☆01年12月 26日(水)於 紀尾井ホール
  『吉田 正 記念オーケストラ

   
出演: 大沢 可直(指揮、編曲)、吉田 正 記念オーケストラ
     さとうしゅうやとサウンドシャワー 
       佐藤 秀也(sax)、伊勢 秀一郎(tp、flh)、元岡 一英(pf)、高梨 道生(b)、田中 文彦(ds)




『勝手に応援ページ(イセラーのページ)』を作らせて貰っている、“味わい系”(?)トランペット奏者の伊勢秀一郎さんが出演される、興味深いコンサートがあるとの事で、早速行ってきました。

吉田 正(1921〜1998)は、(ご存知ない方は殆ど居ないと思いますが)『国民栄誉賞』も受賞された、日本歌謡界が誇る大作曲家。 戦後、日本ビクターの専属作曲家として、『有楽町で会いましょう』や『寒い朝』、レコード大賞に輝く『誰よりも君を愛す』、『いつでも夢を』等、ヒット曲、名曲を次々に発表されました。 最近では、吉田先生の名曲に因んだミュージカル『異国の丘』が劇団四季によって大ヒット中でもあります。  その『吉田メロディー』を永久に残そうと、芸大、桐朋、東京音大など出身の若手演奏家で結成されたのが、『吉田正記念オーケストラ』です。  指揮、編曲は、トルコ国立オーケストラの名誉指揮者を務める気鋭の大沢 可直氏。  同氏が『吉田メロディ』の数々を壮大な交響組曲にした『東京シンフォニー第一番』は、同氏指揮のトルコ国立イズミール響によって録音され、見事に2000年度日本レコード大賞『企画賞』に輝いています。

さて、コンサート当日、なんと開演5分前に会場の紀尾井ホールに到着。  ホールの最後尾でしたが、なんとか当日券で席をゲットし、入場。  ロビーを歩いていると、開演のブザーが“ビーッ”と鳴り、慌てて着席。  このホールは、昨年の『アロー・ジャズ・オーケストラ』の公演以来、2回目の来場ですが、クラシック専用ホール特有の高い天井と装飾、照明がゴージャスな雰囲気で、音響的にも視覚的にも素晴らしいものがあります。  個人的な話しで恐縮ですが、クラシック系の演奏会というのは、中学校の音楽の授業で出掛けた井上道義さん指揮のオーケストラ公演以来、20年弱ぶりで、普段行き慣れたジャズ・ライブとは全く勝手が違い、とても緊張します。  

ステージ上には、オーケストラのメンバー用に数十の椅子と譜面台が配置されており、その向こう側、ステージ後方に、ジャズ・バンド用のピアノ、ドラムス、ベース・アンプ等が見えます。 定刻より5分遅れ程で、ステージ向って左手の重厚なドアが開き、タキシードで正装した『さとうしゅうやとサウンドシャワー』のメンバーが登場。 拍手しようかな?と思いましたが、周囲の観客には全く動きがなく、躊躇していると、続いてゾクゾクとオーケストラのメンバーがステージに上がってきます。  さすがに、フル・オーケストラのメンバー・・・恐らく70〜80名(?)・・・が勢揃いすると、壮観なものです。  一通り全員が着席すると、コンサート・マスターと思しき、女性バイオリニストが登場。  遠目でよく分かりませんが、なかなか素敵な方のようです(笑)。  ここで、ようやく会場から拍手が鳴り響きます。  はあ〜、クラシックのコンサートって、そういうもんなのか?等と感心していると、コンサート・マスターのチョットした呼吸で、パッとオーケストラが始動。  てっきり指揮者が登場して咳払いでもしてからの演奏開始、と思っていたので、これにはビックリ。  一曲目はフランク永井が歌った『好き好き好き』(昭和34年)。 ジャズ・バンドとオーケストラの華麗な共演の始まりです。  ジャズ・バンドのリーダー、佐藤秀也さんのアルト・サックス(生音)がホールに気持ち良く響き渡ります。  チャーリー・パーカーの“with Strings”のコンサートを実際に観る事が出来たならば、こんな感じだったのかな?などと思ってしまいました。  メドレーで、松尾和子の『嫌い嫌い嫌い』(昭和35年)と続き、ここで、指揮者の大沢氏が登場。 会場割れんばかりの拍手です。

ここまで、お目当ての伊勢さんの出番がなく、あれれ?と思ったのですが、3曲目からの登場です。  曲は『和歌山ブルース』(昭和43年)で、オーケストラ無しの2管、クインテットで聞かせます。  元々は演歌調の曲だそうですが、2管編成を巧みに使い、まるで往年のホレス・シルバー・クインテットがやりそうな、ハード・バップ調のブルースになりました。  編曲は、ピアノの元岡さんの手によるもののようです。  続いては、三田明が歌った『赤毛の女』(昭和48年)。  ここで、伊勢さんのトランペットがフィーチャーされます。  数十名からなる弦楽の厚く滑らかな“シーツ・オブ・サウンド”に包まれながら、温もりある伊勢さんのトランペットが、繊細にテーマとアドリブを吹奏。  これは、本当に素敵でした。  曲は、そのまま伊勢さんフィーチャーで、『街灯』(昭和33年)。  この曲は、数年前に一時期『お笑い番組』で突如ブレークした三浦洸一さんが歌ったヒット曲だそうです。  ここでの伊勢さんは、フリューゲル・ホーンに持ち替えて、極上な哀調を聴かせてくれました。  又、ピアノの元岡さんが、いつものジャズ・ライブ同様、自らのピアノに合わせて『ウ〜〜〜ッ、ウ〜〜〜ッ』と唸って(歌って)いたのが、なんとも素敵でした(笑)。  

第一部の最後は、フランク永井の『東京カチート』(昭和35年)。  ナイト・クラブのダンスフロアの光景が目に浮かぶラテン・ビッグ・バンド調です。  これで第一部は終了。  クラシックとジャズ、そして歌謡曲のコラボレーションは、僅か30分強の演奏時間でしたが、非常に濃い内容で、良いものを聴かせて貰った、と思いました。  第一部で演奏された曲は、世代を越えたスタンダード的ヒット曲、というのとも違い、自分の不勉強もあり、知らない曲ばかりだったのですが、それでも、そのメロディは、聴いていると、ス〜ッと心の中に落ちていき、何故か鼻の奥がツーンとして、眼の奥がジーンとしてきます。  日本人の音楽的DNA(?)を感じた次第です。  

第2部は、『吉田メロディ』の数々を散りばめた、大沢氏の編曲による『東京シンフォニー第二番』が披露されました。 クラシック・オーケストラだけで約1時間に亘って演奏され、その内容は、正直言ってよく分からないので、ここでは割愛させて頂きます。  ひとつだけ書いておくと、シンフォニーの所々に、コンサート・マスターのバイオリン・ソロがフィーチャーされていましたが、音色の気丈さ、そして奏で出されていく音が、なにか核分裂でもしているかのようなパワーとスピード、鋭さを感じさせ、さすがコンサート・マスターに選ばれるだけのことはあるな、と思いました。  

コンサート会場は、ほぼ満席で、客層としては、やはり御年配の方々が多かったようです。  恐らく、普段はコンサートなどには足を運ばないであろうと思しき、人生のベテランの方々が、会場で販売されていた『東京シンフォニー第一番』のCDが入った『山野楽器』の袋を手に下げながら、『松尾和子さん、亡くなっちゃったわよね〜』etc.とお話ししながら、帰路につかれていた姿には、とても微笑ましいものを感じました。  

世代を越え、何十年にも亘って聴かれ、演奏されていく音楽の強さ、尊さを改めて感じた夜でした。