
☆01年12月 2日(日)於 岩本町 TOKYO TUC
『デビッド・ヘイゼルタイン・トリオ + 井上 智』
出演: デビッド・ヘイゼルタイン(pf)、北川 潔(b)、アキラ・タナ(ds)、井上 智(g)
ゲスト 〜 モニカ・ブランド(vo)
ファースト・セット
@フェイス・トゥ・フェイス、Aファット・ザ・ワールド・ニーズ・ナウ・イズ・ラブ、Bパールズ、Cペンティネント、Dアイ・シュッド・ケア、Eビー・カインド、Fゴーイング・オン・ア・ヴェッセル
セカンド・セット
@オール・オブ・ミー、Aアイム・オールライト、B帰ってくれたら嬉しいわ、Cイン・ア・センチメンタル・ムード、Dブルース・ライク、Eモンク・ザ・シング、Fポルカドッツ・アンド・ムーンビームス、Gユニット7
アンコール: アイム・オールド・ファッションド
当HP“JAZZ @ totorom”でHPをリンクさせて貰っているニューヨーク在住の素晴らしいギタリスト、井上智さん。 毎秋恒例の「Big Apple in 野々市(石川県)」等の為、今年もニューヨークから凄いメンバーと共に来日してくれました。 日本人好みの(?)ピアノトリオ作品の制作で話題のレーベル、『ビーナス』から諸作を発表しているピアニスト、デビッド・ヘイゼルタイン。 小曽根真 The Trioのレギュラーを長く務めたべーシスト、北川潔。 “タナ・リード”でお馴染み、現代ジャズ界で最高のドラマーの一人、アキラ・タナ。 そして、ゲストは、井上智さんが講師を務める『ニュー・スクール音楽院』を卒業したばかりながら、在学中から講師陣を中心に玄人を唸らせていたという実力派ボーカリストのモニカ・ブランド。 う〜〜〜ん、これは充実したメンバーではないですか? という事で、早速、会場のTOKYO TUCへと。
開場前にお店につくと、熱心なジャズ・ファンの紳士が既にお待ちになっており、開場時間が迫るにつれ女性ファンの方々が早々来店する等、注目度も中々のもの。 リハーサルの音が、ビル地下の店舗内部から漏れてきて、心地の良い音色が直ぐにそれと分かる、井上智さんのギターのサウンドが耳に入ると、なにか幸せな気分になります。 開場となり、店内に入ると、智さんと感動の再会?! と、いきなり、『PFM、買っちゃいましたよ』・・・・と『プログレ教室』に突入の智さん。 ここにGENさんも居れば、きっとライブどころではない(?)、超絶プログレ談義となった事でしょう(笑)。 さて、開演が迫るにつれて店内は満員となり、渋めのピアニスト、という印象があるヘイゼルタイン人気もあるのか、比較的年齢層が高い、ベテラン・ジャズ・ファンのお客様が多かったようです。
さあ、先ずは、ステージにデビッド・ヘイゼルタイン・トリオが登場。 曲はデビッドのオリジナルで、『フェイス・トゥ・フェイス』。 ビーナス盤でビル・エバンス集なども出しているので、エバンス風の演奏をするピアニストなのかな、と思っていたのですが、実際に体感した、そのプレイには、エバンスというよりは、それより以前のジャズ・ピアノのスタイル・・・、ビ・バップやスイング、あるいはストライド・ピアノまで遡る、ジャズ・ピアノの伝統をミッチリ研究し、自分のものにしているなあ、との印象を受けます。 スピード感があるのに、変な威圧感がない。 多くの音数を使っていないのに、凄くゴージャスな音がする・・・。 まったくもって懐が深いピアノだなあ、と思います。 続いては、バート・バカラックのポピュラー曲を、ジックリとスローで披露。 柔らかななピアノの打鍵から、染み込むようなコード・ワークで、メロディを際ださせます。 う〜〜〜ん、なんちゅ〜、憎いプレイなんでしょう。
David Hazeltine (pf)
3曲目は、再びデビッドのオリジナルで、亡くなった母上に捧げた、という『パールス』。 急速なバップ調でグァ〜〜〜ッと飛ばすのかな?と見せかけて、テーマ途中でトリッキーなブレークが入るなど、なかなか一筋縄では行かない音楽性で、思わずニヤリとさせられますなあ、こういうのには。 で、よくよく聴いていくと、バップ調と思ったテーマが、実はマイルスの“チューン・アップ”をベースにしたような、モーダルなものである事が分かってきました。 これまた、いやはや、この野郎! 憎いよ、デビッド! よっ、大統領!?(笑) バップとモードのミクスチャの中、ピアノ・ソロとなり、徐々にモーダルな雰囲気が濃厚に。 と、言っても、マッコイのような手の平をグワンと広げたモード演奏(?)というのではなく、なにか、凄くエレガントで、指の1本1本まで神経を通わせ、或る特定の音域を有効に使うようなプレイ。 う〜〜〜ん、見事だあ。 そして、ソロを聴いているうちに、この人は、シダー・ウォルトンをメチャクチャ研究したんだろうなあ、と思わされました。 メッセンジャーズでシダーが入れた『ウゲツ(ファンタジー・イン・D)』あたりにも通じるものがあります。 ガンガン弾いてくる、というよりは、コツコツと、音と音を重ねながら、“ガンガン”弾く以上に広い世界を展開する・・・。 嗚呼、こういう人がチャンヂーになると『名人』と呼ばれるのだろうなあ。
4曲目からは、井上智さんが加わりカルテットでの演奏。 デビッドのオリジナル『ペンティメント』、そしてスタンダードの『アイ・シュッド・ケア』と続きます。 智さんのギターは、先にも述べたように、一聴して分かる独特な“温もりある”トーンが魅力的です。 なんと言っても、やはりスタンダード曲でのプレイは最高で、僕も大好きな『アイ・シュッド・ケア』では、メロディを本当に大事にしながら、唄うように・・・気持ち良く、鼻歌を唄うように・・・味わい深い世界を紡ぎだしていきます。 鼻歌を唄う・・・というと、変に思われるかも知れませんが、その昔、ジョン・スコも『俺の夢は、いつか鼻歌のようにプレイすること・・・』と何かのインタビューで語っておりました。 目玉が飛び出るようなバカテクよりも、鼻歌のようなプレイの方が、ナンボも難しく、そして、又、尊いのです。 う〜ん、良いな、良いな、今宵は、ホントに良い音楽を聴かせて貰っているなあ〜。
Satoshi Inoue(g)
さあ、続いては、いよいよ待ってました!? ニュー・スクール講師のベテラン・ジャズメン達を狂喜乱舞させた、という(?)実力の持ち主、歌姫、モニカ・ブランド嬢が登場! まだ20歳代半ばだそうですが、見た目、屈託のない明るいお嬢さんいう雰囲気で、変にお色気に走ってなくて良いですね。 『来春、日本でもCDが出ますので、出来れば、買って、聴いてください・・・・、買ってね』とチャッカリ宣伝も忘れないあたりも微笑ましく、さて、どんな歌を聴かせてくれるのか、楽しみ、楽しみ。 曲は、2曲ともオリジナルで、『ビー・カインド』はモニカの作詞作曲、『ゴーイング・オン・・・』はモニカの詞に井上智さんが曲を付けたもの。 『ビー・カインド』はユックリ目のボッサで、可愛がってくれない彼氏に、『う〜〜〜ん、イケズ〜ッ、優しくしてよん』と迫る(?)、ユーモラスな歌詞もグッド。 『爽やかなお色気』といったコケティッシュな雰囲気で、歌の世界を演出するモニカのエンターティナーぶりも秀逸ですが、なにより彼女の声の出し方(使い方)のコントロールが抜群で、これには脱帽。 恐らく、本当の声量は実際に出している声の数倍はあるのでしょうが、それを敢えて、抑えて、抑えて、抑えて・・・・、必要不可欠な部分だけを巧みに選択して発声しているのが分かります。 イメージ的な表現で恐縮ですが、ライブ会場の一番後ろの席で聴いてる人迄の距離を即座に判断して、それに必要なだけの『声の質量』を絶妙に駆使して唄っている感じです。 カブリツキの席だったので、モニカの喉(声帯)の使い方がバッチリ見えたのですが、これは凄かったあ! もの凄くテクニカルなことをやっているのだろうに、全く『技術』を感じさせないナチュラルさ・・・・しかも、ワザとチョッピリ、フラットしたりして、聴く者(助平オヤジ?)の心をクスグリます。 迫力で聴かせるタイプではなく、パッと聴いたぶんには、インパクトは無いのですが、この人は本当に『深い歌』を唄っています。 凄いです。 やはり、これがホンマモンのジャズ・ボーカルなんだろうなあ、と感心することしきり。
Monika (vo) with Satoshi & David
セカンド・セットは、智さんとモニカ嬢のデュオからスタート。 曲はお馴染みのスタンダード、『オール・オブ・ミー』。 ニュー・スクールでの師弟(って事になるのかな?)ということもあってか、リラックスした中にも、先生(先輩)と生徒(後輩)の真剣バトルの緊張感もあり、ゾクゾクしてきます。 智さんのギターにサポートされ、ここではモニカの器楽的なスキャットも聴けました。 ガンガンと歌いまくる圧倒的なイメージはありませんが、グーッと絞って吸い込むような集中力と、それでいて何処かユーモアも忘れない抜いた感じも渾然一体となっており、聴いていて唸らされること多々。 実は、この12月にオリジナル曲ばかりを集めたモニカの日本でのデビュー盤がJAZZ BANKから発売されるそうですが、それに続き、来年春には、この2人によるデュオ・アルバムも予定されているとの事。 2曲目は、そのCDにも入っているらしい、オリジナル曲。 そして、これまたお馴染みの『ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ』。 モニカの歌声は、どちらかと言うと高めで、所々これがスィ〜ンと抜けてきます。 これが実に気持ち良い。 そこ、そこ、そこがツボなのよ〜って感じですね。 なんとなく、アイリーン・クラールあたりを思い出したのですが、実は、ここ数ヶ月、アイリーンのアルバムをメチャクチャ愛聴しておりまして、モニカちゃんもオバハンになったら、きっとアイリーンみたいな味わい深いシンガーになるんだろうなあ。 オジサンは楽しみで、楽しみで・・・(おいおい)。
Monika with Satoshi
お次はピアノ・トリオだけの演奏になり、曲はエリントンの名曲、『イン・ア・センチメンタル・ムード』。 も〜〜〜、このトリオ演奏は、言うことなし! やられた〜〜〜〜という感じです。 セクシーで、ジェントルで、マチュアーで、ゴージャスで・・・・。 『大人の』・・・って言うか、敢えて性差別すると(ゴメンナサイ)、『大人の男』が持っている『美徳』の全てが注入された演奏とでも言えば良いか・・・・。 やっぱり、憎いぞ、デビッド・ヘイゼルタイン! そして、ベースの北川さん、アキラ・タナさんも見事としか言えません。 北川さんのベースの『鳴り方』は凄まじく、楽器そのものがドッカーンと鳴り、その振動が周囲の空気を伝わって、極上の『音楽』として届けられる感じがします。 アキラさんも、もはや何も申すことなく、最高のドラミングで、『音の炸裂』、そして、その逆で、『音の絞り』といった一打一打の入れたり出したりのサジ加減が凄い。 正に『音楽』をしているドラマーと言えます。 デビッドのオリジナル曲は勿論、スタンダード曲でも、アレンジャーの意図を汲み取る為でしょう、アドリブ部でもチラチラと楽譜を見て、ちゃんと曲の構造(『AABA』etc)やブレーク部の入り等を確認しつつ、それに合わせたドラミングを確実に展開していました。 こういう事が当たり前のように出来ちゃうドラマーが、なかなか居ないのですよね。
Kiyoshi Kitagawa (b) & Akira Tana (ds)
続いては、井上智さんが戻って、カルテットで、デビッドのオリジナル曲、そして、智さんのオリジナルと演奏されます。 特に後者は、『オール・ザ・シングス・ユー・アー』をベースにした曲のようで、ここでのアドリブ合戦は、エキサイティングこの上なしでした。 終盤は、スタンダードで、『ポルカドッツ・・・』。 これは、北川さんのベースをフィーチャーして、北川さんが、あのチャーミングなテーマ・メロディを奏でていきます。 逞しいベースのトーンは、マッチョな肉食の『筋肉質』・・・というよりは、魚を食った『骨太』といったイメージ。 う〜〜〜ん、エエです、とっても。 そして、最後は、サム・ジョーンズの『ユニット7』。 ホット、ホット、ホット!な雰囲気で大団円。 勿論、アンコールの大拍手が場内を包み、再びモニカを加えたフル・メンバーで、『アイム・オールド・ファッションド』。 モニカのスイング感は中々のもので、スイングしながらも、リズムに流されることなく、程よい粘っこさも聴かせてくれて、こりゃまたエエなあ〜〜〜〜。 そして、スインギーに楽しく、でも『過ぎること』はなく、あくまでも大人の分別ある(?)演奏が展開されました。
大興奮する派手さがあったわけではありませんでしたが、物凄く『後味が良い』ライブで、こういうのは年間通しても2〜3本しかない、貴重なライブでした。 あちら(海外)で活動しているミュージシャンの演奏(歌唱)には、国籍、人種問わず、なにか一味違うものをいつも感じます。 『感触』の違い、『肌合い』の違い、と言えば良いか???? この『後味の良いライブ』のワケを知りたいのですが、一つは、デビッドのプレイにもあったように、彼等には過去から培われてきた音楽の伝統を大事に、それを血肉にしていく日々の努力が感じられます。 しかも、それをコレミヨガシにするわけでもなく、至極当たり前の事として表現している。 こういう事が、受継がれていく『伝統』というものなのかも知れません。 日本に於けるジャズも、海外のジャズと遜色なく高いレベルを保っていると思いますが、『伝統』、そして『伝承』というポイントをもっと大事にしなければ、『仏作って魂いれず』になる危険性を感じます。
本当に、今宵は素晴らしいライブで、大満足でした。 これを企画したTOKYO TUCさん、そして出演のミュージシャンの皆さんに感謝します。 こういうライブがあると、益々、漫遊したくなります。 さあ、貴方も、素晴らしいライブとの出会いを求めて、お出かけ下さいね!