コラム欄。 しょーもないコトから業界の現状を憂う壮大なテーマまで、コラムとして世に問うのである。


冒頭・語録。 はこちら


散布の朝ゴハンのこと。 2001.  8. 18  
シコルスキーS76C+搭乗記。 2001.  5. 17  
オートローテーション理論。 2001.  4. 14  
小説「回転翼の天使」 のこと。 2000.  9. 26
AS350 スターフレックス破断のこと。 2000.  8. 18  
ピトーヒーターのこと。 2000.  7. 21 リクエスト
IFRへろへろ訓練記・2。 2000.  3. 7  
IFRへろへろ訓練記・1。 2000.  2. 17  

 

散布の朝ゴハンのこと。    2001,  8,  18 

 21世紀最初におけるワタシの散布シーズンも無事終わった。 散布の仕事は日の出とともに始まり、8〜9時には大体終わる。 てゆーかこれより遅くなるとクルマや人がゾロゾロ出てきたり上昇気流や風が出てきて薬剤がとんでもないほうに飛んでいってしまうので、終わってないと困ってしまうのである。
 散布の仕事はヘリクルーだけではできない。 農業共済など地域の実施団体による全体のコーディネイトをはじめ、クスリ作りや機体への積込み、散布状況調査や交通整理などに関わる、たくさんの農家のオジサンたちの協力があって成り立っている。 みな暗いうちから起きだして作業をしてるわけだから、終わる頃にはおなかペコペコである。
 で、昔からの慣例として、終わった後みんなで朝飯を喰うという段取りとなる。
我々ヘリクルーもごちそうになるわけであるが、これが地域によってほんとに様々なので面白いのだ。
 タダ飯を喰わしてもらってるくせにエラソーに言うのは失礼なのであるが、いくつか紹介する。

メニュー 場 所 講 評
・菓子パンと牛乳 道路に放り投げられる 寂しい。芸を終えたサルのようである。
・コンビニ弁当と缶茶 現場の地べた。ヘリクルーだけで 最近多くなったパターン。 確かに融通が利くし便利だろうが、日本中同じ味だし、ちょっと寂しい。★
・仕出し弁当とカップ味噌汁 現場地べた。皆で一緒に 現場のオッサンと喰うだけでも全然旨く感じるものだ。★★
・手作り握り飯と漬物 現場ゴザ敷きor公民館など 地元のオバサン達が作るシンプル極まりない飯であるが、コレが旨い。 昔はみなこうだったが、今はホントに少ない。 しかし、やはりコレに勝る朝飯は無いと断言する。
★★★★★
・カツどん類 with ビール 近くの料理屋などを予約して このあたりから散布=イベント色が出てきて、オッサン達も楽しんでいる。 朝のビールがまた旨いのである。
★★★★
・宴会料理 with 酒類全般 農協倉庫など大空間で大盛上がり てんこ盛り料理に散乱する酒ビン。数十人のヨッパライが朝っぱらから出来上がる。 ほとんど祭りのノリである。 操縦しない整備士はエンドレス酌攻撃にさらされ、泥酔。
★★★

 ここに挙げたのは数あるパターンの中のほんの一例で、それこそ現場の数だけいろんな朝飯がある。 最近は兼業農家が増えて、散布作業が終わってからシゴトに行くヒトが多いので、朝飯もサッサと済ませる傾向にある。 従って宴会的ヘビーな朝飯は減少しているが、次の現場に移動しなくていい場合、朝からつめたいビールをガッガッガーっとやれる快感は散布ならではの楽しみのひとつであるので、そういったところはいつまでも続いて欲しいなと思ってしまうのである。
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 シコルスキーS76C+搭乗記。     2001,  5,  17 

 S76については「Catalog」のページを見ていただいて、まずは基礎的なところを知っていただきたい。

 で、Cプラスは、76シリーズの最新バージョンである。 ワタシが乗るフジテレビの「チャトラン」は、B型になる。 現在ドーファンで運航されている伊豆諸島のヘリコミュータ「愛らんどシャトル」の後継機として導入されたばかりのこの機体には、ワタシは直接タッチすることは無いと思っていたのであるが、思いがけず5時間の訓練時間を貰えることになったので、飛んできたのだ。

 とにかくC+はアビオニクスがスゴイ。 いわゆるヌーベルアビオニクス。 電子統合表示が一段と進化し、インパネはどんどんシンプルになってきてるのに表示される情報量は逆に増えている。 チャトランの計器盤なんかは、ヘリのアナログパネルとしてはもっとも複雑な部類に入ると思うのだけど、それをはるかに超える情報が整理、分類、統合されて表示されるパネルは、感動的ですらある。
 そしてそれ以上にワタシを感動させてくれたのがエンジンの管制システムである。 B型でも採用されているデジタルフルオーソリティのエンジン制御は、さらに賢くなっていた。
 多発ヘリのカテゴリとして、「飛行中に1基のエンジンが故障したとき、どんなときでも安全に飛行継続/着陸できる」という輸送TA級運航では、片発停止状態において残りのエンジンに極限のパワーを要求する。 そしてその極限のパワーは、エンジンやミッションにとっては「あぁオレもう限界!」というところにある。 少しでもこの限界を超えると、エンジンや機体の安全性は保障されなくなる。 従来はこの限界付近での運用は、操縦士の「腕」に任されていた。 操縦士は機体を墜とさないよう、その上エンジンを壊さないよう、一瞬の判断と操作を要求されていた。
 しかしC+は違う。 コンピュータが介在し、操縦士が慌てて無理な操作をしても、エンジンは限界を超えることが無いよう制御される。 エンジン制御に関しては、「究極」のシステムである。

 ま、そういうカタイ話は置いといて、今回は買ったばかりのデジカメの絵を披露するためのコラムであるから、さっそく見ていただきたい。 このデジカメ、動画も撮れる。 毎秒15コマのAVI ファイルをRealPlayerファイルに変換してある。 600kb ちょっと。 そのくらいならダウンロードしてやろうという方は、ゼヒ。

 C+は7月に路線デビュー予定である。 一般の方が76に乗れるのは、日本ではここだけ。 350の遊覧もいいが、この超ハイテクヘリ、客席最前列に陣取りコクピットを覗き込んでのフライトは、ワタシが今いちばんオススメしたいヘリの乗り方であるのだ。

      ←要注意
630kb!

PHOTO MOVIE
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 オートローテーション理論。     2001,  4,  14 

 ってホドのことでもないんだけど、BBSでオートロ時の理論のURLを探してる方がいたので載せた。 スキャナがなかったのでデジカメで撮った。 世間一般ではヘリコプタはエンジンが止まったら石のように落ちていく/(C)Mun@ge と思われているようだが違うのだ。 ある意味、つまり滑走を必要としないぶん、固定翼機より安全であるのだ。
オートロ理論説明図へ。
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 小説「回転翼の天使」のこと。     2000,  9,  26 
 
 先日、ハルキ文庫から、「回転翼の天使 ジュエルボックス・ナビゲイター」が出版された。 著者は小川一水氏。 氏とは、彼がこの作品の情報収集をしている過程で知り合った。
 この本の舞台は小さなヘリコプタ事業会社。 ヘリコプタの主な活動フィールドであるが一般には馴染みの薄い「航空機使用事業」という業界を舞台とする小説は、いままで無かった。と思う。

 フライト・アテンダントとなり、「空の女」を夢見る主人公夏川伊吹は、大手三社はおろか、外国、中堅、地方コミュータまでことごとく就職試験に失敗する。  失意の中で出会った「航空会社」 JBN・ジュエルボックス・ナビゲイター社は、レシプロ小型ヘリ1機、社員2人だけの超零細会社だった。

 面接に来た伊吹は、吹きさらしの河川敷に建ったJBNのプレハブ格納庫に唖然とする。

 そーいえばワタシのいる会社も、数年前まで本社格納庫は第二次大戦中のカマボコハンガーをそのまま使っていて、初めて出社し社屋を目の当たりにした新人達は、まずそこで愕然として逃げ出したい衝動に駆られたものである。 以前、某TV局が制作した、やはり弱小ヘリ会社を舞台にしたドラマがあったのだが、某TV局に「ゼヒこのハンガーを撮影に使わせてください。」と言わしめたほど貧相な雰囲気を醸していたものである。

 さて半ば強引に社員に迎えられた伊吹のそこでの仕事は、場外離着陸場の測量、種々の申請書類の作成と局への提出、遊覧飛行の接客、物資輸送の機体誘導に機体磨き、パンフ配りからお茶汲みまで、あらゆる雑用とガテン系作業の連続だった。 

 ちなみにワタシも入社後初めての仕事は遊覧の客引きとモギリ、そして場外ヘリポートの測量だった。 このへん見事に実態をついていて、思わず苦笑するとともに、イッキに物語に感情移入してしまうのだ。

 「空の女」の仕事はこんなんじゃない! と不満が爆発する寸前に初めてヘリに乗せられた伊吹は、感動のあまり辞めることを思いとどまるものの、その後も続くアテンダントとは程遠いこの仕事に、自分の喜びを見出せないままでいる。

 そんな時、倒壊寸前となった団地の最上階に取り残された人を空から危機一髪救いだすという事件があった。 ボロボロになりながら伊吹は、人のために懸命になったことに何か満足感を覚える。  

 物語はこの零細ヘリ会社がこなす農薬散布、遊覧飛行、物資輸送、宣伝飛行、そしてレスキューまで、いままでほとんど語られることのなかったエアラインとは全く違う航空機のシゴト、「航空機使用事業」の実態がリアルに描かれる。
 その中で伊吹は、ウンザリだったこの泥臭い仕事の中にある、人同士の交流の熱さに気づき、そしてまた自分が夢見てきたアテンダントという仕事の虚像さを知ることになる。

 物語はさらにJBN存続の危機、そして街全体を襲った大災害の中でのJBNの活躍などの事件の中で、登場人物のキャラクターが丁寧に語られていく。


 ヘリ、航空業界については「シロート」である一水氏は、朝日航洋、日本フライトセーフティなどの事業会社に単身乗り込んで取材を敢行した。 その甲斐あって、ヘリ使用事業の泥臭い実態が見事に活字化されている。  そしてそういうほとんどの人が知らなかった現実に、フィクションたる部分を実にうまく乗せていて、業界人が冷静に読めば「そんなことできっこないぞう」と言いたくなるような話の連続にも、すんなり入り込めて行く。

 モノカキという職業に憧れと羨望を持つワタシも、「ヘリ業界を題材にした話を書いてみたい」と常々思っていたが、それはこの話を読んで無理だと悟った。 ギョーカイ人たるワタシには、こんなに話を自由闊達に膨らませることが、どうしても出来ないからである。
「コレは無理だ。こんな事は実際不可能だ。許可されない。」と、自分自身に足かせをしてしまうに違いないのである。

 ヘリコプター業界は、エアラインを念頭に置いた現在の航空法の中ではオマケ、例外、異端児の扱いである。 フライングマシンとして素晴らしい素質を持ちながら、「航空法」というしがらみの中で、その特性を存分に発揮できないでいる。 低空飛行、飛行場以外での離着陸、物資輸送、薬剤散布。全て航空局への届出や許可が必要である。

 そういう抑圧されたヘリコプタの環境の中にドップリ浸かってしまったワタシにとって、JBNのクルーが天真爛漫にヘリを操って大活躍する、という展開は、まさに快感であり、羨ましさまで感じてしまうのである。 

 「インデペンデンス・デイ」とか「アルマゲドン」。 宇宙人のコンピュータにアクセスするだの彗星にスペースシャトルで降りてまた帰ってくるだの、そういうとこに「そんなん無理だろう。」とツッコミを入れると映画は成立しないし、ぜんぜん面白くないし地球は救われない。 そんなことは承知の上で映画館に足を運び、楽しむのだ。     

 だからこの作品に「そんなことはホントは無理だよう。」とツッコむ野暮はしてはいけない。「使用事業を舞台にしたエンターテイメント作品」をただ単純に楽しんで、そして、いまだかつてだれも創り得なかったことをやり遂げた小川一水氏に、拍手をするのである。 

 氏の管理するサイト「小川遊水地」には、リンクページからも行ける。
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 AS350 スターフレックス破断のこと。     2000,  8,  18 

 とんでもないインシデント(「事故」には至らないが重大な運航の危機)が起きた。
アエロスパシアル(現ユーロコプター)の誇るローターヘッド「スターフレックスシステム」で、その「キモ」であるスターが運航中破断してしまったのだ。

 運輸省東京航空局 航空機検査官情報(2000.8.15 付)によれば、コトの経過は次のようなものらしい。

 平成12年8月12日、個人所有のAS350B2 が八尾空港にランディングした際、かなりハードに降りてしまった。 350 のスキッド後端には「板バネ」が付いていて、その反動からか、ブレードから振動が発生しだした。
 いわゆる「地上共振」とパイロットは判断し、機体を浮揚させて振動を止めようとした。
が、ホバリングしても振動は止まらないため、再度着地し、エンジンを停止した。 ローターが停止するまで振動は続いた。

 着陸後機体を見ると、なんとスターフレックスが破断していた!!


 うぎあああぁあぁぁ と思わず叫んでしまう事態である。 エンジンが止まる、ということよりも恐ろしい事態である。 モノゴトのコンポンが崩れてしまったのである。

 我々パイロットの中にも高所恐怖症者は多い。 ふだんヘーキで数千フィートを飛んでるくせに、デパートの屋上から下を覗くのはコワイ。 ナゼか?
 それは、「非常時の対処法が無い」からである。 ヘリで飛んでてエンジンが停止しても、オートローテーションで安全に降りる術を身に付けているし、無線が壊れても、油圧が落ちても、対処できる。 だから高高度まで気持ちよく上がっていける。
 屋上から落ちたら、もう何もすることができない。そこが終わりである。 今までの人生を早送りで回顧するくらいが関の山である。
 
 スターがちぎれる。 それはまさに「何の対処法も無い最終局面」である。 デパートの屋上で足を踏み外した、その瞬間である。

 今回は「ハードな接地」が破断の直接のきっかけになったようで、飛行中の事態でなかったのが不幸中の幸いであったが、飛行中これが起きれば、まず機体はコントロールを失い、バラバラのトラック(ブレード回転面)から生じる破滅的な振動が、ローター系統を一気に破壊しただろう。

 それにしても、こんな事例はたぶん20年のスターフレックスの歴史でも初めてのことなんじゃないだろうか。 このシステムはほとんどが非金属の複合材で構成されている。 複合材は金属ほど正確に強度や寿命を事前に読みにくいが、その破壊は金属と違って「徐々に進行する」という特徴がある。 ちなみにこの機体の飛行時間がは約1300時間。 交換寿命の半分にも達していない。
 
 思うにこの機体のスターも「突然の」破断をむかえたのではなく、わずかなクラック(ひび)が徐々に大きくなるとともに強度は低下してゆき、ついに破断に至るという経過をたどったのではないか。

 整備体制については何も情報がなく、ワタシはコメントする立場にはないが、一般論としては、クラックの成長など、ここに至ることを予感させるサインはあったはずだ。 ワタシ高積雲はそう考えるのである。
 
 350のCGデータがあったので、破断部周辺の状況をついでに載せた。

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      ピトーヒーターのこと。        2000,  7, 21 
 「ヘリにもピトーヒーターってついてるの?」

 GuestBook の書き込みに、そういう質問があった。 今回はその話題についてなのだ。

 ピトーヒーターは、ピトーのヒーターなんだろうが、じゃ、ピトーとはなんぞや? 
というところからハナシを始める。

 車やバイクは車輪の回転数を計測し、速度を算出している。 航空機がその飛行速度を知るにはどうすればいいか? 簡単なことである。

 あなたも、走ってるクルマの窓を開け、カオを出してみるといい。 20km/h。おぉ、涼しい。
50km/h。おおぉぉぉ。 80km/h。ぐっうおぉおおぅぅぅ....  その苦痛の度合いで、車の速度がわかるのである。メーターを見なくても、一定速度で走行することができる。

 ピトーとは、そういうものである。 機体からストローのように伸びたチューブに入ってくる空気圧を計測することで、航空機の前進速度を知る。 「対気速度計」の測定部である。
 原理も構造も単純で、原始的とも言える方法で計測するから、機体の姿勢が変わる(機体が滑る)と、空気がまっすぐ入らなくなって誤差が出る。 40kt 以下では圧力が小さくてマトモに指示しない。 高高度になって空気が薄くなると、速度が同じでも入ってくる空気量が少なくなって実際より少なく指示する。 など、誤差も大きいし、GPSやINS・慣性航法システムなどで桁違いに正確な速度を測定できるのだが、プライマリーな計器として、ヘリだけでなくジャンボにも戦闘機にも、たいがいの航空機には必ず付いている。

 「ハイテク機だ最新鋭機だ」 ってエラソーにスカしている機体でも、たいがい機首あたりに 「ニュ」 と出てるピトー管を見ると、「うふ」と思わず微笑んでしまうのである。

 さてその愛らしいピトーにも、弱点がある。
アナが詰まると、困るのである。 当然である。 ピトーの敵は、ふたつ。

 ひとつは、ムシである。 ちっこいカナブンなんかがムニョムニョとチューブの中に入り込んで昼寝でも始めると、もうどんなハイテク機もアジャパーである。

 そしてもうひとつアナを塞ぐモノ。 水。そして氷。
IFR訓練記でも書いた「凍結気象状態」の中を飛行すると、ピトーの先端が真っ先に凍る。
飛行中、特に計器飛行で雲の中を飛んでたりしてるときに速度計がアウトになるのだけは、カンベンしてもらいたいことである。

 そのため装備されるのが、ピトーヒーターである。 ピトーの周囲を電熱線でぐるぐる巻きにしてアツアツにしておく。 ピトーが詰まって困るのはヘリも固定翼も同じだから、ほとんどのヘリにもヒーターは装備されている。 これが答えである。

 あと、ムシ対策。 地上では、ピトーにフタをする。 これしかない。 駐機中の機体を見るとたいがい、「 REMOVE BEFORE FRIGHT 」 とか書いたオレンジのタグがついたキャップが、ピトーにかぶさってるのだ。


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 IFRへろへろ訓練記・2     2000,  3,  7 

 IFR。 Instrument Flight Rule。 「計器飛行方式」。 

 離着陸を含めた飛行を、常時管制機関の指示に従って飛行する方法である。 この方式の飛行では、離着陸時を除いて気象の制限を受けないから、旅客輸送においての就航率と定時制が飛躍的に向上する。 スバラシイ飛行方式である。 IFR抜きには、エアライン自体が成立しない。

 ヘリにおいてはどうか。 基本的なルールは、全てがラインと同じ条件である。 ヘリだから、と特別ルールがあるわけじゃない。 全ての航空機が同じルールの元で飛行するのがIFRのキモなのである。 しかし、ここがクセモノで、このことによって、ヘリのみに許される「特別な能力」はことごとくスポイルされ、がんじがらめのルールの中でもがき苦しむしかないのが実情なのである。
 今回はそんな中で、「ヘリがIFRできない3つの理由」について書いてみる。

1.ヘリには全天候飛行能力が無いのだ。

 IFRにおいて飛ぶとは、気象条件の制限を受けなくなる。 しかしそれはあくまで法的な制限がなくなるだけで、実際のフライトでは、ヘリには超え難い大きな気象条件の壁がある。

「凍結気象状態」である。
 ある条件のもとでは、凍結した空気中の水分が機体に張り付き始め、翼形状を変えて揚力を奪う。

 固定翼機では、氷が成長しやすい翼前面には、ヒーターがあったり、氷が大きくなる前に破砕してしまうゴムブーツ(エアにより前縁が膨らんで、氷を割る。)なんかの凍結防止、あるいは氷の除去機構が装備されることが多い。 
 しかし、ヘリにおいてこれを装備するのは大型機の中でもほんの、ほーんの一部で、ほぼ全ての機体で、「凍結気象状態下においての飛行」は禁止されている。

 ようするに、外気温が零度前後での雲中や降雨の中の飛行ができない
ヘリコプターという機体そのものが、雲の中を飛ぶようには出来ていないのである。 ここで、IFRを行う最も大きなメリットである「天候に左右されない飛行」が、ヘリには出来ないということになる。

2.ヘリには高高度飛行能力が無いのだ。
 
 IFRは、飛行する空域やルートを厳密に定めている。 さまざまな条件のもとで地上の物件と衝突することのないように、また、確実に無線施設の電波を受信できるように、航空路と呼ばれる飛行ルートには「最低高度」が決められている。

 この最低高度が、ヘリにとってはキビシイのである。

 ヘリは与圧されてないから、10,000フィートを超えて飛行する際には酸素マスクを着けなければならなくなる。 15,000フィート以上とか、そんな高度が最低飛行高度として規定される航空路はざらにある。 仮に酸素マスクをつけたとしても、10000フィートを超える高度でのヘリの性能はガタ落ちになる。
 薄くなった空気を必死に掻いても、巡航速度は低高度の半分になる。 西向きに飛行すると、偏西風に押されて対地速度がほとんどなくなって、永遠に目的地に着かないということにもなる。
 地表付近を低空で這いまわるのがヘリの特別な能力なのだが、もう、土俵が違うのである。
 ヘリが飛行できる航空路の数は制限され、「どこにでも行ける」ことにはならなくなる。

3.ヘリは飛行可能時間が短いのだ。

 IFRは、搭載する燃料についても規定する。 目的地が悪天やトラブルで降りられなかったとき、雲中飛行下でも安全に別の空港(代替飛行場という)に、降りられるようにするためである。

 たとえば、羽田から大阪に飛行する際、代替飛行場を名古屋に設定したとすると、搭載が義務付けられる燃料は、羽田〜大阪間、大阪〜名古屋間、さらに45分間の巡航分となる。
 そうなると必要とされる燃料搭載量は、3時間30分くらいになる。
 セスナなんかでも6時間くらい燃料は積めるものだけど、多くのヘリは、飛行可能時間は2時間半〜3時間程度である。 この中で目的地までの燃料以外に、代替飛行場までとさらに45分ぶんの「余分な」燃料を積むと、肝心な目的地までの燃料が削られてしまう。 IFRで飛ぶと、進出距離までもが大きく後退するのである。


 というわけで、実際の運用としてヘリでIFRを行なうメリットはほとんどないのが現実である。 アメリカでは、ヘリ専用のIFRルールとそのルートの評価が進んで、一部実用化されつつあるが、日本においては、まだ検討が始まったばかりである。

 しかし「計器飛行証明を持ったパイロット」の需要は多く、防災ではもはや必須、報道においてもキー局ではこれを条件にしているところも増えている。 ヘリがIFRで飛べる状況はほとんど無いのに、IFRできるパイロットが求められるという、おかしな状況なのである。

 ただ、実際訓練してみてわかったことだが、IFRできる、つまり「計器のみで飛行できる」という能力を持ったパイロットは、それが出来ないVFR(有視界飛行方式)パイロットとは、やはり一線を画す、1ステージ上の世界に居ることは確かである。

 VFRで飛んでいても、とつぜん雲に巻かれて視界を失う、ということは、たいがいのヘリパイロットが経験している。 そういうエマージェンシーな状況に置かれたときの対処が、計器で飛べるパイロットは強いのである。何が危険であるかを知っているのである。

 だから、ヘリにおいての計器飛行証明とは、「IFR:計器飛行方式で飛べる資格」と言うよりむしろ、「計器飛行:姿勢、高度、位置、進路を計器のみに依存して行なう飛行」の能力を持つ、より安全度の高いパイロットであることの証明であることだと考えれば、この資格を取得するための膨大な時間とカネを会社が払うのも、納得できることだな、と思えるようになってきた。

 それにしても、ワタシは果たしてこの訓練についていけるのか。 訓練前半で、すでにアゴが上がり気味であるのだ。


To Be Continued..... 

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 IFRへろへろ訓練記・1     2000,  2,  17 
 「計器飛行証明」の訓練中に思うコトを書き連ねようと、「IFRへろへろ訓練記」を始めたが、訓練そのものが諸情勢により一時凍結となってしまって、必然的にこのコラムも途中で更新が中断している。
 訓練再開とともに、続きが始まると思うが、いつになるやら。


計器飛行証明:  IFR によるフライトは、この証明が必要。 ラインは基本的に全てIFR で飛んでいる。 ヘリは普通VFR で飛ぶ。
IFR:  Instrument Flight Rules = 計器飛行方式。
 雲中飛行など、飛行中気象条件の制約がない。ただしその飛行は管制機関の完全なコントロール下に置かれる。
VFR:  Visual Flight Rules = 有視界飛行方式。
 雲に入ったり、長距離洋上飛行は許されないが、飛行ルートや高度は基本的にパイロットの判断で飛んで良い。

 ワタシの会社ではすでに十数名のパイロットが社内訓練で計器飛行証明を取得している。 訓練に使用する機体はIFR仕様のAS350
 IFR仕様と言ってもオフィシャルにIFRは認められていない。法的に必要なIFRのための計器類を完備しているだけで、あくまで飛行はVFR(有視界飛行方式)に限定される。 つまり「天気のいいときにしか計器飛行できない」という、まるで「雨の日は使用禁止のカサ」のような、実戦には使えない機体ではあるが、必要にして十分、愛すべき訓練機なのである。
 さて2000年1月25日から、いよいよワタシ高積雲のIFR訓練が始まったのである。訓練生は二人。 訓練期間は3ヶ月に及ぶ長丁場である。 しかし今回は、もう一人が大阪方面勤務ということで、1スパン10日程度の集中訓練を何回か行い、その間の2週間程度のインターバルは通常勤務する、という変則形態をとることになった。
 しかし訓練開始早々に訓練生が二人ともカゼで倒れてスケジュールが消化できなくなるなど、早くも「順調」とは呼べない状態になってしまっているのである。
350フード
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