
☆01年12月 25日(火)於 吉祥寺 SOMETIME
『越智 順子グループ』
出演: 越智 順子(vo)
ユキ・アリマサ(pf)、納 浩一(b)、荻原 亮(g)、太田 剣(as)
ファースト・セット
@ユーブ・ガット・ア・フレンド、Aザ・クリスマス・ソング、B星に願いを、Cラビング・ユー・ワズ・ライク・ア・パーティ、Dシェイプ・オブ・マイ・ハート、Eジェシー、Fアメージング・グレイス、Gサイド・バイ・サイド
(写真は11月26日のライブ)
クリスマス、そうです、聖夜です。 ・・・と言いながら、なんとなく忌わしい予感がして、早めに会社を出ると、案の定、先行電車で急病人が出たとかで、JR線が遅延していました(笑)。 でも、早めの行動が功を奏して、19時過ぎには吉祥寺に到着。 吉祥寺Sometimeに入ると、普段に増して照明が暗めに落されていて、各テーブルには小さな蝋燭が。 壁にはシンプルな電飾が所々に配置され、テーブルの蝋燭の灯りを活かすかのようです。
客席に目をやると、入替制ということもあり、前回、前々回のような『超満員』という感じはなく、ほぼ満席ながら、比較的ユッタリした雰囲気。 客層は“リピーター”が1/3、『越智順子って評判だから聴いてみよう』といった風の方が1/3、そして残りは『クリスマス・デート』を洒落込む若いアベック、といった感じでしょうか。 お馴染みの(?)『吉祥寺ゴスペル隊』の皆さんは、セカンド・セットにエントリーされたのか、見当たりません。 ミュージシャンもゾクゾクと到着し、落ち着いたムードの中、徐々に盛り上がりを感じます。 従前、当夜のベーシストは、佐藤ハチさんとも、納さんとも伝えられており、ハチさんは綾戸智絵さんのディナー・ショー、納さんは桑田圭佑の札幌公演の筈だが、いったい誰がベース弾くのだろう?と思っていたところ、ヒョッコリと(?)納さんが大きなベースを抱えて登場。 CDにも参加した納さんと越智さんの共演ライブを聴いてみたかったので、ハチさんには悪いのですが(!)、先ずはヨッシャ〜といったところ(笑)。 因みに桑田圭佑の公演は、24日までだったようです。
そうこうするうち、19時半、ほぼ定刻通りにユキ・アリマサさん以下、ミュージシャンがステージのあるフロアに集結し、楽器をセット。 さて、インストで一曲かな、と思っていると、アリマサさんが『ユーブ・ガット・ア・フレンド』のイントロを。 あれれ? インストで、この曲なわけないよな?・・・すると、次の瞬間、店の奥の暗闇から越智さんがス〜ッと登場。 張りのある『ウェルカム!』の掛け声と共に、歌いだします。 僕も含めて、客席は、ちょっと意外な展開に、目が点になっている模様。 それに気付いたのか否か、歌の途中で越智さんから『クラップ・ユア・ハンド!』の呼びかけが。 お客さん達は、この越智さんの『掴み』に呼応して手拍子を始めます。 それでも、まだまだ客席は温まりきっていない様子。 一方、バンドは、本邦ジャズ界にあって、才人中の才人であるアリマサさんと納さんを中心に、活きの良いゴローさん(太田さん)とオギリョウ(荻原くん)を加え、ドラムレス編成をモノともしないグルーブを発散しながら、濃い〜演奏をくりひろげています。
さて、肝心の越智さんですが・・・、外見は相変わらず元気そうです。 しかし、その歌は、ちょっと疲れていることを物語っているようでした。 過密スケジュールから、さすがにベスト・コンディションを維持するのが難しいのでしょう。 声量は、いつも通りの圧倒的なものがありますが、中音域から高音域に上がって行く時に、ザラついた印象があり、声は伸びていても、歌がスッと抜けていきません。 当夜はドラムレスということで、ゴローさんが吹いていない時は、越智さんのボーカルがステージ上で最大のボリュームとなりますが、そうなると、越智さんの『抜けていかない歌』が、店内にビンビンと響き渡ります。 これには、『ウルサイなあ〜』と感じてしまいました。 Sometimeという店は、もともとアコースティック(音響)があまり良くなく、尚更そう思うのでしょう。
実は先月の同店でのライブでも、ここ迄ではないものの、圧倒的なボーカルが、『ちょっと過ぎるな、うるさいな』と思わせたところがありました。 声(喉)の調子云々とは別に、前回も今回も、越智さんの歌の表現が、いささか大きくなり過ぎている、と感じます。 特に今回は、ここ数週間で、ゴスペル・グループのSprit of colorsと多く共演した影響が出ていたのかも知れません。 広い会場(ホール)で、数十名(百名以上?)のメンバーと共にゴスペルを歌い、数百単位の観客とノリノリで(笑)盛り上がっちゃう・・・というケースには、『大きい表現』も良いでしょう。 しかし、こういう“手が届く距離”のライブハウスでそれをやられるのは、正直言ってツライです。 良く言えば『スケールの大きな歌唱』なのでしょうが、こういうのは『大雑把な歌唱』とも言えなくはありません。
2曲目の『ザ・クリスマス・ソング』に続き、3曲目は、ディズニー・ナンバーから『星に願いを』。 今宵は、CDからの選曲ではなく、クリスマス仕様のライブのようです。 同じくディズニー映画の名曲である『いつか王子様が』のマイルス・デイビス・バージョンから引用して、イントロを構築するユキ・アリマサさんは流石。 そして、ちょっと早めのテンポ・・・少しワルツ・タイム・・・で歌っていく越智さんは良い感じです。 又、ここでは、納さんの天才的なサポートが白眉。 兎に角、その『音楽の全方位を把握する能力』といったら、只者ではありません。 越智さんのボーカルは勿論、他のプレイヤーの演奏を包み込みながら、確実に自己主張も忘れないプレイを聴かせてくれます。 これは凄いことです。 曲の終盤、テーマ部を歌う越智さんが、ヒュ〜ッと高音で頭一つ出た瞬間、パッと一瞬だけベースの音を切り、越智さんの歌声が活きる『スペース』を作り出していたあたりも圧巻でした。
続いて、お馴染みのマリーナ・ショウの『ラビング・ユー・ワズ・ライク・ア・パーティ』。 4曲目にして、やっと客席も暖まってきたようで、お客さん達の意識がググッと越智さんの歌唱に引き寄せられ出したのが分かります。 ファンク・セッションも得意な納さんのベースは、ここでも大活躍。 先月も感じましたが、この曲での越智さんの歌唱は、『マリーナ・ショウの呪縛』から遂に抜け出したような、自然なグルーブが出ています。 5曲目は、今夜初めて、最新CDからのナンバーで、『シェイプ・オブ・マイ・ハート』。 CDで道下さんが弾いていたギターでのイントロを、アリマサさんがピアノで再現します。 ピアノの響かせ方、鳴らせ方は絶品です。
ここまで来ると、観客も、越智さん自身も、完全に調子が出た感じで、越智さんの客イジリも『舌好調』に。 変な言い方かも知れませんが、先月のライブから、越智さんのMCが以前にも増して饒舌になったように思います。 只、この傾向がエスカレートすると、本業の『歌』を(観客も、越智さん自身も)蔑ろにしてしまう恐れがありますから、要注意だと思います。 6曲目は新作のタイトル曲、『ジェシー』。 ユキ・アリマサさんのピアノによるイントロは、とても、とても美しく、長めに聴きたい、と思ったのですが、CD同様にショート・バージョンで終了。 折角のライブ・パフォーマンスなのだから、CDとは違った広がりを見せて欲しかったです。 CDを再現するのに留まった感があり、 う〜ん、なんか呆気なかったなあ、というのが率直な印象。
又、こういったバラッドでの越智さんの『感情移入』には、最近、ちょっと引っ掛かるものがあります。 『感情移入』は、音楽には不可欠な要素ですが、歌唱にしろ演奏にしろ、本来は『感情』が『主体』ではない筈です。 優れた演奏、歌唱とは、『(楽曲に内在する)感情を呼び起こす』ものではないでしょうか? 例えば、越智さんも敬愛する美空ひばりは、『泣いて歌っている』のではありません。 美空さんの場合、『歌が泣いている』のです。 もっと言えば、『歌が(楽曲に込められた)“涙”を呼び起こしている』のです。 ロバータ・フラックの『歌』が、あんなに淡々としていながら、聴き手の心にグッと迫ってくるのも同様。 ロバータは、何もしていません。 例えて言うならば、ロバータは『歌う事』によって『楽曲の背中』を撫ぜてあげているのです。 一方、今の越智さんは、どうでしょうか?
越智さんを、歴史に残る大歌手である美空さんやロバータと比較するのは、可哀想なことかも知れません。 しかし、以前は、越智さんだって、『歌』そのものに『表情』があり、その『表情』を通して、『(楽曲に内在した)感情』が発露し、『楽曲』が、そして『歌』が泣いたり、笑ったりしていました。 ここ最近、越智さんは、歌う以前から、イキナリ泣いたり、笑ったりしてしまっているように思います。 それは、それで勿論、高いレベルの歌唱には聞こえますが、『ちょっと“易き”に流れているのでは?』・・・との危惧を感じずにはいられません。
ラストの曲は『アメージング・グレイス』。 越智さんの『アメージング・・・』と言うと、昨年の夏から秋にかけてのライブ・・・これには紀尾井ホールでのアロー・ジャズ・オーケストラとの共演も含まれます・・・での歌唱は絶品でした。 その歌には、天空に一筋の光の道が立ち上って行くようなイメージがあったのですが、当夜に限らず、最近の越智さんの歌唱には、残念ながら、そういうものがありません。 バプチスト教会の信者達は、大声でゴスペルを歌いますが、それは『声を大きく出せば出すほど、天に通じる』と信じているから、と言われています。 『天に通じさせよう』という気持ちが『大きな声』を出させるのです。 つまり彼等には、『大きな声で歌う“理由”』があるのです。 一方、最近の越智さんの歌唱には、その『理由』が希薄になっている感じがします。
ライブは、『アメージング・グレイス』に続いて、『このままアンコール』とのMCから『サイド・バイ・サイド』へと雪崩れ込みます。 いつもの通り、観客を参加させての大合唱となり、楽しいパフォーマンスでしたが、当夜の店内(このセット)に全般的に漂っていた『落ち着いた雰囲気』を考えると、こういう強引に盛り上げる『大合唱』ではなく、他のクロージングも選択肢としてあったのではないか?という気持ちが募りました。 過去、越智さんのライブでは、自然発生する至福の盛り上がりを何度となく経験しているだけに、こんな作為的なノリノリ(笑)は頂けません。
1時間強のステージでしたが、時間の長い、短い云々とは別の次元で、なにか呆気なかった、中身が薄かった、という印象は拭えません。 しかし、個人的にはユキ・アリマサさんと納浩一さんの素晴らしいプレイが聴けて嬉しかったですし、当夜のライブで感じた越智さんのボーカルの『変容ぶり』も、色々な意味で大きな『収穫』になりました。 又、何よりも、周囲のお客さんが、皆さん満足そうな顔をしていましたので(?)、『需要と供給のバランス』というコマーシャルな観点からすると、これは、これで、良かったのではないか、と思います(苦笑)。
ライブというのは、正に『生き物』であって、その時々で、内容、クオリティが大きく違いますので、今回のライブでの越智さんの歌唱が大きな『?』を残したからと言って、『越智順子』を否定するということではありません。 只、やはり、越智さんの『真価』は、この先、10年、20年、30年・・・と歌いつづけ、積み重ねていかないと生まれてこないのでしょう。 『真に良い歌が歌えるシンガー』になるのか、あるいは、世の中に数多居る『“それっぽく”歌えるシンガー』の “Just One of Them”に留まってしまうのか? 今後の越智さんに期待したいです。
今回は『年末蔵出し』で(笑)、色々と書いてしまいましたが、越智さんのシンガーとしての『真価』が輝き出すまでの『進化』を、これからも興味を持って聴かせて貰いたいと思います。