しろの日 |
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数字というものは、多くの者にとって、よそよそしい存在であるらしい。 そのためか、数字の音を言葉にするというのは、珍しいことではないな。 「鳴くよ(794)うぐいす平安京」だの、「いい国(1192)つくろう鎌倉幕府」だの。たぶん、日本に住んでいれば、特に日本の学校に行っていれば、一度も耳にしたことのないという者はおるまい。 これは、数字を覚えるためのものだが、数字にかこつけて物事を無理矢理ひっぱってくるのが、「○○の日」というヤツだな。 2月9日は「肉の日」 3月3日は「耳の日」 8月31日は「野菜の日」 ……らしい。 そして、4月6日は「しろの日」だそうだ。 4と6とくれば、思い浮かぶのは「四六の蝦蟇」というのは、時代遅れか。 「さぁて、お立ち会い!」てな調子で、大刀をもった香具師が紙を切って刀の切れ味を見せた後、自分の腕につけた傷を「四六の蝦蟇」から採ったと称する油で一瞬のうちに治してみせる。 「蝦蟇の油売り」というヤツだな。 「どんな傷も、この蝦蟇の油をつければ、たちどころに」と言って、腕の傷に塗ってみせるが血がとまらない。「誰か、傷薬をもってませんかぁ」……というのは、落語のはなし。 などと、えらそうに書いておるが、生まれるのが少しばかり遅く、実際に「油売り」を見たことはない。マンガやテレビでの知識だ。 ただ一冊おもしろい本を持っている。「香具師口上集」という本で、香具師(やし)の口上を録音したCD付きでなかなかたのしい。興味ある方は、買い求められるとよいだろう。 少々、話が横にそれたが、「しろの日」である。 全国あちこちで「しろの日」はあるらしいが、天下の名城、今や世界の文化遺産となった姫路城でも、「しろの日」の催し物がある。「蝦蟇の油売り」はいないが、屋台も姫路城の周りに出ている。 当日は、城の登城料金が無料になるが、残念ながら訪れることはできなんだ。しかし、前後数日間は料金が無料にこそならないが、普段公開していない部分を見せてくれるという。 ぶらぶらと、散歩しようと思っても、なかなか出かけられないのが不精者。 何か理由でもあれば、出やすかろうと思っていた矢先のことだ。「ひとつ、特別公開とやらでも見に行くか」と、自分を説き伏せて出かけたわけだ。 住んでいる場所がわりに近いということもあり、馴染みのあるお城ではあるのだが、登城したのは数えるほどしかない。あまりに身近すぎると、かえって疎遠になるものらしい。 ひさしぶりに訪れた姫路城は、たくさんの人でごった返していた。三の丸広場にステージがつくられ、太鼓の音やらが鳴り響いてにぎやかである。 ![]() 実は、人混みが苦手である。 これも出不精の一因であるのだが、これから人混みにまじって城にのぼることを考えると、あらためてゾッとする。 城の桜は満開の時期だし、「しろの日」ということで、多少の人出は覚悟していたが、この人混みには予想以上である。 それでも、意固地なところがあるので、列にならんで入場券を買った。 特別公開部分も並んで、ゆっくりゆっくり進む。なんといっても、城である。万が一、敵に攻め入られた場合にそなえているため、広々とした廊下など望むべくもない。 それでなくても、人ごみは苦手なのだ。狭い廊下で、見知らぬ人々にかこまれて、ボーっと列が進むのを待っていると、気分が悪くなってきた。 小さな格子窓の外は、薄暗い廊下とは対照的に、明るく輝いていた。桜の花が日の光を反射していたのだな。 ![]() 姫路城には桜が多い。桜の咲く季節になれば、三の丸広場には、桜見の客があふれかえる。 満開の桜の下に立つと、気分がよくなっていく。 桜は梅ほどではないが、頭上に仰ぐと、ほのかに香る。空気が、すこし濃いような気がするではないか。 古来、日本人は花の下に身を置いて、今を盛りと咲く花の精気を受けようとしてきた。生命のほとばしりである花の命を、我が身に取り込もうというのだな。 花を遠くから眺めているのではなく、その下に身を置き、まだまだ人生がんばろうぜ、と酒を飲み、歌をうたい、皆で肩を抱き合って騒ぐ。 桜は神さんが降りるともいわれる。 陽気に歌い騒いで、神さんを歓迎している……と、ことの起こりはそうかもしれんが、まぁ、世の酒好きは酒が飲めれば幸せ、カラオケ好きは歌がうたえりゃ幸せ、近所の素面は不幸せ。 桜の咲いているところに限らず、観光地ではビールを飲みたくなるものだ。もちろん、飲んでいない人もいるだろうが、なぜかトイレが近くなるものらしい。 観光地名物、便所の行列は姫路城でも健在だった。 ただ一カ所、並んだことは並んだが、大して待たずに入れた便所は、特別公開されている天守閣の厠だけだ。籠城に備えてつくられたもので、戦とは縁のなかった姫路城では一度も使われなかったらしい。穴からのぞき込むと、大きな瓶が待ちかまえている。 籠城したら、瓶に糞尿を溜め、登ってくる敵の頭の上から、ざばりとぶっかける……うむ。当時の攻め手でなくてよかった。 |