ぼんくら bonkura/2007/2/1 home


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大団円へ …正津 勉
灘岡団地 …竹下 力
山旅ノートから(連作)  …上河内岳夫






大団円へ
      正津 勉


吹き降りは激しく渦に巻き
ごーっと雲の縁を捲ってごーっと
めつれつに重なるかとちぎれ
なにか呼ばわる声みたい

フードを頭にすっぽり
風圧をしのぶべく身体をかがめて
つんのめり前へついてでる
熱く白い二本の息の棒

はるか遠くで轟いている
雷鳴はあれは雪起こしだろう
四囲はいまはもう暮色くらぐらと
頬に痛いまでに霰の礫

無意味というも無意味
徒労というも徒労なること
すなわち行くもならず戻るもならず
きわまり馬鹿笑いなかば

どこをどう辿っているのか
途はばりばりに凍てつくばかり
やがて来るその刻それが嬉しいぞと
大吹雪へと大団円へと



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灘岡団地
       竹下 力


夕闇はどことなく遠くへ
いくところなくその場にとどまり
とどまればいくべきところなんてなく
14階まで連なる団地の玄関灯は
屋上から見える灘岡の町並みみたいに僕に広がり屋上の
貯水槽が8月の暑い風にカタカタ音を立てて影になって
黒い雲が紫の空へと落ちていく
気づけば真っ暗闇になっているんだなって
なんだかそんなことってあっというまに
なくなることなんだって感じると僕はびっこをひき
ジャリジャリのビーチサンダル左手にバケツを抱え
右手の国道14号線の2キロ先にみえる電波塔
チカチカひかり深緑やにび色に滲むと朝のようで
薄紫で真っ白い女ヶ裏海岸でNIKEの海水パンツ
遊泳禁止の赤いブイに引っ掛かってアワアワ溺れ
口をプカプカ砂吐いて浮かせた
アサリに親指切ると灘岡病院で3針縫って
そこからみえるピカピカ光った遠州灘の灯台は僕を
睨み続ける父さんの目だったギョロリとパチリと
光を点滅しクルクルまわし続けて波の音がザーザー
なのに外科病棟でブルブル怖いのに誰も来やしないで
そっとそこへそこへそっと
僕の頭へ落ちてくるバタバタ回る父さんの影
60ワットにドアをバタンバタンと閉じるたび
母さんの腕をつかみメチャメチャにして
クソガークソガーってヤメテヨヤメテヨって
母さんは喉にブイを突っ込んで溺死するような声あげて
もうなにをしてるのよクソやろうクソやろう
父さんのスラックス掴んで引きずりまわされびっこの母さん
ヤメテーヤメテー僕だってヤメテーヤメテー
こんなのひどすぎる母さん
父さんひどすぎるこんなの
ドアばたんと閉じてばたんと開いてドア
キラキラ父さん出てきてはさっと影になっては消え
カツカツ歩いて白目がギョロリとプカプカ浮べば
父さんの頭の先母さんの玄関に倒れてるスリッパの先
玄関灯は僕の目になって僕はただ母さんただいまー
味噌汁作ってーなんてバケツを持ち上げ女ヶ裏のアサリ
そんなに獲ってどうすんのーなんて笑い合うだけなのに
暗くダラリと口浮かせて黒ずむふたつの小さな穴から
キューキュー苦しみ潮吹いて
舌をガリっと噛みきるアワアワした母さんみたいで
父さんは玄関灯に光っては暗くなり
僕の瞼が押し潰すようでパチパチととっても痛かった。

説明……女ヶ裏海岸には特別な思いがあります。湖西市にある、小さな遊園地の壊れたあと。海の家で働く、僕と同い年だった15歳の浮き輪を500円でかしてくれる女の子。太陽や潮の風や34℃の暑さや声やいろんなことが思い出されます。その日は、特別風が強い日でした。おとといは台風で、強度10ぐらいでした。秒速30m吹いてました。父さんは海岸わきにある簡易便所にいって小便をしていました。突風であおられて便所が突然倒れました。父さんは便所から這いつくばってでてくると、ドロドロにとけたなまこみたいでした。キャーキャー悲鳴が聞こえる中、僕は海岸線で一匹のなまこを踏んでいました。紫色の体液をだして父さんみたいにのたくってました。太陽はキラキラしてました。目が痛くって父さんを踏みつけてるみたいでした。僕は大声をあげました。殺されるんだろうなって思いました。



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山旅ノートから(連作)
      上河内岳夫


25

ことし二度目の二十六夜山へは
道坂トンネルから登った
赤や黄色に色づく木立を眺めながら
快適なアップダウンが続く稜線を
今倉山から二十六夜山に向かうと
登山道が急に湾曲して大きく下り
林道で無惨に断ち切られていた
まるで交通事故で人生が終わるように
二車線近い幅をもつ林道が
そこに必要であるとは思えなかった
アスファルトの硬さを
足の裏に感じながら林道を進むと
稜線へ戻る道の入り口に
「二十六夜山まで二○分」
と表示されているではないか
ここに駐車して
山頂まで気楽に登ってください
と誘うかのように
その標識が林道を作ることの
言い訳と思えてならなかった
山頂から富士山は見えなかったが
その日はそれでいいのだと思えた

(作者から)
年がかわってしまいました。「ことし」とは2006年のことです。



26

「Kの昇天」を
読んでからというもの
影よ!お前のことが気になってならない
冬晴れの午後 すっかり葉を散らした
ミズナラの林を抜ける登山道に
落葉の吹き溜まりができていた
足で掻き分けて進もうとすると
影よ!そこにお前がいるではないか
小さなピークを連ねた縦走路の
登り返しのところに
霜柱が溶けて泥濘ができていた
滑らないように足元に目を落とすと
影よ!そこにもお前がいるではないか
冬の日が急激に熱を失って西に傾くとき
急いで山を下らなくてはと
気ばかりがせくことがある
そんな時に俺を追い立てていたのは
影よ!お前ではなかったのか
ちょうどKが海でしたように
影よ!お前とリッジで戯れるならば
きっと俺は滑落して昇天するだろう
そのとき谷底に横たわる
自分の死体を見るならばそれが
ドッペルゲンゲルということになるのか
影よ!影よ!
お前は一体いつまで俺を追い続けるのか



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