LIVE偵察日記2001
2001年 11月


☆11月 15日(木)於 吉祥寺アートクラブ・ストリングス
  『松原衣里・清水絵理子デュオ

   
出演: 松原 衣里(vo)、清水 絵理子(pf)

     





ファースト・セット
@ オールド・デビル・ムーン(solo piano)、Aタイトル不詳(solo piano)、Bフライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン、Cいそしぎ、Dイッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン、Eマイ・ファニー・ヴァレンタイン、Fミーン・トゥ・ミー

セカンド・セット
@昔は良かったね(solo piano)、Aキャラバン(solo piano)、Bドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニモア、Cジョージア・オン・マイ・マインド、D帰ってくれたらうれしいわ、Eオール・オブ・ミー

サード・セット
@クロース・トゥ・ユー(solo piano)、A夜も昼も(solo piano)、Bサテン・ドール、Cデイ・バイ・デイ、D降っても晴れても、Eスイングしなけりゃ意味ないね

或る方から『神戸に中々良いボーカルが居るんだよ』と教えられ、聴いてみたいな、と思ったのは、もう2年近く前。 そのボーカリスト、松原衣里(えり)さんは、ジャズ教育では名門と言われる甲陽音楽院で出雲マリさん他に師事し、卒業後は神戸サテンドール等、関西のライブ・ハウスで活動していた、との事。  スイング・ジャーナル誌の2000年2月号の『New Faceコーナー』でも取り上げられたので、関西地区以外のジャズ・ファンにも、ご存知の方はいらっしゃるでしょう。  その後、不定期ながら、東京でも井上祐一(pf)さん等とのライブ活動しているのを色々なお店のスケジュール表で拝見し、『いつか聴かせて貰いたい!』と思い続けてきました。
 

さて、当夜は念願叶って、やっと参上したライブ。 しかも共演は、こちらも僕が注目し続けている、お気に入りのピアニスト(そのわりに、あまり聴きに来れてないけど・・・)、エリチョこと、清水 絵理子嬢。  早くもクリスマスの装飾が出始めた吉祥寺の街には、晩秋〜初冬といった冷たい木枯らしが吹き、街行く人は誰も無口で〜〜〜、って演歌調になりますが、ジャズを聴くにはエエ季節です。  『アートクラブ・ストリングス』はコジンマリとした、落ち着いたムードのお店で、ナウでヤングな街(?)である吉祥寺において、なにか一種独特な『大人の雰囲気』を醸し出しています。 




松原 衣里(vo)



偶然に同じ席になった紳士は大変ジャズ・ボーカルがお好きな方で、越智順子さんの話しや、同窓という野間瞳さんの話題等で話しが弾むことしきり。 又、松原さんのライブも過去何度かいらしているとの事で、ワザワザ彼女に僕を紹介してくれました。  松原さんの第一印象は、気さくで音楽に対して非常に真面目な人、というもので、それだけでも『頑張って欲しいな』という気持ちになります。  聞いたところでは、この9月に東京に住居を移し、今後は音楽活動の拠点も関西から此方に移してやって行く、との事。  まだライブの本数は少ないようですが、来年以降、東京のライブ・シーンで思い切り活躍して欲しいものだと思います。

前置きはこのくらいにして、肝心のボーカルですが、事前にも聞いていた通り、所謂 “ブルージーな”、その“黒っぽい”声が先ず印象に残ります。  ボーカリストにとって、持って生れた『声』の持つ魅力は生命線の一つでしょうから、そういう意味で松原さんは恵まれていると言えるでしょう。  又、ご本人は『スレンダーなエリチョさんに比べて私はドンドン・・・』等と冗談メカシテ言っていましたが、存在感ある立ち姿は、なかなかステージ映えするものですし、そのヘア・スタイルも(ラスター・ヘアって言うのか?)個性的でアピール度は高いと思います。  只、彼女のステージで、どうしても気になった事があり、それは『何故もっと自信を持って、ノビノビと唄わないのだろう?』という事です。 勿論、未だ若いわけですし、東京でライブをやり始めて日が浅いという事もあるから致し方ない事ですが、『上手く唄おう』、『まとめよう』、『失敗しないように・・・』という過度な慎重さが僕には感じ取れました。  それ故に、オーディエンスに向っての『訴求』が少ないな、という印象をライブを通じて感じてしまったのです。  しかし、セカンド・セットで唄われた『ジョージア・オン・マイ・マインド』は、どうやら彼女にとって特別な愛唱曲でもあるのでしょう、当夜唄われた曲の中では一番 “まとまり” の無い歌唱だったにも拘らず、『私はコレが歌いたいんです』という、松原さんの『声』が最も良く聞こえた歌唱でもありました。  この『ジョージア・・・』の歌唱で聞かれた、彼女自身の『声』、その発芽を今後大切に育てて行って欲しいものだと思います。  若いからこそ、東京でライブをやり始めて日が浅いからこそ、ドンドン挑戦して、失敗しても再度、再々度とチャレンジ出来る筈です。    



清水 絵理子(pf)


さて、一方のエリチョ嬢ですが、聴くたびに熟成していくピアノには感嘆の思いを抱きます。  当夜も初っ端、これ以上は緩くは弾けないだろう、というような超スローで『オールド・デビル・ムーン』(なんて渋い曲)を始め、しかし、それに全くモタツイタ印象がなく、それどころかスローであるのに、スイング感に満ち溢れている! これは本当に凄い!  彼女は幼少期からクラシックの世界で才能を開花させてきたそうですが、導入部から起承転結の全てを俯瞰しているかのような音の捉え方は正に天才的で、尚且つ、テクニックを誇示せずに、気持ち良くレイドバックする、おっさん臭い(?)ピアノは、本邦ジャズ界でも(少なくても20歳代のピアニストにあって)稀有なものと言えるでしょう。  天才的と言えば、プレイとは無関係ですが、彼女は恐るべき記憶力があるらしく、当夜も、1年に1度か2度しか会わない僕の名前(本名)をスルッと口にされた時にはビックリしました。  以前も、或るライブ・イベントの話しをしたら、間髪入れずに、『あ、XXさん、お元気でしょうか?』とその主催者の方の名前を。  ジャズ・ミュージシャンには『人の名前を覚えない』という定説があるので(?)、こういった彼女の才能、というか細かな心配りが出来る人柄には感じ入ります。  当たり前の事ながら、なかなか当たり前に出来ない、そんな事柄を、スッとやってしまう・・・そういった不思議な才能が、彼女のピアノの不思議な魅力に繋がっているようにも思います。  同世代のピアニスト、野本晴美嬢が自己のレギュラー・クインテットでの活動を始めたりもしていますし、エリチョの今後の活動も要注目です。

といったように、次世代(次々世代?)を担う若手ミュージシャンのライブは、『将来に向けた無限の可能性』、その発展の道程を垣間見られるようで、独特の楽しさがあります。  ジャズはピンスポットで聴くだけの音楽ではありません。 長い、長い、河の流れを追い駆けるように聴いて行けるところが、ジャズの魅力だと思います。  さあ、皆さん、ど〜ぞ、LIVEにいらっしゃい。