夕日が海と出会う島で・・・

 胸の動悸がおさまらない。
 いつかは来る・・・と心の隅では思っていた。期待していた、といってもいい。
 ただ、忘れていたのだ。今の自分にはもっともっと心を占めている人がすぐ近くにいたから。
 すぐ近くに。いつも行動を共にして。他愛ないケンカやちょっとした会話。常夏の空の下での野宿。すべてがこうあってほしいと夢に描いていたことだったから。
 そう、たったひとつを除いては。
 戦士の顔になった彼の瞳には自分の姿は映らない。彼の視線の先にいるのはたったひとり。
「オラは必ずシンタローを倒して、ガンマ団のナンバーワンになるんだべ」
 そんな時にはたったひとり取り残される。自分は彼にとって『ベストフレンド』という名の道具になるのだ。
 彼に続く第二の刺客としてこの常夏の島にやって来て、もうどれくらいたつのだろう。四季の豊かな日本で育った彼には、この島はまるで時を止めてしまったようにすら思える。
 春の桜、梅雨の長雨、秋の紅葉、冬の雪。そういったもので時をはかっていくことが、ここでは不可能なのだから。
 それが、最近この島にやって来たらしいガンマ団の新たな刺客の出現で、一気に時が流れ出した。
 大きな鯉と共にやって来た男なのだと、この島の住人たちが噂している。
 顔に傷のあるその男はあっさりとシンタローにやられてしまい、鯉だけがシンタローのもとに囲われているのだと。
 珍し物好きの住人たちは、その、とんでもない金になるという鯉を見に行くのだと大騒ぎだ。
 もっとも彼らには『金』の価値なんかわかっていないし、自分たちの方が鯉などよりもっと珍しい生物であることも理解できはしないのだ。
 そして自分は・・・。
 シンタローにやられて姿を消した男。彼のことを考えるだけで心臓を躍らせてしまっている。
「武者のコージ君・・・」
 思わず小声が口をついて出てしまってから、はっと右手で口を押さえ、まわりを見まわした。
 相棒のミヤギとは島の様子を見てまわるために、先刻別れたきりだ。太陽が沈む頃にスイカ畑でおちあう約束をして反対方向へ別れたから、近くにはいないはずだ。
 同じガンマ団の仲間の名前を口に出したからといって、ミヤギがいぶかるはずもないのだけれど、今のトットリはそんな当たり前のことさえ思い当たらずに、頬を染めながらオロオロするばかりだ。
 この島に来る前のあの日。自分の想いの脆さを思い知らされて。
「こんな南海の孤島に来ても、わしの名を呼んでくれるとは嬉しいのぉ」
「え・・・」
 現実に引き戻されて声に振り向くトットリは、そこであの日の続きを見ることになる。
「コージ君・・・」
 大きなヤシの木を背に、コージはニヤニヤと笑いながら腕を組んだ。
「ミヤギとはうまくやっとんのかの?」
「あ・・・」
 言葉がみつからなくて、微かに首を振りながら後ずさる。その姿にコージは軽く肩を竦めた。
「あいかわらず進歩がないようじゃのお」
 目の前に大きな影。厚い胸の中にぎゅうっと抱きすくめられて、ようやくトットリは現在の状況を把握する。
「わしはぬしに会いたかったぞ」
 自分よりもひとまわりも大きな体格。自信に満ちた態度。それは昔からのことだったけれど・・・。彼の肩はこんなに広かったろうか。胸はこんなに厚かったろうか。腕はこんなに逞しかったろうか。
「あ・・・んん・・・ッ」
 それにこんなに強引にキスなんかする奴だったろうか。
「やだ・・・ッ」
 振りほどこうとするけれど、コージは笑みを浮かべたまま唇を首筋にすべらせて、手は服を脱がせにかかる。
「・・・あっ」
 あの日。ガンマ団の刺客としてこの島へ渡ろうとしていた自分を組み敷いたこの体。汗の匂い。息づかい。体温。伝わってくる胸の鼓動。痛みと熱さ・・・。
 けれど不思議と嫌悪感は感じなかった。
 望んだことではなかったけれど、こんな形でしか自分に伝える術を持たなかった相手の心が、あまりにも暖かかったから。自分が追い求める相手よりずっと近くに、心を感じることができたから。
 きっと自分は追いかけ続ける。永遠の『ベストフレンド』、ミヤギのことを。
 そしてコージが自分をいつまで求めてくれるのか、それはわからないけれど。
 これでいいと思う。今までも、これからも。
 コージが耳元で自分を呼ぶ声が遠い。
「・・・日が落ちるぞ、トットリ」
 コージの言葉の意味がわからない。
「わしはこのまま一晩でも二晩でも構わんがの。ぬしは都合が悪かろう?」
「日が・・・落ちる!?」
 あわてて身を起こすと、鈍い痛みに顔が歪む。不覚にも目尻に涙がにじんだ。
「無理せんことじゃ。ほら」
 脱ぎ散らかした服をかき集めてトットリに着せかけてやり、立ち上がるのを手伝おうと差し出した両手を、けれどトットリは取ろうとはしなかった。
「いい。自分でできるわい」
 強がる姿がますます子供っぽくなってかわいい、などとコージが思っているとは、つゆほども知らないトットリである。
 きっちりと服を着込むと、危なっかしい足取りながら、きっぱりとコージに背を向けた。
「トットリ」
 コージの声にも、もはや振り向かない。
「わしはぬしに惚れちょるけん」
 夕焼けが頬を染める。
「また会おうぞ」
 それきりコージの気配はトットリの背後からかき消えた。
「ミヤギ君を・・・待たせーといけんがな」
 スイカ畑は森を抜けた先にある。

□   □   □

 

 はっはっは。
 昔はこんなものを書いていたんだねえ。
 「南国少年パプワ君」も一時同人誌界を駆け抜けました。
 Shinさんがつくったカップリングはコージ×トットリ。サークル多しといえども、このカップリングはShinさんとこくらいでしたね。
 いちのせもそれにつきあう形で書き始めましたが・・・これがいちばん売れ線だったかもしんない。毎回つくって行ったコピー本が(少ないけど)完売してました。
 書いてて何が楽しいって、トットリの方言でしょう。鳥取って同じ県内でも東と西ではまったく言葉が違いますし。トットリの言葉は東がベースのようでしたが、いちのせは西の人間です。トットリ君の声優さんは鳥取出身の方だったそうですが、でも「だっちゃわいや」はないよねえ。んで、うちのトリちゃんは浜弁を話すんですな。
 当時イベントのパプワスペースでShinさんと方言丸出しでしゃべっていると、まわりの方たちが大喜びをしていたのが思い出されます。

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