| love song |
13. 和辻照 待ちまちし君をばむかえまいらすと畳がへしてすがしむわれは |
| 和辻照、随筆家。著名な哲学者、倫理学者、文化史家、和辻哲郎夫人である。 1912(明治45)年、哲郎と照は結婚。二人は同い年。一男一女に恵まれる。照は評判の良妻賢母で、学問一途の夫を支え、子供を愛し家庭を守る。 '27(昭和2)年、38歳。哲郎は京都大学助教授で、文部省在外研究員として道徳思想史研究のために三年間のドイツ留学を命ぜられる。2月、哲郎は最愛の妻子を京都に残し、神戸港より日本郵船の白山丸で出発。哲郎は早くも船中で留守を守る家族を思い心寂しくなり、ベルリンに着くなりホームシックにかかる。そのいちいちを照に訴えるようにする。するとすぐに照は書いてよこすのだ。あれこれと可愛い子供達の様子をつづり。いったい昔の人は筆まめだが、なかでもこの夫婦はこまやかだ。 旅の途次、三ヶ月をかけてイタリア全土を歩く。哲郎はその先々で目にした文物、風土についての考えを、詳しく照に書き送っている。ここから『イタリア古寺巡礼』がなる。飛行機ではない、船旅である。ゆっくりと時間をかけて、ヨーロッパを目指したこと、そしてその見聞を精細に妻照に音信しつづけた。これがのちに東西を「モンスーン」「砂漠」「牧場」の三類型に分けて詳論した比較文化史の名著『風土―人間学的考察』に結実するのである。 '28(昭和3)年7月、哲郎は予定を一年半に切り上げて帰朝する。掲出の一首は、哲郎の帰国間近の報に答え、照が書き送った手紙(昭和3/4/25)の末尾に置かれたもの。照は書く。「つづけざまの大掃除のような騒ぎで畳がえが済みました。……新しい青だたみの色を眺め、すがすがしい匂を吸い込み、しまった藺(いぐさ)の足ざわりを一歩一歩味わいながら、心に御帰朝のことを思っていましたら、あまり嬉しくて涙が出そうになりました」。畳を替えて愛する夫を待つ。いまはもうこの美風はのぞむべくもない。じつに美しい。なお留学中の哲郎の照への手紙は没後『故国の妻へ』(昭和40年 角川書店)として出版された。 *『夫和辻哲郎への手紙』(講談社学術文庫 昭和52) |
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