夕日が海と出会う島で・・・3

 青い海が呼んでる。白い波も歌ってる。
 真っ赤な太陽追いかけて走っておいでよ・・・。
 ここは最後に残された楽園。

☆☆     ☆☆☆     ☆☆

 ふうっと大きなため息がひとつ。いつもならどーんと胸を張って実際よりもずっと大きく見える体が、今はこころなし肩を落として小さく見える。
「この日がくるのはわかっておったがのぉ。それでもやはり、あのままでいてほしかったというのはわしのわがままじゃな」
 波が浜辺からまたひとつ足跡を奪い去っていく。
「わかっておったのだがな、あの男がこの島にたどりついたときに」
 平和なままで止まってしまった時を、しかしただ無意味なままに費やしていただけの時を動かしにやって来たあの男。
 かれはすべての運命を引き連れてやって来た。
 本当の友人、戦い、憎しみ、哀しみ、慈しみ、そして希望。それらすべてをこの島の小さな主人のもとへと。
 島全体を豊かな緑に包む森の木がところどころ無残になぎ倒されて、運命とともにやって来た争いの跡をくっきりと残す。
「・・・すべては扉を開くための道だったという訳じゃ」
 割り切ったことを言うには、その口調があまりにもさみしそうで。過ぎ去ったときを惜しむかのようにゆっくりと辺りをみまわして、ヨッパライダーはくるりとその巨体を翻した。
 彼を見送るのは、波にのまれていく残り少ない足跡だけ。
「わしも行くか」
 夕日が海と出会う場所をめざして、ヨッパライダーは海へと帰っていく。

☆☆     ☆☆☆     ☆☆

 隣には相棒のミヤギがいる。三歩下がって重々しい鎧に身を固めた男が後に続く。男の視線が真っ直ぐに自分に向けられているのがよくわかった。・・・それは決して冷たいものでも突き刺さるようなものでもなく、ただ自分に注がれているだけ。
 息苦しくはなかった。鬱陶しさも感じない。やんわりとからめ捕られているというか、・・・これが包み込まれているような、ということかとトットリに理解できるようになったのは後のこと。
 ガンマ団特戦部隊のひとり、リキッドとの戦いに敗れてから、トットリは一皮むけたようにたくましくなった。
 ・・・いや、たくましく、というのには御幣がある。あいかわらずパプワ島残留組の中ではいちばんのみそっかすタイプといおうか、戦士として仕込まれた技量とは裏腹の彼本来の素直な性格が、時として彼を子供としか見せないような幼さを醸し出しているのだが、そんな中にきっぱりとした表情が顔を出す。我がままとか思い込みとかいったもとは無縁の、自らの道を自力で見つけ出した男の顔。
 もう今までのように甘やかすことなど許しちゃくれんじゃろうなあ。彼の背中を見つめる武者姿の男の内心は苦笑しっぱなしである。
 ここにいるみんなと行動を共にするようになってからというもの、常に誰かの目があるし、トットリの負傷などというおまけも付いて、ちょいとトットリにラヴ・コールという訳にもいかなくなってしまった。
 ま、それはそれで埋め合わせなどいつでもできるとたいして苦にはしていなかったのだが、最近のトットリを見ていると一方的に仕掛けるだけの関係はこれで終わりだな、と思わざるを得なかった。
 みそっかすだった自分の立場を卑下するような表情が消えた。表面上は相変わらずみんなのおもちゃにされてはいるものの、そこには自分からみんなとの関係を楽しんでいるような余裕さえうかがえる。
 ばっさりと髪を切ったミヤギの顔を見たときから、心細い、自信のなさそうな顔もしなくなってしまった。
「こりゃあますます落とすのに苦労せにゃ・・・」
 ぼそぼそと口の中でつぶやきながら、目元は心なしか笑みを浮かべている。
「あんさん、何かおっしゃいましたんか?」
 コージの様子を不審げに横目で見やって、アラシヤマが小声で問うた。
「んー?この島に来て、人間、こうも変わるものかと思ってのぉ」
「変わる?わてらがですか?」
「・・・」
 首は動かさずに視線だけで辺りを見まわして、ほんの僅かに考え込む素振りを見せながら、結局アラシヤマは小さく首を縦に振った。
「確かに。あんさんのおっしゃるとおりでっしゃろ。ここに来なければ、わてらがこんな満ち足りた気持ちで戦いに挑んでるはずもあらしまへんな」
「満ち足りた気持ち、ね」
 心を空っぽにしなければ、殺し屋などやっていられるはずがなかった。いや、そもそも自分の心が空っぽなのだという事実にさえ気づいてはいなかったのだ。
 ここへ来て何かが変わった。何かが自分たちを変えた。
 おそらくここを離れても、もう殺し屋としては生きてはいけないのだろうほどに。そして自分たちはそんな自分に満足しているのだから。
 ・・・天国か、さもなくばとんでもない悪魔の住む島じゃな、ここは。
 人を殺すことや傷つけることなど何とも思わなかったガンマ団の男たちを確実に変化させてしまった島。
「知らにゃあそれなりに幸せだったんじゃろうにのぉ」
「来たべ!」
 前をいくミヤギの緊張した声が響く。全員がぴんと張り詰めた。
「行くぜぇ!」
 鎧の胴をぱしんと手のひらで弾いてコージが走り出た。見慣れた背中を追い抜きざまに、その肩をぽんとたたいて。
「コージくん・・・ッ」
 終わりのための戦い。始まりを迎えるための終末。
 戦士たちは戦いに飛び込んで行く。

☆☆     ☆☆☆     ☆☆

 真っ赤に燃え上がった夕日が、僅かな風にゆらゆらと揺らめいて見える。それは時間とともにゆっくりと海に近づいて、出会い、そして吸い込まれて行く。姿を消した太陽は朝日となって、明日必ず姿をあらわすのだ。
 ここは夕日が海と出会う島。
 そして朝日が海から生まれる島。

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 以上でいちのせのパプワ3部作は終了です。
 なんか、今読み返すと、うちのコージ君ってまるで某電柱殿下・・・?
 トリちゃんにバイオリン持たすかな〜。
 やっぱ、脳みそ腐ってます。

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