タンポポ


 

土手に咲くタンポポ

 土手に咲くたんぽぽを見ながら、ふと古い記憶がよみがえる。

「そういや、谷山浩子の歌で、『たんぽぽがどうのこうの』というのがあったな……」

 なぜ、谷山浩子というマイナーな ( 失礼 ) 歌手を知っているかというと、遠い昔、ラジオを聞いていたとき、この歌手の「カントリーガール」という歌が流れてきて、そのサビが妙に気に入ってしまった。歌詞そのものを書くのは、著作権云々のこともあるので書かないが(気になる人は、自分で探して聴きなさい) 、少女の様子を歌っているサビである。

「よし、いつか、こんな少女の出てくる話を書くぞ」

 と思ったものだが、未だ果たせていない。身の程を知らぬ大望を抱いても、ものぐさ者の身ではなかなか実現できそうにない。

 ところで、この歌はストーリーがあって、 最後にハッピーエンドを予感させる『オチ』があるのだが、よく考えてみると、このオチは「ちょっとしたストーカーじゃねぇか」とも思える。歌をご存じの方の意見はいかがなものだろうか。……いてっ!  ファンの方、石は投げないように。

 

 さて、タンポポは春の代名詞とも言えようが、最近よく見かけるものは、ほとんどが帰化植物のセイヨウタンポポで、日本の在来種はちょっとおされ気味らしい。実際、私の子どもの頃には、すでにセイヨウタンポポがはばをきかせていた。

 セイヨウタンポポは一説によると、明治初期に札幌農学校が北アメリカから輸入したのが最初らしいが、明治以降、急速に海外のものが日本のものを圧倒していったというところは、人間の世界も植物(タンポポ)の世界も似ているような気がする。

 

たぶん、カンサイタンポポ

 私の住んでいるのは、カンサイタンポポの分布する地域にあたるが、子供の頃から比べると、その姿を目にする機会は格段にすくなくなった。

 このカンサイタンポポは日本産のタンポポの中でも小さく地味で、セイヨウタンポポの大きくド派手な花と並べてみると、確かに見劣りする。

 両者が並んでいると、カンサイタンポポは「あ、どうぞ、どうぞ」と、謙虚にその席をセイヨウタンポポに譲り、肩をすぼめながら舞台から消えていくという姿があまりにもぴったりして 、思わず声援を送りたくなる。

「おい。おまえだって、味があるぞ。派手だけど同じ格好ばかりのタンポポなんかより、よっぽどいいぞ」

 それでも、やっぱり

「いやいや、俺なんか、もう時代遅れや……」

 と言いつつ、去っていくのだろうか。

 

おそらくセイヨウタンポポ

 セイヨウタンポポは、今や世界を制覇した雑草らしい。

 日本産のタンポポの多くは、他の雑草が生い茂る夏は休眠に入るが、セイヨウタンポポは休眠せず、すきあらば生育してやると意欲満々である。

 しかも、その種の重さは日本産の約半分、タンポポの種類の中でも飛散能力は随一で、広範囲の温度環境に適応する。

 いわば、行動力と適応力、おまけに意欲がそろっているタンポポである。これで勢力域を広げられなかったら、おかしいというものだ。

 実は、日本は数多くのタンポポの種類が生息する世界五大地域の一つであるという。

 それは、海外のタンポポは多くが無性的に種をつくるのに対し、日本のものは有性生殖をする種類が多いためらしい。だから、花の形がその土地により異なる分布を示す

 江戸中期から幕末にかけて、暇になった侍がタンポポを栽培し、タンポポ園芸が花開いたそうだ。斑入りや色変わりなど、多種のタンポポが品種改良され、その水準はヨーロッパをはるかにしのいでいたという。          
 凝りはじめたら止まらない民族の面目躍如と言えようか。
 当時は、投機の対象となるほどの興隆をみたという。

たんぽぽ

 我が部屋のがらくたをかき分け、学生時代にレンタルレコードを借りて録音した「谷山浩子」と書いたカセットテープを一本見つける。もう少し持っていたような気がするが、捜すのも面倒なのでこれでよしとすることにした。    

 カセットテープには「カントリーガール」は入っていたが、記憶にあるタンポポの出てくる歌はなかった。いや、タンポポの出てくる歌はあったのだが、記憶に残っている歌とは違う。たしか、タンポポを食べたとかなんとか。      

 そう。タンポポは食用となる。

 私は食べたことがないが、札幌農学校が北アメリカから輸入したという説によると、その目的は「野菜」としてだということになっているそうだ。( 乳牛の乳の出をよくするために、飼料用として輸入したという説もある )。       

 そういえば、タンポポの根で代用コーヒーが出来ると聞いたことがある。やってみようかと思ったこともあるが、面倒そうなので実行したことはない。              

 

 タンポポはオランダでは「モールスラ molsla」つまり「モグラのレタス」という意味の名だそうだ。土をかぶってモヤシ状になったものをサラダにしたとか。

 フランスでは野菜として栽培しているそうだが、フランスでの名は「ピッサンリ pissenlit」で「寝小便」の意味だとか。なんでも種子を利尿剤としたからだそうだ。

 けっこう、あちこちで口にされているようだ。

 

 英語ではダンデライオン ( dandelion ) といい、中世フランス語の「 ライオンの歯< dent de lion ) 」の英語版だそうだ。これは葉のギザギザした形からの連想だろう。

 そういえば、はじめてこのダンデライオンという英名を知ったのは、学生時代にカラオケで友人が歌っていた歌に出てきたからであった。たしか題名も同じものだったと記憶しているが、定かではない。それにしても、中学から授業で英語を習い続けていながら、カラオケでタンポポの英名を知るとは、自慢していいのか赤面すればいいか、判断に迷う。

 とりあえず赤面しておこう。

 

 色にも「ダンデライオン ( ダンディライアン ) 」があるが、これは葉の色ではなく花の色である。日本語ではそのまま「タンポポ色」。絵の具で言えば、「クローム・イエロー」というものがその色だそうだ。

たんぽぽ

 タンポポといえば、あの黄色の花が思い浮かぶが、黄色くないタンポポも存在する。

 日本には花が白いタンポポがある。エゾタンポポ、シロバナタンポポ、キビタンポポ、オクウスキタンポポだそうだが、図鑑の写真以外で見たことはない。

 世界的に見ても白花のタンポポは珍しく、他には朝鮮半島のケイリンシロタンポポ、ヒマラヤなど高山に生えるタラクサクム・レウカントゥムだけだそうだ。

 オレンジ色の花を咲かせるタンポポもあり、世界で唯一のものだそうだが、タラクサクム・ポルフィンラントゥムという名で、中央アジアの高山に生えている。

 他にもピンクの花を咲かせるクレプス・ルプラや、朱色の花のコウリンタンポポなどがあり、少数派とはいえ、タンポポの花の色もいろいろあるものだ。

 

 ところで、コウリンタンポポは無性的に種子をつくるため、雑種が出来ない。

 遺伝のしくみを説明する「メンデルの法則」で有名なメンデルは、自ら発見した法則を確かめる結果をまとめた第2の論文を残しているが、その中で子が母親の形質しか示さない、法則にあわない植物「悪い母」の代表としてコウリンタンポポをあげているそうだ。

 無性的に繁殖するといえば、最近では人工的に動物のクローンが作られるようになったが、植物の世界ではそう珍しいことではない。

 「悪い母」とは、えらい言われようである。

 どうやら、片親の形質しか受け継がないものは、昔からよく思われなかったようである。

 

 さて、タンポポの語源の説はいろいろあるようだ。

 古名は「タナ ( 田菜 ) 」という。タンはそれの変化したものであろうとのこと。

 ホホは孛々 ( ホホ ) と光が四方に放出する意味だとか、花が散ったあとの形がタンポン ( タンポ槍の穂先 ) に似ているからという牧野富太郎説や、鼓草 ( つづみぐさ ) という異名があるから鼓の音の擬音だという柳田国男説があるそうだ。

 他にも外来語説があり、中国では昔は丁婆婆 ( チンポポ ) とよばれていた。それが伝わったという与謝野寛説。

 

 個人的には、「チンポポ」がなんとなく好きだが、いずれの説が正しいにせよ、「タンポポ」とはよく出来た名だと思う。見た感じそのもので、この名を知ってしまうと他に思い浮かばない。

 花も「たんぽぽ」だが、種をつけた綿毛も「たんぽぽ」という風情で、「ふんわか」というか「ほんわか」という姿にこれ以上あった名はないだろう。風に吹かれて飛んでいく種子の姿も、やっぱり「たんぽぽ」である。

 一面のタンポポもきれいだが、ポツンと咲いていてもいい。

 たんぽぽポツリ

 ポツリポツリとタンポポが咲く草原。遠くに森が見える。

 草原の中心には、サーカスのテント。

 華やかな舞台と、悲哀混じりの舞台裏。

 舞台にのぼる芸人と、老若男女の観客たち。

 時にサーカスは都会にも巡業する。

 そうした光景に存在するすべてのモノ、ひとつひとつにそれぞれが持つ歌、音楽……という感じがするのが、前述の谷山浩子の歌だという気がする。

 それほど歌を知っているわけでもないので、「木を見て森を見ず」のような思い違いがあるかもしれないが。

 

  おまけの「菜の花」

春の花はタンポポだけじゃない・菜の花

  

 2001/04/*


参考
「週刊朝日百科 植物の世界 (1-202〜1-210)」
   朝日新聞社

「語源辞典 植物編」
  吉田金彦・編著
   東京堂出版

「薬草カラー図鑑」
  伊沢一男・著
   主婦の友社

「色々な色」
  近江源太郎・監修 ネイチャー・プロ編集室(構成・文)
   光琳社出版

谷山浩子 プライベート・ページ


 


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