ヘリコプターが仕事をして金を稼げる事業の器は、今の日本では本当に本当に小さなもので、年間500億円程度でしかない。業界全体の売上が、である。 それを40社近い運航会社が、わしゃわしゃと奪い合っているのである。 事業規模は小さいが、ヘリの行う仕事の種類は、実にいろいろある。

 「マジでヤバイ」限界的状況の中でレスキューをする。 早起きして田んぼにクスリを撒く。 選挙期間になれば総理大臣を乗せて遊説地を飛び回る。 新宿上空のヘリの中でAVを撮る。 宗教施設の上空から信者におフダをばらまく。 山小屋に食料、燃料を荷揚げする。 カーレースやマラソンで、中継や空撮プラットフォームとなる。 etc.

 いろいろ有るものだが、一般市民生活にはあんまり関係ないことが多いのである。 その特殊性が事業の器が大きくならない原因のひとつであるので、
「じゃあもっと器を拡げるため、一般生活に密着した事業を開拓するにはどうすればイイのか。」
という議論、はまあ置いといて、とりあえず今のヘリの仕事を知ってもらおう。 と、思うのだ。
 



 
薬剤散布 さまざまな問題を抱える業界の柱。

 薬剤散布といえば、かのオウム真理教が、帝都東京にサリンを散布するという暴挙を実行するためにロシアの大型ヘリ、ミル13を購入したことがあった。 シロート連中が、まともに飛ばなかったにしろカタチはヘリに組み上げたのもスゴイが、故・村井が、操縦訓練をラジコンヘリでやってたというのもスゴイ。 そのラジコンもばんばん落ちてしょうがないもんだから、事業会社にパイロット派遣の打診をしてたというからさらにスゴイ話だった。
朝日航洋で、兄弟機 ミル Mi-8 の運航をやってた時期があって、ライセンスを持つパイロットは各社に何人か居たんだが、当然みな断ったそうだ。
 ヘリはしばらく富士市の教団敷地に置いてあったが、どこに行ったのだろう。


 「薬剤散布」といっても、水稲や松林などへの殺虫、殺菌剤散布から、治山・緑化として種子、肥料散布、タンカー事故などの重油漏れへの油処理剤散布、さらにある種のハエ防除のために、「不妊化した」冷凍蝿をばらまいたりと、時と場所によっていろいろとその内容はバラエティに富む。
 
 そのなかで量的にダントツに多いのは水稲、いわゆるコメへの防除である。 毎年5月から9月頃にかけ、各社併せて200機近い機体が、南から北へとコメどころを転々としながら徐々に北上していく。
 といっても、参加する約10社で担当地区を割り振られているので、各事業会社の担当するエリアは、数県程度になる。

 一日の実施単位は、だいたいひとつの市町村ごとで数百〜千数百ヘクタールを、3〜6機くらいの単位で一斉に作業する。 各機はグランドとか空き地なんかの「係留基地」に前日のうちに入り、日の出と同時に飛び上がって各機毎の「作業基地」に展開する。

 離陸時間となる日の出が4時半くらいなので、3時半とかに宿を出ることになる。 昔は3時まで飲んでたとかのツワモノもいたが、死にたくないので最近はそこまで飲まない。それに近いくらいまで、ごくたまにイッてしまうこともあるが、たいがい激しく後悔する。 深酒のあとの早起きほどキツイものはないのだ。 


 もう時効ということで白状するが、ワタシは数年前、千葉県某所で散布前日ギャルのいる店で爆飲し、翌日散布しながら自分の操縦にキモチが悪くなり、フライトしながらコクピットでゲロってしまったことがある。 キケンである。マジで。 以来、散布前日の深酒は控えようと誓った。
 こんなバカ行為をしたのは私だけかと思ってたら、聞けばフライト中にゲロったことがある困った機長は、過去にも居たそうだ。 しかし1990年8月に起きた、散布中の墜落、死亡事故では、機長の血液中からアルコールが検出され、酒酔い操縦が事故の原因となったことが発覚したという事例もあり、やはりシャレにならないことなのである。 
 ちなみにこの事故については、サイト Aircraft Accident in Japan にも記述がある。


 さて、ハナシを戻す。

 作業エリアは、数十m毎に立てられた白い三角の旗の配置によって区分けされてて、作業基地に降りてから最初の仕事は、「基地長」を同乗させて、上空からこの旗の配置が正しいのか確認するための「確認飛行」となる。

 旗の挿し方が地図と違ってたり、必要なところに立ってなかったりというのはよくある事なので、それを上空から見つけるとともに、配電線や送電線の有無を確認する。 
 同乗する地元のヒトはだいたい毎年飛んで慣れてるから、地図も見ないで
「ココは撒いて。ココはウシがいるから上飛んだらイカンで。」
などとキッチリわかってて指示できるヒトが多いのだが、「確認飛行」を、「遊覧飛行」と勘違いしてる現場もときどきあったりして、そういうところは
「今年は俺の飛ぶ番だあ。」
みたいな、ウキウキしたオジサンがカメラ持って乗ってきたと思ったら、離陸したとたん右も左もわからなくなって、こっちが 「ここの旗の立ってない場所はどうします?」 などと聞いても、
「んあ?」
と、いきなりボケオヤジ化してしまい、何の役にも立たなくなることも、ままある。


 確認飛行が終わると、作業開始。 ヘリポートでは、すでに地元の作業員(農家の方々)が、でっかいポリバケツになみなみと薬を調合してるので、着陸と同時にエンジンポンプでお腹のタンクにドドドとクスリを積み込む。 350なら420リッター、B206なら300リッターと、機種毎に最大積載量は決まっている。

 速度約40ノット(約70km/h)、高度8〜15mで、ヘリの左右に伸びたブームからシャワーっと田んぼにクスリを撒くのだが、放出されたクスリは風に流されるので、そのときの風を常に考えながらコース取りをしないと、とんでもないとこにクスリが落ちて、問題のタネになるので気を使うのだ。 クルマにかかると、クスリの種類によってはすぐに洗わないと塗装面を侵してしまうものもある。そうなれば全塗装しか救う道はない。 

 千葉県のある現場では、毎年、散布の日になるとわざわざ現場エリアにベンツで入ってきて、ワザとクスリをクルマにかけさせて全塗装させようと目論むちんぴらヤクザがいる。せこい野郎である。 ワタシもそこで作業中、そいつが散布コース上にベンツで現れ、なぜか上半身モロ肌脱ぎで刺青を誇示しているのを見て、思わず逃げた。 
 心情的にはベンツごとアタマからクスリをブチかけてやりたかったのだが。


 さて薬を撒きながらエリアの端までくると、噴射停止、そしてハンマーヘッドターン(Pターン/Parabola turn )をカマす。
 ドカンとアタマを上げて上昇し、頂点でクルリと反転し、下向きにダイブして戻ってくる。アクロバチックである。 なんでいちいちそんなことすんのか?

 並行する散布ルートの幅は27m。 時速70キロで飛んできてそのまま半径13.5mで旋回するのは90度バンクでも不可能。
だからいったんノーズを上げて速度エネルギを位置エネルギに換え、減速。 速度が無くなったところでクルっと回り、また高度を速度に換えるこの方式が、見た目ハデだけどいちばん楽で合理的旋回方式なのだ。 Pターンは、散布の華である。


  420リッターのクスリも、出しっぱなしだと3分ほどで無くなる。 実際は移動、ターンの時間も含めて、一回5〜10分のフライトとなる。 一回の散布面積は14ヘクタール。 平均的な200ヘクの現場では、15回の散布飛行を繰り返すことになる。

 薬のかかりが不十分な場所への補正散布や機体洗浄なども含め、だいたい8時から9時ごろで作業はすべて終わる。

地元の好意で朝食をゴチソウになり、次の現場へ飛び去る。 そういう流れである。
 ちなみにこの散布現場での朝食、というのがイロイロおもしろいので、それはまたコラムにでも書きたいと思うのである。

 次の現場の係留基地に降りたら、整備士は飛行後点検と機体カバー掛け、パイロットは打合せと現場調査にそれぞれ分かれ、だいたい昼前に宿に入るというのがノーマルのパターン。 そしてそのあとは半日フリーである。 
寝るもよし、街に出るもよし。ここで嫁さんをゲットしたヤツもいるし、 海の近い現場だと、みんなで浜辺でBBQ、というのも、散布ならではの夏の楽しみである。 営業車には、焼き網や炭、ビールを冷やすクーラーBOXは、標準装備なのである。

 そういう、「やってる本人たちはけっこう楽しい」散布というシゴトも、近年の環境問題や、クルマの増加、水田の宅地化などの作業環境の悪化などで、年々作業面積は減りつづけている。 昔は月に100時間とか平気で飛んでたのに、今は30時間くらいとか、まあ機体が大型化して作業が早いという違いもあるんだけど、確実に減ってきている。

 しかし現代において散布を止めると、食糧自給とコメ農家、これらは確実に壊滅する。 現在の高齢化した貧弱な農家には、もはやヘリ無しには防除は出来ないのである。
 ヒステリックに散布の中止を叫ぶ運動家たちは、面積あたりの収穫量が半分になり、コメの値段が2倍、3倍になっても文句を言うつもりは無いのか、そこを聞きたい。
 たしかに、農薬の空中散布は、環境にインパクトのあるのは確かである。そこにたまたま居るコメの病虫害に無関係な虫たちも死ぬ。 ワタシ自身、農薬散布に対しては否定的な気持ちがある。
 しかし、原発と同様、替わりの方法が見つからない中で、やめようにもやめられない状況にはまり込んでいるのである。
 先日ドイツでは原発の新規建造をやめた。 替わりのエネルギーの目処はまだついていないが、数十年でドイツから原発は無くなる。
 そんな英断を下す勇気とビジョンがニッポンにあるのなら、空中散布を止めるのは悪いことではないとは、個人的には思う。

 なんにしろ業界にとっては、収入の柱のひとつがどんどん細くなっていくなか、業界はその屋根を支える別の柱を渇望しているのは確かである。

2000. 6. 24 散布出張先のホテルにて



 
報道取材 エキサイティングな仕事ではある。

 ほとんど季節労働的かつお天気仕事な薬剤散布に対して、こちらは年間365日が仕事。年間契約で安全確実な収入が期待できるという、「安定性」ではピカイチの業種である。

 キーTV局では全て機体は双発化、防振カメラ化が完了し、飛ぶほうも、撮るほうも、近年のハードの進歩で、楽に、かつ高性能の画像を得ることができるようになった。 最近の空撮画像は、全く揺れず、とんでもない倍率でズームする。 むかしの、いかにもニュース映像的グラグラ画面も、あれはあれで臨場感というか緊迫感が感じられたが、いまのヘリ空撮はホントにステディな画像である。
 加えて中継機能が進歩した。首都圏なら全域で、即ライブ映像のオンエアが可能である

 新聞社も、プロユースに耐えるデジカメ(Nikon D-1など)が一気に普及し、あっという間に本社にデジタル伝送できる。 着陸後あわてて現像、まだ乾ききらないネガをバイク便が爆走して持ち帰ったり、フィルムを本社上空から投下したりというのは、ほんのつい最近までの現場の風景だった。
 
 キーTV局、新聞社ではだいたいヘリクルーとカメラクルーはヘリポートに待機し、要請、即離陸体制がとられている。 が、地方TV局になると、カメラマンは要請があってから局からヘリポートにやってくる。この場合は、要請から離陸まで30分くらい余裕があったりする。 その差はホントに段違いで、即離陸体制ではウンコも落ち着いて出来ない。 精神的プレッシャーが大きいのである。

 大きな事件、事故だと、とにかくまず上がる。 場所は無線連絡。 先行する他社機を追いかけて、現場までコッソリ連れて行ってもらったりもする。
 そういうときには、現場上空には10機近く集まる。 遠くから見るとまるで「蚊柱」のようにグルグルと旋回している。
よく見ると、蚊柱には二つのグループがあることがわかる。 ひとつは1500〜2000フィートを廻る、「TV関連機系」。 そして500フィート付近の低空を徘徊する、「新聞社機系」。 新聞における報道写真の評価は、掲載された一枚の写真が全てであるので、各社「一発狙い」で、ついつい低い高度になってしまうのだ。TVカメラと違い、手持ちの300mmレンズくらいが目一杯だから。

 すでに起きてしまった交通事故なんかだと、わりとグルグルと各社整然と旋回してるんだけど、例えばオウム麻原の護送の瞬間だとか、マラソンのスタートの瞬間だとか、そういう 「タイミングもの」 だと、その瞬間を狙うポジションというのが限られてきて、さながら「イス取りゲーム」のように、その瞬間を狙って旋回のタイミングを計り、イッキにそこに殺到する。 ゲームと違ってぶつかったら死ぬので、けっこうシビアなのである。 とくに「新聞系」の攻防は熾烈を極める。

 シゴトとしては単純なようであるが、案外そういうメンタルなところでの判断力なんかが要求されて、ナカナカ奥の深いシゴトである。 散布にしろ人送にしろ、自分一機がどれだけそのミッションを完全にやれるかという、ハンマー投げとか重量挙げとか、そういうワリとストイックな部分が共通するところがあると思うのだが、報道は競争相手が存在し、まるでスケートのショートトラックのような駆け引きがあるという、そこのところがなかなかイイな、と思うのである。

 あとは自分のヤジウマ的欲求を満たせるところか。 誰よりも早く事件現場を覗けるという、その快感が、良いのだ。


 困ったところは、天気が悪くても「今日は飛べましぇん。」と言えないところか。 各社みんな飛ばなきゃいいんだけど、だいたいどっかが無理して飛んじゃうんだよね。 そうなると、
「あそこは行ったのになんでウチは行かないんだ。」 
ってことになるから、行かざるを得ない。
 もちろんギリギリの線でボーダーラインは持ってて、そこまでくれば、
「でも行きません。」
 とは言うつもりなんだけど、
「いけるとこまで行ってみて、ダメなら引き返そう。」 
になっちゃったりする。 それで何度ハマって泣きながら飛んだことか。

 そういうわけで、報道も、オモシロイのだ。