灘岡中学校プール掃除 竹下 力
人が死んで3年経って
ずいぶん先みたいなことばかりもずいぶん
あっという間に終わりになった始まりも
終わりが死んじゃうっていうことで楽になったら
プールの金網からみえる
灘岡花火大会の5尺玉の花火が
緑の藻の浮かんだドロドロのものに絡んだりして
掃除をしてほどく度に花火がユラユラ水面に揺れて
五尺玉がカッチリ25mプールに収まる水面をみつめていたら
たしかに起こっていたんだなあって
そう思うのは勝手だけれど、
死んじゃう瞬間が死んだ瞬間なんて
信じられないよ。
馬鹿みたいなことばかり起こっているけれど馬鹿
だらけだからさ。死んじゃうことばかりが満ちていて、
でも死なないことだってあるはずなのに、死ぬしかなくて
灘岡花火大会で父さんの自転車の籠に空き缶をいれた
3人の灘岡中学生に注意しただけだっていうのに、
蹴り殺されるなんてさ。
臆病にビクビクしながらふたりで
おびえてブルブル震えて逃げ惑ってさ。
カチコチになる瞬間だってきっとあるはずだって思う瞬間が
僕の中にたしかにあってそれは思う以上のことや思う以下のこと
つまり父さんが灘岡火葬場に入れられて煙になる瞬間の
死体の瞬間だってことを思ったり思わなかったり、その表情や
銀杏の葉っぱみたいな鼻や灘岡公園の電線を
パカパカ歩いていくリスの尻尾みたいな耳が
中学生に殴られてカパカパ鳴って泣き叫んでいたって
僕や父さんが糞ったれみたいに灘岡総合病院に運ばれて
聞いた鼻や嗅いだ耳が起こった事だって認識もできないぐらい
ボコボコに凹んで父さんはチューブに繋がれてそのまま僕は
父さんの墓の前で手だけを合わせたりするだけなんだなあって
馬鹿だよなお前。そんな責任みたいな感じでいうようなさ。
死ぬたびに死にたくなることを、
死にたくないように死なないことを、
当たり前のことみたいに当たり前じゃないみたいに
することなんて毎度のことで馬鹿。
馬鹿やったりやらなかったり、
父さんの父さんが掛川の実家でガス栓ひねったのなんて
3度ばかり、そのたびにエコーのタバコに火をつけて
爆発したら家を建て直したり、
そういうのって笑っちゃうもんなんだよそういう
爆発っていう責任みたいなことってさ、
下らないから、父さんの父さんなんて
死ぬってこと自体が責任って感じでさ、
焼け死んでるだけが責任ってばかりいってさ、
ひとりで死ぬんだって父さんも巻きこんでね、
ケロイドの父さんの背中をみて、殺すつもりじゃなかたって
中学生みたいにいってさ。
いってさって、殺したい瞬間だってたしかにあったよ僕は
僕は思う以上のことばかり思っていながら思う以下のことも
ずっと死なないとか、死ねないとか馬鹿ばかりにずっと
見出していたとして、でも死んじまったら、
僕だって感じる以上のものがあって
その瞬間に感じる以下の責任みたいなものがあったら
いいんだってことを思い続けてみたりすることも
無駄だって思うよ、でも思うべきこともあるのに父さんは
なーんもなーんてねなんていいながら馬鹿
馬鹿ばっかり、11月の灘岡湖周回道路の
銀杏並木の上をシャリシャリとリスが走って
それを追いかけながら枯葉の中を転げて笑いあったりして
そんな瞬間が父さんに確かに繋がるんだよなって
馬鹿ばっかいうなよ。そうやって伊豆の堂ヶ島温泉で、
父さんに湯飲みを投げつけたばっかり死にたいことだとか
死にたくないことだとかいっちゃったり
思い過ごしのことばかりいいかげんにしてほしいけれど
そうやって繋げたいことが湯飲み茶碗でしかないなんて
繋がらないところもいいところだよ。もう、
死んじゃったからたいしたことじゃないことも
きっとたいしたことになったりしていたり、
でもたいしたことじゃないんだからさ。
いつかくることばかり思ってればいいんだ
なんていえないくせに、しっかりと
ちゃんと来る場所があって、たしかに
そうなるはずの場所だって、ちゃんとわかるはずだからさ。
それは感じる死みたいなものや感じない死だけのもの。
断定ばかり繰り返して曖昧で。そのくせ聞く耳もたない死を
死のにおいにして嗅いだり、死の音を聞くようなさ
曖昧ばかりくり返して断定ってことを繋がらないまま
きっといつまでも繰り返して周回道路をクルクル回って繋げたり。
※
僕はプールの床を
デッキブラシで擦りながら
灘岡花火、弾けたりそうならなかったり
三好君は僕の傍を
走っていったりきたり
バシャバシャヘドロみたいな水をリスみたいに走って
こうなることなんて
わかってるなんて
死んじまえば死んじまうことも
数学の牧田先生にふたりで三角定規を投げつけて
校内を走りまわって逃げ回ってぶん殴られて
夜にプール掃除させられることに繋がれば
それは起こることとしてそうなるべきだって
僕はそうあって欲しいことを父さんに望んでいたりでも
灘岡花火、爪の中に入り込んで
爪からえぐっていく死みたいに
プールにうつるユラユラの糸ミミズ
ちょこっとみえる曖昧の父さんが
まぶたの半分ぐらいにかかったゲロくさい水と
そこにみえたはずの断定すべき父さんが
花火にちゃんと空に映って水にうつって
死にたいこともちゃんとあって
死にたくないこともちゃんとあって
生きたくないことだってちゃんとあって
生かしてくれないこともしっかりとあって
たくさんの花火が舞い上がりながら下りて
三好君は空にデッキブラシを掲げ
僕と三好君はふたりで空をみながら
垂れてくるヘドロ水と糸ミミズ
糸ミミズを父さんの陰毛みたいだって笑いながら
こんな糞ったれだってこともずいぶん先みたいに
デッキブラシでこすっていたら
なくなるのかなって
やっぱりそう思うんだよね。
三好君はいった。
思うことなんだって。
2組の前島由紀がAカップのブラジャーの位置を
居心地悪そうに直してた位置だってきっとあるよ。
三好君はいった。
そんなこと起こらないってずっと思ってたことも起こるよ。
三好君はいった。
煙がまって月明かりが綺麗にかすんでプールにうつった。
それはちゃんと花火をプールにうつしていたから。
感じることを感じなかったっていうことはないくせに
感じないことを感じたりするってことはあるよ。
ねえ、金網を上ってみたら。
三好君はいった。
ねえ、花火から下りてみたら。
この、アホみたいにくるりと回ってみたらさ。
くるりと周回路を回ってアホみたいにみてみなよ。
三好君はいった。
僕は金網にのぼった。
足をぶら下げて、両手を離して持ち上げた。
プールから花火が弾けてのぼってきた。
そうだよなと思った。
こういうことなんだよ。
プールからその空をみたり。
どうだよって、三好君はいった。
そうだなって、僕はいった。
こういうことなんだって、僕と三好君。
三好君も金網をのぼった。
ふたりで両手をひろげた。
そうなることはそうなったよ。
ならないこともなったりしたよ。
あるべきこともあったりしたんだよ。
そこから飛び降りる瞬間がある瞬間に。
父さんみたいに弾ける五尺玉花火を。
感じるはずの死みたいな生の父さんを。
断定したり曖昧だったり断定することを。
曖昧で断定して曖昧にしてた僕の父さんを。
手を離して足を飛ばしてユラユラ揺れた。
僕は三好君をみた。
銀杏みたいな耳やリスの尻尾みたいな鼻がみえた。
父さんの焼かれた骨みたいなにおいがした。
僕はいった。
なあ、お前死んでんぜ。
説明……お前死んでんぜ。そうやっていい続けてくれた僕の友達の三好君が、死んでしまいました。みんなにとって、ありとあらゆる出来事を、2で割ったり、3で割ったりしたあとに、起こったできごとみたいなこと程度でしかないかもしれません。でも僕にはたしかなことかもしれないな、と思っています。同級生のヤクザ、松下組の田中君に追い詰められて、9百万円の借金で首吊りだったということを繋げたから。ああ、なんて年だったんだろう。1999年。親父のチンチンみたいに黒光りしてた年。母さんにチンチンを風呂場で擦ってもらっていた父さんの年。ゲロ。このくされマンコ! ゲロ。パンパン! そんな声がたくさん聞こえていました。それは僕や友達がいっていたから。それは、信じられずに思い続けることを思い続けないで信じていたからだと思います。つまり、そうなるべきこととして、そうならないことのように、書けるんじゃないかなと思っていました。だって、死んだなんて信じられないよ! ということだけだと思います。
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