よろず部屋 品書きへ


26.SONY MDR-E888SP

 「音は出口で決まるんだよ」


 まことにごもっともであって当然であって不変普遍の真理であって今更な話である。だけれどもしかし、やたらめったら奥が深いのだこの道は。
 去年末に札幌の家には通販生活で購入した紙筒スピーカを入れ、これがまぁただの3万円で鳴ること鳴ること、これまでの苦労はなんだったんじゃぁってやつ。いや、さしてスピーカ遍歴したわけじゃないんだけど、中古で手に入れたそこそこのスピーカをあーでもないこーでもないとセッティングいじり回して、ぜんっぜん納得いかないでいたその欲求不満を、あっさり吹き飛ばしてくれたのだ。


 で札幌はいいんだけどそりゃ札幌の話であって、私の拠点はいまだに三鷹なのである。札幌にしたって娘がいるし犬がいるし、そうそう音楽に浸りきるわけにもいかんのだ。
 ということで、聴く方のメインは相変わらずZaurusでのMP3ということになる。MI-E1+CE-AP1からE25DC+CE-RH1に置き換わったけれど、イヤホン部分はずっと共通で、以前使っていたDENONのポータブルプレーヤからの流用品。
 さすがにこれでよしと充足していたわけでもなくて、スーパーブックに載っているSONYの密閉型を、買ってはみたのだ。結果、私の耳にはまず、物理的に合わない。押し込んでも押し込んでも音圧が低くて、使い物にならんのだ。基本的に歩きながら聴くんで密閉型だと危ないし、結局引き出しの肥やしに。
 どうせMP3のながら聴きなんだ、そうそうこだわることもなかんべぇ、と、ずるずるとDENONのを使い続けていたわけである。


 さてそのDENONがついに昨日断線昇天となり、代替にとふらっと買った、SONY MDR-E888SP。吉祥寺キムラヤにて税抜き\6,480、他の製品がただ引っかけてあるだけなのに、こいつだけはビニタイで縛りつけてあった...

 最初に聴いたのはSibeliusのヴァイオリン協奏曲、石川静/ビエロフラーヴェク/ブルノ国立管絃楽団。鳴り出しからして、まるで違った。石川さんの清冽な音が冴えわたって、一気に引きずり込まれる。
 そこまでは単純に喜んでいられたのだが、帰宅途中に聴いたProkofievのヴァイオリンソナタNo.1(クレーメル/アルゲリッチ)で、ヤラレた。もともと同曲の演奏中もっとも創造的で先鋭な演奏と思うけれど、888で聴くと、腰と膝にモロにクる。1楽章の間で3度ばかり、キた。
 こりゃまずいはっきりいって危険だと思ってProkofievに次いで"たま"を聴いたわけだが、ぐわぁ、これもヨいのだ。まっずいなぁ。
 ならば大編成大騒ぎなら問題はなかろうと今朝はMahlerの3番にしたのだが(テンシュテット/ロンドンフィル)、私がオロカであった。ど頭のホルン斉奏でがつんとやられて、その場に崩れ落ちる。


 要するにヨすぎるのであって、あまりにヨいので集中してしまうのであって、こんな音を出された日にゃぁ...分速100m技も影を潜め、いつの間にか立ち止まっていたりする。ふと気がつくと、息してなかったりするし。ほんとだって。

 "音がいい"ということではない。いや、音はもちろんいいんだけれどそれどころの騒ぎじゃなくて、いままで聴こえていなかった音が出てるのよ。ほんと、ほんとだってば。
 どれもこれまで何度となく同じ条件で聴き込んでいる曲どもである。知り尽くしたはずが、うぅむどいつもこいつも、違うぞこんなだったんかおめぇら。ティンパニのpppの連打、ヴァイオリンピチカートの余韻、アルト独唱の息づかい...こんなん、聴いたことないぞ。ないったらないぞ。
 加えて、とにかくすべての鳴りっぷりが、リアルである。ロンドンフィルのヘタレ加減がここまで気になったのも初めてだ(演奏自体は素晴らしいんだけど)。音に今ひとつヌケが足りないのは明らかに128KbpsのMP3であるがゆえだけれど、これだってこんなに気になったことはなかった。


 音によって語られているものが、つづまるところやっとこさ、全部聴きとれたことになる。うわぁ、手持ちのファイル全部聴き直さなきゃ。わたしゃ今まで、なにを聴いておったのだろう。私の青春を返...
 B&Oのいい、らしいんだけど、こちらは未聴にて。まぁとにもかくにも、わりこたいわね、値段がすべてではないけれど、使うヘッドフォンにはこだわるべきである。

(2002/06/07)