輝く剣さん著 

あの戦いから、一ヶ月が過ぎた。
ある者は、故郷に。ある者は、新たなる旅路に。
それぞれが、それぞれの人生を歩みはじめた・・・


 アスピニア共和国首都、アスピアでは、復興に向けて
今日も太陽の下、作業が続けられていた。
 しかし、人々の顔に陰は、ない。むしろ、笑顔があふれ
ている。
「復興」という行為を行えることが、純粋に幸せなのだ。
 そう。もう、戦争は終わったのだ。

「街に出よう」、シンビオスは思った。
 今、シンビオスはアスピア城内にいるわけだが、
ハッキリ言って、やることがない。
 ベネトレイムに呼ばれ、遥々フラガルドから足を運んで
きたものの、現在、ベネトレイムは執務中とのことで、
なかなか部屋から出てこないのだ。
 というわけで、ジッと待っていても仕方がないので街に
繰り出すことにしたのだ。
 フラガルドからの同行者である、ダンタレス、マスキュ
リン、グレイスも誘おうと思ったが、ダンタレスは、アス
ピアまでの道のり、その背に重い荷物をいくつも乗せてき
たため疲労こんぱいで、散歩する暇があれば、足を休めた
い、とのこと。
 マスキュリンとグレイスは、尽きることのない会話に花
を咲かせていたため、誘うのを自粛した。
 ともあれ、シンビオスは街へと繰り出したのだった。

 以前のような美しい町並みは、そこには、ない。だが、
以前より活気にあふれている。
 街の至る所から聞こえてくる、男たちの勇ましい声、女
たちの歌、子供たちの笑い声。
 そんな中、シンビオスは、ある、一つのことに興味を持
った。
 コンッコンッと一定のリズムで聞こえる小気味よい音。
それにつられるように、シンビオスは足を進めた。
 やがて、「それ」の近くまで来たとき、不意に男に声を
掛けられた。
「お、これはシンビオス様じゃないですか!・・・ん?
コイツが珍しいんですかい?」
 男・・・大工の棟梁は、シンビオスの存在と、その視線
の先にあるモノに気づいた。
 金槌と釘だ。
「ええ、私は、あまりそうゆう物には縁がなくて・・・」
 シンビオスは、少し小さな声で言った。もしかして、恥
ずかしいことのなのでは、と思ったのだ。
 シンビオスは、これでも領主の息子である。「箱入り」
とまではいかないが、「お坊ちゃん」ではある。
 まあ、「お坊ちゃん」というのも、あまり適切ではない
ような気もするが、それに近い境遇で育ったシンビオスに
とって、大工の道具など、無縁の存在なのだ。
「ははは、でしょうね。どうです?シンビオス様もやって
みますかい?」
 シンビオスの心中を知ってか知らずか、棟梁は、シンビ
オスに金槌と一本の釘を差し出した。
「え、いいんですか?」
「おうよ!シンビオス様に打ってもらえるとありゃ、この
金槌も、この釘も、そして、この板も、よろこぶってモン
でさぁ!」
 シンビオスは、この勧めを快く受けることにした。
 さっそく、金槌と釘を受け取り、板と向き合う。
「・・・・・・」
 いつになく真剣になるシンビオス。その表情は、まるで
初陣に出るかのようだ。そして・・・
 ガコッ!
「あ・・・!」
 釘は、見事に斜めに突き立っている。
「すいません!あの・・・!」
「はは、いいですよ、釘の一本ぐらい」
 まるで、何百万Gもする壷を割ってしまったかのような
顔であやまるシンビオスを、棟梁は笑って許した。
 そして、斜めに刺さった釘を、素手であっさりと抜き、
シンビオスから、金槌を受け取ると、
「いいですかい。釘ってのは、こう・・・」
 と、先ほどの板に釘をあて、コンッと打ちつけた。
「ね?真上から垂直に打つんですよ」
 なるほど、シンビオスが打った時は違い、まっすぐに打
ちつけられている。
 棟梁は、再びシンビオスに金槌と釘を渡し、再び、打っ
てみるよう言った。
 シンビオスは、今のアドバイスを念頭に置き、再び板と
向き合った。
 一呼吸おいて・・・
 コンッ!
 小気味よい音がした。
「そうそう!さすがはシンビオス様だ!飲み込みが早いね
ぇ!」
 棟梁も満足そうだ。
 シンビオスは、続けて釘を打ちつけた。
 コンッコンッと音をたて、釘が板に姿を隠していく。
 見ている時には気づかなかったが、音だけでなく、打ち
つけた時の感触も、なんともいえない感動がある。
 やがて、釘が、その頭しか見えなくなったのを確認し、
シンビオスは、会心の笑みを浮かべ棟梁の顔を見上げた。
「大工って、おもしろいですね!他には、どのようなこと
をやっているのですか?」
「他には・・そうだなぁ・・・」
 と、棟梁が言い掛けた時、
「シンビオス様ぁ〜・・・」
 自分を呼ぶ声に反応し、シンビオスは振り返った。
「え?あ、マスキュリンじゃないか。どうした?」
「『どうした?』じゃないですよぉ、城内を探し回ったあ
げく、街にいるなんて、ナシですよぅ・・・」
 たしか、ダンタレスに「街に行ってくる」と言ったはす
だが・・・。まあ、マスキュリンのことだから、ダンタレ
スの話を聞かずに飛び出してきた、といったところだろう
と、シンビオスは判断した。
「で、何だい?」
「あ、そうそう。ベネトレイム様のお時間が空いたから、
今から、謁見をはじめるんです。だから、早くお城に戻っ
てください」
「え・・・今から、かい?」
 シンビオスは、チラッと棟梁の顔を見た。
「いやいや、シンビオス様、オレなんかに気を使わずに、
どうぞ、行ってください」
 棟梁は、気を悪くした様子もなく、ニカッと笑って言っ
てくれた。
「じゃあ・・・あの、すいません、お仕事の邪魔しちゃっ
て・・・」
「いえいえ、邪魔だなんて!楽しい時間でしたよ。だいた
い、シンビオス様たちのお蔭で、時間なんていくらでもあ
るんですからねぇ!」
「・・・!はい!今日は、ホントに、どうもありがとうご
ざいました!」


あの戦いから、一ヶ月が過ぎた。
そう。もう、戦争は終わり、平和がはじまったのだ。