LESSON 3
OBJECTIVES このレッスンでは引き続きヘリコプターの飛行原理について学習を進めて行きます。
LESSON CONTENT
1 Hovering Flight
a. Lift and Thrust Resultant
Lesson2の4分力のとこですでに学習しましたが、リフトとは機体を持ち上げようとする力であり、スラストとは機体を移動させる力です。無風時のホバリング中はリフトとスラストは同じ方向に働いていますので、合力(Resultantの頭を取って”R”と書かれます)としてもリフトとスラストと同じ方向になります。
ちょっと紛らわしいのですが、「ロータースラスト」という言葉で表現される意味は、この合力の”R”のことになります。たとえば、コレクテイブを引き上げればリフトが増えますが、同時に機体を移動させるためのスラストも増えますから、この場合は、「コレクテイブを引けばロータースラストが増える」と表現させるのです。そしてロータースラストを細分化した時にここで言うスラストとリフトに分かれるのであります。、
b. Weight and Drag / Figure of
Merit / L/D Ratio
無風時のホバリングで静止している時は、機体の重量とリフトが釣り合っている状態です。ここで発生する「抵抗」は、ブレードが揚力を発生させる際に生み出されるインデュースドラグと、一定量のプロファイルドラグだけです。もちろんエンジン出力で考えた場合は、これらの「抵抗」以外にもテールローターを廻す力、発電機を廻す力、ギアの摩擦なんかの「抵抗」も加わってきていますが、面倒なんで無視しちゃいましょう。胴体抵抗としてはダウンウオッシュが胴体にぶつかること発生するダウンロードはありますけども、これも考慮しなくてOKです。
と言うワケで、ホバリング中の「抵抗」はインデュースドラグとプロファイルドラグだけを考えておけばOKなのです。
さて、インデュースドラグはリフトを生む時の抵抗ですから、こいつが増えるという事は、ピュアにリフトを増やすお仕事をしていることになります。 それに対してプロファイルはナニも生み出さない抵抗です。
たいていのヘリのインデュースドラグとプロファイルドラグの比率は7対3くらいなんですが、当然インデュースドラグの占める割合が高い方がホバリング効率が良くなるのです。この比率の事をFigure
of Merit(フィギュアオブメリット)と言い、ホバ効率のバロメーターとされています。この7対3の比率の場合は、フィギュアオブメリットが0.7と表現されます。ところで「フィギュアオブメリットが0.7」と言われる場合なんですが、これはコレクテイブを引き上げて、ブレードに発生するLift
Coefficient (リフトコーフィシエント=揚力係数)とDrag
Coefficient(ドラグコーフィシエント=抵抗係数)の
間で決定されるL/D Ratio(LDレシオ=リフトとドラグの比率)が高まっている時の比率が7対3だと言っているわけでして、コレクテイブを下げれば当然フィギュアオブメリットは減るし、馬鹿みたいにコレクテイブを引き上げればストールすることでフィギュアオブメリットは減ります。
さてさて、円板面積が小さくなるとデイスクローデイングが増えて、ダウンウォッシュも増えればインデユースドドラグも増えてしまうことはLesson2で学習済みですが、デイスクローデイングを増やす(デイスクを小さくする)とフィギュアオブメリットは上がります。円盤を小さくしちゃったらもっとたくさんAOAを付けないとホバれませんが、AOAを増やせばインデユースドドラグは増えてもプロファイルはそのままなんです。円盤を小さくすると相対的にインデユースドドラグの割合が卓越してきて、これが理由でフィギュアオブメリットが上がるのです。
結論すれば、フィギュアオブメリット自体はホバ効率を高めますが、これを増やすためにデイスクローデイングを高めるとエンジンパワーがより必要になるのであります。結局はどっかで妥協して設計されているんです。
c. Axis of Rotation
アクシスオブローテーションとは、回転するデイスクの仮想上の中心です。
つまりデイスクを上から覗き込んだときに、どこにヘソがあるかです。ホバリング(ディスクが傾いていないとき)中は、セマイリジットでもフリーアーテイキュレードでもアクシスオブローテーションはマストの延長線上にあります。
フリーアーテイキュレードシステムの場合でディスクに傾斜が加わりますと、アクシスオブローテーションはマストの延長線上からずれてしまいますが、これがジオメトリックアンバランスでありフリーアーテイキュレードシステムにはドラッギングヒンジが必要な理由でしたね。
d. Conning ( Lift& Centrifugal Force)
コーニングとは飛行中のブレードが少しばかりバンザイ気味になっている事を言っています。
これは垂直方向に発生するリフトと、水平方向に発生するセントリフューガルフォース(遠心力)との合成力です。飛行中にローター回転数を減らしてしまいますと、遠心力が減ってしまいますので、コーニングは増加します。コーニングが増加しますと、それぞれのブレードの重心位置はマストに近くなりますから、例のコリオリズフォースの理屈ではRPMは増えてくれますが、これは回転数が健全に保たれている時に外的要素で発生するコーニングの場合の、一時的な見せ掛けの反応です。RPMが下がっちゃった場合のコーニングは、そのコーニングが増えれば増えるほど実効ローター面積は減っちゃいますので、もっともっとエンジンパワーを使わないと必要なリフトを保てません。ところが、だいたいエンジンのRPMが10%減ればエンジンパワーも10%減ってるってのが原則ですから、一度RPMを落としちゃうと、RPMが戻らなくなるかもしれません。こんな時にコレクテイブを引き上げてしまうとインデユースドドラグが増えるだけですから、結果は加速度的にRPMが下がってしまいます。
そしてノーリターンポイントである55%あたりのローターRPMあたりまで落ちてしまいますと、単にローターストールによるドラグの増加だけではなく、コーニングの異常な増加のためにRPMの再起が不可能になるのです。だってここからエンジンパワーでブレードを再びピンと張るためには、吊り輪の選手みたいな力が要るでしょ。
つまり、ブレードのドラグだけじゃなくて、機体のウエイトに打ち勝ってコーニングを減らしてやるエンジンパワーが必要なのです。これは高慣性ローターの方がヤバイ状態になりやすくなります。
高慣性ローターは回転数が落ちにくい反面、一度ハデに回転数が落ちると回転数を戻すのが大変だからです。
また、たとえ許容範囲であっても、ローター回転数が低いままで常用しますと、ブレードはいつもしなっちゃってますから、寿命が短くなります。
R22にはコーニングヒンジというものがありますので、コーニングはブレードのしなり+コーニングヒンジからの「バンザイ」で行われます。コーニングヒンジとはそれぞれのブレードが勝手に上下にフラッピングできるように設けられたヒンジで、全関節型ならばフラッピングヒンジと呼ぶところですが、半関節型ではすでに
フラッピングヒンジが別に存在するので、苦し紛れにコーニングヒンジと言われています。
あくまでもコーニングを助けるためのものであり、「関節」とは考えません。これは上方には良く動きますが、下方には垂れ下がり止めの「ドウループストップ」があるので、あまり垂れ下がりません。2本のブレードがお互いに重さを掛け合った状態になっているので、少々風が吹いても、R22のブレードはシーソーみたいに動きません。とはいえ、停止時にDC4のプロップウォッシュを食らいましたら、冗談抜きに45度くらいバンザイしてくれました。
さて、B206はこんなコーニングヒンジなんてありませんから、コーニングはブレードのしなりだけでやってます。でもドウループストップ機構が当然ありませんので、ちょっとの風でブレードはシーソーのように動いちゃいます。
e. Blade Flapping
ブレードフラッピングとは、片方のブレードが持ち上がれば反対側が下がることによってディスクが傾くことを言います。
ブレードフラッピングは、サイクリックをコントロールすることで発生させる場合と、前進速度等の影響で発生するトリムのズレによるものがあります。後者は具体的には「前進飛行中の揚力の不均衡」とか「貫流速効果」なんかで登場します。
さて、今はホバ中のブレードフラッピングを語っているわけですが、これはサイクリックコントロールによるデイスクの傾斜のことになります。サイクリツクを前に倒せばディスクは前傾するのは、ジャイロスコピックプレセッションの影響のため約90度手前、つまりブレードが機体の右横でピッチ角が減り、機体の左横でピッチ角が増えるようになるためです。
答えから言ってしまいますと、約90度手前で付けられた揚力を狂わすきっかけを打ち消すためにブレードは浮かんだり沈んだりするのです。前進飛行の場合は機体の右横で減らされたピッチ角の影響で機体前方でブレードが沈みますが、これはブレードが沈み込めばリラティブウインドは下方から来るのでアングルオブアタックが増加し、これによって減らされてしまった揚力を
取り戻しているのです。
機体の左側ではピッチ角が増加して機体の後方でブレードが浮上しますが、これは浮かび上がって行けばリラティブウインドは上方から来ることになるのでアングルオブアタックが減少し、これによって増やされてしまった揚力を減らしているのです。つまりサイクリックの操作はディシィメトリーオブリフト(揚力の不均衡)を作り、ディスクはこれを即座に補正するために傾いているのです。
f. Coriolis Effect
コリオリズエフェクトについてはレッスン2の6−aで学習済みですね。
g. Translating Tendency or Drift
テールローターは機体の右側に推力を発生させて、「トルク」に対処していますが、このいたずらで機体は少しずつ右にドリフトして行く傾向があります。これをトランスレーティングテンデンシィー、もしくはドリフトと言っています。R22ではこれを補正するために操縦桿を機械的に中立にするとデイスクは左に約3度傾くように調整されています。これをサイクリックリギングと呼びますが、R22にはハイドロ(パワステみたいなもの)がありませんから、どっちにしてもちょっと筋力で左に舵を当てていないとホバが右に流れちゃうんです。
これに対してB206では、マスト自体を左に1.15度傾けちゃってますが、こういうやり方をマストリギングと言っています。
h. Direction of Airflow
ホバリング中のローターを通過する空気の流れは、ディスク上面の空気をディスクの下面に送り込む様になっているのは事実ですが、遠くから勢い良く吸い込まれてるってのはウソであることはLesson2の3-bで学習しましたね。回転するブレードが、基本的にはたまたまそこらへんにあった空気をバチィっと切るわけです。
i. Ground Effect
ホバリング中ヘリコプターにはある程度のピッチ角が付いてますね。でなきゃリフトを生みませんから。そしたらそのブレードで切られた空気はすべて下向きに整流されちゃいます。ダウンウォッシュをこのように考えてしまってもOKでしょう。
でも、ニュートンの第3法則に則って語るならば、ダウンウォッシュはリフトと言う「作用」を生む際に発生した「反作用」なのです。ま、どうでも良いでしょう。
さて、ホバリング中のブレードに対するリラティブウインドは、ブレードが自ら回転することで発生させる風ですが、ブレードを通過した後の空気が下向きになると言うことは、実質的にはリラテイブウインドが斜め下向きに入ってくる状態になるんです。
なんて言いますと??と思われるでしょう。まずはレーシングカーの整流で考えましょう。よく車ではCD値というものが語られますが、これはコーフィシエント オブ ドラグの意味で、まさに胴体抵抗値です。この値は、車の正面に直接当たる風の抵抗だけではありません。車に向かってくるリード量を取った距離の空気が、実際に車を通過し、さらに後方に残されていくまでの総量で考えなきゃいけません。前面がいくらきれいに整流され
たって、後流がヘンな渦巻きだったら、これはあたかもパラシュートを後ろに引きずってるのと同じですね。そうすれば、車に向かってくるリード量を取った距離の空気が、実際に車を通過し、さらに後方に残されていくまでの総量分の平均的抵抗は増えているわけです。
このイメージを翼型に当ててみますと、ブレードが一切のフラッピングをしないでぐるぐる廻っているときは、ブレードに対するリラテイブウインドは全く水平に来るように見えますが、その後で下向きに整流されちゃうと言うことは、ブレードに向かってくるリード量を取った距離の空気が、実際にブレードを通過し、さらにダウンウォッシュとして後方に残されていくまでの課程を平均値としての直線で表現すると、これは斜め上からブレードにリラテイブウインドが入り込み、斜め後ろにダウンウォッシュが残されて行くことになります。
さて、この「斜め上から」ってとこを分析すると、ブレードが水平に廻るRPMと、デイスクの上から入りこむ空気の流れの合成ベクトルになります。
さてさて、この「上から入りこむ」って部分をインデユースドベロシテイー(誘導速度)と言いまして、コレクテイブを引き上げれば揚力も増える
けど、そのときにRPMを下げようとする抵抗であるインデユースドドラグ(誘導抵抗)を生み出す成分でもあります。
実際にコレクテイブを引き上げた際に体感できる、誘導速度とか誘導抵抗の具現化したモノが他でもないダウンウォッシュです。
つまり誘導速度や誘導抵抗が増加すればダウンウオッシュは増加するのです。さあ、今度は地面付近でホバリングしますと、ダウンウオッシュは地面に跳ね返りますので、「下向き」としての力は弱まりまり、ヘリの近くにいる人に当たる横向きの風は強くなり、サイドウオッシュ(そんな言葉はあるのかな?)は強まりますが、ダウンウオッシュとしての勢いは弱まりますね。ダウンウオッシュが弱まると言うことは、これまでの理屈から自動的に誘導速度や誘導抵抗が減るのであります。このため地面付近でのホバリングの際は、比較的少ない出力でホバれるのです。
この理屈は着陸寸前の飛行機なんかでも全く同じです。だからヘリのグランドエフェクトだって、飛行中にもあります。平滑な地面上に極めて近い状態ならば、飛行中であってもデイスク全体総量のダウンウオッシュは地面に跳ね返る
ことで制限されますから、結果としてリフトは増加します。ラニングテイクオフやラニングランデイングなんか身近な例ですし、ノーフレアオートローテーションなどは、グランドエフェクトを大いに利用しています。
また通常のオートロのターミネーションでも、小さなフレアーであれば地
表付近での滑空を滑らかに延ばす事ができますが、これなんかだってバリバリのグランドエフェクトです。このグランドエフェクトは、ローターから地面の距離が、ローター直径分以内から発生し、直径の半分くらいが一番強いとされています。これまた飛行機と全く同じです。
では、ダウンウォッシュは悪玉かと言えば、低出力のヘリでは悪玉です。R22みたいな低出力機のブレードは、スパン(根元から先っぽ)が長く、コード(前縁から後縁)は短い形になりますが、これはある一定の揚力を生み出す際に、いかに誘導抵抗を減らそうとするための設計です。飛行機だって全く同じ理屈ですから、グライダーの翼だって細長いですよね。では、高出力機ではどうかと言いますと、誘導抵抗なんかはエンジンパワーでねじ伏せちゃえば良いわけで、それよりも短スパンで長コードのブレードにした方が機体がコンパクトに出来て有利になるのです。
j. Forward,Sideward,and Rearward Hovering
1. Lift and Thrust Resultant
無風時のホバリング中はリフトとスラストは同じ方向に働いていますので、合力”R”もリフトとスラストと同じ方向になっていました。ところがデイスクが傾きますとデイスクのスラストはデイスクの傾斜した方向に発生し、”R”はデイスクに直角に発生します。
ヘリコプターは、胴体がどっち向いてようと、このデイスクの作る推力の方向へ移動する乗り物ですから、デイスクかちょっと傾けばホバーのまま前後左右への移動が始まります。
さて、実際の前進飛行中の”R”ってやつは、実は「ロータースラスト」として考えられます。これは飛行機のプロペラでイメージするとわかりやすいのですが、プロペラはそれ向いている方向にスラストが働きますよね。だからヘリの飛行中の”R”はそのままスラストとして捉えられるのです。
この”R”をさらに掘下げた時に、ロータースラストの水平成分である「スラスト」と、ロータースラストの垂直成分である「リフト」に分けられるのです。
ですから、今後はヘリコプターの「スラスト」と表現される事項の多くは、この”R”を意味していると考えてください。
2. Weight and Drag
デイスクが傾いて”R”が傾くとヘリが移動を始めるわけですが、こうして対気速度が高まって行きますと、胴体の抵抗であるパラサイトドラグが発生してきます。
でも、ホバリングでゆっくりと移動する場合なんかの胴体抵抗は基本的に無視してしまってOKです。
風が強い時なんかは、たとえゆっくりのホバー移動(ホバー中の移動速度は、あくまでも対地速度で考えます)であっても、これが横風だったりしますと結構な抵抗が発生してます。
k. Gyroscopic Precession
ジャイロスコピックプレセッションに関しては「ブレードフラッピング」でも勉強しましたが、いったい何が本質なのかと聞かれれば、アタシは「遠心力があれば勝手にバランスを取ことです」と答えています。
わかりやすい例が脱水機でしょう。あれが廻り始めると、最初は脱水機の中の洗濯物の重さのバランスが偏ってるため、少しのたうち回りながら回転が高まってきますが、回転が高まって遠心力が十分に発生すれば、洗濯物は勝手に移動し、重量バランスをとるのです。
じゃ、なんで90度遅れて反応が出るかってとこですが、これは回転体の自然な共振と言うことになってしまいます。前進飛行中のあるブレードは、機首あたりで沈み込んでテールの方で浮かび上がるという、1回転あたりのサイクルを繰り返してこれが共振を作ります。この1回転あたりに発生する共振はいくらローターRPMが増えたって1回転は1回転なので、1回転あたりの共振周波は一定ということになります。
だからRPMに係わり無く、「ジャイロスコピックプレセッションは90度遅れての反応」ってことになるのです。操縦桿の動きに反応してデイスクが傾くのは、操縦桿の動きがブレードに揚力の不均衡を作るので
、それをプラマイゼロにするためにブレードが90度進む間に下がったり上がったりするからです。
l. Pendular Action
ペンジュラーアクションとは振り子の動きの事です。セマイリジットローターシステムのヘリコプターの胴体は、ディスクに吊り下げられた振り子ですから、ヘタクソな操縦をしますと振り子みたいに胴体が揺れちゃいます。
振り子を動かさずにヘリコプターを縦横に動かすためには、操舵を優しく必要最小量で行なわなければなりません。
2 Forward Flight
a. Lift and Thrust Resultant
ヘリコプターは前に進むのが基本ですので、当たり前ですが前進を前提に設計されています。
デイスクが前に傾けば傾くほど推力が前方に発生することになり、ロータースラストである”R”も前傾しますが、実際のヘリコプターでは高速巡航中であってもさほど激しいノーズダウンはありません。
これは、ヘリコプターが飛行機みたいに翼が無いためであります。飛行機は翼が揚力を作っていますから、推力装置はホリゾンタル方向に作動していますよね。
これに対してヘリの場合はリフトを生むのも推力を生むのもローターですよね。良くヘリの胴体に翼に見えるようなものが付いてますが、これはあくまでも設計者が胴体の外に燃料タンクを付けたかったか、またはアタッカーヘリの銃火気を取り付けるためのものであり、これ自体が揚力を作っちゃマズイんです。
もし胴体が顕著な揚力を作ってしまいますと、飛行機の原理に近付いてしまいますから、飛行機みたいに推力をよりホリゾンタルに持って来ないとならなくなり、結果的に高速巡航中のメインローターメチャクチャ前傾してしまうことになります。
次の理由はホリゾンタルステイビライザー(尾部水平安定板)の作り出すダウンフォースが、
速度の増加に伴いテールを下げようとするからです。ホリゾンタルステイビライザーは、下方に湾曲した翼型ですので、対気速度が増えるほど下方に「リフト」が発生します。ところで、テールのスタビはR22ではホバ時ににはダウンウオッシュの影響を受けない、テールコーン先端に付いてます。
このタイプの利点は、ホバ効率が良くなることと、テコの原理(重心位置から遠い)ので小さなスタビ面積で効果を稼げることになります。悪い点は、ホバから前進を始めますと、ダウンウオッシュと対気速度の合成風が斜め上からホリゾンタルステイビライザーに当たり始めますが、この翼型はこうなりますと下方への「リフト」が高まりますから、結果として転移揚力が発生するあたりでノーズが上がっちゃいます。
B206ではテールコーンの途中にホリゾンタルステイビライザーがあります。このタイプですと、ホバから前進に移った時の機首上げ傾向は減りますが、ホバ中もダウンウオッシュがスタビに当たってますので、これによるダウンフォースがホバ効率に悪影響を与えます。
b. Weight and Drag
前進飛行中にはホバリング時に発生していた抵抗以外に、パラサイトと呼ばれる胴体の抵抗が発生します。これは速度に乗じて急増します。
またブレードの表皮の抵抗であるプロファイルも速度に応じて増加しますが、この抵抗はホバ時からリトレーテイングブレードストールが発生しかかるまでの間はほとんど一定です。アドバンシングサイドはローターの回転速度に対気速度が加わるので、対気速度が高まればプロファイルも高まりますが、リトレーテイングサイドは対気速度が高まるほどプロファイルが下がります。
このため、対気速度の増加によるプロファイルはプラマイゼロ(実際には速度が上がればホンの少しずつ増える)で考えるのです。
そしてリトレーテイングブレードストールが起き出すとドッカンと増える事になります。インデユースドドラグは対気速度の増加に応じて減って行きます。詳細は次の転移揚力でお勉強しましょう。
c. Translational Lift
トランスレーショナルリフト(転移揚力)とは、ホバリングから前進を始めてある程度の対気速度になると揚力が増える事を言っています。
これはある程度の対気速度が付くと、単位時間内にデイスクを通過する空気の量が増えるためです。
簡単に考えちゃうなら、ブレードが1回転する間に引っ掻く空気の量が増えるんで、効率が良くなるとでも認識してください。
でも、もう少し掘り下げて考えるならば、ぜひともインフロー(ローターデイスク上面から入りこむ空気流)と単位時間内にデイスクを通過する空気量の比率で行きましょう。ホバリング中のインフローはインデユースドベロシテイーだけでしたが、ヘリが前進飛行を始めますとほんの少しデイスクは前傾しますので、上方からデイスクに入りこむフォアワードベロシテイーが加わります。インフローが増えれば増えるほど、アベレージAOA(実質のアングルオブアタック)は同一のコレクテイブレバーの引き上げ方であっても減ってしまいます。
ですから、インフローだけで見ると、対気速度が増えるほどローター効率は下がるのです。飛行機のプロペラなんか速度が増えるとこの理屈のために(だって真正面からインフローが来ますもんね
)プロペラのアベレージAOAは激減しちゃいますので、これに対処するために可変ピッチというものがありまして、高速巡航中はピッチを増やしてプロペラ効率を高めているのです。
さてさて、インフローが「毒薬」であるならば、単位時間内にデイスクを通過する空気量はそれを薄める希釈剤ですね。ところで、デイスクなんて前から吹いてくる風から見れば極めて薄っぺらな状態ですから、対気速が増えたってデイスクを通過する空気量はたいして増加しないんじゃないかと思われがちですが、これは違います。飛行機の世界じゃ約60年前にはすでに解明されているそうですが、飛行機の翼に当たる空気の影響は、翼の表面付近だけでなく、かなり上方と下方の空気粒子の影響を受けているのです。
数学的な解析では、機体を中心にして、その機体のウイングスパン(翼の右端から左端までの長さ)の直径分の仮想の円筒の空気が影響を与えてることが判明しているのです。
この理屈はそのままヘリコプターに当てはめてOKでありまして、ヘリの場合はデイスクの直径分の円筒の空気が影響を与えるのです。
ですから、「単位時間内にデイスクを通過する空気の量」ってやつは、この円筒分の空気総量なの
です。そうしますと、対気速度の増加が毒薬であるインフローを増やしても、それを希釈する「単位時間内にデイスクを通過する空気の量」は段違いに増加します。このように速度の増加は毒を薄めますから、対気速度の増加が揚力の増加として現れるのです。
転移揚力はだいたい10〜15ノットの対気速度から発生することになってますが、そんな速度じゃ速度計はヒクヒクしていて数字なんかわかりません。
ちなみにこの転移揚力の恩恵はある程度の対気速度までで、それよりスピードを出しますと胴体抵抗のパラサイトが邪魔をし、やっぱりパワーを足さないとスピードが増えなくなります。
また、よくETL(エフェクティブトランスレーショナルリフト)と言いますが、これは転移揚力の恩恵がはっきりとわかる低速域だけのことをになります。「TL」自体は速度が増せば増すほど、どんどん増えているのです。
d. Dissymmetry of Lift
ここでのディシィメトリーオブリフト(揚力の不均衡)は、「ブレードフラッピング」で説明した概念とはちょっとちがいまして、前進速度の影響による揚力の不均衡の事になります。
アドバンシングブレード(前進翼、ディスクの右側)のリラティブウインドは、ブレードの回転速度プラス対気速度ですから、対気速度が増すほど追加揚力が発生します。リトレーティングブレード(後退翼、ディスクの左側)のリラティブウインドは、ブレードの回転速度マイナス対気速度ですから、対気速度が増すほど揚力を減らす働きが発生してしまいます。すると前進翼側の揚力が後退翼側よりも強くなってしまい、これがここで言うとこの「揚力の不均衡」ってやつを作ります。
さて、世界で最初にまともなジャイロプレーンを飛ばしたのはスペインのヒトだったみたいですが、このオヤジも最初はこの揚力の不均衡を知らなかったため、有人試作機は動き出して少し対気速度が付くと横にクルっとひっくり返ったそうです。ところが模型の試作機はちゃんと飛んだので、何が違うかを考えたところ、模型のブレードはぺらぺらに柔らかったので、勝手にフラッピングしていたことが判明したのです。
つまり、アドバ ンシングサイドで揚力が増えちゃったところを、90度進んでノーズ部分でフラップアップして追加揚力を放出し、リトレーテイングサイドでは減った揚力を90度進んだテールあたりへ沈み込むことで取り戻していたのです。だから、模型のジャイロプレーンは、速度が付くほどデイスクは後方に傾斜して飛び続けたのです。
そこでこの偉大なオヤジは「フラッピングヒンジ」を実機に装備し、まんまと飛行に成功したのです。
さて、ジャイロプレーンではデイスクが後ろに傾斜してたって、機体の推力は飛行機みたいにプロペラでやってくれますからOKですが、ヘリコプターではデイスクが前傾してロータースラスト(デイスクの”R”)を前に傾けなきゃならないわけです。
ですから、対気速度の増加によるデイスクのナチュラルな反動はノーズアップなんですが、運ちゃんはサイクリックを前に当ててこれを殺しているわけです。操縦桿から手を離した時の反応を語るのは、操縦桿自体の重さのために勝手に舵が当てられることが多々ありますからちょっと問題があるかもしれませんが、R22で高速巡航中に手を放すとかなりノーズが上がります。
B206では構造的に操縦桿の自重で舵が前に傾くの
で(B206系は床下のバネで操縦桿を吊ってはいますが、たいていバネがヘタッてますし、シングルパイロット用のスプリングなのにデユアルコントロールを装備していたりするとその重みで操縦桿が前に傾いちゃいます)、操縦桿を話した時のピッチングの反応を語ることは出来ないとベルスクールで習いました。
では手を離した時の左右の動きはどう反応するかと言いますと、20ノット程度の時に手を離せば次に出てくる貫流速効果で機体は右にロールします。
ところがR22では80ノットくらい、B206では100ノットくらいで手を離してみますと、機体は左にロールします。私の同僚はロビンソン社の講習会で、低速時は貫流速効果が卓越するんで機体は右にロールし、高速時はディシィメトリーオブリフト(揚力の不均衡)の影響が卓越し機体は左にロールすると聞いたと言っています。そのためR22で高速巡航すると、ずっと右にサイクリックを筋力で(ハイドロがないでしょ)当ててなきゃいけないんで、その疲れを軽減するためにサイクリックライトトリムと言う機能が(ただバネで押してるだけですが)付いています。
確かにある本では、速度の増加に伴うデイスク内のリバースフローの増加は
、リトレーテイングサイドのフラップダウンを招くと説明しています。リバースフローとは、リトレーテイングサイドのデイスク中心部付近で発生している領域で、ローターの回転速度よりも対気速度が速くなってしまい、ブレードのお尻から「相対風」が来ちゃう領域です。当然ここは揚力を作りませんから、速度が増えてリバースフロー領域も増加しますと、リトレーテイングサイドが沈み込んで揚力を取り戻しているという説明もあります。
ただし、これが本当にディシィメトリーオブリフトの副作用なのかはアタシは知りません。私はあくまでも、サイクリックが作り出す方の「揚力の不均衡」が圧倒的に機体の動きを支配する力であり、前進速による「揚力の不均衡」なんかはトリムのズレでしかないと認識しています。
ところで、このノーズアップ傾向は「ポジテイブスピードスタビリテイー」と言われ、速度が乗っても自然に減速しようとする、静的な安定性の一つです。だからこそ運ちゃんは速度を増すためにサイクリックを前に突くわけです。
R22なんかは、床下でサイクリックをチャリンコの荷掛けゴムで引っ張って、ステイックが前に傾こうとする力を作っています。
もし速度を出すために アフトサイクリックを当てなきゃいけないんだったら、これはネガテイブスピードスタビリテイーですが、これじゃ困っちゃいますね。
e. Transverse Flow Effect / Upwash
トランスバースフローエフェクト(貫流速効果)とは、デイスクの前の半分と後の半分の間に起こる揚力の不均衡のことです。一般教材上では、ホバリングから前進を始めETLを得るとほぼ同時に機体が右に傾くことと説明されていますし、確かにそのときに一番大きな影響が出ますが、現実的にはETLが無いような超低速時を除いて、いつでも発生しています。
さて、インデユースドエアフローとはデイスクが上から空気を吸い込む勢いですが、これはブレードがぐるぐる廻っているために、一種の渦巻きみたいなもんです。インデユースドエアフローってやつは、多ければ多いほどアベレージAOAを減らすわけですが、前進が始まりますとこのインデユースドエアフローの渦巻きが次第にデイスク後半にズレこんできますから、デイスクの後側の揚力が減っちゃうってのがこの貫流速効果の原理です。そして前進速度をガンガン付けて行きますとデイスクはもっと前傾しますが、ヘリじゃいつでもコーニング(ちょっとブレードがバンザイしている)がツキモノですから、デイスクの前の半分は水平に近く、デイスクの後の半分の方は上方にフラップアップしています。ですので、デイスクの前の半分
はインフローは水平であったり下から入込んだりしますが、後ろの半分はインフローが上から入りこむ状態になります。
このため、デイスクに入りこむインフローの分布は、デイスク前端はほぼ皆無で、後端に向かうにしたがって増加します。いずれにしましてもジャイロのナントカで、結果としてデイスクは右に傾きます。
さて、このインフローの分布の偏りは対気速度の増加に応じて増加しますので、スピードを出せば出すほど機体は右に行っちゃうはずですが、現実的にこの現象が顕著なのは低速域です。これまた先のトランスレーショナルリフト(転移揚力)でのお話と同じで、インフローの分布の偏りという「毒」は速度に応じて増えますが、それを希釈する単位時間内にデイスクを通過する空気量はもっともっと増加するために、実際には巡航速度くらいまで速度が上がるとこの現象はあまり顕著で無くなりますので、運ちゃんは今まで左に当てていたサイクリックを少し中立の方へ戻します。
っと、ここまでが旧論でありまして、超人プルーテイーの最新版のEven
More Helicopter Aerodynamicsではアップウオッシュでこれが説明されているのです。
プルーテイー自身が過去を振り返り、「前進飛行中のヘリのデイスクの前傾率は、本当は物凄くちょっとしかないんだ..。」と自戒されているのです。
そして、固定翼の世界じゃかなり大昔から言われている「アップウオッシュ」がヘリのデイスクにも存在していること述べているのです。
これを簡単に説明しますと、低速で前進飛行中のデイスクの前の30%くらいは対気速度の風は下から上へとデイスクを通過する「アップウォッシュ」で、後ろの残りがダウンウォッシュを作っていて、これが高速になると前の半分くらいはアップウォッシュになっているというのであります。
当然アップウオッシュはリフト増に寄与しますから、機体ノーズでのリフト増が90度遅れて現れ、結果としてデイスクの機体左側が上がる事を「トランスバースフロー」による反応だと結論付けているのです。
対気速度が速い時の方がインフローの分布の偏りという「毒」は多いわけですが、単位時間あたりに通過する空気量も多いため、この「毒」の濃度は低対気速度の方が多い事になりますが、このあたりの理論は旧論と変わりありません
。やっぱり超人の理論は一味違いますね。
f. Retrating Blade Stall
リトレーティングブレードストールとは、その名前の通り後退翼の失速のことです。失速と言っても、Lesson2で勉強しましたやつとはちょっと違います。こいつはスピードを付け過ぎちゃうと発生するやつです。
先の前進速度による揚力の不均衡のところで勉強したように、対気速度が付くと、アドバンシング側(前進翼側)はブレードへのリラテイブウインドが多くなってジャイロのあれでもって90度進んだ機首付近が上がり、リトレーテイングサイド(後退翼側)はブレードへにリラテイブウインドが減ってしまうのでジャイロのナントカで90度進んだテールあたりで沈むわけでしたね。
それじゃデイスクが後傾して減速しちゃいますから、運ちゃんはサイクリックを前に当てて、アドバンシングのAOAを減らしてやり、リトレーテイングのAOAを増やしているのです。
ですから、一般的なヘリコプターでは、アドバンシングブレードの先端なんかはAOAはマイナスになちゃってますし、リトレーテイングブレードの方なんかは15度以上のAOAが付いています。
さて、このためガンガンスピードを付ければリトレーテイングサイドのAOAもガンガン増えてしまい、そのうちストール
しちゃうでしょ、と言うわけです。
模範回答的には、このためにVNE(超過禁止速度)が設定され、これをオーバーするとリトレーテイングブレードストールが起きることになります。
でも、実際にはVNEってやつはかなり安全マージン(いろんな側面からヤバイ状態になる速度の10%)を取っていますから、VNEを超してもいきなり発生はしません。とは言うものの、高度が上がるとヘリのVNEは激減しますので、高空ではVNEへの注意は必要です。なんでVNEが下がるかですが、これは空気密度が減って空気がスカスカになると、もっとコレクテイブを引いてピッチをつけないと、ブレードが空気を漕いでくれなくなるからです。
ですから馬鹿みたいスピードを出さなくても、高高度ではリトレーテイングブレードストールが早く発生します。
また、たとえ低速度であっても後退翼側の迎え角の方が必ず大きくなっているんですから、前進飛行中のブレードストールは必ず後退翼側から発生することになります。
例えば乱気流の時なんかは、下方からの突風を受ければ迎え角が過大になりリトレーテイングブレードストールが発生するかもしてません。このため乱気流に遭遇したら、速度を60〜
70ノットに下げて、もともとのピッチ角を減らしておきます。
もう一つの原因がL0W−RPMですが、ローター回転数が低い状態で通常の飛行を続けるためにはより大きなピッチ角が必要なので、リトレーテイングブレードストールが発生しやすくなるわけです。
これは高密度高度でのアプローチ中に発生しやすいのですが、高密度高度ではエンジンの性能が大きく低下していて、降下中は出力に問題がなくても、スポットが近づいてコレクティブを引くと、エンジンにホバリングをするだけの余剰馬力がないためにRPMが急激に下がるためです。これをRPMディケイと言いますが、やっぱりストールは低速時であってもリトレーテイングサイドから発生します。
リトレーティングブレードストールの兆候は、低周波振動の発生、ノーズアップ、そして機体の傾斜と続くとされています。まず振動が発生しますが、これはブレ−ドがリトレ−ティングサイドのデイスク外周部に発生した失速領域を通過する度に振動を発生させますから、2枚ブレ−ドの機体なら
1回転につき2回、3枚ブレ−ドならば1回転に付き3回の振動となります。
なぜ振動が発生するかですが、 飛行機が失速すると機首が急激に下がるのと同じ理屈で、ブレ−ドが失速するとブレ−ドの前縁部が勝手に下がる動きが出るからです。つまりコレクティブやサイクリックで操作するピッチ角の変化以外の力で、ブレ−ドの前縁が勝手にねじり(ノ−ズダウン)下がっちゃうんです。これはブレ−ドが長くて柔らかいためですが、このためにスト−ルが発生し始めてもAOAがスト−ルの影響を受けない角度まで自動的に減少しようとするのです。このノ−ズダウンモメントがスト−ル領域をブレ−ド
が通過する度に発生するんですから、スト−ル領域から脱出するときにゃノ−ズアップモメントが発生します。この上下の捻れ振幅のために振動が発生のでありますが、この振幅の発生原因のことをネガティブダンピングと言いまして、結果として発生する振動のことをスト−ルフラッタ−とも言いますし、ここでの「スト−ル」はモメントスト−ルと呼ばれています。
ではリトレ−ティングブレ−ドスト−ルが発生すると、振動に続いて何が起きるかですが、一般的な教科書にはノ−ズアップ、機体のロ-ルとされているとされていますが、現実的にはその機体のブ
レ−ド剛性により違いがあります。これはネガティブダンピングにはブレ−ド剛性が大きく係わってくるためでして、ある機種はノ−ズアップ、ある機種は右へロ-ル、ある機種は左へロールする、ある機体ははい
きなりダイブするかもしれないわけです。
いずれにしてもブレ−ドのティプパスは規則性を失なっちゃいますので、不意なディスクの傾きが発生してテールコーンを切断することもあるそうです。これはあまり試したくないですね...。
さて、リトレ−ティングブレ−ドスト−ルからのリカバーですが、これはコレクティブ下げとアフトサイクリックで減速するだけです。よく、アフトサイクリックを当てちゃうとデイスクのAOAが増えちゃってますますヤバイんじゃないかと思われますが、フレア−によるAOAの増加傾向はディスクの中心部に集中するため、リトレーテイングブレードストールが発生している先端部のAOAには影響があまり無いそうです。
対気速度以外にリトレ−ティングブレ−ドスト−ルを助長する要素は、ヘビ−ウエイト、ハイデンシィティアルティテュ−ド、低回転、急旋回や急激な機首上げとされています。
ただし、急旋回に伴うコレクテイブ上げの方がデイスク外周部のAOAを上げてしまうため、急旋回時は急激な機首上げの時よりもリトレーテイングブレードストールを招きやすくなります。
g. Settling with Poewr
セトリングウイズパワーとは自分のダウンウオッシュの中を降下する状況でして、パワーを使ってる割には異常な降下率を示す現象です。
セトリングウイズパワ−は、1.降下率400fpm以上、2.パワ−20〜100%(つまりオ−トロ時以外)、3.ETLを下回る対気速度、の3要素が合致しないと発生しません。具体的にはホバリングからの垂直降下、背風のアプローチ(特にスティ−プの場合)とかが考えられます。ホバリング中はデイスク全体がダウンウオッシュを作り出していますが、この状態から徐々に垂直降下を始めますと、ディスクの中心部はダウンウオッシュよりも降下によって入りこむアップウオッシュが発生しますが、中心部から外周部にかけてはもともとダウンウオッシュが中心部より強いので、ダウンウオッシュのままです。
次第に外周部のダウンウオッシュ速度と降下による速度が同じになると、ディスク外周部のダウンウオッシュがディスク先端部を下から上へと循環するボルテックスリング(この場合はウイングティップボルティシーとも言います)が発生しますが、これはディスク下面の高圧部から上面の低圧部への空気の流れが発生し、これがインデユースドエアフローと合流するためです。
さらに降下率が高まると、ディスク中心部のアップウオッシュは中周部のインデユースドエアフローと合流しはじめ、セカンダリーボルテックスリングと言われる二次的な循環が発生します。ここまで発達すれば立派なセトリングです。尚、古い本ですと最初に中周部でボルテックスリングが発生し、二次的なボルテックスリングが翼端側で発生すると書いてあります。実際どっちでも良いんじゃないですか?。セトリングウイズパワ−からのリカバリ−方法は、「コレクティブを下げ、フォワ−ドサイクリックを当てる」が一般的です。米軍資料なんかではリカバリ−は意外にも素早いコレクティブ上げとされていますが、実際に殆どの場合はこれでリカバ−出来ちゃうんです。
なぜならば、セトリング発生初期はパ−シャルセトリングと言いまして、たいして激しいボルテックスリングは発生していないので、ここからのリカバ−は降下傾向を急速に止めちゃえばOKなのです。
でもこんなこと言ったら日本の試験官にハッタおされるでしょうし、このリカバーはゴク稀な「会心の一発!」みたいなセトリング発生した場合には効きません。
これこそ教科書通りに、コレクテイブ上げは更なる効果率を生んでく
れます。
ですので、飛行訓練時におけるリカバリ−は、やっぱ一般的なコレクティブ下げとフォワ−ドサイクリックが無難でしょう。とりあえずこの方法が、ボルテックスリングステ−トから一番素早く抜け出すことが出来る事になってます。
ただし、極めて地表付近でセトリングに入っちゃったならば、右サイクリックと右ペダルで抜け出すことを試してください。この方法だと、高度を落とさないでトルクの力を借りてセトリングから脱出できますよ。
なお、セトリングウイズパワ−発生のインディケーシヨンは、やはり振動です。なんかズンズンズンとしだして、ちょっと機体が暴れ始めます。
この振動の原因は、ボルテックスリングがディスク上に不均一な循環流を作り出すことでバランスがくずれるためらしいですが、ウチで使ってる試験官は下方から来る風が胴体を通過するときに乱流を作っているからだと言い張っています。
どちらにしてもセトリング時のコントロ-ル性は低下しています。セトリングウイズパワーの発生を促進する要因は、ハイデンシィティーアルティテュード、低RPM、ヘビ−ウエイトです。
地形的にどうしても背風でファイナルを作らなければならない場合なんかは、セトリン
グの3要素の1つを外せばOKです。現実的にはパワーと速度は外せないので、降下速度を400FPM以内に押さえて進入することになります。
ところで、現実的にマニューバーとしてのセトリングを行っている時の危険性は、実は後で出てくるLTE(ロスオブテールローターエフェクテイブネス)に入っちゃうことです。
h. Dynamic Rollover
停止中のヘリコプターの片側のスキッドを持ち上げて行けば、R22ならば42度まで傾いた時点で横転すとされています。そりゃだいたい45度くらい傾けちゃえば、機体の重心位置が支点となっているピボットポイント(支点:この場合はスキッド)を超すでしょうから、誰から見たってコケるでしょう。こういう転覆をスタテックロールオーバーと言いますが、運ちゃんには関係ないですね。
これに対して機体が揚力や推力を発生させているときに起きちゃう転覆をダイナミックロールオーバーと言いまして、運ちゃんはこいつには気を付けなければなりません。空中に浮上しているヘリコプタ−は舵を沢山当てても転覆しないのは、空中に浮いていれば機体はフリーボディーであるからです。だから機体は45゜以上のバンクを付けても転覆しませんね。
これに対し、機体の重量が地表やその他障害物なんかに預けられた場合にはもはやフリーボディーじゃありませんから、わずかな傾斜が付いだけでダイナミックロールオーバーが発生します。
例えばヘタクソなホバー側進時にスキッドが障害物に引っかかりますと、あたかも「足払い」を食らった形になってコケちゃいます。なぜならばスキッドが引っ
かかるとそこにピボットポイントが発生し、機体がフリーホディーで無くなり、機体の動きとして蓄えられていたモメンタムが機体を転覆させる回転力即ち「ローリングモメント」に化けちゃうからであります。
この「足払い系」のダイナミックロールオーバーにはメインローターのロータースラストなんか関係ありません。モメンタムエナジーのいたずらなんです。
さて、やはりメインローターのロータースラストが原因の一つになるロールオーバーもあります。これは「スロープ系」とでも言いましょうか。もともとデイスクの可倒角度なんて、ラテラルにはたいてい10度くらいしかないんですが、これよりも深い角度の斜面に着陸することは出来ます。
でも、そこからピックアップを行おうとすると、いくらサイクリックを斜面の上側に当てたってデイスクは斜面下方に傾斜してますから、機体を浮上させる揚力より斜面下方への推力が卓越しちゃって、もともとフリーボディーでは無かった機体にはピボットポイントとローリングモメントが発生し、あっと思ったら簡単にコケちゃうのであります。
ちなみにコケてメインローターを打ったら全損です。たいした怪我はしないでしょうけど、トランスミッ
ションとか割れますから、ちょっと熱いオイルがタラリタラリするかも..。
だからスロープ離着陸は5度程度までとした方が安全ですよ。いずれにしてもリカバーは迅速なコレクテイブ下げしかなく、逆サイクリックは殆ど用を足しません。
i. Loss of Tailrotor Effectiveness (LTE)
なんだかETLもあればELT(非常救助信号発信装置)もあれば今度はLTEです。これはホバリング時やETLを下回るような低対気速度での飛行時に、テールロ-ターが機能しなくなる状態を言っています。
でもこれは機械的な故障ではなく、これから出てくる諸要素のために空力的にその機能を失うことを言っています。LTEはシコルスキーがまだレシプロ機を作ってたような昔から確認されている事象ですが、ベル社が80年代中半から始めた啓蒙活動で一般に広まり、日本では数年遅れてJCABが啓蒙を(ベル資料の完璧パクリ)始めました。私が日本の事業用を取った頃には全然取り沙汰されていませんでした。
@ウインドコックスタビリティ−
ヘリコプタ-はその胴体の形状がウインドコック(風見鶏)に似ているので、パンと強風を受けると風上に向こうとする傾向があります。これをウインドコックスタビリテイーと言いますが、この反応はメインロ-ターのトルクの影響で右回
り方向に強く現れます。
つまりトルクに負けながら廻る方が勢いよくクルクル行っちゃうってことです。ホバリング中に突然テール
ウインド(4時から8時ぐらいの方向から)を受けると、あたかもテールロ-ターの機能を失ってしまったかのように右旋転に入ることがあります。すぐに左ペダルが当てられれば何でも無いのですが、ペダルが遅れちゃうとクルクル廻って止まらなくなるかも知れません。
Aテールローターボルテックスリングステート
通称はテールローターセトリングですが、セトリングとは「落ちていく」の意味ですから、水平方向に発生する事象にはちょっとヘンなので、やはり正式名のテールローターボルテックスリングステートで行きましょう。
内容としてはメインローターのセトリングの理屈がそのままテールロータ−で発生している事です。左からの横風でホバリング
をしている時に、ちょうど横風の速度とテールローターの吹き出し速度が一致してしまいますと、ここでボルテックスリングステートが起きてしまいます。
この現象が起きますと一時的にテールローターは機能を失いますので、機体はトルクに負けて右へと旋転し始めますが、通常は機首が右に45゜程度振られた時点でこの「セトリング」は自動的に解除されますから、その際に素早く左ペダルが入っていれば機首はまた元の方向に戻ります。
たまにこの振幅を数回繰り返す事もありますが、これ自体に特に危険性はありません。
でもこの時に左ペダルがタイムリーに当てられないと、今度はテールウインドを受ける状態になり、さっきのウインドコックスタビリティーがさらなる右旋転へとお誘いしてしまうかもしれません。
Bメインロ-ターボルテックスステト
ホバリング中に10時方向からの風を受けますと、機体に向かってくる風はメインローターのダウンウオッシュと混ざり合ったボルテックス(乱流)となって胴体
を通過して行きますが、胴体で分けられた風の半分はノーズ付近を通って流れて行き、残り半分はテールロータに当たりながら進んで行く事になります。
さて、場面は右ホバリングタ−ンをしている時となりますが、風が10時方向から吹く位置に近付きますと、このテールローターに当たる乱流がテールロータのAOAを一時
的に増加させるので、右タ−ンを続けるためにはより多くの右ペダルを当てなければならなくなります。
そこでガツンと右ペダルを踏んで10時方向から11時方向に向かうあたりでは、この乱流が今度はテールローターの効きを悪くしてしまい、ただでさえしこたま踏んだ右ペダルの影響と相乗し、スパンと右スピンに入ってしまうというストーリーです。
この現象を助長してしまう要素としましては、ハイデンシィティーアルティテュード、ヘビーウエイト、低RPMが上げられます。高高度や重い機体では、ホバ中にたくさんパワーを使う分、トルクもガンガンかかっているので、トルクに負けてスピンに入りやすくなるからです。
低RPMが危ない理由は、テールローターの効きが悪くなるからです。これは仮にエンジンRPMが10%減るとメインローターの出力も約10%減るけど、その分コレクテイブを引いて高度を保とうとすれば、トルクはリフトに比例するので殆ど低下しないのに対して、エンジンRPMの低下はテールロータ-の推力を著しく低下させるからです。
さて、LTEからのリカバ−はフルレフトペダルとフォワードサイクリックです。もし高度に余裕があればコレクティブ下げも加えることになってますが、オートロに入れてもすぐに回復するものではないところが面白いと言うか怖いですね。やはり予防が一番でしょう。