちが容易に同感できるものになっています。

 事実がそのまま書かれてあるとともに、「暖かい」文体で、「感情ぬき」のアプローチは避けていると、すでに読まれた方も同調下さることだろうと願っています。とはいえ、妊娠時に胎児に行う発症前診断検査や中絶の選択肢についてなど、議論をかもし出すと思われる内容もいくつか織り込まれています。このような問題は、細やかな心情を持って批判的でないかたちをとれば、全貌を提起する方がよいと判断したのです。これに対する否定的な反応は今のところ出ていません。

 何人もの若い人たちが、以前「自分さがし」をしていた時にこの本があったならよかった、と思ったというコメントを寄せています。 親御さんからは、日々のHDファミリーの暮らしから生まれる質問に答える際にどんなに役立ったかと手紙を頂きます。遺伝学に関する授業の際にも、この本が利用されています。

終わりに

 最後に、「ハンチントン病と私―若い人々のためのガイド」から、若い人たちがHDについて書いたものを二つ引用したいと思います。

「夢の中で、僕は自分の家を見出す。そこは僕が命とその複雑さについて思いに耽ったところ。どうしてこんなに複雑でなくてはいけないのだろうか、と考えることがよくあった。何故HD?  何故僕が?何年もの沈思黙考のあと、数限りないオプションと、心が重い選択について話している自分を見つけた。みんなで話し合った複雑な問題に啓発されて、僕はもっと美しい中身を持つ人間になった。ここで手に入れた技術と知識、そしてat-riskの子たちやそうでない子がみせた深い愛情がもとになっている。これは、僕の人生のうち、一番誇りに思う業績だ。」(ベン、18歳)

 「恐れは理解のなさから創り出される。知識を持て。若者である私たちに必要なのは、話し合い、理解、そしてなによりもサポートだ。」(サラ、17歳)

    

 

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