☆02年1月 3日(木)於 新宿 PIT INN
  『エルビン・ジョーンズ・ジャズ・マシーン

   
出演: エルビン・ジョーンズ(ds)
     デルフィーヨ・マルサリス(tb)、パット・ラバーべラ(ts、ss)、カーティス・ランディ(b)、アンソニー・ウォンジー(pf)


ファースト・セット
 @ローン・ウォリア、Aウィーバー・オブ・ドリームス、B五木の子守り歌、Cタイトル未定〜スイングしなけりゃ意味がない
セカンド・セット
 @EJブルース、Aベイズン・ストリート・ブルース、B花嫁人形〜スイングしなけりゃ意味がない



ジャケットにエルビンの直筆サインを頂戴した
85年のPIT INNでの実況盤



毎年お正月恒例、エルビンの来日公演@ピットインです。 今年は、なんと言っても、予てより体調不良との情報が伝えられていたエルビンの健康状態が心配でしたが、無事に開催となり、先ずは一安心。  会場はいつもの通り、満員となり、日本におけるエルビンの人気の高さを感じさせます。  

さて、演奏に先立ち、お馴染みのケイコ・ジョーンズ夫人のマイク・パフォーマンスが
スタート(笑)。  先ずはエルビンの体調に関する話題に触れ、右足の大手術に続き、左足の治療もロシアで開発されたばかりの新しい療法によって完全に治癒したとの事。  50メートルも歩けなかったエルビンが、今では苦労なく普通に歩けるようになった、との話しで、安心しました。  

続いて、当初発表からメンバーが変更したことを説明。 ここ2年ほどレギュラー・ピアニストを務めてきた、モンク・コンペ優勝者のエリック・ルイスが、天才肌ゆえか、突如『心の病』にかかってしまい、来日直前に失踪(?)してしまったとか。 そこで、急遽、以前に短期間だけツアーに同行したことのあるアンソニー・ウォンジーがトラとして来日。  アンソニーは、ニコラス・ペイトン・クインテットのレギュラー・ピアニストでもある若手実力派です。  又、ベースも、当初予定のベースマンが来日不可能になり、やっとのことでカーティス・ランディに来て貰ったとのこと。 いずれも、来日直前のアクシデントだったそうですが、代役が両名とも実力者なので、ライブの出来への影響は、さほど心配ないでしょう。

さあ、いよいよケイコ夫人に呼び出されてメンバーが登場。 フロントは、長年に亘ってエルビンと活動を共にしているテナーのパット・ラバーべラ、そして、トロンボーンのデルフィーヨ・マルサリス。  デルフィーヨは初めて見ましたが、兄貴のウィントンに顔がソックリ。 それにしても顔が小さい!  ステージ前方の中央に、エルビンのヤマハ・ドラム・セット。 その後方にベースのカーティス・ランディが位置し、ピアノはステージ向って左側。  エルビンの表情は、以前と変わらず元気そうで、会場から大喝采を浴びています。  演奏は、先ず、モーダルな雰囲気を持ったデルフィーヨのオリジナル曲からスタート。  フロントの2人は、エルビン・バンドでの経験が豊富でもあり、余裕が感じられ、快調にテーマを吹奏していきます。  特にデルフィーヨは、兄貴達同様、フテブテシイまでの貫禄を感じさせます。  ピアノとベースは、このバンドでの演奏が、大晦日の一ノ関ベイシー、そして前夜の東京の初日と、まだ2日間しか経験しておらず、やはり出だしはイマイチ調子がつかめない様子。 それでも、流石にニューヨーク最前線で活躍を続ける一流プレイヤーだけあって、徐々にバンドに馴染んできます。  

心配なのはエルビンで、病み上がりということもあってか、いつもの強烈なドラミングですが、立ち上がりは、なんとなく切れがない感じ。 独特のポリリズミカルなドラミングが、ズンドコズンドコズバーンときても、最後の『ズバーン』がビタッと決まりません。  ああ、やっぱり、エルビンも今年75歳、もうダメなのかな〜〜〜???  ・・・と思いつつも、長尺の演奏が進むにつれ、ドンドンと切れが出てきて、極めが極まり出します。  おお! さすが、エルビンだあ!  凄い、凄い!      

2曲目は、ちょっと早めのミディアムで『ウィーバー・オブ・ドリームス』。 ケイコ夫人の解説によると、モンクが生きている頃、よくチャーリー・ラウズがエルビンのところに遊びに来て、この曲をやっていたとか。  こういうミディアムなリズムで軽目にスイングするエルビンのドラミングは、最高に気持ち良いです。  続いて、日本の民謡から『五木の子守り歌』。  パット・ラバーべラはソプラノに持ち替え、デルフィーヨと共に、お馴染みの旋律を奏でていきます。  ルバートっぽく始まり、途中から、エルビン特有のトリッキーな急速テンポに突入。  4曲目は、まだタイトルがついていないデルフィーヨのオリジナル曲。 スロー・テンポで、モーダルな雰囲気がある曲です。  大きなトーンで吹きまくる、パット・ラバーべラのテナーは、コルトレーンとロリンズが渾然一体になったようなタイプ。  ブチ切れたフレーズを次々に繰り出します。  一方、デルフィーヨは、心憎いほどの上手さを見せながら、知的なフレーズを構築していきます。  流石、マルサリス家の出は違うなあ、と唸らせます。  観客は、大熱狂で、特に今回は、ケイコ夫人の知人と思しき数名の観客が、常軌を逸した(?)興奮状態となり、ステージ上の熱演を更に加熱させます。  エルビンも可也のご機嫌だったようで、ファースト・セットの4曲終了後に、そのままアンコール(?)。  モンクを思わせるアウトしたコード使いから、アンソニーが『スイングしなけりゃ・・・』を弾きだします。  ここでのエルビンのスイングぶりと言ったら、もう今までに味わったのことのない程の気持ち良さ。  宇宙遊泳をしている気分です。  テナーとトロンボーンのバトルも凄まじく、そのまま大団円。  

時計を見ると、ファースト・セットだけで1時間半近くやっており、いやあ、今夜は、もうコレで終わりかな?と思わせるほど。  その後、お待ちかねの(?)ケイコ夫人の『説法タイム』(笑)を挟み、セカンド・セットに突入。  1曲目は、エルビンのテーマ曲とも言える『EJブルース』。  ベースのカーティスも完全に調子を掴んだ、と言った感じで、自信が漲るプレイを披露。 逞しいベースの音色が響きます。  アンソニー・ウォーンジーは、エルビンが使うピアニストにしては、ちょっとプレイがオーソドックスで端正過ぎるかな、と思わせますが、それが逆に『コテコテ集団』とも言えるジャズ・マシーンにあって新鮮な感じがします。  アンソニー自身、エルビンとの共演を楽しんでいるようで、レギュラーじゃない、という気楽さもあってか(?)、エルビンのドラミングというトランポリンの上でジャンプするかのように、気持ち良さそうにハシャイデいる風です。  これがエリック・ルイスの難しいピアノだと、バンド全体がここまでスイングしないかも知れません。  個人的にもアンソニーは好きなピアニストなので、エリックには悪いですが、これはこれで怪我の功名という感じがします。  

セカンド・セットの2曲目は、デルフィーヨをフィーチャーして、『ベイズン・ストリート・ブルース』。  ここでのデルフィーヨは、やはり兄貴のウィントンにも通じる、『古典伝承派』ぶりを聴かせてくれます。  しかし、一時期のウィントンのような嫌味っぽさはなく、あくまでも『古典』の奥深いエッセンスを抽出し、知的なプレイの中で展開してくれるので、『上手さ』と『美味さ』が非常に良いバランスを保っている感じがします。  バンド・リーダーとして突っ走る兄貴2人に対して、自分の『役どころ』を熟知しているかのようなデルフィーヨは、なかなか心憎い奴のようです。  これからのジャズ界にあって、陰のリーダー的な存在になるかも知れません。  3曲目は、これまたエルビン・バンドではお馴染みのレパートリーで『花嫁人形』。  アンソニーのリリシズムが発揮されたピアノ・ソロによる導入部から、『き〜んらんど〜んすの・・・』というテーマへ突入。  いやあ、これは、なんと言うか、分かっているのに、痺れてしまう・・・『水戸黄門』の印籠、『遠山の金さん』の桜吹雪、『寅さん』の“それを言っちゃ〜お終いよ〜”のような『いよっ! 待ってました! 大統領!』な展開です(笑)。  

いやはや、そして、何が凄いって、セカンド・セット終盤、ファースト・セットも含めると、既に2時間半くらい演奏し続けているのに、エルビンのドラミングが益々好調になっている事です。  立ち上がりは確かに調子がイマイチでしたが、演奏すればするほど切れ味鋭く、バッチンバッチンと極まりまくる、エルビンのドラミングって、一体、何なんだろうかあ?  凄まじい! 失礼ながら、エルビン、貴方は、も〜〜〜人間じゃないです!  これぞ、ジャズ・マシーン!!!  この人には『老化』とか、『介護保険』とか、そういう言葉は完全に無関係でしょう!

このままセカンド・セットも大団円となり、興奮したエルビン夫妻の知人のオジサマが、ステージに駆け登り、メンバーに熱き抱擁を・・・。  ステージの上も下も、凄まじい盛り上がりとなり、も〜このままでは終わりません。  アンコールとなり、用意した曲がなかったらしく、再度『スイングしなけりゃ・・・』。  これも、勿論、超絶にスインギーな快演となって、爆発的にフィナーレ。  再び、オジサマがステージに乱入し、エルビンはじめ、デルフィーヨにも頬擦りするハプニング。  クールなデルフィーヨも、これには嬉しい悲鳴で大興奮(?)。  珍しくエルビンも超ご機嫌になったようで、笑顔のままステージから客席に降りてきて、最前列の数名と熱き抱擁。  これには、僕も柄にもなく興奮してしまい、身を乗り出して『えるぶい〜〜〜〜〜〜ん!!!』と絶叫。  ステージ前にガブリヨリして、エルビンとシェイク・ハンドをガッチリと!  エルビンの掌は、分厚いけれど、柔らかかったです。  う〜〜〜ん、感激!

エルビンとも名演を残してきたトミ・フラはじめ、この所、ジャズ・ジャイアンツが次々と鬼籍に入られ、本当に寂しい限りですが、やはり、このエルビンは、ジャイアンツの中のジャイアントと言える凄い人です。  これからも、10年、20年、いやいや、100歳になっても現役で活躍して欲しい!  因みに、今年のエルビンは、更に精力的な活動が予定されているそうで、日本にも、ブルーノート東京でのジャズ・マシーン公演(6月)と、『至上の愛 コンサート』(10月末〜11月)で更に2回、来日してくれるそうです。 

エルビンの元気がプレイが、間近で体験出来ることは、なんと言っても、ジャズ・ファン冥利につきるなあ、と改めて感じました。