セイタカさん著 


ーーーーーーー圧倒的な優位ーーーーーーーーー

闘いのさなか、一人かも、全員かもしれない「ヤシャ」は考える。

三位一体の秘法は完成された。

我ら三兄弟は、もはや独立した三人分の気配を持たない。
三人で一つの気配が霞となって辺りを満たし、あらゆる攻撃は対象を見失う。

まさに無敵とは我らのことではないか。


ヤシャは考える。

どうだ、この威力は。
あのローディーが今や赤子にも等しい。

見ろ、奴のザマを。
闘志も失せ果てた顔を。
こいつは本当にファーイーストの伝説、ローディーなのか?

まさに伝説とは我らのことではないか。


ヤシャは考える。

血脈などもはやどうでもいい。
あの村などもはや取るに足りない。
虐げられた過去などもはや克服した。

この世の果報を存分に味わってやろうぞ。

まさに最高とは我らのことではないか。

ーーーーーーーー走狗ーーーーーーーーーーー

・・・・そろそろいいだろう。

「死ね」

ヤシャは仕上げにかかった。

無論、手抜きは一切しない。
三人同時に斬りかかる。
それぞれが必殺の剣で。

壱のヤシャは幻をぶつける。
胡蝶の舞。
我らの動きを追う目は、もうない。

弐のヤシャは炎を吹きつける。
秘剣鬼百足。
奴の身体を守るものは、もうない。

参のヤシャは止めを刺す。
飯綱落とし。
奴の命は尽きる、ローディー伝説はもうない。


天高く舞い上がった二人は、そのまま加速をつけて自由落下を始めた。
このまま頭から落ちれば、それだけで決着は付く。

だが、ヤシャは満足しない。
落下地点には、さらに二人のヤシャが待ち構えている。


・・・一瞬の出来事だった。
まず地上の二人が、灰色の影に吹き飛ばされた。

そして何が起こったか把握する間も無く、残るヤシャは自らの重みで兜を割った。


「大丈夫ですかい、お頭・・・・」

現れたのは、ミスリル製の爪を装備したウルフリングだった。
ローディーの忠実な僕、ドイル。

ーーーーーーーーートラウマーーーーーーーーー

一瞬うろたえたヤシャ達だが、すぐに平静を取り戻し、剣を構える。
「これは、とんだ邪魔が入ったな・・・・」

「ドイル、これは一体・・・・」

しかしドイルはそれに答えず、ある事実を告げた。

「御館様がやられました、こいつらに・・・・」

「!!・・・・・・・・・・・・・・・・そうか・・・・・・」

ローディーはもう立ち上がっていた。
負傷も、恐るべき法力で半ばふさがっている。

ドイルはためらいながら続ける。

「気配からは分身のように見えますが、こいつらは三人!
禁呪三位一体で、同調してやがるんです!オマケに秘法氷結土もある。
ここは一旦・・・・」

ローディーはドイルの言葉を遮った。

静かな、しかし強い表情だった。
「ヤシャよ、二度は見逃さんぞ・・・・」

見逃す・・・・
その言葉にヤシャはある事を悟った。

「やはり・・・貴様、あの時・・・・」

「・・・・・・・」

覆面の下でヤシャの顔が怒りに歪んだ。
全身から闘気が吹き上がり、骨食いの太刀が燃え始める。

「・・・・情けをかけたな・・・迫害された忌み子の我らに!!」

「名門に生まれ!!何もかも約束され!!
恵まれた貴様が!!!我らを哀れむなど・・・・」

「万死に値する!!!」


・・・・しかし、ヤシャの語気を荒げたのは、哀れみへの怒りだけではない。

依然として劣性は変わらないのに、
何故か見下したようなことを言ってのけるローディー。
ヤシャは嫉妬を覚えていた。

殺しても晴れぬ幼き日の屈辱が蘇る。

「生かしてもらえるだけありがたいと思え!」

「ヤシャの三つ子は生かすべからず、なんだからな」

自分たちの青春は卑屈に縮こまる毎日だった。
なんとか認められて人並みの幸せを掴みたい、そのために強くなりたい・・・・
だが・・・・それを打ち砕いたのはこのローディーではないか。

「千の肉片に・・・」
「殺す・・・・」
「消し炭に・・・・」

ーーーーーーーーーーーー解呪ーーーーーーーーーーー

しかし、言葉の勢いとは裏腹に、冷静さを失ったヤシャには大きな隙ができていた。
無論ドイルはそれを見逃さなかった。

ドイルは地も裂けんばかりの咆哮を上げた。

ウオオオオオオオオオォォォン!!!

常人ならひとたまりも無く鼓膜を破られていただろう。
一瞬早く耳を抑え、ヤシャが動きを止めた・・・・・


次の瞬間、霞のようなヤシャの気配が、はっきり三つに分かれた。

「なっ!?」
「!?」
「これは!!」


ローディーが、究極の秘法、スプラッシュを放ったのだ。

スピリットの力を得た者のみが使え、あらゆる魔法効果を消し去ることができる。


「正体が魔法と分かれば、禁呪であろうが吹き消すのみ」

・・・またか・・・・。
・・・・ローディー、こいつはいつも強大な力を見せ付ける・・・・。
大蛇を倒し、パンサーを倒し、過去の我らを倒し、
そして今、禁呪さえも・・・・

ローディーが言い終わるが早いか、ヤシャ達は突っ込んできた。

もう三人に勝ち目は無かった。
相討ちすら叶わないだろう。

・・・・しかし、三人の最後の突撃は、悪あがきとは何か違った。


ヤシャは叫んでいた。

それは忌み子の断末魔だろうか。
それとも、自身の呪われた宿命に止めを刺す勝鬨だろうか・・・・。


今や対象をはっきり捉えた雷が、正確にヤシャ達を貫いた。