LIVE偵察日記2001
2001年 2月
☆2月 8日(木)於 新宿Pit Inn
『増尾 好秋カルテット』
出演: 増尾 好秋(g、vo)、野本 晴美(pf)、山下 弘治(b)、本田 珠也(ds)
ファースト・セット
1. Another Christmas Song, 2. Wet Dog, 3. Lament, 4. (I'm) Still believing in dream, 5. Small Steps, 6. The Theme
セカンド・セット
1. You're my everything, 2. Snap Jam, 3. Panonica, 4. It's you or no one, 5. Miles Run, 6. The Theme
(uncore) Still crazy after all these years 〜Are you happy now
昨年の11月に続き、再来日してくれた増尾さん。 11月にも共演した、日本ジャズ界を代表する若手精鋭トリオとのLIVEを、新宿ピットインへ聴きに・・・。 演奏は、期待を裏切らない、いや、期待を遥かに凌ぐ、とても素晴らしいもので、幸せな気分とともに家路につくことが出来た。
『クリスマス・ソングに似ているので・・・』という説明があった、増尾さんのオリジナル“Another Christmas Song”でLiveはスタート。 メル・トーメの“Christmas Song”同様、とても素敵な雰囲気を湛えた曲で、なんとも言えず気持ちが良いミディアム・リズムが、最高のリラックス感を与えてくれる。 温もりを感じる増尾さんのギターの音色、そして、それを繊細かつシッカリとサポートするトリオが素晴らしい。 同じく増尾さんのオリジナルから、渋いブルース“Wet Dog”に続き、3曲目は、つい先日亡くなったばかりのJ.J.Johnsonに捧げて、J.J.の名曲“Lament”が演奏される。 美しくも切ないメロディが、『人生は灰色』と主張しているかのようだ。 増尾さんのギターの優しさがヒシヒシと伝わってくる。 そして、野本さんのピアノ・ソロとなり、控えめな音数と、イマジネーションを感じさせる、雄大なスペースをもって、トリオの三人が、筆舌に尽くし難い、凄まじい演奏を聴かせる。 このトリオ、恐らく平均年齢は30歳程度だと思うが、ジャズ界では若年と言える世代の三人の『日本人』が、このように豊かな『ジャズ演奏』を目の前で繰り広げていることは、驚愕に値する。 そして、三人の若者から、ここまでの演奏を引き出した増尾さんは、やはり本当に凄い『音楽家』だと思う。
『永遠のギター少年』といった若々しさがカッコイイ、増尾さん。
オトナっぽさを増したピアノの『ハルミ節』との相性も抜群。
4曲目は、増尾さんのオリジナルに戻り、『浜辺で夕日を見ながら作った』と言う、ロマンチックな“ (I'm) Still believing in dream”。 ここでは、増尾さんのボーカルが聴け、ちょっと舌足らずで、チャーミングな歌声が堪らない魅力。 水平線に落ちていく夕日の寂しさ・・・、でも『夢を信じているよ』という明るさ・・・、その微妙なニュアンスの渾然一体が、ボッサ調の素敵なリズムに乗って表現されていく。 『人生の明るい部分』を必ず音楽の何処かに聴かせてくれるあたりは、増尾さんの『師匠』とも言える(?)ナベサダ&ソニー・ロリンズにも通じるものがあると思う。 ファースト・セット最後は、CD“Are you happy now”のトップを飾ったオリジナル曲“Small Steps”。 気持ち良さそうにギターを弾きまくる増尾さんが実にカッコイイ! モーダルに急速な展開の同曲だが、サポートするトリオの三人は、勢いに流されることなく、的確に『演奏の流れ』を把握しながら、『8分のパワー』で絶妙なプレイを聴かせる。 特にドラムの珠也さんは、『何が良い演奏なのか?』、その正しい答えを身体で会得しているに違いない。 繰り出している『音』の『数』と『質』、そして、その『タイミング』に一切無駄がなく、緻密に計算されたかのようなインテリジェンスでバンド演奏を支えつつ、尚且つ、天才的な閃きの賜物とでも言いたい、ワイルドな『一打』で演奏を制御する。
兎に角、凄すぎる、本田珠也!
“You're my everything” や “It's you or no one”等、スタンダードも素敵だったセカンド・セット、最大の聴き所は、なんと言っても増尾さんのオリジナル曲“Snap Jam”、そして“Miles Run”だろう。 増尾さんと、トリオの三人が、『これぞインタープレイ!』とでも言いたいような、緊張感に溢れた、熱い演奏を聴かせてくれた。 しかし、『熱い』と言っても、『高血圧』のような演奏でガンガン盛り上がる、というのとも違う。 どちらかと言うと『冷静』なプレイでいながら、4人の『音』が合わさると、灼熱の火柱がスパークする、とでも言えば良いか? 目の前の演奏から提示されるものは、『打ち上げ花火』に見る『瞬間的な凄さ』ではなく、なにか、次から次へと芸術的な展開を見せる『ドミノ倒し』に似ているように感じる。 『表現したい』、『伝えたい』という『熱い思い』を、一つ一つのドミノを大事に置いて行く、という『冷静さ』に封じ込め、そして、そのドミノが一つ一つ倒れることにより、静かに、しかし、確実に『熱い思い』が解き放たれていく。
11月のLIVE時、今ひとつバンドの音楽性に合っていない感じも受けた山下さんのベースが、当夜は、円やかな音色と共にバンドを包み込み、尚且つ、絶え間なくボトムを抑えていて実に絶妙だった。 当夜の演奏全体から受けた、滑らかでジェントルな印象の源は、山下さんの存在だったのかも知れない。 兎に角、再度になってしまうが、増尾さん率いるこのカルテットは本当に素晴らしく、今後もレギュラーで活動して欲しいし、延いては、是非、このバンドでの録音も残して欲しいと思う。 その録音は、間違いなく、増尾さんのみならず、若手三人にとっても、自身の音楽人生の代表作の一つになることだろう。
最後に、演奏とは関係ないが、当夜のピットインには、鈴木勲さんや中牟礼貞則さんといった、日本のジャズ・ジャイアンツも駆けつけ、増尾さんと旧交を温めていた。 又、休憩時間に、近くに座った御婦人のファンから『増尾さんって、ずっとアメリカにいらっしゃるんですよね?』と話し掛けられたが、聞くと、この御婦人、30年云前、旧ピットインで度々、増尾さんが参加していた当時の渡辺貞夫バンドを聴いていた、とのこと。 『昨日、偶然、“ぴあ” で “増尾好秋、ピットイン”って見たもので、懐かしくて・・・』、ちょっと恥ずかしそうにしていた彼女の目は、スッカリ30年前の『ジャズ少女』に戻っているようだった。 増尾好秋というジャズマンは、ファンや仲間を問わず、ジャズを愛する者、皆を幸せにしてくれる。 本当に有難う、増尾さん!
アンコールで、Paul Simonの“Still crazy...”を唄う増尾さん。