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自分とその周囲を結び付けるのに、私達はコミュニケーション(意思疎通)を用途として使います。自分の意思を伝えることによって他者と連絡をとり、考えや気持ちを表現し、指示し、周囲の環境維持をはかります。
通常は、聞くこと、話すこと、読み書きすることが、意思疎通の方法となっています。HDの場合には、これらの能力は、完全にとはいわなくとも大幅に削減されてしまいます。意思疎通のための機能の全てに、HDによる影響が及ぼされます。会話能力と意思疎通能力に及ぼされる影響のため、HD患者は最も初歩的な要望や願いさえも表すことができず、自分自身の中に閉じ込められらたかたちになってしまいます。
病気の進行を止めることはできませんが、HDの患者さんが遭遇する意思表示や言語を操りにくい状況を管理することによって、できる限り長期に渡って意思疎通をはかることができます。忘れてはならないのは、病気の進行が20年以上に渡ることもあるという点です。意思疎通の方法を早期から工夫することが大切です。言語療法士の役割が、この管理には大きく関与します。言語療法士には主治医か、かかり付けの神経内科医を通して紹介してもらうか、または直接訪問することもできます。
言語療法士は、患者さんがHDのどの段階にいるかに関わらず重要な役割を担っています。言語療法士の焦点は患者さんの意思表示能力を評価し、それを最大限に活用できるようにすること、必要性と可能性に応じてその技術の上達をはかること、また、家族、介護者、友人に最も効果的な意思疎通方法を教授し、導くことにあります。さらに、療法士は病気の進行を監視しながら、必要の変化に応じてその時々に最も適した対処の方法を考えてくれます。
★HDと言語障害
HDは、意思表示、認識作用(意思表示の際に必要な思考のプロセス)、表現能力のどれもに影響を及ぼします。
言語能力の支障は、疾患の初期から現れます。病気の進行に伴い、患者さんの言葉が聞き取りにくくなり、後期になると言語による意思疎通は無くなってしまうことも稀ではありません。発言する力での障害のほかに、呼吸障害がありますが、声の質が、荒くなったり、不自然になったり、抑圧された様になったりし、語調や速度が乱れ(話し振りが速すぎる、遅すぎる、抑揚が無い、不適当な抑揚の強調をする等)、不明瞭な発音になりがちです。
認識力と言語を駆使する能力にもHDの影響が大きく現れます。障害に加えられるものとして、自分から会話を始めるのに困難がある、自発的な意思表示ができない、考えを言葉で言い表せない、語彙の減少、応答の仕方に制限がある、特定の言葉を見つけられない、複雑な情報が理解できない、受け答えに時間がかかる、理解困難と身体面の支障からくる読み書きの困難、新しい情報や技術の摂取の困難、短期の記憶利用能力の減少、集中力が少ない、編成、推察、問題解決能力の減少などが揚げられます。これらの難題が一人の患者さんに全部発生することもあり得ます。
軽い症状だったものが、病気の進行に伴い、深刻になってきます。病状進行中、意思疎通の力は予想しにくい形で現れます。色々な手立てがいつまで利用できるかの予想もつかないため、HDの患者さんが困難処理をできなくなる原因となります。例えば、たった今明確に要望を示したにもかかわらず、次の瞬間には同じ要望を示すのに大変な苦労を覚えることもあります。
HDと言語能力、理解力との関連が数々あることは明らかで、個人の意思表示に大きく影響を及ぼします。病気の後期となると、多くのHD患者は意思の伝達が全くできなくなります。しかしながら、至難の技に見えるにもかかわらず、患者さんとの貴重な通じ合いを維持することは可能であり、それを出来る限り長期に渡らせることができるのです。
近年になり、HDの人の言語障害の研究で、呼吸作用(発声する際の補助となる呼吸の仕方)に支障が有り、発声(空気が声帯を通り喉頭に至って声になるという物理的な経過)が話す時の問題の大部分を占めていることが示されました。これは言語療法士が訓練の計画を立てる際に有意義な情報といえます。例えば、発音の改善を中心にしたセラピーよりも、呼吸維持や発声に重きをおいたものの方が効果が多いかもしれません。このような個々の言語療法に加えて介護者も様々な手段を駆使してできる限り長期に渡るコミュニケーションの維持を助けることができます。次にそのいくつかをご紹介します。
★聞き手の役割
HDの人との効果的なコミュニケーションを確保するための最初のガイドラインは、聞き手が会話のやりとりを直接的には制御せずに、会話全体の責任を持つことにあります。HDの人が、言葉の明瞭さ、又会話する能力を改善する手段として使うことができるのです。
けれどもたくさんの欠陥があるので(特に認識面での欠陥)HD患者は外部からもたらされるきっかけに頼らなくてはならず、効果的な会話をするためには聞き手に導いてもらわなければなりません。聞き手がこの責任を持つようにすると、コミュニケーションが成功する確率がとても大きくなります。
聞き手が会話に積極的になることと同時に、HDの人は言語療法を通じてコミュニケーションの取り方と発語技術の改善を図ることができます。これらの工夫の成功も、聞き手がどれだけ積極的で、患者さんがこの技術を使うことを忍耐強く応援するかに懸かっています。
忘れてはならないのは、HDの末期にある人とであっても、何かを共有することができるということです。興奮や不満、時に暴力的な挙動は、意思疎通の欠如からきていることがあります。もしもそのHDの人が、周りから遮断され、自分の周囲のコントロールができないと私達が感じるように感じているとすれば、フラストレーションを示すのは全く当然といえるでしょう。暴力的な挙動は、HDの人にとってはコントロールしようとする試み、あるいは自分に気がついてもらうための最後の手段であることがしばしばなのです。ネガティヴなかたちであっても、コミュニケーションが全くないよりはましなのです。
★HDの人と聞き手のための手段
1・ゆっくりした話し方をする
話が解り辛いとき、ゆっくりと話すことが助けになります。患者に例を示すことになると同時に、話の内容を把握する時間を与えるために、聞き手はいつもよりもゆっくりした話し方にすることが大切です。内容のポイントとなる言葉や音声を強調することもよりよく理解してもらうための方法となり得ます。
2・話を繰り返す
話をわかってもらうのに必要なのは、単に話を繰り返すことだったという場合もあります。然し何度か繰り返しても結果が出ない時には、HDの人と聞き手のどちらにもフラストレーションが溜まる前に、別の工夫をした方がよろしいでしょう。
3・別の言い回しをしてみる。
理解が促されない時に言い回しを変えてみるのも効果的な技術です。同じ内容を伝えるのに、別の言葉や言い回しを考えてみることです。
4・単純化する
要点は、言っていることを理解してもらうことにあります。話し手が正しい文法や、長たらしく狭義の言葉の選択をすることはさほど重要ではありません。ここにおいてのゴールは、言いたいことの意味を保ちながら言い方を単純化することにあります。必要とあらば、(内容理解の)鍵となる言葉や、絵やそのものを使います。
5・キーワードを書いてみる
話の中で使った1、2語を紙に書いてみせるのも理解を促すのに役立つ時があります。話を書いてもよいし、或いは文字盤を作ってそれを話し手が指差すという技術もあります。ここでも又、要点はコミュニケーションにあり、正しい漢字を使うことにあるのではありません。
6・理解の鍵となる文字を見つける
言葉の一番最初の文字を見つけ出すことだけで、言っていることが明瞭になるときもあります。ここでも文字盤が、適切な文字を見つけるのに役立つかもしれません。
★聞き手の技術
1・「はい・いいえ」の答えになる質問をする
「はい・いいえ」の答えになる質問や、端的な内容で、返答が短くてもすむタイプの質問をすることも話を明瞭にするのに役立ちます。患者さんが意思を表示するのに長い文章を考え出す必要を省きます。聞き手側は、返答を理解するために的確かつ相手の様子が伺えるような質問の文章を作り出す責任を負います。
2・言葉を思い出させるヒントを使うテクニック
言葉が見つからない問題は、しばしばHDが原因となっています。聞き手はヒントを使うことで患者さんが言葉を思い出す手助けをすることができます。ヒントは話題に登っているもののサイズ、かたち、ある場所など、形容を尋ねることも加えられます。そのもののイメージを作る(想像する)ことでも記憶を刺激することができます。的をしぼった質問をすることも効果的です。この技術は言葉を見付けるのに役立つだけでなく、記憶能力一般を保持することにもつながります。
3・日常会話を繰り返す
記憶を伴う能力にも問題が出てきます。頻繁に聞かれる情報を繰り返すことは、常時一定の日課をこなし、方向づけすること(個人の仕事や活動の覚え書きなど)とともに、その記憶を長期的にする手助けになります。HD患者は短期の記憶保持に最も難色を示します。長期的な記憶を伴う能力は大体完全に残されます。
4・情報の組み合わせ
新しい情報を以前覚えた古いものに関連付けることも記憶の補強につながります。情報を一つにまとめたり、組み合わせたりするのも助けになります。たとえば、「お医者さんに行った時のことを考えてみよう。思い出すことは三つあるよね」
5・反復症状を監視し、コメントを与える
反復症状(同じ言葉や話題を繰り返し、それが不適当になった後も修正できない)も又HDの人によくある問題です。ここでも、聞き手は患者さんが自分を監視して、ふるまいを変える手助けをすることができます。方法として、会話中に話題の数を少なくして、患者さんが話題から話題へ速く飛び移らなくてもよいようにすること、「話題を変えましょう、これからはXXについて・・・」と話題の変更を示唆することで、新しい話題に移る前にいくらかの時間の猶予を患者さんに与えること、などがあります。反復症状がでてきたら、患者さんに知らせましょう。行動を変えるための出発点は、認識することにあります。
6・話題に相手の注意をひきつける
反復症状と共に、HD患者は会話の話題を持続させることに困難を示します。ここでも聞き手がヒントを与え、話題に注意をひきとめ、話からそれてしまった時知らせるようにすることは、フラストレーションが溜まらないように配慮して行われていれば、助けになります。気が散る原因となるものを取り去ることでも、話がそれることを防ぐことができます。
7・コミュニケーションに適当な時間の余裕を与える
効果的なコミュニケーションには適度の時間の余裕を持つことも重要です。
HDの人は相手にわかってもらう、又わかってもらうために意思表示をするのに時間が余分にいるかもしれません。もし時間が無い時はそのように伝えてください。ただ単に、「今は時間が無いので話ができないけど、時間ができたらすぐに来ます」というだけでも助けになります。
HDの人はえてして欲しいものをすぐに手に入れたがりますが、要求に早急に対応すると暴力的な所作に走ることが少なくなるようなので会話を遅らせることはできる限り避けましょう。けれども急いでいる最中に話そうとするよりもたとえ5分であっても時間をためておいて話す方がより効果的です。
8・気が散るものを少なくする
効果的なコミュニケーションをとるのに環境騒音や気が散る原因となるものを少なくすることは誰にとっても大切ですが、これはHDの人には特にあてはまることです。
HDの人は環境に左右されやすく、注意散漫になりがちです。騒音や集中妨害になるものを出来得る限り減らすことで、患者さんがコミュニケーションをとることに集中する機会を与えます。騒音を少なくすることで、聞き手が患者さんの言葉をよく聞き取れるようにもなります。
9・顔の表情や仕草をコミュニケーションの手立てと考える
顔の表情や仕草は特に病気の初期にあり、まだ影響が大きく現れていない人にとってはとても役立つ道具となります。仕草と表情は相手が何をいおうとしているのか理解するための手立てとなります。聞き手が仕草と表情を使うことでHDの人に意思疎通のためのヒントを追加し、役立つことになります。
10・話題の主旨を認識する
今の話題が何なのか早めに判断することはとても助けになります。それによって聞き手はもっと適切な質問をすることができ、又解り辛くなった時に見当をつけることができるようになります。
11・要点をつかむ
話の主旨を知ることと共に、要点を把握することが主だということを思い出すのも大事です。言葉のひとつひとつを理解しようとしないことです。
12・反響を与え、又貰おうとする
会話中、定期的に相手のいっていることを理解しているかどうかチェックすることも大切です。わからない時に、わかる振りをしてはいけません。フラストレーションと、不信の原因になるだけです。「今、・・・って言った?」と相手の言葉を繰り返すことで、誤解を避けることができます。
13・聞き取りと注意力を監視する
効果的なコミュニケーションには、患者さんが注意して聴いているかどうか確認しなくてはなりません。聞いているように見えても、注意はしていない時があります。HDでは聞くことや、それに伴う注意力が減少するので、聞いているかどうか確認するようにして下さい。
短時間の会話の方が、長時間に渡るものより望ましいこともしばしばです。効果的な意思疎通を図るのには沢山の労力が必要で、それを長時間持続させるのは話し手、聞き手のどちらにとっても困難です。
14・できるだけ予想がつく環境をつくる
HDでは推察や判断の能力も損なわれてしまいますが、これは作業を細かく段階分けすることで、補充できます。要求を少なくし、周りを予想がつきやすい環境にすることも、効果的な手立てとなります。
★ コミュニケーションのための補助用具
文字盤、挿し絵盤などについて。電気を使うものは、患者さんがそれを使える時間が短いこともあるので、そうでないもののほうが選ばれる事の方が多いようです。
さらに、電化製品でないものは、変化する患者さんのニーズにあわせてその場で調整することができます。けれども、このような補助用具はあまり成功率が高くないようです。補助用具を取り入れるのが、病気の進行段階でも、すでに新しい技術を覚えることや読解力と綴り方に困難をきたすようになってからだったりするためです。文字盤は、文字の書き方を知っているか、または言葉の最初の文字を指差すことができる人に、最も効果的です。挿し絵板はもう少し高い成功率があります。板に描かれてある絵は少数に限り、注意力散漫を促したり適切な絵を探し出さなければいけなかったりすることを避けます。このような用具は各個人のそれぞれのニーズにあわせてデザインして下さい。
★ 病気のすべての段階、特に言葉のない患者さんと意思疎通をはかる
病気の後期にあって、言葉のない患者さんとのコミュニケーションは新たな挑戦となります。
この段階にある患者さんは、すでに自立度が低下していて、コミュニケーションだけが周囲と自分をつなぐものであるかもしれません。従って、この時点で、どのようなかたちであってもコミュニケーションをとることは非常に重要になります。
HDの患者さんは認識能力に障害をきたし、言葉を失いますが、能動的に介入はできなくとも、自分の周囲の様子を今だに理解できるのです。HDの患者さんは病気の最終段階まで、周囲に敏感で、気が付くことができます。
言葉で意思疎通が図られないために、HDの人は何も理解できないと思われてしまいがちです。時間をかけて努力するならば、言葉のない患者さんがどれだけ気が付いているかが解り、驚かれることでしょう。
★ 後期にある患者さんと意思疎通の工夫をこらす
後期の患者さんとの意思疎通は、介護者としての私達の責任となります。
1.ここでよいアプローチは、以前、継続的に依頼されたことを思い出し、依頼できなくなった今でも、それをして快適にしてあげることです。
2.ケアの日課を一定にして、何を予期すべきか患者さんがわかるようにします。
3.何を何のためにしているのか、患者さんに随時説明しましょう。患者さんが驚かないように、おだやかな声で話し掛けましょう。
4.患者さんに話し掛けましょう。天候、ニュース、患者さんが興味あること、あなたが興味あることなど、患者さんをここにつなぎとめておくために、どんな話題でもいいのです。
5.コミュニケーションがとれないものとして、患者さんを扱ってはいけません。コミュニケーションは、言葉でおこなわれているのではないかもしれません。まばたき、かすかな微笑みなどだけが反応として与えられるものかもしれませんが、それは充分に価値があります。コミュニケーションを継続させることは、後期の患者さんに尊厳を与え、可能性の限りを尽くして意思疎通をはかる機会を与えることになります。
基本的なニーズを示唆するのに、いくつかの動きを使う工夫をすることができるかもしれません。たとえば、一度のまばたきは「はい」で、目をつぶれば「いいえ」、眉をあげれば「喉がかわいた」などです。患者さんが強度の不随意運動をおこしている場合にはしかし、これは困難かもしれません。
6・身内の方々から患者さんのことをもっと教えてもらい、患者さんの経歴、性格、ニーズをもっと理解できるようにしましょう。患者さんの部屋にある家族の写真や他の記念品などは、介護者にコミュニケーションのきっかけをつくることができます。
★どのような意思疎通技術を使っているのか関わっている全員に知らせること
HDの患者さんの介護をする人達全員が、どのような意思疎通の手立てをしているのか知っておくことが大切です。ヘルパーとのコミュニケーションによい方法は、ベッドのかたわらに手立ての説明、患者さんが困難をしめすもの、その他の関係事項を書いたものをベッドのかたわらに用意しておくことですが、プライベートな情報はひかえましょう。
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