HAPPY BIRTHDAY 2000
〜圭〜
暑い夏はまだこれから。でも、少しずつ昼間の時間は短くなっていて、ふっと夏も折り返しだなと感じるこの季節。圭の誕生日がやってくる。
思えば、今までに落ち着いて圭の誕生日を祝う機会が持てなくて。
出会った最初の年は君の誕生日なんか知りたいとも思っていなかった。その一週間あとに僕は火事でアパートを失って、君のマンションの部屋の前で遭難しかかったんだっけ。
次の年にはもう僕らはお互いに世界への挑戦を始めていた。君は初めてのコンクールへの挑戦が残念な結果に終わって、お祝いするどころじゃなかったんだ。
その次の年には僕はイタリアへ留学していて。先生のお供をする毎日で、君ともすれ違うことが多くって。たくさん泣きもしたし、少し強くもなったような気がする。
その次の年は・・・ああ、もうきりがないや。僕の誕生日はいつもめいっぱい君にお祝いしてもらっているのに、僕ときたら。でも、君はこう言うんだ。その艶のあるバリトンで「今更誕生日が嬉しい子供ではありませんし」ってね。
今年もやっぱりゆっくりはできそうにないんだけど・・・、僕のスケジュールを聞いたときの君のがっかりした瞳。どんなにポーカーフェイスを装っても僕には、僕にだけは読めるんだからね。君が子供みたいに自分の誕生日を祝う計画を練っていたこと。
僕たちはお互いに音楽家として生きていく部分を尊重しようって決めている。それで意見が対立することだってあるし、感情的になることもありだ。それでなくとも男同士なんていう不自然な取り合わせの僕たちは、いつ破局を迎えたってちっとも不思議じゃない。でもさ、僕たちはいつでも対等な立場で競い合い、支えあいたい。だから、君の拗ねた瞳は僕は見なかったことにする。
誕生日は君がこの世に生まれ出てくれた特別の日。一緒に祝えなくても、僕はいつでも君を想っているから。君が僕を想ってくれるようにね。
だから、さ。機嫌を直してくれないかな、ねえ、圭。
・・・いちばん拗ねているのは僕の方なんだって、わかんないかい?
肉じゃがと、なすのはさみあげ。きゅうりの酢の物。ごはんにしじみの味噌汁。明日の夕食は一日遅れのささやかなお祝いにしようね。
作品部屋に戻る