LIVE偵察日記2001
2001年 1月


☆1月 10日(水)於 新大久保 Someday
  『
Breeze + 野口 久和トリオ』
   
出演: BREEZE・・・小菅 けいこ(vo)、中村 早智(vo)、石塚 雅司(vo)、磯貝 隆昭(vo)
     野口 久和(pf)、中村 新太郎(b)、稲垣 貴庸(ds)



正月気分も抜けた“21世紀第2週目”のLIVE偵察は、ジャズ・コーラス・グループ“BREEZE”さんでスタート。  昨年、“Salon de totorom”(BBS)にて、オチジュン・ファンさんが、大阪で行われた彼等のLIVEを絶賛されていたが、僕自身も、横濱ジャズプロムナードで、ショッピングモールでの1時間程度のステージながら、その見事なパフォーマンスに圧倒された。  そういうわけで、今宵は、改めてタップリと“BREEZE”の世界を堪能しに新大久保サムデイへ・・・。  
  


野口 久和トリオ
(左から)中村 新太郎(b)、野口 久和(pf)、稲垣 貴庸(ds)

さて、今宵はBREEZEさんもさることながら、共演の野口久和さんのトリオ演奏も楽しみの一つ。  当ホームページでは、“The Orchestra”でのリーダー、作編曲家としての活躍でスッカリ御馴染みの野口さんだが、なんと言っても、益田幹夫 譲りのブルース感と、小粋な雰囲気を醸し出すピアノ・プレイが魅力的。  LIVEは、先ず、トリオでの“Sometimes I'm happy”から。  スインギーなワクワクする演奏で、ピアノ・ソロに入ると、アドリブの中に“The way you look tonight”や、Bud Powellの“Parisan thoroghfare”といったスタンダードのフレーズをちりばめる野口さん。 とっても嬉しくなってしまう、心憎いプレイだ。  アドリブに有名曲のフレーズを取り入れる事は、Sonny Rollinsはじめ米国のジャズメン、特に『歌モノ』に強いプレイヤーの得意技のような所があるが、日本人で、これが出来る人は中々居ない。  それに、これを闇雲にやると、『知ったかぶり』に聞こえ、嫌味になってしまうだけ。  そういう意味で、『粋だなあ〜』と気持ち良く聴かせてくれる野口さんのピアノには、愛すべきセンスを感じてしまう。


続いて、いよいよBREEZEの4人の登場となり、曲は“Perdido”。  御馴染みのウキウキさせるリズムに乗って、表情豊かなメンバーの歌声で、美しい、滑らかなハーモニーが紡ぎ出される。 ロマンチックなディズニー・ナンバー“Never Never Land”から、Jobimの名曲 “Wave”へ。  イントロのコーラスが、文字通り、静かに寄せては返す、ユッタリとした『波』を思わせ、その『波』の向こう側、水平線から立ち上がってくる朝日の輝きのような、透明感ある小菅さんのソプラノ・ボイスがテーマを歌う。  ここまでイメージを感じ取らせてくれるパフォーマンスは、見事としか言いようがない。 (写真左: ソプラノ担当の小菅 けいこ)





LIVEは、Michael Jacksonの名盤“Off the wall”からの美しくも切ないバラッド“She's (He's) out of my life”、そして、Horace Silverの“St. Vitus dance”へと進む。 “St. Vitus dance”は、Horace Silverが、自身のクインテットのアルバム“Blowin' the blues away”で、2管を抜いてトリオで演奏していた曲であり、ボーカル・ナンバーとして取り上げられる事も少ないのだが、ボーカルの場合、下手をすると、突っ込み過ぎてしまったり、逆にもたついてしまったりする。 Silverが、敢えて(?)トリオで録音を入れたのも、なにか肯ける難曲だ。 BREEZEは、これを、えもいわれぬ気持ちの良いテンポで歌う。 この難曲を、このテンポで歌うだけでも、相当な至難の業だろう、と思うが、それを見事に歌い、更に魅力的なアンサンブルにもなっている。 こういう、所謂『ジャズ曲』は、ともするとボーカルが『器楽的』になるものだが、BREEZEのコーラスは、『肉声的』で、実に心地良い。 (写真右: バス担当の磯貝 隆昭) 




彼等のボーカルは、最高の技巧を持ち、それを駆使していながら、決して『テクニカル』には聞こえることがなく、あくまでも『歌』から離れることがない。 ボーカル、楽器問わず、『歌』を忘れずに表現してくれるミュージシャンが少ない昨今、くどいようだが、彼等のパフォーマンスは、本当に見事だと思う。  又、ボーカルだけでなく、4人のメンバーが交代交代で担当するMCも、曲の説明や編曲者の紹介、ちょっとしたエピソードなど、どれもソツがなく、素晴らしい。  ファースト・セットは、2日前、成人式式典にゲスト出演した際の微笑ましい(?)エピソード紹介のMCをはさみ、“What a wonderful world”、そして“My favorite things”と続き、ここでインターミッション。 (写真左: アルト担当の中村 早智)




セカンド・セットもトリオ演奏で始まり、曲は“It's alright with me”。 ここでも、野口さんのピアノが、アドリブで“Softly....”等のフレーズを織り込み、粋なところを聴かせてくれる。  そして、ステージにBREEZEのメンバーが再登場、ジャズ・メッセンジャーズの超有名曲“Moanin'”でスタート。  テーマを歌うテナーの石塚さんの甘い声と、コーラスの対比が中々良い。 レゲエ調の“Bridge over the troubled water”、4人がソリ的にアドリブを歌っていく繊細な“All Blues”、気持ちが弾む楽しい“Get Happy”と続く。  LIVEの進行と話しが逸れるが、BREEZEは、4人全員のアンサンブルだけでなく、4人のメンバーが幾通りかの組み合わせで歌っていく所にも魅力があると思う。 『声』そのものが非常に美しい女声2名がメインに出る場面など、ゾクゾクするものがあり、そのバリエーション的に、男声2名がバッキングのコーラス、そして女声のうち、小菅さんがリードし、中村さんがそれをサポートしていくあたりも見事なバランス。 これは、各人のテクニックが優れているからこそで、特筆すべきは、バッキング、サポートの役割になっても、各メンバー(特に磯貝さん、中村さん)が、そのテクニックを無駄使いせずに、コントロールしきって大きな存在感を放っていることだ。  又、テナーの石塚さんの声が、コーラスの中で、時に少し甘過ぎるかな、と感じる所も無きしもあらずなのだが、それが逆に女声的に響いてくることがあり、『女声3』のような不思議な雰囲気を醸し出す場面も面白い。 Live終盤は、スタンダード中のスタンダード“Stardust”をシミジミと聴かせ、そして、Fifth Dimensionの名曲“Up, up and away”を気持ち良くハッピーに。  最後は、“Crazy Rhythm”の切れの良いコーラスで楽しく御開き。  
(写真右: テナー担当の石塚 雅司)



本当に良いものを聴いたなあ〜、という満足感を与えてくれる素敵なLiveながら、勤め人には『年始第1週』の真っ只中となった当夜は、真冬の寒さも手伝ってか、残念ながら客席がとても寂しい状況だった。  世の中では、『癒し』や『元気』を与えてくれる、として、『か細いボーカル』や、『絶叫ボーカル』ばかりが人気を博しているようだが、『癒し』や『元気』ならば、このBREEZEの明るく、楽しく、そしてロマンチックでイマジネーションたっぷりな世界が当然、もっともっと注目され、そしてブレークしても良い筈だ。  又、ジャズ・ファンは(業界もだが)、悪い癖として『ボーカルのジャズ』、『ピアノのジャズ』、『サックスのジャズ』『フルバンドのジャズ』・・・等と種別してしまい、『コーラスのジャズ』にあまり興味を示さい傾向がある。  しかし、広く『良いジャズ』、あるいは『良い音楽』と捉えれば、BREEZEさんが聴かせてくれた、当夜のパフォーマンスに匹敵する『テクニック』、『アンサンブル』、『コミュニケーションに長けたステージング(MC含む)』、そして『歌の心』を持った『ユニット』が、今、この日本にどれだけ存在するのか?  ジャズ・ファンの皆さんに、声を大にして言いたいことは、『コーラス・グループ』とだけ認識していては、いつまで経っても、彼等の素晴らしさは理解できないであろうという事。  兎にも角にも、まだBREEZEのパフォーマンスを体験したことがないという人には、是非一度、彼等のLiveを聴いて貰いたいと思う。 勿論、好みの問題なので、『これは駄目だ』という人も居るだろうが、大方の人にとって、それは『目から鱗・・・』となることだろう。