W 冬の章 〜 タンキリマメ
この実こそ詩であらう 西脇順三郎
枯木にからむつる草に
億万年の思ひが結ぶ
数知れぬ実がなつてゐる
人の生命より古い種子が埋もれてゐる
人の感じ得る最大の美しさ
淋しさがこの小さな実の中に
うるみひそむ
かすかにふるえてゐる
このふるえてゐる詩が
本当の詩であるか
この実こそ詩であらう
王城にひばり鳴く物語も詩でない
「旅人かへらず 一〇」(『Ambarvalia・旅人かへらず』講談社文芸文庫)
冬枯れの山を彷徨うのが好きだ。かさこそと落ち葉を踏みしめて。夏の間うっそうと生い茂っていた木や草。それらの夥しい葉のことごとくが枯れきわまり風に散りつくした。木々もいまやすっかり丸裸になってしまっている。視界が急に開け、いままで見ることが叶わなかった、風景に息を呑む。
からすうりが枝にひとつ赤くぶらさがる。そしてそのずっと遠く蛇行する流れに川霧がたちこめている。白い息を吐きつつ林の奥へ入ってゆく。すると目を楽しませてくれるのが木の実である。
アオツツラフジ、カラスザンショウ、ガマズミ、クサギ、センニンソウ、タンキリマメ、ナナカマド、ムラサキシキブ……。青、赤、黒、紫などなど色、大小、形もとりどり。さまざまな木の実に足を止めさせられる。ときにわたしはヒヨドリジョウゴ(ヒヨドリなどが実を食べると、酔っぱらってお喋りになるという)の実のひとつを歯にあてて酔ったようにひとりごちるのだ。なんだかそんな『旅人かへらず』の詩人になったように。
木の実は木の精。こうして吐きだしたえぐい実のひとつ。これにも「人の生命より古い種子が埋もれてゐる」。すなわち「人の感じ得る最大の美しさ/淋しさがこの小さな実の中に/うるみひそむ/かすかにふるえてゐる」。そしてその考えの到るところに深く頷くのである。
「この実こそ詩であらう/王城にひばり鳴く物語も詩でない」