ぼんくら bonkura/2006/5/15 home


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九頭竜川 …正津 勉
浜名湖パルパル観覧車 …竹下 力
山旅ノートから(連作)  …上河内岳夫







九頭竜川

                          正津 勉

「そして最後には、すべての存在が溶解、融合して、たった一つの究極の存在となり、一筋の川がそのたった一つの存在を貫いて流れているのを意識する」
            『マクリーンの川』(ノーマン・マクリーン)


長雨のからりとあがった今朝
さっと光が射して明るむ淵から淵へと
夢かとうつつ舞いもあやに
宙をひらひらとあそぶ蝶

スイスイチーチー……
こっちの石に落ち着いたかと
長い尾を上に下にすわ波を描き曲がり飛び
あっちの石に取り付いている黄鶺鴒
チーチースイスイ……

みると対岸の浅瀬のそこ
Sの字に細い頸を折り畳むぐあい
冠毛というのらしい後頭部のフサみたいな二筋
長い嘴をそっとひとり流れを窺う
そっくり置物まがいの小鷺

チーチージョイジョイ……
川上から川下へと目にも留まらなく
水面をすれすれに砲弾のスピードもかくや
川下から川上へと掻き消えている河烏
ジョイジョイチーチー……

鬱として激しく渦にまく瀬
胸から尾へいっぽん銀の線もくきやかに
岩の肌を躍り擦り砂を巻き上げ
きらきらと遡ってくる鮎



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浜名湖パルパル観覧車

                      竹下 力

父さんはちょこっと頭がいかれていて、
僕が子供のころ、母さんと3人でのっていた
浜名湖パルパルの観覧車で突然喧嘩しはじめて、
母さんを蹴飛ばしたら母さんは、
窓を突き破って落っこちて、支柱かなにかにつかまって
観覧車に吊り下げられてクルクル回っていた。父さんは、
いい気味だっていう感じで、ずっと笑っていた。

母さんはちょこっと頭がいかれていて、
僕が子供のころ、父さんと3人でみていた
浜松動物園のラクダの檻の前で突然喧嘩しはじめて、
父さんを蹴飛ばしたら父さんは、
檻にぶつかってラクダに頭を噛まれ、
ラクダに吊り下げられてクルクル振りまわされた。母さんは、
いい気味だっていう感じで、ずっと笑っていた。

僕もちょこっと頭がいかれていて(自分でいうのもなんだけれど)、
僕が子供のころ、友達の三好君の家で野球をしていたら、
リビングのソファーの上で突然喧嘩しはじめて、
三好君の頭を金属バットで張り倒したら三好君は、
泣きながらずっとソファーの周りをクルクル回っていた。僕は
いい気味だって追いかけながら、ずっと笑っていた。

面白いことに、イラついたりイラつかなかったり、
ちょっとしたことでみんな同じ所を
クルクル回って着地したら、死んだり死ななかったり、
することになるなんて信じられないけれど信じたり、
そういうのって、いつでもどこでも起こっちゃったりする。

僕のおじいちゃんは、ちょこっと頭がいかれていて、
僕が生まれる前、戦争で中国かどこかにいっているとき、
牧田少将に空の麻袋につめこまれて(空腹でイラついていたから)
わけもなく袋叩きにされた次の日、少将が突撃と叫んだら
おじいちゃんは突然クルって回って、牧田少将を撃ち殺してから、
敵に突っ込んでいった。おじいちゃんは
いい気味だっていう感じで、笑っていた。

僕のおばあちゃんは、ちょこっと頭がいかれていて、
僕が生まれる前、天竜浜名湖線がB29で爆撃されているとき、
お隣の横田さんと逃げ道のことで喧嘩して突き飛ばされて
おばあちゃんは、頭にかぶっていた鍋で一回転して横田さんを、
ぶんなぐったらクルクル回って倒れて、焼夷弾が落っこちた。
おばあちゃんは横田さんの火ダルマを横目に防空壕に逃げこんで、
いい気味だっていう感じで、笑っていた。

僕もちょこっと頭がいかれていて(いわないほうがいいけれど)、
僕の10歳の誕生日に、父さんが母さんとバカみたいに
日産スカイラインのなかでいちゃついていたとき、
誕生日会にきてくれた三好君(まだ仲がよかったころ)がみつけて、
指をさして笑いながらみていたら、
僕は家から灯油をもってきて、車の周りを回りながら灯油をかけて
火をつけてやった。モウモウと煙が上がって、
どこかの部族みたいに僕はオウオウと叫んで回っていた。
なのに、まだいちゃついてたんだ。いけにえを神様に
捧げるみたいに僕は、死んでくれればいいって思ったのに
上手くいかなかったんだ。それで弟が帝王切開で生まれて、
僕は父さんと母さんに半殺しにされたから、
なんともいえないけれど。神様の呪いかな? もう笑うだけ。

面白いことに僕やみんなは、死ぬことや生きることで簡単に、
頭がいかれちゃうもんなんだよ。理由なんてあったりなかったり、
気づいたら頭がいかれて、クルってまわって着地して、
戦場で300万人ぐらい皆殺しにしても結構驚かなかったり、
そうならないかもしれないけれど意外と、積まれた死体の上を
クルクル回りながら火をつけて、神様にお祈りでも捧げたら
自分も撃ち殺されるんじゃないかってビクビクして、
でも意外と、笑っているだけだったりするかもね。


説明…父さんと1度だけお酒を飲んだことがあります。その日、すし屋の楽船さんで、なにかがいい合えるんじゃないかと思って、酒を飲んでいたら父さんは、訳もなく僕を1発ぶん殴ってそのままなにもいわずにつっぷして、ゲロをはいて死んでしまいました。いかれているっていうのは、なにかをいいたいのにいえないことがつづいたら、なにもできなくなってしまうことで、僕は酔っ払って、父さんの葬式のときに灯油を持ち出して、棺桶に火をつけてやりました。僕はまだいかれてないんだって思ってみていたら、母さんにも火がついて、火達磨になってクルクルのたうちまわっていたけれど半焼で死ななくて病院で、父さんは死んでいたから父さんは、クルクル周りもせずに半生のまま骨にもならなくて、腐って墓にいきました。そうしたらなんだか笑えてきて、もし僕が戦争にいったなら、きっとなにもできずに撃ち殺されて、敵にも味方にも笑われるだけなんだと思い始めて、墓石に灯油をかけて火をつけました。僕は泣きながら両手を合わせました。父さんに怒られないようにって。

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山旅ノートから(連作)

                     上河内岳夫

12
朝から歩き続けているのに
誰とも出会わない山の道
後ろから話しかけられたような気がして
そっと振り返ってみるが
そこに誰もいるはずもなく
ザックからズブロッカを取り出し
少し口に含むが
それで元気が出るわけでもない
誰とも出合いたくない
と思って選んだ山の道なのに
どうやらそれが本心ではない
と気づかされ
ここで倒れたらどうなるのか
と気にかかる
一日が終わろうとしているのに
誰とも出会わない山の道
山から下りたら
残りのズブロッカを
飲み干そうではないか
今日の思いを忘れるために

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