灘岡団地 竹下 力
夕闇はどことなく遠くへ
いくところなくその場にとどまり
とどまればいくべきところなんてなく
14階まで連なる団地の玄関灯は
屋上から見える灘岡の町並みみたいに僕に広がり屋上の
貯水槽が8月の暑い風にカタカタ音を立てて影になって
黒い雲が紫の空へと落ちていく
気づけば真っ暗闇になっているんだなって
なんだかそんなことってあっというまに
なくなることなんだって感じると僕はびっこをひき
ジャリジャリのビーチサンダル左手にバケツを抱え
右手の国道14号線の2キロ先にみえる電波塔
チカチカひかり深緑やにび色に滲むと朝のようで
薄紫で真っ白い女ヶ裏海岸でNIKEの海水パンツ
遊泳禁止の赤いブイに引っ掛かってアワアワ溺れ
口をプカプカ砂吐いて浮かせた
アサリに親指切ると灘岡病院で3針縫って
そこからみえるピカピカ光った遠州灘の灯台は僕を
睨み続ける父さんの目だったギョロリとパチリと
光を点滅しクルクルまわし続けて波の音がザーザー
なのに外科病棟でブルブル怖いのに誰も来やしないで
そっとそこへそこへそっと
僕の頭へ落ちてくるバタバタ回る父さんの影
60ワットにドアをバタンバタンと閉じるたび
母さんの腕をつかみメチャメチャにして
クソガークソガーってヤメテヨヤメテヨって
母さんは喉にブイを突っ込んで溺死するような声あげて
もうなにをしてるのよクソやろうクソやろう
父さんのスラックス掴んで引きずりまわされびっこの母さん
ヤメテーヤメテー僕だってヤメテーヤメテー
こんなのひどすぎる母さん
父さんひどすぎるこんなの
ドアばたんと閉じてばたんと開いてドア
キラキラ父さん出てきてはさっと影になっては消え
カツカツ歩いて白目がギョロリとプカプカ浮べば
父さんの頭の先母さんの玄関に倒れてるスリッパの先
玄関灯は僕の目になって僕はただ母さんただいまー
味噌汁作ってーなんてバケツを持ち上げ女ヶ裏のアサリ
そんなに獲ってどうすんのーなんて笑い合うだけなのに
暗くダラリと口浮かせて黒ずむふたつの小さな穴から
キューキュー苦しみ潮吹いて
舌をガリっと噛みきるアワアワした母さんみたいで
父さんは玄関灯に光っては暗くなり
僕の瞼が押し潰すようでパチパチととっても痛かった。
説明……女ヶ裏海岸には特別な思いがあります。湖西市にある、小さな遊園地の壊れたあと。海の家で働く、僕と同い年だった15歳の浮き輪を500円でかしてくれる女の子。太陽や潮の風や34℃の暑さや声やいろんなことが思い出されます。その日は、特別風が強い日でした。おとといは台風で、強度10ぐらいでした。秒速30m吹いてました。父さんは海岸わきにある簡易便所にいって小便をしていました。突風であおられて便所が突然倒れました。父さんは便所から這いつくばってでてくると、ドロドロにとけたなまこみたいでした。キャーキャー悲鳴が聞こえる中、僕は海岸線で一匹のなまこを踏んでいました。紫色の体液をだして父さんみたいにのたくってました。太陽はキラキラしてました。目が痛くって父さんを踏みつけてるみたいでした。僕は大声をあげました。殺されるんだろうなって思いました。
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